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入学編
第二十六話 王宮訪問
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―――数日後、ヨハン達は校長室に呼ばれていた。
連絡が来るまではこれまでと変わらず学校の授業が行われており、一般の生徒には今回の騒動は闘技場に施されていた魔法陣に誤りがあって、一部の魔法が増幅されるようなミスがあったと伝えられている。
実際、戦場ではトラップ魔法陣が敷かれ、効果範囲内では特定の魔法を増幅させることが可能であり、逆に減少させることも可能なのである。
しかし、陣を敷くためには高度な知識と複雑な紋様に膨大な時間が必要になるのでおいそれとできるものではないのだが、知識のない学生達にはそんなことは全く知らない。それゆえに今回の件について学生は、そんなこともあるのか、と程度に認識していた。
「連絡、遅かったですね」
ヨハンが校長室の机に座っている校長に尋ねる。
校長は目の前の書類に素早く目を通し、必要に応じて判を付いていた。
「あぁ、簡単な問題ではなく今回の件で方々に送る書類が多くてな。それに闘技場の修繕に関することも多くての」
「なんだかすいません」
「なんのなんの、おぬしのせいではない。立場が上がると色々と責任を負うことも生まれてくるもんじゃ。そんなことより、仕事をしながらの話で申し訳ないが、今度儂と一緒に王宮に行ってもらう事になった」
「王宮……ですか?」
「王宮!?」
「王宮に行けるの!?やたっ!」
レインが突拍子の無い話に呆然としているのだが、モニカは王宮に行ける事に握りこぶしを握って喜んでいた。
「(やはりそうなりますわよね)」
そんな中、エレナが仕方ないとばかりに諦めている。
「えっと、それで、どうしてまた王宮へ?何をしに行くのでしょうか?」
「それは向こうに着いてからの話になるの」
「……そうですか、わかりました」
それ以上は教えてもらえなかった。
突然王宮に赴くことに決まった四人はそれぞれ様々な感情を抱きながら数日が過ぎる。
「いよいよ明日は王宮かぁ、どんなところなんだろう?」
ヨハンとレインは寮内の自室のベッドに寝転びながら話している。
「そらぁ凄いだろうぜ、なんたってこの国の王族がそこに住んでいるんだからな」
「そうだよね、あの街の真ん中にあるおっきいお城なんだよね」
ヨハンが街に広がる景色を思い出しながら想像する。
「とりあえず明日になればわかるさ。もう寝ようぜ。(こいつのこういう図太さは素直に羨ましいぜ。普通王宮に行くってなれば緊張でそれどころじゃないだろ)」
うきうきしているヨハンを横目にレインは溜息交じりに眠りについた。
――――翌日、ヨハンとレインは先に寮の門でモニカとエレナを待つ。
遠くからモニカが一人で歩いて来るのが見えた。
「あれ?エレナは?」
合流したところでエレナの姿がないことを不思議そうに思う。
「それがね、昨日の夜に用があるって部屋を出て行ったきり帰って来てないみたいなの。私には先に寝ててって言うから私は寝てしまっていたのだけれど、朝になっても姿がないから寮母さんに聞いたら、いいから、ってだけで心配はいらないからって。寮母さんも、どこかに行くなら今日エレナはいないって言うの。どうしたんだろう?今日は王宮に行くって前から決まっていたのに」
そうモニカがエレナを心配そうに話す。
「そうだね、まだ時間あるし探しに行ってみる?」
「ま、まぁ寮母さんがそう言ってるなら大丈夫だろ!とにかく行こうぜ!」
レインがどこか慌てた様子を見せながら背中を押した。
「レインは冷たいわね。そんなだからモテないのよ」
「なんだよそれ!それとモテるモテないは関係ないだろ!?(っていうか、しょうがねぇじゃないか)」
「はぁ、わかったわ。まだ心配だけれど、いきましょう」
どこか理不尽な感情をレインが抱く。
「まぁまぁ。ちょっと心配だけどじゃあ行こうか」
そうしてエレナがいないまま王都の中央区にある門のところへ向かう。
門には衛兵が立っていた。
「こらこら君たち、ここから先は貴族と王族の住まいになっている。許可証の無い者は入れないぞ。許可証はあるのか?」
「許可証?レイン持ってる?」
「いや、持ってないな」
どうしよう、どうやって中央区に入ったらいいかわからない。
「許可証ならここにあるぞ」
後ろから聞きなれた声が聞こえた。
振り向くとガルドフ校長がぴらぴらと許可証らしきものを手に持って歩いて来る。
「すまぬすまぬ、おぬしらの許可証を発行するのを忘れておってな。中央区に入るための許可証はギルドカードに付随できるのだが、今回はこれで済ませておいてくれ」
「ガルドフ殿のお知り合いでしたか。確認のため許可証をお願いします」
ガルドフは自身のギルドカードとおぼしきものとヨハン達の許可証を衛兵に渡す。受け取った衛兵はカードと許可証を近くにあった魔道具にかざし、魔道具は青白く光りを放っていた。
「ありがとうございます。確認が取れました。ではどうぞお通り下さい。君たちにはこれを。えー君がヨハンくんで君がレインくん、君がモニカちゃんでいいかな?」
衛兵がそれぞれに受け取ったカードと許可証を渡す。
「では入ろうか」
ガルドフに案内され門をくぐり、中央区内に入っていった。
「校長、ここに入るための許可証を衛兵の人が魔道具っぽいのにかざしていたのは?」
「あれか、あれは魔道具で合っておる。今回の件、魔族が学生に化けておったじゃろ?魔法の中には外見を操作するように変身ができるものもあるのでな。特別な魔道具でもそういったことは可能なのじゃが、まぁそういう者を事前に魔道具で立ち入る者の確認をしておるということじゃな」
なるほど、王家や貴族が住んでいるので警備も強化しているということだろう。
中央区に入ると街並みはこれまでヨハンが見てきたものとはがらりと変わり、建ち並ぶ建物はどう見ても立派な建物になっている。
奥に行けば行くほどにそれらの建物はより大きく豪華になっていった。すれ違う人達は馬車に乗り行き交う人もいれば、立ち話している人もおり、その誰もが綺麗な服を着こなしている。気品さが滲み出ていた。
ガルドフを先頭にさらに歩を進めていくと、遠くに見えていた大きな建物が徐々に近付いてくる。
「はぁー」
「すっごぉい」
王宮を目の前にしてヨハンとモニカは初めて王都に来たときと同様の反応を示していた。
「ここが王宮じゃ」
王宮の入口にはまた衛兵が立っており、中央区に入る時に居た門兵よりも屈強な立居振舞の衛兵だった。
「あの人達、かなり強いよね。どれぐらいなのかしら?」
「おいおい、問題起こすのだけはやめてくれよ」
モニカが衛兵の威圧感を肌に感じて、少しうずうずしているようにも見える。
余計なトラブルは御免だとばかりにレインがモニカに釘を差した。
「わかっているわよ、ちゃんと機会は見計らうわよ」
「(おいおい機会があればどうすんだよ!?)」
レインは呆れてものも言えなかった。
「なにしてるの?早くいこうよ」
何故呼び出されているのか疑問に思いながら、ガルドフと共に訪れた王宮へ向かう。
連絡が来るまではこれまでと変わらず学校の授業が行われており、一般の生徒には今回の騒動は闘技場に施されていた魔法陣に誤りがあって、一部の魔法が増幅されるようなミスがあったと伝えられている。
実際、戦場ではトラップ魔法陣が敷かれ、効果範囲内では特定の魔法を増幅させることが可能であり、逆に減少させることも可能なのである。
しかし、陣を敷くためには高度な知識と複雑な紋様に膨大な時間が必要になるのでおいそれとできるものではないのだが、知識のない学生達にはそんなことは全く知らない。それゆえに今回の件について学生は、そんなこともあるのか、と程度に認識していた。
「連絡、遅かったですね」
ヨハンが校長室の机に座っている校長に尋ねる。
校長は目の前の書類に素早く目を通し、必要に応じて判を付いていた。
「あぁ、簡単な問題ではなく今回の件で方々に送る書類が多くてな。それに闘技場の修繕に関することも多くての」
「なんだかすいません」
「なんのなんの、おぬしのせいではない。立場が上がると色々と責任を負うことも生まれてくるもんじゃ。そんなことより、仕事をしながらの話で申し訳ないが、今度儂と一緒に王宮に行ってもらう事になった」
「王宮……ですか?」
「王宮!?」
「王宮に行けるの!?やたっ!」
レインが突拍子の無い話に呆然としているのだが、モニカは王宮に行ける事に握りこぶしを握って喜んでいた。
「(やはりそうなりますわよね)」
そんな中、エレナが仕方ないとばかりに諦めている。
「えっと、それで、どうしてまた王宮へ?何をしに行くのでしょうか?」
「それは向こうに着いてからの話になるの」
「……そうですか、わかりました」
それ以上は教えてもらえなかった。
突然王宮に赴くことに決まった四人はそれぞれ様々な感情を抱きながら数日が過ぎる。
「いよいよ明日は王宮かぁ、どんなところなんだろう?」
ヨハンとレインは寮内の自室のベッドに寝転びながら話している。
「そらぁ凄いだろうぜ、なんたってこの国の王族がそこに住んでいるんだからな」
「そうだよね、あの街の真ん中にあるおっきいお城なんだよね」
ヨハンが街に広がる景色を思い出しながら想像する。
「とりあえず明日になればわかるさ。もう寝ようぜ。(こいつのこういう図太さは素直に羨ましいぜ。普通王宮に行くってなれば緊張でそれどころじゃないだろ)」
うきうきしているヨハンを横目にレインは溜息交じりに眠りについた。
――――翌日、ヨハンとレインは先に寮の門でモニカとエレナを待つ。
遠くからモニカが一人で歩いて来るのが見えた。
「あれ?エレナは?」
合流したところでエレナの姿がないことを不思議そうに思う。
「それがね、昨日の夜に用があるって部屋を出て行ったきり帰って来てないみたいなの。私には先に寝ててって言うから私は寝てしまっていたのだけれど、朝になっても姿がないから寮母さんに聞いたら、いいから、ってだけで心配はいらないからって。寮母さんも、どこかに行くなら今日エレナはいないって言うの。どうしたんだろう?今日は王宮に行くって前から決まっていたのに」
そうモニカがエレナを心配そうに話す。
「そうだね、まだ時間あるし探しに行ってみる?」
「ま、まぁ寮母さんがそう言ってるなら大丈夫だろ!とにかく行こうぜ!」
レインがどこか慌てた様子を見せながら背中を押した。
「レインは冷たいわね。そんなだからモテないのよ」
「なんだよそれ!それとモテるモテないは関係ないだろ!?(っていうか、しょうがねぇじゃないか)」
「はぁ、わかったわ。まだ心配だけれど、いきましょう」
どこか理不尽な感情をレインが抱く。
「まぁまぁ。ちょっと心配だけどじゃあ行こうか」
そうしてエレナがいないまま王都の中央区にある門のところへ向かう。
門には衛兵が立っていた。
「こらこら君たち、ここから先は貴族と王族の住まいになっている。許可証の無い者は入れないぞ。許可証はあるのか?」
「許可証?レイン持ってる?」
「いや、持ってないな」
どうしよう、どうやって中央区に入ったらいいかわからない。
「許可証ならここにあるぞ」
後ろから聞きなれた声が聞こえた。
振り向くとガルドフ校長がぴらぴらと許可証らしきものを手に持って歩いて来る。
「すまぬすまぬ、おぬしらの許可証を発行するのを忘れておってな。中央区に入るための許可証はギルドカードに付随できるのだが、今回はこれで済ませておいてくれ」
「ガルドフ殿のお知り合いでしたか。確認のため許可証をお願いします」
ガルドフは自身のギルドカードとおぼしきものとヨハン達の許可証を衛兵に渡す。受け取った衛兵はカードと許可証を近くにあった魔道具にかざし、魔道具は青白く光りを放っていた。
「ありがとうございます。確認が取れました。ではどうぞお通り下さい。君たちにはこれを。えー君がヨハンくんで君がレインくん、君がモニカちゃんでいいかな?」
衛兵がそれぞれに受け取ったカードと許可証を渡す。
「では入ろうか」
ガルドフに案内され門をくぐり、中央区内に入っていった。
「校長、ここに入るための許可証を衛兵の人が魔道具っぽいのにかざしていたのは?」
「あれか、あれは魔道具で合っておる。今回の件、魔族が学生に化けておったじゃろ?魔法の中には外見を操作するように変身ができるものもあるのでな。特別な魔道具でもそういったことは可能なのじゃが、まぁそういう者を事前に魔道具で立ち入る者の確認をしておるということじゃな」
なるほど、王家や貴族が住んでいるので警備も強化しているということだろう。
中央区に入ると街並みはこれまでヨハンが見てきたものとはがらりと変わり、建ち並ぶ建物はどう見ても立派な建物になっている。
奥に行けば行くほどにそれらの建物はより大きく豪華になっていった。すれ違う人達は馬車に乗り行き交う人もいれば、立ち話している人もおり、その誰もが綺麗な服を着こなしている。気品さが滲み出ていた。
ガルドフを先頭にさらに歩を進めていくと、遠くに見えていた大きな建物が徐々に近付いてくる。
「はぁー」
「すっごぉい」
王宮を目の前にしてヨハンとモニカは初めて王都に来たときと同様の反応を示していた。
「ここが王宮じゃ」
王宮の入口にはまた衛兵が立っており、中央区に入る時に居た門兵よりも屈強な立居振舞の衛兵だった。
「あの人達、かなり強いよね。どれぐらいなのかしら?」
「おいおい、問題起こすのだけはやめてくれよ」
モニカが衛兵の威圧感を肌に感じて、少しうずうずしているようにも見える。
余計なトラブルは御免だとばかりにレインがモニカに釘を差した。
「わかっているわよ、ちゃんと機会は見計らうわよ」
「(おいおい機会があればどうすんだよ!?)」
レインは呆れてものも言えなかった。
「なにしてるの?早くいこうよ」
何故呼び出されているのか疑問に思いながら、ガルドフと共に訪れた王宮へ向かう。
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