神守君とゆかいなヤンデレ娘達

田布施月雄

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第1章 お願いだから喧嘩しないで!

第2話 お願いだから、暴れないで!

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 うちのヤンデレ妹の美子が、佐那美の挑発メールに大激怒。
 中等部から怒鳴り込んできた。
 

 ――5分後。


 美子はマサやんから状況を聞き出し、ある程度内容を理解した。

 ※もちろん、眞智子とキスする話は伏せられている。

 美子は落ち着きを取り戻したようで、「そういう事ならちゃんと内容をいいなさい」と佐那美に一喝した後、僕の腕にしがみつき――

 「どうせ、お兄ちゃんが主人公なんでしょ? だったら私がヒロインになってあげる」

――と勝手に話を変え始めた。

 これは困ったことになった。
 そんな話ではない旨説明したいのだが、下手な説明をすれば『何? 私がヒロインだと何か問題でもあるのかな?』と一発で機嫌が悪くなる。
 僕には危害を加えることはない――とは思うが、少なくともここにいる誰かが、美子により得物をチラつかせながら恫喝されるのは目に見えている。
 僕の所為でそうなっては申し訳ない。だから何も言えない。
 そう言いつつも、僕自体ビビり性であるため、彼女らになにも言えないところもある。

 だからこそ、ある意味、僕の恋愛は周りの彼女らに阻まれているのだ。

 たとえば――美子。
 彼女は最悪のヤンデレ・ブラコン。
 普段は頭脳明晰冷静沈着でかわいい女の子なのだが、俺がらみになると理性が蒸発し、映画に出てくるような殺人鬼になりうる性格である。
 僕は彼女のことをリアル版我〇由乃だと思っている。
 彼女は何故か僕に執着しており、血が繋がっている実の兄妹であるのにも関わらず、僕との結婚を夢見て止まない――いや、病んでる女の子だ。
 だから、彼女にしてみれば、僕に近づく女の子は全て敵である。
 ちなみに彼女の愛読書は『子供が出来てしまった場合の責任の取らせ方』という謎の小説と、『サルにでもわかる兄妹婚のススメ』という訳の分からない本である。その本の影響かこの前は就寝中、危なく妹に犯されそうになった。
 もし僕が彼女の意図に反した行動をしようものなら、一生自宅に監禁され続けるか、56されるかもしれない。
 周りの中で一番ヤバい女の子だ
 
 そして眞智子。
 彼女は最強のヤンデレ・(元)ヤンキー。
 一見してどこかの令嬢――まぁ実際、町医者の娘であるが、一度キレると現役ヤンキーが裸足で逃げていくほどの鋭い眼光を効かせるおっかない女の子だ。
 だが、彼女の場合は、計算ずくで行動している。言い方を変えれば、キレるのも作戦の一つの様だ。
 彼女が一度『これはこうで、この様にする』と決めると、ほぼ想定内の結果を収めることができる。
 その彼女が、『僕との交際そしてその先へ』を宣言している。
 もし僕が彼女の意図に反した行動をしようものなら、言い訳も出来ない状況に陥れられるだろう。

 もう一人、天然のヤンデレがいる。佐那美である。
 彼女は理性がぶっ飛んでいる頭が病んでる・ヤンデレだ。
 彼女は思いつきとひらめきでピンチを好機に切り替える天才である。
 今の彼女の目標は、僕を使って家業である地端プロダクションを盛り上げようと考えている。
 しかも売り出しのためなら、イベントだって何だってするお金大好き守銭奴佐那美様である。
 僕にはお金を生み出す力があると信じている様で、もし僕の力に陰りが出た場合、底上げのため僕を佐那美本人と結婚するイベントも考えている様だ。
 彼女の場合は、眞智子のそれになぞるのなら、彼女が一度『これはこうで、この様にする』と決めると、ひらめきや感を頼りにして、ほぼ想定内に結果を導き出すことができる。
 ――つまり、もし僕が彼女の意図に反して行動したら、理性が元々存在しない彼女が次に取る行動は、全く予想がつかない。ただ、考えられる事としたら法を犯そうがどれだけ他人に迷惑掛けようがお構いなしということ。
 これも何としてでも避けたい。
 

 このイッちゃっている3人が絡んでくると、もう滅茶苦茶だ。
 どうしよう……僕、今日で終わっちゃうかもしれない。
 その一番ヤバい美子が、この2人の前で俺の手に絡みついてくる。

 ぶっ飛んだ性格の女性陣の中で、比較的常識人なのは眞智子である。
 情けない話だが、僕は目で眞智子に救いを求める……が、すでに眞智子はあの死んだ魚目(通称ケロロ目)で美子を睨み付けていた。

 恐っ――で、でも、頼むよ眞智子さん。

 僕は泣きそうな表情で彼女に祈ると、彼女は首をゆっくり縦に1回振り、不自然な笑みを浮かべて美子の前に歩み寄る。

 「美子、今回はクラスの出し物だから諦めてくれないかな。いい子だからこのまま黙ってうちに帰って礼君を待ってくれない?」

 「――何、ヤンキーのくせして優しいお姉さん面しているの? そんなにヒロインやりたければそこの馬鹿とやればいいでしょ」

 美子はそう言ってクラスの隅でビビって小さくなっているマサやんを指さした。
 眞智子はヤンキーの一言で眉毛をぴくり動かし口元をゆがませ不自然な笑みを浮かべている。

 「あのね、この際だからハッキリ言っておく。私の彼は礼君だから」

 ピクン――美子の動きがピタリと止まった。
 その一言で美子もケロロ目に変わり、僕の腕から離れるとあの新世紀の人造人間のように猫背になりながらゆっくりと眞智子の前に詰め寄る。
 眞智子も「あははは――」と変な笑いをあげ無表情で美子の前に乗り込む。
 あぁやばい、このままでは……殴り合いどころか、564合いになりかねん。
 僕は体を張って二人の間に止めに入る。

 「や、やめてくれ、眞智子さん、美子さん。僕が求めているのは喧嘩ではないんだ」

 僕は彼女らの間で両手を広げ必死に阻止を図る。
 すると『あたしは関係ありません』といわんばかりに佐那美がうれしそうに指でフェンダーを作り――

 「いいね、いいね。修羅場だね。今度の映画はスプラッターもので決まりだね。スプラッターといえば包帯。それじゃミイラって意味の『モミー』っていう怪奇映画でもしてみましょうかね」

――とケタケタと笑う。
 ゾンビ状態の眞智子と美子が同時に佐那美をギロリと睨む。

 「ミイラはマミーだよ。あんた本当に馬鹿なんだね」

 ※ポルトガル語でモミーとも言われるそうです。突っ込んだら56されます。

 「だって佐那美だもん。バカにつける薬は眞智子のところにもないでしょ?」

 二人は佐那美を見下すような高笑をする。

 「――何、あんたらやる気なの?」

 今度は佐那美がキレた。某映画スターみたいにリズミカルに体を左右にスライドさせ、いつでも応じてやるという姿勢を示している。

 「なんだ? マジでやるのか!」

 「返り討ちにしてやる。この馬鹿佐那美!」

 二人が佐那美に向かって詰め寄る。


 「今度は3人で喧嘩?! これ以上はまじでやめてくれよ」


 僕は両手で眞智子と美子を抑えた。
 しかし、急に二人は顔を真っ赤に染め上げ、僕の方を見て『えっ?』という表情で驚いていた。僕は何のことだかわからずそれぞれの顔を見て確認したが、それが気に障ったらしい。二人は機嫌悪そうにため息をつく。

 「何が『モミー』よ、この青春スケベ! いい加減しないと、どこかのスケコマシみたいになるから」

 眞智子は、どこかのスケコマシに機嫌を害している様子だが、それは一体誰なのか?!
 すると今度は美子が――

 「スケコマシっていってもわからないわよ。佐那美より鈍いんだもの――って、まだわかっちゃいないかしらね。そう思わないお兄ちゃん?」

――とあからさまに僕の名前を持ち出して来た。
 理由はわからないけど、二人とも僕にトゲがある言葉を発しているので、原因は僕のなんだろが、今度は佐那美までかみつきだした。

 「神守君がそうことしているから、『モミー』だって言われるのよ!」

 彼女はそう言い、ちょっと控えめの胸を突き出しながら責任転嫁して怒っている。
 僕は彼女らがご機嫌斜めの理由をわからず首を傾げていたのだが、遂に眞智子と美子がじれったそうに『あぁもう!』と癇癪を起こしはじめた。

 「ところで、いつまで掴んでいたら気が済むのかしら? この変態さんは」

 「拒否はしないけど、二人分掴んでいるって言うのが気に入らない」

 「そうそう、二人分っていうのが――ね」

 「それで……いつまで掴んでいるのよ、このモミ男がっ!お兄ちゃん今日から『モミー』だ。モミ男だから『ミスターモミー』で決まり!」

 「あっそれいいわ。私も礼君の事『ミスターモミー』と言うわ。」

 急に眞智子と美子がタックを組んで僕に対して明らかに軽蔑の目を向けている。

 ――掴んでいる?

 彼女らの追及でふと我に返る。確かに両手が何かを掴んでいた。しかもやわらかい。僕が掴んでいるものをよく確認したところ、彼女らを制止しているハズの両手がそれぞれの胸をしっかり鷲掴みしているではないか。

 「えっ? ええっ?!」

 僕は咄嗟に手を離すが、時既に遅し。僕の通称名に『ミスターモミー』という不本意な軽蔑名称が加わった。
 
 「おや、修羅場だね。こりゃ凄いわ――あっ、これおもしろいんじゃね?!」

 僕の不幸を対岸の火事として見ていたマサやんは何かを思いついた様だ。そして佐那美を手招きし、そっと耳打ちしていた。

 「えっ……そんなのあるんだ、それはいいね、面白いわ。それじゃソレのパロディ映画っていうかオマージュを勝手に作っちゃえばいいのね」

 意気投合する二人。その様子は何となく気になってはいたが、それ以上に眞智子と美子に対して僕は必死に言い訳していたわけでそれどころじゃなかった。
 今思うと、ちゃんとその企画内容を聞けば良かったと後悔している。


――そして、次の日の放課後。


 佐那美が目を真っ赤にさせ台本を作ってきた。
 だが、パソコンで作った割には誤字脱字は多いわ、話がまとまっていないわ――で、どういうストーリーなのか全く理解出来ない。まるでどっかの小説を読んでいる感じである。僕は佐那美に文句を言おうと思ったが、マサやんがそれを見て「上等上等。これでいいよ」とそれを理解し納得しているので、何も言えなくなってしまった。
 僕以外にも納得していない人がいるようで、彼女らは佐那美に対して「なんだよこれ?!」と若干攻撃的に尋ねるが、佐那美に――

 「言っておくけど、客が振ったサイコロでストーリーが変わるから。だから、ストーリーの展開で眞智子や美子――って感じにヒロインが変わるから」

と言われ、渋々承諾した。

 「それで、主人公はやっぱり僕か?」

 「当たり前でしょ。うちの看板役者なんだから」

 「監督は?」

 「一応あたし。あと脚本ね。撮影は池田にやってもらうよ。照明や特殊なところはうちの弟、元家が担当するから。後は空いている人はエキストラやってもらうから。そうなると人が足らないわね――それじゃあ、あたしも地端佐那美として出演してあげるわ」

 佐那美が自信満々に答える。
 何か嫌な予感がする。僕はチラリと美子と眞智子を見る。彼女らも胡散臭いそうに佐那美を見ている。
 妙に乗る気になっているのは佐那美とマサやんだけである。


――撮影会当日


 僕はアルバイト先で知り合ったメンヘラヒロインから強引に押しつけられたサングラスと華僑出身お調子者のおっちゃんからもらった黒皮のブルゾン、そして社長に買わせたジーンズ姿で待ち合わせ場所の駅前のペデストリアンデッキに到着。
 だが、そこで先に到着していた佐那美にすぐさま怒られた。

 「ちょ、ちょっと神守君、その格好ってレインの格好じゃないの?!」

 「だって僕のバイト着だもん」

 「馬鹿! 誰がレインを主演させるって言った。レイン出したらあたしがお父さんに怒られるでしょ!」


 ――酷い言われようである。しかも馬鹿に馬鹿と言われるとは思わなかった。


 「大丈夫、レインのシンボルであるブルーコンタクト入れていないから」

 僕はそう言ってサングラスをずらして彼女に見せた。
 だが、佐那美の他にも納得しない2人がすぐに到着。
 その1人が僕の襟首を掴んで「何やっているのよ」と睨んできた。
 美子である。

 「ペデストリアンデッキにレインがいるって話を聞いて来たんですけど! 何やっているのかな、お・に・い・ち・ゃ・ん」

 「いやあ、美子さん。30分ぶり」

 「30分ぶりじゃないわよ。家から出て行くときにはそんな格好していなかったでしょ? どこでそんな格好してきたの?」

 美子が顔を頬を膨らませて怒っている。どうも美子はレインが嫌いな様である。
 元々、美子はレインのファンであったが、その正体が僕だと知ってファンをやめてしまった。逆に僕がレインになると、もの凄く機嫌が悪くなる。

 なお、僕は買い物があるって言って美子より一足先に家を出たのだが、実はこの近くに事務所の所有する衣装部屋マンションがあり、そこでいつものスタイルに着替えてきたわけだ。
 そしてタイミングのを見計らって眞智子が割って入る。

 「何しているのよ? 周りの人、レインが来ているって勘違いしているわよ!」

 眞智子は少しご機嫌斜め気味の表情で周りを見回す。
 確かに周りに人が集まって来て騒いでいる。でも眞智子の機転で周りの人も『なんだレインじゃないんだ』と納得して三々五々とした。

 「早く着替えてきなさい!」

 眞智子は僕の背中を押し、僕が元来た方面へと追いやる。しょうがないので僕は再びマンションに戻り、普段着に着替えた後にペデストリアンデッキで合流することとした。

 「おそい!」

 佐那美が腕組みしながら僕の事を待っていた。その脇でマサやんとその彼女の琴美がスマホ片手にじゃれ合っている。彼らは僕がマンションに行っている間に到着したようだ。一方で先ほどまで揃っていた眞智子と美子がどこかに出かけてしまっている様で、佐那美の助手として連れてくるハズだった彼女の弟、元家もまだ到着していない。

 「悪い遅くなった。あれ、眞智子さんと美子さんは? それに元家君はまだ?」

 「元家はまだ来ていないわよ、まったくあの子ときたら――それにあのヤンデレ2人組は駅向かいのお店で陽気に買い物よ。まったくっ、もう!」

 そんな事を佐那美と話していると間もなく、美子と眞智子が楽しそうに会話しながら戻ってきた。今の2人の様子から、『ヤンデレ女』という五文字を全く感じさせられない……こういう時には仲がいい2人だ。 

 「ごめん礼君待った? 服選ぶのに時間掛かっちゃって」

 「お兄ちゃん悪いねぇ~。結構気に入った服があったんでね」

 彼女らは僕に対してはしっかり謝罪するものの……、うちのプロデューサーである佐那美には全く謝罪することはなかった。
 先ほどから待たされてイライラしている佐那美のコメカミに青筋が浮き上がる。

 「いい加減にしてよねっ。あなたたちを待っていたのはあたしだけじゃなくて、池田も琴美も待っていたんだからねっ」

 佐那美は『池田らにも謝れ、そして私にも謝れ』とマサやんらを指し示しながら彼女らに文句を垂れるが、その肝心の、マサやんらは2人でイチャつきながらスマホで遊んでおり、全く気にしている様子はない。
 その様子を見て佐那美がブチ切れて――

 「ちょっとあんたらいつまでイチャついているの! さっさと撮影始めるわよ」

――とマサやんのお尻を蹴っ飛ばした。


◇◇◇◇


 「――で、どういうシーンをこれからとるの?」


 僕が佐那美に尋ねると、佐那美はニヤニヤしながら「そうね。まず眞智子、この木刀持って」と彼女はそういってどこから取り出した木刀を差し出す。

 「えっ、私? これ持ってどうするの?」

 「それで、眞智子の対面に神守君と美子が立ってくれる?」

 僕と美子はわからない状況で立たされる。
 ――こんなシーン台本になかったぞ。

 「その次、美子はうれしそうに神守君の腕にしがみつき、神守君は優しく美子を見つめている」

 「まぁ、お兄ちゃんと私のいつもの光景かしらね」

 「はぁ……でも、この体制って何故か5分以上続かないんだよね」

 美子と僕は佐那美の言うとおりにする。

 ――ブチ。

 何かがキレる音が2方向からした。 
 音がした一方を確認するとあのケロロ目の眞智子がそこに立っていた。


 「おもしろくない――」


 もう一方の方向には佐那美も同じ様な目でジッとこちらを睨んでおり、眞智子に対して「――おもしろくないでしょ? 全く、自分で指示していたも頭にきちゃう」と苛立ちながら彼女を煽った。
 眞智子が機嫌悪そうに「それでどうするの……私に何をさせたいわけ?」と淡々と彼女に詰め寄る。


 「だったら、これで美子を殴ってくれる?」


 ――っておい! 佐那美の奴とんでもない事を言ってくれた。
 眞智子がケロロ目のまま「OK」とつぶやき、木刀を構える。

 「ちょ、ちょっと眞智子。そんなので殴られたら、私4んじゃうでしょうよ! 佐那美あんたもっといい方法ないの?!」

 美子があわてて眞智子の木刀の先を掴み佐那美に抗議する。
 確かにそれはアウトだ。
 僕も佐那美に一考を促そうとした時、駅の方から

 「姉さん何やっているんだよ。そんなの使っちゃだめだよ!」

と大声で止めにはいる男子がいた。彼は佐那美の弟、地端元家ちばたもといえである。
 彼は美子と同学年、つまり僕らの一つ下の男子である。
 元家は「こっちだよ、こっち」と言いながら新聞紙を丸めた棒を佐那美に差し向ける。
 彼はまだ言いたいことがあったようで

 「ちょっと姉さん、『駅の方』だけじゃ場所がわかんないよ! たまたま、すれ違った人がレインの話をしていたから、何とか場所がわかったけど――それに小物を間違って持って行かないでよ!」

と文句を言った。
 どうやら佐那美の奴、元家に場所を伝えなかったらしい。
 僕は眞智子から木刀をその新聞棒に取り替える。
 受け取った眞智子は

 「普通はそれだよね。私、本気で美子のことぶっ56すところだったわ」

といいつつも、あからさまにつまらない表情で新聞棒を軽く回し、「チッ……」舌打ちをした。

 ――ちょっと待ってよ、眞智子の奴、本当は美子を本気で殴るつもりだったのか?!


 僕の心配を余所に撮影が始まる。まずはリハーサルだ。

 
 「それじゃあ、もう一回リハーサルするわよ。皆指示した場所に戻ってくれる?」

 佐那美の合図で皆それぞれの持ち場に着く。マサやんも琴美とカメラの位置を確認しリハーサルが始まる。



 パコーーン!



 辺りの人が一斉に振り向くほど、大きな殴打音がペデストリアンデッキに響いた。
 眞智子が振りかざした新聞棒が、美子の頭頂部を直撃し、美子の頭が勢いよく前に垂れる。
 うわっぁああ……痛そう……
 美子は悶絶して頭を抑えて唸っている。
 

 「カット! 違う違う違うのよ!」


 佐那美がすぐさま入ってきた。
 美子は痛そうに頭を抱えうずくまっている。
 まだリハーサルというのに非常に気の毒である。
 その一方で――

 「えっ、何が違うの?」

 眞智子はとてもスッキリした表情で佐那美に問う。
 そりゃ、そうだろう。あくまでも演技である。
 それもリハの初っ端、豪快にひっぱたくのは無しだ。
 ……だが、佐那美が文句を言いたいのはそこではなかった。

 「違うの、言うの忘れていたけど頭上から振り落とすんじゃなくて、真横からひっぱたくの。先ほど強さでね」

 ――酷い話である。そんなことを聞かされた美子は涙目になりがらギロリと佐那美を睨み付けた。

 「側頭部? それ危なくない?! いや、いくら美子とは言え、大けがされては困るんだけど」

 眞智子がちょっと引き気味に佐那美に尋ねる。
 おいおい、眞智子さん……あんた木刀で美子を殴ろうとしていただろ?
 ……まぁそれは冗談半分だったのかもしれないが、側頭部を思いっきり殴れといわれるとさすがの眞智子もちょっとばっかり心配する。さすがに僕も撮影を止めさせようか考えてしまう。
 しかし、佐那美はそんな僕らの心配を余所に――

 「大丈夫よ美子だし。ゴキブリ並の生命力だもん。死にはしないわよ」

――という酷い根拠で言い切ってしまう
 当然、美子はブチキレた。

 「いい加減にしろ! 私もの凄く痛かったんだから! もう頭きた。あんたらもぶん殴ってやる!」

 彼女は2人に飛びかかりそうになる。
 僕は美子を止め、彼女らに――

 「あの、これって映画だよね。君たちはここぞとばかりに復讐していない? もしそういうことしている君たちは嫌いだな」

と2人に苦言を呈したところ、ここでようやく彼女らは一応反省の色を示した。
 もっとも、『美子に対してすまなかった』という謝罪――という意味ではない。
 彼女らのシュンとした状況からみると、僕に嫌われるのではないかという動揺という意味からで、『神守君の妹を叩いて御免なさい』と言った感情だろう。
 それを証拠に佐那美と眞智子は――


 「まさかぁ。でも、美子がゴキブリに見えたのは事実よ。ごめんなさい」


 「ゴメン、ムカついてるとはいえ頭強く叩き過ぎた。今度は気をつけて足腰立たないようにケツにするからな」
 

と言い、とても謝罪とは思えない言い訳で誤魔化した。

 一方、美子は「お前らぁ……あとで覚えてろよぉ――」と涙目になりながら彼女らを睨み付け、次に彼女はケロロ目になりながら僕の方を見て何か呟いている。
 
 ――ん? 何故僕?

 「それよりも『そういうことしている君たちは嫌い』って何?それって好きっていう事の裏返しじゃないの? じゃあ、こいつらに私がボコられれば、お兄ちゃんはこいつら嫌いになってくれるのかしら……でもそれって私、生きていられるのかなぁ――」

 完全に病んでる発言である。
 やっぱりこの子、怖いんですけど……



――さて、撮影の方である。



 衣服は彼女らの私服のままで、即本番となった。
 ビデオカメラはマサやんのスマホで代用、眞智子の後方から撮影。
 眞智子は美子にぶつからないようにしながら、豪快に新聞棒を斜めに振り落とし、振り落とされた瞬間に美子は崩れるように倒れる事になった。
 ……たしかに木刀でぶん殴れば間違えなく、そうなるだろう。
 そしてスマホカメラは通行人のエキストラの佐那美と琴美ちゃんを映し出し、驚愕の表情を収めた。
 そこでワンシーンが終了した。

 その後であるが、ケロロ目の眞智子が僕に抱きつくシーン。

 佐那美の説明によると――

 「神守君、眞智子の胸にちょっと顔を埋めてくれないかな」

――という非常に理解しにくいものだった。
 眞智子は顔を赤くして動揺している。僕は美子の顔色を確認しながら佐那美の話を聞くが……

 「気持ちが良くて昇天する感じで崩れて倒れて」

 ……とやっぱり、意味不明な説明だった。

 「えっ、それってなんか違和感あるけど」

 僕の問いに、佐那美は「うーん……なんて言ったらいいのかしら」と呟きながら考え込み、次第に苛つきだす。

 「要は昇天するっていっても、スケベったらしい顔しなくていいからっ! そうね眞智子の胸でミスターモミーがうれしさ余ってショック死って感じでいいわよっ! まったくもう」

 彼女はその状況を想像しながら、声を荒げた。

 「何よそれ?意味分からないわ」

 眞智子が両胸を押さえながら佐那美に確認する。

 「あんたらは黙って監督の指示に従う! それに相手が神守君だったらあんたは文句ないでしょ。畜生、ホントはあたしがそれをやりたかったのにぃ」

 彼女は悔しそうに、眞智子に八つ当たりするが、

 「おまえの胸じゃ、礼君顔面強打して怪我しちゃうじゃん」

とからかった。
 でも、今回は佐那美の指示で動いている。あまり挑発すると色々面倒だ。

 「うるさい! そんなに文句あるなら私がその役、変わるわよ!」

 「う、うっ――」

 眞智子は顔を真っ赤にしながら唸りながら俺をチラチラ見ている。
 むしろ恥ずかしそうにモジモジしている。
 僕個人的に佐那美のシナリオで問題はないが、それよりも下で倒され歯ぎしりしている美子の方が気になる。
 彼女からドンヨリした怨念に近い何かを感じたからだ。
 僕が美子を気にしていると、佐那美と眞智子の話がさらに進んでいた。

 「眞智子さぁ、神守君が倒れるときは息を合わせて一緒に同じ方向に倒れて欲しいのよ。そんな感じでお願い」

 そう佐那美が指示すると「あぁ、もう!」とヒスを起こしながら眞智子を僕の方に押しつけた。

 「ちょっと、わかったわよ。いいわよ、やります!」

 眞智子も覚悟を決めたようだ。
 一方、僕の方も下で倒れている美子の冷たい視線が非常に痛かったが、このままでは埒があかないので、言われるがままやることにした。

 「ところで、なんで私まで倒れの? 礼君が倒れて動揺して受け止めようとするか、大声出してパニックになるのが普通だとおもうけど」

 眞智子が倒れる理由について佐那美に再度確認するが、「あんたも心臓麻痺を起こしたのよ!」と無茶苦茶な説明をして「さっさと始める!」と話を打ち切った。
 眞智子は「これ以上聞くだけ無駄か」と呟き渋々佐那美の指示に従う事となった。


 スタートの合図で僕は眞智子にぎゅっと抱きしめられ、心臓麻痺という設定で倒れると眞智子も僕に合わせて一緒に倒れ込んだ。
 そしてエキストラである佐那美と琴美が腰が抜けてその場でしゃがみ込み悲鳴を上げこのシーンは終了となる。

 ――でも、眞智子の大きくて柔らかかったなぁ。
 そう思っていたら、美子がぎゅっと僕の足の甲を踏みつけた。

 「いつまでスケベったらしい笑みを浮かべているの。このミスターモミーが!」

 美子はそっぽを向いて頬をぷっくり膨らませていた。
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