【完結】あなたはいつも…

べち

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その力の使い方

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長い階段を登った先に1つの部屋があった。
無機質な部屋。
その中心に1人の女性が座っている。
黄色の長髪。黄色の瞳。綺麗な顔立。豊かな胸。美しいとはこの人の為の言葉ではないかと思うような女性だ。
「君が…リク?」
覗き込むように話しかけてくる。
「はい!宜しくお願いします!」
出せる限りの大きな声で返事をした。
「ふふっ…やっぱりかわいいね。今から一緒にデートしようか!」
甘い声で語りかける。
「デ…デートすか!?いきなり!?いや…それは俺も嬉しいですけど…」
いきなりの提案に動揺が止まらない。美しすぎる。視線を合わせられない。
「よかった!じゃあすぐにでも出発しよ!」
急に立ち上がり部屋からバルコニーへ向かう。
そしてリクの手を握り。
「いくよ!手を離さないでね!」
次の瞬間、景色が後方へ飛んでいく。いや、実際に高速で飛んでいる。
早すぎて息が出来ない。
まさにあっと言う間。
「とうちゃくー!」
「ここは…森!?」
辺りを見渡すが薄暗く、木々が生い茂り、雨が降っている。
「そう!レインフォレスト。別名常雨の森。その名の通りこの森は1年中雨が降ってるの。そして一般人は立入禁止。なんでだと思う?」
にっこりと微笑みながら聞いてくる。
「え?え~と…立入禁止っていうくらいだから…獰猛な野獣が出るとかですか!?」
ウケを狙わず正解を狙いにいく。
「野獣ねぇ…まぁ間違いではないんだけど…ここはね、もっとこわーい奴らの住処なんだよ」
辺りを見渡す。
「もっと怖い…まさか…」
「そう!そのまさか!」
「幽霊!?」
「違うわっ!悪魔達の住処よ!」
リズムの良いコントがなされた。
「悪魔達の住処…」
悪魔と聞いた途端震えが止まらなくなる。
脳裏に焼き付いているあの悪魔が脳内で鮮明に蘇る。
「と言っても下級悪魔しかいないから安心して!」
声のトーンを変え急に明るくなる。
「えーっと…下級悪魔ってなんですか…?」
女の顔を覗き込む。
「君…蒼水からなにも聞いてないの?」
女もリクの顔を覗き込む。
「はい…」
俯きながら小さく答える。
「あー…蒼水はそういう奴よねー…」
と呆れた表情。
「悪魔はね下級・中級・上級の順で強くなって、その上に七獄がいるの。
下級は毎日厳しい訓練を積めば1年くらいで倒せるようになるわ。
中級は3年、上級は8年と言われているけど、当然人によって違う。」
「七獄っていうのは…」
分からないことだらけだ。
「七獄は…魔王軍の各属性最強戦力よ。私達七心でも互角だわ」
「私達ってあなたも七心なんですか?」
「あら?言ってなかった?私は国護兵団。七心・黄支子担当。迅雷よ!ジンって呼んでね!」
「蒼水さんと同じ七心!?」
「そ!蒼水とは七心の同期なのよ!」
「ところで…七心ってなんですか…?」
「そう言うと思ったよー。七心っていうのは国護兵団の最強戦力7人のことで、各属性の代表みたいなもの。七心は各属性1人。七心の選出方法はいろいろあるけど、七心の誰かからの推薦が多いかな?ま!他の人より圧倒的に強くないと七心に推薦なんてしてもらえないけどね!」
とイタズラに笑う。
「てことは…蒼水さんとジンさんは…凄く強いってことですか!?」
「まぁ…そうね!君よりは強いかな?」
「ちなみに国護兵団は対魔王軍の為に組織された集団。12年前までは国王が団長として指揮・統括していたみたいなんだけど、今は七心全員をトップに置いて組織しているわ」
「勉強になりました!」
分からないことが一気に解決しスッキリした。
「よしよし!じゃあもう日も暮れるしそろそろ始めましょうか!」
唐突に言い始める。
「え!?」
「今晩君にはこの森に泊まってもらいます!森には下級とはいえ悪魔が沢山いるから気をつけてね!」
「え!?下級悪魔って訓練積んでる人でも1年かかるって…」
当たり前の疑問。
「そ!だから下級とはいえ相手は悪魔だから気をつけてね!武器がないのはかわいそうだからこの剣貸してあげる。名のある剣だから下級くらいなら切れるはずだよ!じゃあ私は帰るね!明日の日の出と同時に迎えに来てあげるから!」
言いながら振り返る。
「え!?待ってくださいよ!こんな剣貸してもらったって、俺剣振ったこともないですし、何より…戦ったことだってないのに無理ですよ…」
縋るような声を出す。
「戦ったことがない?君は悪魔と戦ってるはずだよ。蒼水から聞いたんだけど…君は七心をも凌ぐ凄まじい量の威光を放ってたって言ってた。だからさ…死ぬ気でやれば大丈夫。早くその力を解放しないと、君…死んじゃうよ?」
今までと違う冷めた口調。
「え…?死ぬ…?」
急に死が身近に感じる。
「うん!だから…頑張ってね!」
美しい笑顔を残して本当に去っていった。
「ジンさぁぁぁぁぁぁぁん!」
出る限りの大きな声で叫ぶことしか出来なかった。

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「まぁ…さっき話してる時には何も来なかったんだから大丈夫だろう!きっとジンさんは俺がビビると思ってからかってるんだ!」
「先ずは雨が当たらない場所を探して…」
その時
「うぉぉぉぉぉぉぉ」
突然咆哮が聞こえる。近い。
「え…まさか…本当に…」
嫌な予感がした。
「かさっ…」
背後から足音。近づいてくる。
周りを見ながら剣を構える。が構えると言える代物ではない。
「…」
足音が消えた。周りには雨の当たる音だけが響いている。
「気づかれなかったか…」
そう思った瞬間
「死ねや!人間ー!」
何かが右側から飛びかかってくるのを直前で避ける。いや奇跡的に避けることが出来た。
目の前には自分より小さく小柄ななにかがいた。辺りは暗く視認出来ない。
「はぁ…はぁ…」
心拍数が上がる。直後。
「しゃあ!」
雄叫びと共に再度右から飛びかかってくる。
それを躱し。
「はぁぁぁぁ!」
「ぐぁぁぁぁ!」
躱したと同時に懐に飛び込みカウンター。
悪魔の胴体が真っ二つになる。
「え…?」
理解が出来ない。何故自分はあんな動きが出来たのか。剣術など教えてもらったことなど一度もない。
「やるじゃねぇかよ、やるじゃねぇかよ!」
「お前いいなぁいいなぁ!」
「殺し甲斐があるあるある!」
複数の声が同時に聞こえる。
悪魔の住処というのは本当だった。
知らぬ間に囲まれている。
さっきの戦闘で目が冴えた。ボヤけてはいるが悪魔3体を視認出来る。
「殺そう」
「殺そう殺そう」
「誰が1番酷く殺せるかな?殺せるかな?」
3体同時に飛びかかってくる。
リクを中心に正面・右・左。
同時に一歩後ろに下がり、剣を両手に持ち直し
「いやぁぁぁぁぁ!」
雄叫びと共に身体を回転。勢いに任せ剣戟を打ち込む。
悪魔3体の身体が同時に真っ二つになる。
「なにが…起きてるんだ…」
自分にも理解が出来なかった。
悪魔の動きが直感でわかってしまう。身体が本能で勝手に動く。
と同時に理解したことが1つ
「寝てる時間なんて…ない」
一瞬も油断出来ない状況。神経が更に研ぎ澄まされる。
その後も悪魔と何度も遭遇。悉く斬り捨てる。
直感に任せ。本能に任せ行動する。夜明けは近い。
「あと少しでジンさんが迎えに来てくれる…」
それだけを考えていた。
急に身体を怠さが襲う。当然だ。ただ孤児院で過ごしてきた12歳の子供が、この極限状態で数時間も集中出来るはずがない。
一瞬の油断。目を閉じてしまった。
その瞬間。
「死ねー!」
背後に強烈な痛みが走り、正面から大木に激突。意識が飛びそうになる。
「お前沢山殺してくれたー。ありがとー。弱い奴嫌いだからよかったー。お礼にさー。殺してあげるー」
口内を噛み意識を保つ。
声の方を見ると今までと明らかに違う悪魔がいた。
3メートルはあるのではないか。
兎に角大きい。悪魔の身体が圧倒的に大きい。
「こんなのに勝てるわけないだろ…」
迅雷の言葉が脳裏を過ぎる。
「死ぬ気でやれば大丈夫。早くその力を解放しないと、君…死んじゃうよ?」
「死ぬ?俺ここで死ぬの?蒼水さんと生きる為に戦うって約束したのに?力の解放ってなんだよ。知らねぇよ。どうしたらいいんだ。どうしたらいいんだ。ドウシタライインダドウシタライインダシヌシヌシヌシヌシヌ」
動けない。悪魔の圧倒的な存在感に完全に思考停止。
「さー。グチャグチャになってー。死んでねー。」
悪魔が動き出す。
早い。
左半身に強烈な痛み。吹き飛ばされる。大木に激突。
「ぐはぁ」
苦鳴が漏れる。
直後右半身に強烈な痛み。吹き飛ばされる。地面を転がる。
「だはぁ」
苦鳴が漏れる。
下から上へ蹴り上げられる。腹部に強烈な痛み。空中へ吹き飛ばされる。
「もう死ぬかなー?」
両手を組み今まで以上の力を込めているのがわかる。
これを食らったら間違いなく、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬシヌシヌシヌシヌ…
「生きたい…約束したんだ。蒼水さんとカイとママと孤児院のみんなと…生きたい…生きたい…」
望みではなく。
「いや…俺は…生きるっ!」
生きるという決意。
直後。
リクは真っ白な世界に立っていた。
遥か彼方に人影が見える。
近づこうとするが近づけない。
眼前には黄色に輝く一本の刀が刺さっている。
「…………」
また聞こえない。
「い…はひ…だけ…ち…を…す」
「この声は…」
聞いたことのない男の声。だが懐かしい。
「誰なの?」
「お…え…ひ…じゃ…い」
まだはっきりと聞こえない
「でもさ…なんでこんなに懐かしいんだろう?いつかちゃんと話せるのかな?」
笑いながら男に語りかける。
「引き抜け」
はっきり聞こえた。
「この刀を?」
「叫べ」
「わかった。いや分かる気がする」
リクと男の声が重なる
「神器解放…」
真っ白の世界が崩れる。
現実に引き戻される。
リクを中心に光の柱が出現。凄まじい威光。
右手には引き抜いた黄色の刀。
身体が軽い。
悪魔の攻撃がやけにゆっくりに見える。
「見える!」
悪魔の攻撃を空中で身体を捻り躱す。
「なにー…その威光ー…ムカつくなー…イライラすなー」
明らかに動揺している。
「もう死ぬんじゃなかったのー?」
しかし煽るような口調で悪魔が叫ぶ
「まだ…死ねないんだ。約束したから。多分次の一撃で決める」
予感…ではなく確信。
「一撃で死ぬってことー。いいよー。死になー。」
悪魔が行動に移した直後。
「飛雷…」
悪魔の視界からリクが消える。
雷が落ちた音が周辺に響く。
「えー…なにがー…起きたのー…」
悪魔の上半身が宙を舞っている。
悪魔討伐。
同時にリク意識を失う。
「よく…頑張ったね!おめでとう!でも…なんで君がその刀を?その力は強力すぎる。これから使い方も教えてあげるね。一緒に帰ろうか」
迅雷が優しく話しかける。
が意識を失っているリクには届かない。
リクが放った威光が天を引き裂き雨雲消失。
レインフォレストに初めて日が差し込む。

その力の使い方 完

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第3話読んで頂きありがとうございます!
2話分の長さになってしまいました…
次は七獄出る予定です!
また見てください!
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