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ダンジョンで飯なんか食ってる場合か
カナディウスの異変
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俺たちは無事、日が沈みかける頃にカナディウス村の南、サウスカナディウス村に到着した。ここからカナディウス村まではわずかに距離があり、道中で日没を迎えるため今日はここで休むことになった。
「酒場―!」
「お上りさん……」
バスターなら一度は集う酒場なる場所に俺はいた。正直初めてじゃないか? 遠出してこういう場所に行くのは。それもバスターとしての任務中に。フィルセには呆れられてしまったが。
「ここでは情報が聞けますよ」
「そうなのか」
テーネは烙印の場所を煤で汚し、外見を誤魔化していた。すべての町に魔物を判定する水晶があるわけではない。魔物なんて人間と違う見た目なわけだし、人間に化けるのも魔の加護持ちも今や稀有なのだ。
「マスター、カナディウス村に何か異変は?」
フィルセは早速、酒場のマスターに情報を聞く。カナディウスの状況は近隣住民の方が詳しいはずだ。
「あいつら妙なんだ。最近は魔物を食うし、別に食料に困ってるわけではないはずなんだが……」
「噂通りね」
もし飢饉になるような農作物の不作があれば、情報だって入ってくるしエンタール周辺にも影響があるはずだ。不作の原因は洪水に日照り、雨のなさとカナディウスだけで収まる話ではない。
「カナディウス村は魔物を食べてはいけないという伝承が残る地域なのにね」
「そうなのか?」
「前に話したでしょ? 魔物を食べちゃいけない理由」
フィルセはカナディウスの伝承について触れる。たしか、どこだったか兵糧攻めを受けて魔物を食べたらえらいことなったって言う話だったか?
「カナディウス要塞は籠城中に食料を失い、魔物を食べた結果としてその毒素にやられ全滅した……。こうした伝承は各地に残っているのだけど、カナディウスもその一つなの」
「はえー」
それでフィルセとテーネはカナディウス村の人が魔物を食うことをありえないと言ったのか。
「お、そうだマスター。カナディウスに来たんだからカナディウス煮をいただこうか」
俺は土地のことを思い出し、注文した。本場を食う機会があるんだからそりゃそうだぜ。だがマスターは芳しくない表情を見せる。
「それだが……スパイスがなくてな」
「スパイスが?」
カナディウス煮はスパイスの煮物。なのでスパイスがないとできない。たしかジュンイチが、スパイスが貴重な時代の話をしてたような気がするけど、カナディウスのスパイスはその村で育てられているはずだ。
「スパイスを買いに行ったら売ってなくてな。すまない」
「それも異変ってか……」
本場のカナディウス煮はお預けか……。残念だが致し方あるまい。
「スパイスなんて……収穫して乾燥させてあるはずだけど」
「村の近くでもいい香りがしたのでてっきり」
テーネはしっかりスパイスの匂いを察知していた。だが、急にスパイスがなくなることなんてあるか? エンタールにも出荷しているはずだが、なくなったらちょっとした騒ぎだぞ?
「ほんの一日離れているだけなのに……なんか事態が悪化しています」
「ま?」
ファフはカナディウスに住んでいるだけに、村の状態をしっかり見ていた。まるで飯を食わなくなった馬がどんどん体調を崩すのを見る様に。
「そうだ、カナディウス村を俺たちは知らないんだ。些細な異変にも気づくために、教えてくれ」
「はい」
俺はファフにカナディウス村のことを聞いた。見る者は四人、目は八つ。気づくには十分な人員だが、村のことを知っておかないと活かせない。
「煤拭いておきなさい」
「わざとですか?」
テーネはフィルセの冗談か本気かわからない言葉をかわす。
「カナディウス村は食文化の村なんです」
「たしかに、地名を冠する料理もあるしな」
村というだけに小規模なのだろうが、昔は要塞もあったわけだし。
「スパイスの畑に、それを活かした料理の数々は名物と言われ、スパイス利用の手本としてこの周辺では広まっています」
「肉料理には必須ですよね」
テーネはさも御馴染みみたいに言うが、俺はマジで知らん。肉も魚も焼けばおいしいんだとばかり。
「そういう村なので食器の扱いや食べ物を粗末にしないことを特に教わります」
「やっぱあいつら異常だったな……」
俺はその話を聞き、サナトリ村のことを思い出す。食べ物を残すのは富裕の証とさえされていた村だ。俺はあいつらへの反発と、やっぱり木こりの爺さんが食べ物を大切にすることを言っていたのでああはならなかったんだが。
「たまにあるわよね。食べ物を粗末にする土地」
「見ると引いちゃいますよね」
旅をしていたフィルセとテーネもそういう土地はたまに見かけるらしい。
「あ?」
だがテーネが同意したことでフィルセは割とマジの不快感をあらわにして強いガンを飛ばす。
「ひっ! わぁあ……」
「泣いちゃった!」
あんまりにも不意打ち過ぎてテーネは泣き出してしまう。ガチ泣きじゃん。よく今まで人斬りでやってこれたなこいつ。
「食べ終わった食器を灰皿にしたバスターなんか簀巻きにされて吊るされてましたよ」
「そりゃそうだ。死ななかっただけ温情だな」
食器を灰皿にするとかとても出来ねー! あ、親父やってたわ終わってんな俺の親ながら。育つ環境って大事! 血筋的にはカスの血脈なのに集団でやってけてんだからさ俺。サンキュー木こりの爺さん。
「た、助けてくれ!」
俺たちが話をしていると、酒場に誰かが飛び込んでくる。若い男だが肌が紫になっており、一発で何か異常が起きているとわかる。
「げぼっ」
「な、なんだ?」
その男は大量の血を吐き出す。血は黒くなっており、ただならぬ状況ということだけはわかった。
「うっ」
「もらいゲロしないでよ」
それを見てテーネが吐き気を催しているのだが、フィルセの対応は相変わらず。
「これは……」
看破スキルで男を見ると、呪いが発生していることが分かった。ならばやることは一つだ。
「デカース!」
解呪の魔法を使う。すると男の肌は紫から元に戻り、血も吐かなくなった。それに、血も徐々に消えていった。
「た、助かった……」
「魔物にやられたのか?」
とりあえず俺は事情を男から聞く。魔物の仕業だとしたら強力な魔物がこの辺りにいることになる。それはそれで厄介なのだが。
「カナディウス村に行ったんだ……そこで変わった料理を食ったらああなって……」
「カナディウス村だと?」
なんと男はカナディウス村に行っていたらしい。運よくここに到着して俺がいたから助かったが、もし辿り付けなければどうなっていたか……。
「はい回復薬。で、その変わった料理ってのは、まさか魔物じゃないよな?」
俺は男に薬を渡す。その返答は予想通りのものであった。
「ああ、魔物の出汁を使ったスープだ。俺は魔物を食ってるって聞いて驚いたよ。せっかくカナディウスに行くんだからって前の町で飯我慢してきたらこれだ……。しょうがねーからスープとパンだけで済ませたんだが、そのスープが魔物出汁だったんだ」
「おいおい……」
魔物を出汁に? 狂ってんのか? 味がしっかり染み出すってことは中にある毒素も肉を食べるのとは比べ物にならないくらいスープには含まれるんだぞ?
「あそこはやばい……行くんなら飯はやめておけ。新しくレストラン立ち上げたって男は珍妙な恰好してるし……」
「これは……早くカナディウス村に行きましょう!」
故郷の異変にうろたえるファフ。しかしフィルセが彼女を制する。
「待って、もう日は沈んでいる。このまま行動するのは危険よ。このカナディウスの異変を今、知っているのは私たちだけ。ここで何かあってカナディウスにたどり着けない方が危険なの」
急がば回れという奴だ。緊急だからこそ、まずはカナディウスへの到着を優先しよう。
「ここまでの状況を手紙でネメアクラウンネオに通達します。ボクらで手が負えない場合に備えて」
「おう、助かる」
テーネはギルドに届ける手紙を書いていた。俺たちだけでこの状況をどうにかできる確証がなさすぎる。ハルカ達の件だってニアの助けがあってどうにかできたんだからな。
@
俺たちは翌朝、日の出と共にカナディウス村へ向かった。手紙も送ったので万が一の時も安心だ。
「村を出たのに……この匂いは?」
「強くなってるな、スパイスの匂いが」
テーネは匂いに気づく。俺もスパイスの香りがするのはわかっていたが、それにしても強い。屋外で生育されているスパイスが、香辛料屋の中みたいな匂いを発するか?
「煙?」
フィルセは進行方向に上がる煙を見つける。昨日にはカナディウス村から来たっていう奴がいたのに、もう焼き討ちでもされたのか? そんなバカな……。ただ、そうなればサウスカナディウスに向かうこの道へ人々が殺到しているはずだ。
「まさか皆さん全員……」
「大抵の村が塀にも囲まれていないので、それはないでしょう」
テーネはその辺にやたら詳しく、ファフの最悪の想定を覆す。たしかにサナトリ村もそんな塀なんてなかったな。初めてああいう壁みたいなの見たの、エンタールだし。
「じゃあ、この煙は……黒くはないな」
たしか料理とか野焼きだと煙は白っぽいんだっけ? 無作為にガンガン燃やすと黒くなるっぽいし、焼き討ちならそうなりやすいって聞く。
「あれは!」
道を進んでいくと、その答えはすぐに見つかった。実ったスパイスが畑ごと燃やされていたのである。特に誰も火を消そうとしない辺り、誰かが襲って燃やしたわけではなさそうだ。
「これは……もうすぐ収穫なのに」
「おいおい、それじゃ一年の収入がパーじゃねぇか! 一体何がどうなってやがる!」
収穫寸前だから、この匂いなのか。十分に実ったスパイスが燃えて、あの妙な匂いを……。そういえばテーネは昨日からこの匂いに気づいていたな。
「一体村に何が起きているのですか?」
「とにかく尋常じゃねぇ! 乗り込むぞ!」
ファフも動揺を見せる。ハルカ達の時は住民の異常なんて起きなかったぞ? 変な男一人で起きているとも思えない。とにかく村へ入って、この状態が何によって引き起こされているかを確かめないと。
「至って普通だな……だからこそ不気味なんだが」
村の中は特に大きな異変が起きているとは思えなかった。看破スキルで見渡しても、これといって何かあるわけではない。
「おいおい、これはどうしたことだ?」
しかし強いて異変を挙げるなら、食器が屋外へ無造作に放りだされていることだ。施された店の印からして出前の食器なのだろうが……。
「げ、なんだこれは」
食器をよく見ると、灰皿にされていた。タバコの吸い殻が雑多に食器に入れられている。一体どうなってやがる……。俺は絶句した。
「……」
当然、ファフは言葉を失っていた。
「おや、見ない人だね」
「ん?」
俺たちの後ろに現れたのは、妙な男。服は見覚えがない様に見えるがハルカやジュンイチ達を思い出す縫製だ。
「これは……」
男は食器を拾い上げる。そして、その食器が置いてあった家に入る。俺とフィルセもこっそりその家へ入り込んだ。
「食器をこの様に使うとは何事だ」
男が一言いうと、その家の住民は不自然なまでにひれ伏して謝罪する。
「す、すみませんでした~!」
「二度としません!」
普通のやり取りに見えるが、いろいろと不自然だ。まずファフの言う通り、この村では食に関する教育に力が入っておりこの様に食器を扱うことがまずない。というか普通はタバコの吸い殻なんか入れねーんだよ食器によ。
そういうことする奴がそんな強そうに見えない奴の一言で己の行いを悔い改めるか? こういう基本的なマナーもなっていない奴が面倒を避けるために「この場では言うこと聞いておこう」みたいな合理的な判断ができるとも思えない。いや既に合理的じゃないとか言われたら俺も頷くしかないんだけど。
「これからは食器を大事に扱います!」
「二度としません!」
住民たちの顔を見て俺は再び言葉を失った。なんだその曇りのない目は。ここに至る経緯込みで笑うわ。
「なにこれギャグ?」
「催眠の類ではなさそうだが……」
看破スキルで見ても、特にそんな異常が見られない。ただ、男の方は別だ。
「なんだこの加護……」
男の加護は『宮廷料理人 レベル99』。またこのパターンかよ。そもそも料理人なんて加護聞いたことねぇぞ? それが宮廷ってなんだ一体。
「あんた、話を聞かせてくれ。名前は?」
俺はその男に話を聞くことにした。果たして、この男は何者なのか。それ次第ではいろいろとこちらが取る対応も変わってくる。
「酒場―!」
「お上りさん……」
バスターなら一度は集う酒場なる場所に俺はいた。正直初めてじゃないか? 遠出してこういう場所に行くのは。それもバスターとしての任務中に。フィルセには呆れられてしまったが。
「ここでは情報が聞けますよ」
「そうなのか」
テーネは烙印の場所を煤で汚し、外見を誤魔化していた。すべての町に魔物を判定する水晶があるわけではない。魔物なんて人間と違う見た目なわけだし、人間に化けるのも魔の加護持ちも今や稀有なのだ。
「マスター、カナディウス村に何か異変は?」
フィルセは早速、酒場のマスターに情報を聞く。カナディウスの状況は近隣住民の方が詳しいはずだ。
「あいつら妙なんだ。最近は魔物を食うし、別に食料に困ってるわけではないはずなんだが……」
「噂通りね」
もし飢饉になるような農作物の不作があれば、情報だって入ってくるしエンタール周辺にも影響があるはずだ。不作の原因は洪水に日照り、雨のなさとカナディウスだけで収まる話ではない。
「カナディウス村は魔物を食べてはいけないという伝承が残る地域なのにね」
「そうなのか?」
「前に話したでしょ? 魔物を食べちゃいけない理由」
フィルセはカナディウスの伝承について触れる。たしか、どこだったか兵糧攻めを受けて魔物を食べたらえらいことなったって言う話だったか?
「カナディウス要塞は籠城中に食料を失い、魔物を食べた結果としてその毒素にやられ全滅した……。こうした伝承は各地に残っているのだけど、カナディウスもその一つなの」
「はえー」
それでフィルセとテーネはカナディウス村の人が魔物を食うことをありえないと言ったのか。
「お、そうだマスター。カナディウスに来たんだからカナディウス煮をいただこうか」
俺は土地のことを思い出し、注文した。本場を食う機会があるんだからそりゃそうだぜ。だがマスターは芳しくない表情を見せる。
「それだが……スパイスがなくてな」
「スパイスが?」
カナディウス煮はスパイスの煮物。なのでスパイスがないとできない。たしかジュンイチが、スパイスが貴重な時代の話をしてたような気がするけど、カナディウスのスパイスはその村で育てられているはずだ。
「スパイスを買いに行ったら売ってなくてな。すまない」
「それも異変ってか……」
本場のカナディウス煮はお預けか……。残念だが致し方あるまい。
「スパイスなんて……収穫して乾燥させてあるはずだけど」
「村の近くでもいい香りがしたのでてっきり」
テーネはしっかりスパイスの匂いを察知していた。だが、急にスパイスがなくなることなんてあるか? エンタールにも出荷しているはずだが、なくなったらちょっとした騒ぎだぞ?
「ほんの一日離れているだけなのに……なんか事態が悪化しています」
「ま?」
ファフはカナディウスに住んでいるだけに、村の状態をしっかり見ていた。まるで飯を食わなくなった馬がどんどん体調を崩すのを見る様に。
「そうだ、カナディウス村を俺たちは知らないんだ。些細な異変にも気づくために、教えてくれ」
「はい」
俺はファフにカナディウス村のことを聞いた。見る者は四人、目は八つ。気づくには十分な人員だが、村のことを知っておかないと活かせない。
「煤拭いておきなさい」
「わざとですか?」
テーネはフィルセの冗談か本気かわからない言葉をかわす。
「カナディウス村は食文化の村なんです」
「たしかに、地名を冠する料理もあるしな」
村というだけに小規模なのだろうが、昔は要塞もあったわけだし。
「スパイスの畑に、それを活かした料理の数々は名物と言われ、スパイス利用の手本としてこの周辺では広まっています」
「肉料理には必須ですよね」
テーネはさも御馴染みみたいに言うが、俺はマジで知らん。肉も魚も焼けばおいしいんだとばかり。
「そういう村なので食器の扱いや食べ物を粗末にしないことを特に教わります」
「やっぱあいつら異常だったな……」
俺はその話を聞き、サナトリ村のことを思い出す。食べ物を残すのは富裕の証とさえされていた村だ。俺はあいつらへの反発と、やっぱり木こりの爺さんが食べ物を大切にすることを言っていたのでああはならなかったんだが。
「たまにあるわよね。食べ物を粗末にする土地」
「見ると引いちゃいますよね」
旅をしていたフィルセとテーネもそういう土地はたまに見かけるらしい。
「あ?」
だがテーネが同意したことでフィルセは割とマジの不快感をあらわにして強いガンを飛ばす。
「ひっ! わぁあ……」
「泣いちゃった!」
あんまりにも不意打ち過ぎてテーネは泣き出してしまう。ガチ泣きじゃん。よく今まで人斬りでやってこれたなこいつ。
「食べ終わった食器を灰皿にしたバスターなんか簀巻きにされて吊るされてましたよ」
「そりゃそうだ。死ななかっただけ温情だな」
食器を灰皿にするとかとても出来ねー! あ、親父やってたわ終わってんな俺の親ながら。育つ環境って大事! 血筋的にはカスの血脈なのに集団でやってけてんだからさ俺。サンキュー木こりの爺さん。
「た、助けてくれ!」
俺たちが話をしていると、酒場に誰かが飛び込んでくる。若い男だが肌が紫になっており、一発で何か異常が起きているとわかる。
「げぼっ」
「な、なんだ?」
その男は大量の血を吐き出す。血は黒くなっており、ただならぬ状況ということだけはわかった。
「うっ」
「もらいゲロしないでよ」
それを見てテーネが吐き気を催しているのだが、フィルセの対応は相変わらず。
「これは……」
看破スキルで男を見ると、呪いが発生していることが分かった。ならばやることは一つだ。
「デカース!」
解呪の魔法を使う。すると男の肌は紫から元に戻り、血も吐かなくなった。それに、血も徐々に消えていった。
「た、助かった……」
「魔物にやられたのか?」
とりあえず俺は事情を男から聞く。魔物の仕業だとしたら強力な魔物がこの辺りにいることになる。それはそれで厄介なのだが。
「カナディウス村に行ったんだ……そこで変わった料理を食ったらああなって……」
「カナディウス村だと?」
なんと男はカナディウス村に行っていたらしい。運よくここに到着して俺がいたから助かったが、もし辿り付けなければどうなっていたか……。
「はい回復薬。で、その変わった料理ってのは、まさか魔物じゃないよな?」
俺は男に薬を渡す。その返答は予想通りのものであった。
「ああ、魔物の出汁を使ったスープだ。俺は魔物を食ってるって聞いて驚いたよ。せっかくカナディウスに行くんだからって前の町で飯我慢してきたらこれだ……。しょうがねーからスープとパンだけで済ませたんだが、そのスープが魔物出汁だったんだ」
「おいおい……」
魔物を出汁に? 狂ってんのか? 味がしっかり染み出すってことは中にある毒素も肉を食べるのとは比べ物にならないくらいスープには含まれるんだぞ?
「あそこはやばい……行くんなら飯はやめておけ。新しくレストラン立ち上げたって男は珍妙な恰好してるし……」
「これは……早くカナディウス村に行きましょう!」
故郷の異変にうろたえるファフ。しかしフィルセが彼女を制する。
「待って、もう日は沈んでいる。このまま行動するのは危険よ。このカナディウスの異変を今、知っているのは私たちだけ。ここで何かあってカナディウスにたどり着けない方が危険なの」
急がば回れという奴だ。緊急だからこそ、まずはカナディウスへの到着を優先しよう。
「ここまでの状況を手紙でネメアクラウンネオに通達します。ボクらで手が負えない場合に備えて」
「おう、助かる」
テーネはギルドに届ける手紙を書いていた。俺たちだけでこの状況をどうにかできる確証がなさすぎる。ハルカ達の件だってニアの助けがあってどうにかできたんだからな。
@
俺たちは翌朝、日の出と共にカナディウス村へ向かった。手紙も送ったので万が一の時も安心だ。
「村を出たのに……この匂いは?」
「強くなってるな、スパイスの匂いが」
テーネは匂いに気づく。俺もスパイスの香りがするのはわかっていたが、それにしても強い。屋外で生育されているスパイスが、香辛料屋の中みたいな匂いを発するか?
「煙?」
フィルセは進行方向に上がる煙を見つける。昨日にはカナディウス村から来たっていう奴がいたのに、もう焼き討ちでもされたのか? そんなバカな……。ただ、そうなればサウスカナディウスに向かうこの道へ人々が殺到しているはずだ。
「まさか皆さん全員……」
「大抵の村が塀にも囲まれていないので、それはないでしょう」
テーネはその辺にやたら詳しく、ファフの最悪の想定を覆す。たしかにサナトリ村もそんな塀なんてなかったな。初めてああいう壁みたいなの見たの、エンタールだし。
「じゃあ、この煙は……黒くはないな」
たしか料理とか野焼きだと煙は白っぽいんだっけ? 無作為にガンガン燃やすと黒くなるっぽいし、焼き討ちならそうなりやすいって聞く。
「あれは!」
道を進んでいくと、その答えはすぐに見つかった。実ったスパイスが畑ごと燃やされていたのである。特に誰も火を消そうとしない辺り、誰かが襲って燃やしたわけではなさそうだ。
「これは……もうすぐ収穫なのに」
「おいおい、それじゃ一年の収入がパーじゃねぇか! 一体何がどうなってやがる!」
収穫寸前だから、この匂いなのか。十分に実ったスパイスが燃えて、あの妙な匂いを……。そういえばテーネは昨日からこの匂いに気づいていたな。
「一体村に何が起きているのですか?」
「とにかく尋常じゃねぇ! 乗り込むぞ!」
ファフも動揺を見せる。ハルカ達の時は住民の異常なんて起きなかったぞ? 変な男一人で起きているとも思えない。とにかく村へ入って、この状態が何によって引き起こされているかを確かめないと。
「至って普通だな……だからこそ不気味なんだが」
村の中は特に大きな異変が起きているとは思えなかった。看破スキルで見渡しても、これといって何かあるわけではない。
「おいおい、これはどうしたことだ?」
しかし強いて異変を挙げるなら、食器が屋外へ無造作に放りだされていることだ。施された店の印からして出前の食器なのだろうが……。
「げ、なんだこれは」
食器をよく見ると、灰皿にされていた。タバコの吸い殻が雑多に食器に入れられている。一体どうなってやがる……。俺は絶句した。
「……」
当然、ファフは言葉を失っていた。
「おや、見ない人だね」
「ん?」
俺たちの後ろに現れたのは、妙な男。服は見覚えがない様に見えるがハルカやジュンイチ達を思い出す縫製だ。
「これは……」
男は食器を拾い上げる。そして、その食器が置いてあった家に入る。俺とフィルセもこっそりその家へ入り込んだ。
「食器をこの様に使うとは何事だ」
男が一言いうと、その家の住民は不自然なまでにひれ伏して謝罪する。
「す、すみませんでした~!」
「二度としません!」
普通のやり取りに見えるが、いろいろと不自然だ。まずファフの言う通り、この村では食に関する教育に力が入っておりこの様に食器を扱うことがまずない。というか普通はタバコの吸い殻なんか入れねーんだよ食器によ。
そういうことする奴がそんな強そうに見えない奴の一言で己の行いを悔い改めるか? こういう基本的なマナーもなっていない奴が面倒を避けるために「この場では言うこと聞いておこう」みたいな合理的な判断ができるとも思えない。いや既に合理的じゃないとか言われたら俺も頷くしかないんだけど。
「これからは食器を大事に扱います!」
「二度としません!」
住民たちの顔を見て俺は再び言葉を失った。なんだその曇りのない目は。ここに至る経緯込みで笑うわ。
「なにこれギャグ?」
「催眠の類ではなさそうだが……」
看破スキルで見ても、特にそんな異常が見られない。ただ、男の方は別だ。
「なんだこの加護……」
男の加護は『宮廷料理人 レベル99』。またこのパターンかよ。そもそも料理人なんて加護聞いたことねぇぞ? それが宮廷ってなんだ一体。
「あんた、話を聞かせてくれ。名前は?」
俺はその男に話を聞くことにした。果たして、この男は何者なのか。それ次第ではいろいろとこちらが取る対応も変わってくる。
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そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。
これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
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