S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帰郷編

第九十二話 遠征先は……

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「二学年になったら実際に冒険者としての活動に入っていくんだよね?」
「っていっても私達にはあんまり関係のない話だけどね」
「確かに今更って感じだよなぁ」
「あら?そんなことありませんわ。ベテランの方からは学べることは多くありますわよ?」

冒険者学校はこれまでと変わらず普段の課程を行っていた。

二学年になると、一学年の応用、魔法や武器の扱い方などの実戦的な扱い方はもちろんのこと、実際にギルドに出入りして依頼を受けて取り組んでいくというもの。

そのほとんどは最下位のランクであるEランクからスタートし、成績上位者でもⅮランクからになる。
ああでもない、こうでもないと四苦八苦している姿がそこかしこに見られ、ギルド内は学生達で大いに賑わっていた。

当然在学中のヨハン達も例に漏れずDランクとして登録されている。

そんな中、話しているのは今度行われるという遠征についてなのだが、同じようにして学校に通いだしたニーナといえば、いくらか友達ができた様子で楽しそうに通っていた。

「あっ、お兄ちゃん見っけ!」
「ちょ、ちょっとニーナ――――」

対応に困惑するのは学校で会う度に腕に抱き着かれる。

「えっ?ニーナちゃんのお兄ちゃんなの?」
「うん、カッコいいでしょ!」
「でも全然似てないね」

といった具合。

「ちょっとニーナ?抱き着くのは控えようって言ったよね?」
「えー?でも学校だとあんまり会えないんだからいいじゃない」

「はぁ。まったくしょうがないなニーナは」

「(おい!それぐらいにしといてくれないと俺にとばっちりがくるんだよ!)」

仕方ないと容認するヨハンをレインは呆れながら見ていたのだが、違うことにも思考を回してしまう。

事実レインの目から見る下級生に囲まれるヨハンを遠目に笑顔で見るモニカとエレナが怖くて仕方なかった。

そんな一幕もありながらヨハン達二学年は冒険者実習期間に入っていく。


二学年最初の野外実習はB級以上のベテラン冒険者パーティーの下で一緒に行動して実践的なことを学び、その力を身に着けていくというものだった。

その期間が二週間に設定されているのは遠征のため。

ヨハン達は既に実戦的な遠征はエルフの里を訪れる際に経験しているのだが、シェバンニからの一言で気を引き締められる。

「あなたたち、もちろん慢心していないでしょうね?」

「あ、当り前じゃないっすか!先生もなに言ってんすかー」

レインが軽口を叩いて誤魔化そうとするのだが、眼鏡の向こう側から鋭い目で睨みつけられるのは特にレイン。

先輩の指示に従うこと、勝手な行動は慎むこと、命の危険に瀕した際にはその限りではないこと、などといったいくらか遠征に関する注意事項を受けたあとにそれぞれあてがわれた教室で先輩冒険者と顔合わせをすることになる。

「先輩冒険者ってどんな人達なんだろうね」
「俺は偉そうに踏ん反り返ってなかったら別に誰でもいいけどな」
「あっ、来ましたわ」

教室でその先輩が入ってくるのを待っていると、ガララとドアが開かれて入って来たのは三人の男。

先頭を歩いているのはガタイの良い軽装を身に付けた中年の男で、後ろを細身の男と恰幅の良い男がいるのだが、歳の程は中年の男と同じぐらいに見える。

「おっ、君たちだな。俺たちはB級冒険者パーティーの『ビスケッツ』だ。俺はリーダーのヤンセン。こっちはトマス、でこっちがヤコブ。よろしくな」

ヨハン達を見るなり笑顔で挨拶をして仲間の紹介をした。
そこから感じる印象は悪くない。

「はい、よろしくお願いします」

「えっと、ビスケッツさんは三人でパーティーを組まれているのですか?」

「ん?ああ……いや、四人だ。遅れていて後から一人来る」

モニカの質問に対してヤンセンが難しい顔をしたのでどうしたのかと思う。

「あの?」
「ん?」

「いえ、その人がどうかしたのですか?」

「あー……そうだな。先に言っとく方がいいか」

何を言われるのかと不安気にしていると思われたのか、ヤンセンは笑顔になり手を軽く上げて左右に振った。

「そんな大したことじゃないさ。ただ単に俺達の事情が入ってくるってだけのことだよ」

「事情……ですか?」

「ああ。その遅れて来る一人は新しい仲間なんだ。 実はな、俺たちは少し前に仲間を一人失くしていてな。それで追加で募集したやつなんだ。 だからまだ俺たちとはちょっと距離があるかもしれんってだけだ」

「そう……だったんですね。そんな大変な時に僕たちの面倒を見てもらえるなんて、なんだかすいません」

「いやいや、俺はこうして冒険者を目指す若い者を見ると嬉しいんだから気にするな。言っただろ?あくまでも俺たちの事情なんだって。――おっ!来たか」

ヤンセンが話をしているとドアが開かれ、入って来たのは黒いローブを着た若い女性。

「すいません、遅れました」
「いや、問題ない。まだ顔を合わせたばかりだ。 じゃあ紹介する。こいつが新しい仲間のマーリンだ」

ヤンセンの隣に立つ女性の声は小さく、どうにも暗い印象を受けた。隣に立つヤンセンが明るい性格をしているためか、殊更その印象が強く残る。

「えっと、僕たちはビスケットさんに実習でお世話になりますキズナというパーティーです。僕がヨハンといいます」

「レインです」
「エレナといいますわ」
「モニカです」

「マーリンだ。よろしく」

「なんだか暗い人ね」
「しっ、聞こえますわよ!」

モニカ達もヨハンと変わらずマーリンに暗い印象を持っていた。

「まぁこれでお互いの自己紹介は終わったな。それでだが、早速今回お前たちが俺達に同行する依頼の説明をするぞ。 依頼内容は物資輸送の護衛になり、目的地はレナトの街だ」

ヤンセンの話を聞いた途端に、モニカはガタンと音を鳴らせて立ち上がる。

「えっ!?レナト?ほんとに?」

「どうした?レナトが何かあるのか?」

突然声を発したモニカに視線が集まった。

「レナトって、確かモニカの故郷の名前だよね?」
「うん、そうよ。急にレナトの名前が出たからびっくりしたわ」

「ん?そうか、それは偶然だな。だが例え故郷であってもこれは依頼だからな。向こうに着いたら多少時間は作れると思うからそれまでは我慢しろよ」

隣に座るヨハンの声に頷くモニカを見てヤンセンもモニカの反応に納得をする。

「ええ。大丈夫よ、それぐらいは弁えています」

「そうか、それは頼もしいな」

座りながら答えるモニカなのだが、その表情は笑顔でウキウキとしており、小さく「やった!」と呟いていたことから明らかに浮ついている様子が容易に見て取れた。

思いがけない形でモニカは帰郷することになる。

「(へぇ、モニカの故郷かぁ。どんなところなんだろう?)」

ヨハンもモニカの故郷を見に行けることにいくらかの興味を抱いていた。

それからヤンセンによって護衛に当たる内容の詳細を伝達される。
任務の内容の基本は魔物や野盗の襲撃に対して商人や荷を護るということ。つまり、物理的な防衛手段のことであった。

他にも窃盗に関することや緊急時の話などをされているのだが、モニカは全く頭に入っていない。

そうして寮に帰るなりその話を聞いたニーナが「あたしも一緒に行きます!」と最後までごねていたのだが、それは叶わなかった。

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