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第66話 VSトロール
しおりを挟む木々に囲まれた人目のつかない場所でキャンプを行い、何事もなく翌日を迎えることができた。
念の為、交代交代で見張りを行っていたのだが、一度も魔物がやってくることはなかった。
「意外と寝泊まりできちゃうもんだな」
「ヒヤヒヤしてあまり良く眠れませんでしたが、何事もなく一夜を明かせましたね」
「バエルだけは寝づらそうにしていたな。ニコなんか見張りのタイミングでもウトウトしていたぞ」
「うが……。ウガガ!」
俺もバエル同様にあまり寝付くことができず、ちょくちょく見張りを担当している者達の監視をしていたのだが、ニコはずっと船を漕いでいた。
俺が何度か起こしたことで、寝落ちせずに見張りを行えてはいたが……ここはしっかりと注意しておかないといけない。
「オレはネラレたけど、ミハリもしっかりとやった!」
「アモンが一番理想的だな。ニコはしっかりとしてくれ」
「ウガガ! ウガッ!」
戦闘で取り戻すと言わんばかりのやる気を見せている。
しっかりと寝ていた分、これは活躍してもらわないといけないな。
そんな夜のことを話してから、軽く朝食を取ってすぐさま移動を開始する。
目指すはもちろん昨日見つけたトロールの巣。
キャンプを離れた段階から俺一人先頭を進み、周囲を警戒しながら進んでいく。
朝早くに移動を開始したということもあり、道中では会敵することなく、トロールの巣の目の前までやってこれた。
後方から追ってきているバエルに止まれの合図を出し、トロールが動き出すのを見つからないように隠れて見張る。
おっさん戦士と戦った時は、約二日間木の上で待機していた。
その経験があるからか、何の苦も感じないまま見張りを行うことができ、そしてとうとう一匹のトロールが巣の外に出てきた。
薄い布のようなものを羽織っており、手には石で作ったあろうメイス。
更にカゴを背負っており、今から何かを採取しにいくのが分かった。
想像していた通りソロで動いているため、このまま追っていけば一対四の状況は簡単に作り出せるだろう。
焦りや不安を一切感じないまま、俺は巣から出てきたトロールの尾行を開始。
巨体だから動きが鈍く、五感も鋭くないようで尾行があまりにも楽。
誘い込まれているのではと勘繰ってしまうほどだったが、野草のようなものを拾ってはカゴに入れているところを見る限り、ただ何の警戒もしていないだけだと言うことが分かる。
この森では強者の部類に属するため、警戒なんてする必要がないのだろうな。
最弱のゴブリンに転生した身としては羨ましくもあり、転生先がゴブリンだったからこその恵まれた部分もある。
そんな余計なことを考える暇があるほど楽に尾行を続け、ようやくトロールを狩るのに最適な場所まで来た。
トロールの巣からも三十分ほど離れ、他の魔物の気配もない静かな場所。
それでいてある程度開けた場所であり、集団でも戦いやすい。
ここだと決めた俺は、後方ニ待機させていた三匹を呼び、囲むように配置させた。
そしてハンドサインで合図を出し……一斉に攻撃を開始。
急に飛び出てきた俺達に、トロールは一瞬驚いたような表情を見せたものの、向かってくる魔物がゴブリンだと分かるや否や、下卑た笑みを浮かべた。
見た目で舐めてくれるというのも、ゴブリンで良かった点だな。
心の中でそう補足しつつ、まずは俺から斬りかかっていく。
ゆっくりと振り上げたメイスの動きを見て、振り下ろされるタイミングで懐に潜り込む。
そこからは間髪入れずに腹部を深々と斬り裂いて見せた。
体半分くらいは斬り裂くことに成功しており、普通の魔物ならこれで絶命していてもおかしくない一撃。
……ただ、トロールは深い傷を負ったのにも関わらず、一切気にしていない様子でメイスによる攻撃を再び仕掛けてきた。
「シルヴァさん! 伏せてください!」
バエルの声が聞こえた瞬間に地面に這いつくばるように伏せると、俺の頭上を気功波が飛んでいきトロールに直撃。
巨体を軽くふっ飛ばしたが、ダメージ自体はほぼ皆無に見える。
俺の負わせた傷も再生を始めており、やはり想像していた以上に厄介な相手だ。
鈍いのかダメージを負っている感じもしないし、一発で致死に至るこれは強烈な一撃叩き込むしかない。
そう判断した俺は、アモンとニコに突っ込むように指示を飛ばす。
バエルには後方から気功と魔法でサポートしてもらい、俺は二匹の後ろで危険な攻撃だけに気をつけつつ、トロールの隙を窺う。
「うが、うがが」
「え? オレにさきにトビコメって? ……ダイジョうぶかよ」
「うーが、ウガッガ!」
「ワカッた。ナニカあったら、シルゔぁもタスケテくれ!」
ニコに指示されるがまま、飛び込んでいったのはアモン。
不安そうではあるが、俺やニコを信じて斬りかかっている。
アモンにとっても格上の相手のはずだが、やはり仲間の前では戦えるのか。
アモンはそのまま剣をトロールに向けて振ると、難なく対応していた返しの一撃が飛んできた。
ぶつかる前に俺が捌こうと前に出ようとしたのだが、俺よりも先に飛び出したのはニコ。
アモンへの攻撃のカウンターを狙っていたようで、【疾速】を使って凄まじい速度で前に出ながら綺麗にカウンターをぶち込んだ。
トロールの勢いも乗ったニコの一撃に大きく仰け反り、メイスが手から離れたのを今度は俺が見逃さず、無防備となっているトロールの腹部に――能力も乗せた全力の一撃を叩き込んだ。
一発目の傷もあったため、この一撃でトロールを両断することに成功。
上半身がぐるぐると宙を舞いながら地面に落ち、上半分だけとなったトロールは為すすべもなく絶命したのだった。
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