赤ずきんくんと白雪くん。

空々ロク。

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赤ずきんくんと白雪くん。第7話

「悪ぃ。明日は行く所があるんだ」
「そうなんだ。大丈夫だよ」
「じゃ、また明後日会おうな」
「うん!」
昨日の会話を思い出しながら朝御飯を食べ終える。
赤ずきん君と会えないことは残念だけれど、ボクは久しぶりに海へ行くことにした。
身支度をする為に鏡を覗くと「おぅ」と声が聞こえた。
「キギム、どうしたの?」
「ザワつくな」
「また曖昧なこと言うんだから。それって嫌な予感ってこと?」
「あぁ。何かが動き出す予感がするぜ」
「嫌だなぁ。平和でいたいよ、ボクは」
髪の毛を梳かし、歯を磨く。
キッチリ支度をしてカバンを背負うと後ろから声が聞こえた。
「お前に害はねぇよ」
「赤ずきん君には?」
「アイツは知らねぇ」
「もう。そこが一番気になるのに。それじゃ、行ってきます」
「あぁ。気を付けろよ」
バタンとドアを閉めて歩き出す。
近頃キギムは心配性になった気がする。
昔よりも自分に近付いてくれたと思えばそうなのかもしれない。
(変わったこと、いっぱいあるなぁ)
自分がレドニアに来て変わったように、キギムも変わっていったのかもしれない。
それが何となく──嬉しかった。

いつも向かっている森とは正反対の道を歩くと海に辿り着く。
赤ずきん君と来る時もあるけれど、ここに1人で来ることも多かった。
透き通るような水はとても綺麗で、砂浜の砂もサラサラと細かい。
そのまま座っても気にならないぐらい綺麗な海岸だ。
海には小さな船が漂っていて、終始穏やかな空気はのんびりするのにちょうど良かった。
座って持参した本を読む。それは白うさぎさんに借りた物だった。
魔法について面白おかしく書かれたそのシリーズをボクはとても気に入っていた。
(新刊が出る度にすぐ持ってきてくれるからなぁ)
過去の一件や秘密等色々あった白うさぎさんだが、今では元気に暮らしている。
大好きな兄のアリスさんと変わらず一緒に住んでいるし、表面上は何も変わっていないように見えた。
それでも確かにアリスさんは知ったのだ。
自分の記憶を消したのは白うさぎさんだということを。
(赤ずきん君がそれすらアリスさんの思惑だったら?って言ってたのが気になるなぁ。そうまでして消したい過去って──)
これ以上考えても仕方がないと本を閉じた。
「ふぅ」
本をカバンに入れ、立ち上がる。
昼過ぎになり、海水浴を楽しむ人々が増えてきた。
魔法を使って海の上を走っているように飛んだりする人や、水中でも呼吸が出来る魔法を使って海に潜る人など多種多様だ。
これは魔法使いの街・レドニアだからこそ見られる光景なのかもしれない。
自分以外にも沢山の魔法使いがいることに安心する。
(やっぱりここはボクの居場所だ)
探し続けていた居場所は想像よりもずっと居心地が良かった。
(「特別」でないことがこんなにも幸せだなんて)
ゆっくりと海岸の端へ向かう。
人気のないそこは水中からいくつも石が伸びている。
泳ぎたい人間にとっては邪魔でしかなく、ここに来る人間はほとんどいなかった。
泳ぐつもりもないボクは当然違う目的で来たのだけれど──。
「あれ?」
この時間ならいるだろうと思ったが、いつもの石の上に姿がない。
キョロキョロ探していると「ばあっ!」と水中から何かが飛び出してきた。
「うわっ!」
「うん、良い反応ね」
「……ウルさん。驚かさないでください」
「だって退屈だったんだもの。白雪くんが来てくれて嬉しいわ」
そう言って石の上に座った彼女の名前はウルさん。人魚だ。
キラキラと輝く宝石のようなブロンドの長い髪、大きな瞳、妖艶な唇、あまりにも心地良い声。
人魚に騙される人間も多いというが、彼女を見ると確かにそうかもしれないと思う。
彼女自身「人間を騙すなんて簡単よ」と笑っていたことがあったし、その通りなのだろう。
つい惹かれてしまう空気を漂わせている。
「どう?最近楽しいことあった?」
妖艶な笑みを見せるウルさんに、ボクはここ最近起きたことを全て話した。
楽しかったことも、辛かったことも、不思議なことも、全て。
ボクの話を聞き終えたウルさんは「ふうん」と嬉しそうに微笑んだ。
「色々あったのね。白雪くんにも皆にも。参加出来なかったのが残念だわ」
「ウルさんは地上を歩けないんですよね?」
「そうなのよ。人間のフリをする魔法は使ったことがあるけれど、上手く歩けなかったのよね」
「成程。人間になる魔法って姿形だけなんですね」
「あまり魔法が得意でないのもあるでしょうけどね。海の方が生きやすいって思っちゃった」
ウルさんはそう言って綺麗なヒレをパタパタと動かした。
「それにしてもアリスくんの件は気になるわね。帽子屋に聞いてみようかしら」
「帽子屋さんとお友達なんですか?」
「ええ。あの子とは付き合いが長いわ」
「そうなんですか。えっと……帽子屋さんってどういう人なんですか?とても不思議な方に見えるんですが」
「んー、そうねぇ……」
ふっと視線を上に向けるウルさんの視線を追うように見ると、パタパタとピンク色の蝶々が飛んでいた。
不思議な雰囲気を持つ蝶々はウルさんのペットなのかもしれない。
「一言で言えば彼は物事に干渉出来ないの」
「干渉出来ない……?」
「彼は色んなことを先に知れるわ。けれど自分は何も出来ない。視えるけれど、手出しは出来ないの」
「それは……」
確かに、と思う。帽子屋さんはいつだって何でも知っている。
こちらが何も言わずとも理解してくれている。
分かっていて何も出来ないというのはどれほど辛いことだろう。
例えば大切な人の危機を視たとしても何も出来ないのだ。
「彼はもう諦めたみたいだけれどね。たまに偏屈になってるわ。どうせ俺は何も出来ないシ、ってね」
「帽子屋さんらしいですね」
「これは私の憶測だけれど、彼はきっと人間ではないのでしょうね。簡単に言えば幽霊的なものかしら」
「え!?」
驚きで言葉を失う。
何度も彼に会ったけれど、人間以外の何かだなんて思いもしなかった。
「で、でも実態はありますし、霊的なものには見えませんが……」
「そうなのよね。限りなく人間に近い幽霊、みたいな。他にない存在だと思っているわ」
「唯一の存在と言われればそんな気がしますね」
何せ帽子屋さんは摩訶不思議なのだ。どんな存在であってもおかしくはない。
そう思わされるオーラがあった。
「帽子屋さんがここに来ることもあるんですか?」
「来ることはないわね。会話はするけれど」
恐らく魔法を使って会話をしているのだろう。
お互いの信頼感とある程度の魔力があれば遠方でも会話が出来るのだと聞いたことがある。
「本当に仲が良いんですね」
「仲は良いと思うわ。白雪くんと赤ずきんくん程ではないけれど」
ふふっと笑われ、照れてしまう。
ボクと赤ずきん君が恋人同士であることは周知の事実で、こうして何かといじられることが多い。
付き合い始めた頃よりはずっと慣れたが、改めて言われると顔が熱くなる。
「ボ、ボクたちの話はいいとして……帽子屋さんについて一番詳しいのはウルさんなんですか?」
「んー、アリスくんと良い勝負かしら。付き合いは私の方が長いけれど、アリスくんの方が親密だと思うわ」
「そういえばアリスさんは帽子屋さんの本名を知ってました」
「でしょ?彼が本名を教えるのは珍しいもの。だからアリスくんの方が詳しいと思うわ」
「お2人はどういう関係なんでしょうか?」
ボクの質問にウルさんはニイッと笑った。
彼女がイタズラを思いついた子供のような笑みを作るのは珍しい。
「私は勝手に恋人だと思ってるわ」
「え!?そうなんですか?」
「勝手に、よ。帽子屋に聞いたら否定されたわ。怪しいものだけれど」
ふふっと笑ったウルさんは言葉を続けた。
「彼は暴かれるのを嫌うのよ。仮に図星だとしてもまず認めないわ。徹底的に謎でいたいんですって」
「謎でいたい?」
「正体不明で年齢不詳、思考も読めない、何なら性別だってよくわからない──そんな存在でいたいらしいわ。まぁ、分からなくもないけれど」
そう言われて初めて性別について疑問が湧いた。
雰囲気や喋り方で勝手に男性だと思っていたけれど、それが真実とは限らない。
性別を変える魔法だって存在するぐらいだ。
徹底的に謎でいたい帽子屋さんがその魔法を使っていたとしても不思議ではない。
「……ボクには一生読めなさそうです」
「私もそうよ。本心まで読み切れる自信はないわ。帽子屋のことを暴ける人がいるとしたら──白雪くんの彼氏かもしれないわね」
「え?赤ずきん君が?」
「ええ。彼は魔法を使えないから。魔法使いが魔法使いを暴くのは難しいけれど、そうでないなら可能性はあるわ。それに赤ずきんくんはすごく勘が鋭いようだし」
コクリと頷く。赤ずきん君の勘は確かに鋭い。そして大抵当たっている。
「私は赤ずきんくんのことをよく知らないけれど、勘が鋭い以外に視力や嗅覚もすごく良いって話を噂で聞いたわ」
「そうですね。噂通りです。あとはどんな噂でした?」
「言葉使いが荒いけれど優しいとか、あらゆる面で不器用だけれど愛されているとか、かしら」
「ふふっ。自分のことのように嬉しくなっちゃいます」
赤ずきん君はきっと喜ばないだろう。
他人に自分の価値を決められることも、噂話自体も好きではないからだ。
けれど自分の好きな人が愛されているのだと思うとボクとしては嬉しくなる。
特に赤ずきん君は誤解されやすい。
横柄な態度であることも少なくないし、年齢や立場など一切気にせず突っかかる。
だがレドニアの人々はそんな赤ずきん君に慣れている。
本人は知らないけれど赤ずきん君はとても人気があることをボクは知っていた。
「帽子屋も謎だけれど、私からすると赤ずきんくんも結構謎なのよね。彼も何か隠しているの?」
「あれ?知らないんですか?赤ずきん君の事件の話。通称ハサミ事件」
「ええ。白雪くんの毒リンゴ事件は知っているんだけれど。赤ずきんくんの事件の時は水中にいたのよね」
「水中?」
首を傾げるとウルさんは微笑んだ。
「水中には水中なりの争いがあるのよ。縄張り争いみたいなもの。あれは大変だったわ」
「大丈夫だったんですか?」
「父は強いから。私たちの地域は絶対に取られないわ。私、まだレドニアにいたいし」
「海の世界も大変なんですね。勉強になります」
「何処でも大して変わらないのかもしれないわね。で、赤ずきんくんの事件はどんなお話だったの?」
まるで御伽話を聞くかのように目をキラキラさせるウルさん。
「あ、はい。えっと、赤ずきん君の事件は……」
ボクが口を開いた──瞬間。
「白雪っ!」
「……赤ずきん君?」
ボクの名前を呼んだのは、遠くから走ってきた赤ずきん君だった。
「ここにいたのか」
「あれ?今日は用事があるからって……」
「大変なことが起きた。ちょっと一緒に来てくれねぇ?」
「え、一体何が?」
「そっち向かいながら話す。とにかく来てくれ」
「うん、わかった。ウルさん、また今度」
「ええ。お気を付けて」
ニコリと笑いながら優雅に手を振るウルさんに会釈をし、赤ずきん君に引っ張られるがまま走り出した。
「何が……あったの……っ!?」
全速力で走っている所為で息が途切れる。
ボクよりも体力がある赤ずきん君はまだまだ余裕のようで、こちらを振り返りながら答えてくれた。
「アイツが起きやがった」
「アイツ?」
「眠り姫だ。覚えてねぇか?」
「眠り姫……あっ!え?本当に!?」
驚いて尋ねると赤ずきん君は顔を顰めて頷いた。
「面倒くせぇことになるぜ。嫌な予感がする」
「赤ずきん君……」

勘が鋭い赤ずきん君のその言葉。
今朝のキギムの言葉。
──どうか何事もありませんように。
そう願いながら「眠り姫」の城へ急いだ──。

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