魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

岡本剛也

文字の大きさ
65 / 77

第66話 VSトロール

しおりを挟む

 木々に囲まれた人目のつかない場所でキャンプを行い、何事もなく翌日を迎えることができた。
 念の為、交代交代で見張りを行っていたのだが、一度も魔物がやってくることはなかった。

「意外と寝泊まりできちゃうもんだな」
「ヒヤヒヤしてあまり良く眠れませんでしたが、何事もなく一夜を明かせましたね」
「バエルだけは寝づらそうにしていたな。ニコなんか見張りのタイミングでもウトウトしていたぞ」
「うが……。ウガガ!」

 俺もバエル同様にあまり寝付くことができず、ちょくちょく見張りを担当している者達の監視をしていたのだが、ニコはずっと船を漕いでいた。
 俺が何度か起こしたことで、寝落ちせずに見張りを行えてはいたが……ここはしっかりと注意しておかないといけない。

「オレはネラレたけど、ミハリもしっかりとやった!」
「アモンが一番理想的だな。ニコはしっかりとしてくれ」
「ウガガ! ウガッ!」

 戦闘で取り戻すと言わんばかりのやる気を見せている。
 しっかりと寝ていた分、これは活躍してもらわないといけないな。

 そんな夜のことを話してから、軽く朝食を取ってすぐさま移動を開始する。
 目指すはもちろん昨日見つけたトロールの巣。

 キャンプを離れた段階から俺一人先頭を進み、周囲を警戒しながら進んでいく。
 朝早くに移動を開始したということもあり、道中では会敵することなく、トロールの巣の目の前までやってこれた。

 後方から追ってきているバエルに止まれの合図を出し、トロールが動き出すのを見つからないように隠れて見張る。
 おっさん戦士と戦った時は、約二日間木の上で待機していた。

 その経験があるからか、何の苦も感じないまま見張りを行うことができ、そしてとうとう一匹のトロールが巣の外に出てきた。
 薄い布のようなものを羽織っており、手には石で作ったあろうメイス。

 更にカゴを背負っており、今から何かを採取しにいくのが分かった。
 想像していた通りソロで動いているため、このまま追っていけば一対四の状況は簡単に作り出せるだろう。

 焦りや不安を一切感じないまま、俺は巣から出てきたトロールの尾行を開始。
 巨体だから動きが鈍く、五感も鋭くないようで尾行があまりにも楽。

 誘い込まれているのではと勘繰ってしまうほどだったが、野草のようなものを拾ってはカゴに入れているところを見る限り、ただ何の警戒もしていないだけだと言うことが分かる。
 この森では強者の部類に属するため、警戒なんてする必要がないのだろうな。

 最弱のゴブリンに転生した身としては羨ましくもあり、転生先がゴブリンだったからこその恵まれた部分もある。
 そんな余計なことを考える暇があるほど楽に尾行を続け、ようやくトロールを狩るのに最適な場所まで来た。

 トロールの巣からも三十分ほど離れ、他の魔物の気配もない静かな場所。
 それでいてある程度開けた場所であり、集団でも戦いやすい。

 ここだと決めた俺は、後方ニ待機させていた三匹を呼び、囲むように配置させた。
 そしてハンドサインで合図を出し……一斉に攻撃を開始。

 急に飛び出てきた俺達に、トロールは一瞬驚いたような表情を見せたものの、向かってくる魔物がゴブリンだと分かるや否や、下卑た笑みを浮かべた。
 見た目で舐めてくれるというのも、ゴブリンで良かった点だな。
 
 心の中でそう補足しつつ、まずは俺から斬りかかっていく。
 ゆっくりと振り上げたメイスの動きを見て、振り下ろされるタイミングで懐に潜り込む。

 そこからは間髪入れずに腹部を深々と斬り裂いて見せた。
 体半分くらいは斬り裂くことに成功しており、普通の魔物ならこれで絶命していてもおかしくない一撃。

 ……ただ、トロールは深い傷を負ったのにも関わらず、一切気にしていない様子でメイスによる攻撃を再び仕掛けてきた。

「シルヴァさん! 伏せてください!」

 バエルの声が聞こえた瞬間に地面に這いつくばるように伏せると、俺の頭上を気功波が飛んでいきトロールに直撃。
 巨体を軽くふっ飛ばしたが、ダメージ自体はほぼ皆無に見える。

 俺の負わせた傷も再生を始めており、やはり想像していた以上に厄介な相手だ。
 鈍いのかダメージを負っている感じもしないし、一発で致死に至るこれは強烈な一撃叩き込むしかない。

 そう判断した俺は、アモンとニコに突っ込むように指示を飛ばす。
 バエルには後方から気功と魔法でサポートしてもらい、俺は二匹の後ろで危険な攻撃だけに気をつけつつ、トロールの隙を窺う。

「うが、うがが」
「え? オレにさきにトビコメって? ……ダイジョうぶかよ」
「うーが、ウガッガ!」
「ワカッた。ナニカあったら、シルゔぁもタスケテくれ!」 

 ニコに指示されるがまま、飛び込んでいったのはアモン。
 不安そうではあるが、俺やニコを信じて斬りかかっている。

 アモンにとっても格上の相手のはずだが、やはり仲間の前では戦えるのか。
 アモンはそのまま剣をトロールに向けて振ると、難なく対応していた返しの一撃が飛んできた。

 ぶつかる前に俺が捌こうと前に出ようとしたのだが、俺よりも先に飛び出したのはニコ。
 アモンへの攻撃のカウンターを狙っていたようで、【疾速】を使って凄まじい速度で前に出ながら綺麗にカウンターをぶち込んだ。

 トロールの勢いも乗ったニコの一撃に大きく仰け反り、メイスが手から離れたのを今度は俺が見逃さず、無防備となっているトロールの腹部に――能力も乗せた全力の一撃を叩き込んだ。

 一発目の傷もあったため、この一撃でトロールを両断することに成功。
 上半身がぐるぐると宙を舞いながら地面に落ち、上半分だけとなったトロールは為すすべもなく絶命したのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...