S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都訪問編

第百九十三話 閑話 帝位継承者達(後編)

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「これはこれは。兄上ではありませんか。お帰りなさいませ」

金髪の髪の長い男を先頭にした集団は声の届くところで立ち止まり口を開く。

「久しぶりだな。アイゼン」
「ええ。兄上もお元気そうで」

アイゼンが小さく首肯する中、ラウルは笑いかけた。

「それにしても、たまにしかお国に戻られぬのに国のまつりごとに口を挟めるのですから、剣聖ともなればご立派ですよね」
「ああ。その分お前たちには苦労をかけていると思う。すまんな」
「そう思うならずっと帝都に居るか、もしくはずっと出ていくかのどちらかにしたらどうですかね?」

カレンにはアイゼンが返す言葉が全て皮肉にしか聞こえない。
グッと手に力が入る。

「(アイゼン兄さん、どうしてそんなこと言うのよ……)」

キッとアイゼンを見て意を決した。

「アイゼン兄様、そこまで言われなくとも―――」
「お前は黙っていなさい!女の癖に口を出すなッ!」
「っ!」

怒声を向けられ思わずカレンは口を噤んでしまう。

「なぁアイゼン。そんなに妹を悪く言うものではないぞ?」

肩を落とすカレンを横目にラウルは苦笑いした。

「はっ、妹ですか? 妹どころかルーシュとこいつは母様の子ではないではありませんか?」
「…………」

カレンはアイゼンの言葉を聞き、グッと奥歯を噛み締める。

「おいアイゼン。それ以上言えばさすがに俺も怒るぞ?」
「だ、大丈夫ですラウル兄様」

平静を装いながらラウルに笑顔を向け、再びアイゼンを見る。

「アイゼン兄様?」
「なんだ?」
「わかっています。わたしは必要以上に口出しはしませんので」
「……そうか。ならいい」

それだけ言うとアイゼンは会議室のドアを開け、部屋の中に入って行った。

「余程余裕がないみたいだな」
「いえ、アイゼン兄様の気持ちもわからないでもないです。お兄様方のお母様である前皇妃様が亡くなられ、その後に私とルーシュの母が後妻として現皇妃になったのですから。その上にルーシュの方が評価されてしまうとなると…………」

チラリとラウルを見上げると目が合うのだが、優しい笑みで微笑まれる。

「兄様?」

兄アイゼンの現状を説明するのに苦心したのだが、笑顔を向けられた理由がわからず疑問符を浮かべた。
そのすぐ後、頭上に軽い重みを感じる。そっとラウルの手が乗せられていた。

「大丈夫。あいつはそんなバカな奴じゃないさ」

そのままアイゼン達に続いて会議室の中に入ろうと歩を進めようとする。

「あれ?ラウル兄様?」

後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこには二人、カレンよりも背は低いがカレンと同じような綺麗な銀髪の男の子がいた。後ろには黒い髪でふくよかな体型の男。

「やっぱりラウル兄様だっ!おかえりなさいませ!」

銀髪の少年が弾けるような笑顔をラウルに向けると勢いよく抱き着く。

「ただいまルーシュ。元気にしていたか?」
「はい!ラウル兄様に言われた通り、アイゼン兄様を手助けできるように日々政務について勉強しています!」

声を掛けて来たのは帝位継承権第三位であるルーシュ・エルネライだった。

「そうか。ルーシュは偉いな」
「えへへっ」

ラウルに頭を撫でられると、ルーシュは顔を綻ばせる。

「そのまましっかりと兄さんを助けてやるのだぞ」
「はい!もちろんです!」

目に力を宿してはっきりと返事を返した。
しかしすぐさまルーシュはその目に迷いを見せる。

「あの?」
「ん?」
「いえ……ラウル兄様?」

言い淀んでいるルーシュの言葉を待つのだが、妙に恥ずかしそうにしていた。

「どうした?」
「また兄様のお話を聞きたいのよね。ルーシュ」
「う、うん」

ルーシュに代わりカレンが答えると、ルーシュは僅かにカレンに視線を向けたあとラウルに視線を戻して小さく頷く。

「なんだ、そんなことか。落ち着いたらいくらでも話して聞かせるさ」

ラウルが帝都に戻る度に旅先での出来事をルーシュに話して聞かせていた。
ルーシュにとって兄からのその話は御伽噺のような物語。

「ぜったい!ぜったい!約束ですよ兄様!」
「わかってる」
「でもルーシュ?」

カレンが宥める様に言葉を差し込む。

「はい」
「あんまりラウル兄様を困らせたらダメよ?」
「わかっていますよ姉様。姉様程ではないので大丈夫ですよ」
「な、何を言ってるのよあんたは!」

ニカッと笑うルーシュの言葉を受けてカレンは顔を赤くさせてラウルを見た。

「だ、だってほんとのことじゃないですか!」

誤魔化す様にしてルーシュの頬を指先で摘まむ。

「ルーシュ様。お話しも程々にして下さいませ。そろそろお時間です」

ルーシュの後ろに立っていた従者が腕時計を確認しながら声を掛けた。

「ぶぅ。わかったよ」

ルーシュは膨れっ面で不機嫌な様子を見せるのだが、タンっと背筋を伸ばす。

「――……ふぅ」

深く息を吸い込んで表情をグッと引き締めた。

「では兄様、姉様、また後で」

と笑顔で隠れたその表情ではっきりと口に出して会議室の中に入って行く。

「なるほどな。スイッチが入るとあんな感じか」

公私を使い分けるルーシュにラウルは感心した。

「さて、俺達も入るぞ。今日の会議は今後のことを左右する動きを決めるからカレンも遠慮なく発言しても構わないからな」
「はい」

マーガス皇帝が病に臥している今、アイゼンが皇帝代理として先頭に立っていた。
いつもラウルが帝都に変える度に開かれる会議は現状の報告と情報収集程度に限られていたのだが、こうなると話が変わる。

「(とりあえず落ち着かせないといけないか)」

当面の問題は既にいくつか聞き終えていた。

皇帝が病に倒れたこと。それに伴う帝位継承権について。原因不明の帝国内での村の壊滅。北で見られる不穏な動き。他にもこれから会議で得られる情報によっては動き方や手の入れ方が変わる。

加えてヨハンとニーナの件。

「(これは思っていた以上に長居することになりそうだな)」

小さく溜め息を吐きながらラウルとカレンも会議室の中へ足を進めた。

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