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第22話 狙いの魔物

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 どんぐりボマーを探し、森の中を捜索すること半日。
 木の上を重点的に探したが、未だにどんぐりボマーらしき魔物を発見するに至っていない。
 
 周囲に気をつけなければいけない上に、木の上も捜索するというのが非常に大変で、半日もかけたのに思うように探せていないというのが現状。
 日は傾き始め、このままでは何の成果も得られないまま一日が終わってしまう。
 ここまで探して諦めたくはないが、どんぐりボマーは諦めてスイートアピスの討伐にシフトしようか。

 爆発系の能力が得られたら面白いと思っていただけに、諦める決断をしなくてはいけなくなったのは残念だが、スイートアピスを倒すことができれば俺としては満足。
 気を取り直し、以前見かけたスイートアピスの巣を目指し、来た道を戻った。

 記憶に頼りに森の中を進み、木の影に隠れながら覗き込むように確認する。
 黄色と黒の見た目であり、見るからに危険な臭いしかしない巨大な巣。

 そんな巣の半分以上は地面に埋まっており、巣の周りには無数の穴が掘られていて、その穴の至るところから大量のスイートアピスが出入りしている。
 見つかった瞬間に仲間を呼ばれ、巣から飛び出てきたスイートアピスの軍勢に一斉射撃されるって感じだろう。

 毒針で、文字通りハチの巣にされるのは恐怖でしかないが、ここで日和っていては一生強くなることはできない。
 先にスライムを討伐するという選択もあるが、どんぐりボマーの捜索に半日も費やしてしまったせいで時刻は既に夕方。

 目星はついているとはいえ、スライムを捜索する時間がないため、今日何かしらの成果をあげるのだとすればスイートアピスを討伐するしかない。
 何度か深呼吸を行い、心を落ち着かせ――覚悟を決めた。

 できるだけの巣から離れた場所で戦闘を行いたいため、巣から出ていった一匹のスイートアピスを尾行する。
 拳大の大きさで飛ぶ速度もかなり速い。

 集中を切らした瞬間に見失ってしまうため、一切気を抜かずにどこかへと向かっているスイートアピスを追っていく。
 追うのに夢中で周りへの警戒は解いているが、スイートアピスも周囲を警戒しているだろうし多分大丈夫。

 ほぼ博打のような感じだが、襲われたらすぐに木の上に逃げられる心構えだけはして、スイートアピスを必死に追った。
 一匹のスイートアピスを追い始めて約五分。

 ここまでは見失わずに何とか追うことができているが、ここからは木々の感覚が狭くなっており、小さなスイートアピスを追うのは不可能。
 まだ早い気もするが、ここで仕掛けなければ逃げられてしまう。

 心の準備もできていない状態だが、覚悟を決めさせられた俺はわざとらしく音を立ててスイートアピスの前に姿を見せた。
 エメラルド色の光沢のある綺麗な体だが、尻に引っ付いている長い毒針は凶悪そのもので、その毒針は今にも俺を刺そうとひくひく動いている。

 一匹でいるところに俺が現れたため、スイートアピスもどう動くかの判断を挟んだのだろうが、現れたのがゴブリンと分かるや否や、カチカチと音を鳴らして威嚇行動を取ってきた。
 何十倍も体の小さなスイートアピスにも舐められている証拠であり、どれだけゴブリンが魔物の中で立場が低いのかよく分かる。

 逃げる魔物はまずいないし、獣もイノシシはともかく鹿までも怖がる素振りを見せてこなかったからな。
 罠にかけ、棒でぶん殴ったことでようやく逃げようとはしていたが、基本的に何もできないと高を括られている。

 実際にゴブリンの大半は何もできないし、認識としては間違っていないのだが、常に舐められているというのは意外と辛いものがある。
 もちろんこうやって逃げないでいてくれたり、油断してくれたりと有利に働くことの方が多いがな。

 ――と、そんなことを考えている内に、スイートアピスが左右に飛行しながら近づいてきた。
 体が小さい分、パラサイトフライと違って小回りが利く様子。

 攻撃を当てにくいが、正直尻尾についている毒針がなくなりさえすれば怖い攻撃はない。
 スイートアピスの動きというよりも、尻尾の毒針にだけ注意を向ける。

 躱すことのできない距離までは近づかせないように距離を取りながら、石を拾っては牽制で投げつけていく。
 投げた石が当たる気配はないが、非常に鬱陶しそうに羽を震わせているスイートアピス。

 確実に逃げられない近距離から毒針を使う算段だったろうが、面倒くさくなったのか尻をひくつかせ始めた。
 毒針が飛ぶ合図でもあり、俺はギリギリまで見極めてから――毒針が発射されたと同時に体を投げ出して回避する。

 予想以上に精度が悪く、無駄に回避してしまった感じはあるが、毒針を無事に回避することには成功。
 次の毒針を生やすまでの間に仕留めるべく、倒れた状態から四足歩行で一気に近づき、スイートアピスの体を短剣で斬り裂いた。

 短剣で斬り裂いた箇所からは透明な血が流れ出て、命の危機を感じたスイートアピスは必死に逃げようとしているがもう遅い。
 羽を斬り裂いたことで飛行能力は失われ、地面を這いつくばるように藻掻いているスイートアピスにトドメを刺す。

 危険な魔物だが所詮は小さな魔物。
 毒針という武器がなくなれば、怖い部分は一つもない。

 完全に動かなくなったスイートアピスを見てホッと一息ついたの束の間、俺は仕留めたスイートアピスをすぐに食べることにした。
 時間もないため、今回は焼くことはせずこのまま生で食べる。

 毒だけは怖いため毒針がついていた尻の先端部分だけ落とし、そのまま口の中に放り込む。
 ……うーん、若干苦いだけで食べれなくはない味。

 体の部分が硬くて少し気になるが、パラサイトフライに比べたら全然マシってところだろう。
 名前にスイートとついていることからも分かる通り、スイートアピスの幼虫は非常に甘くて美味しく、市場にも流通していた。

 その事前知識があったから期待していたのだが、成体となったら美味しくなくなってしまうようだ。
 思えば、市場に出回っていたのは全て幼虫だったもんな。

 味には少しガッカリしているが、とにかくスイートアピスを食べることはできた。
 小さいし、一匹だけで能力が身につくかどうか分からないが、今日の目標は達成したと言っていい。

 何も身につかなかったら、また同じ手口でスイートアピスを狩るとして……今日のところはもう帰ろう。
 辺りが暗くなりかけているため、俺は真っ暗になる前に急いで巣に戻ったのだった。

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