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禊の対価
第二百五十三話 有益な情報
しおりを挟む「へぇ。思っていた以上に立派なもんだな。こりゃ相当だぞ?」
「ほんとすね親分」
サリーによって案内された果樹園は以前と同じように果実が実っている。
ロブレンは感嘆しながら見ていた。
「これだけの土地の維持は大変でしょう?」
ラウルがサリーに問いかける。
「ええそうですね」
「この土地はその亡くなられたお父様が?」
「はい。もう随分と前だけど、広くともこうして生活できるだけを遺してくれたからありがたいです」
「いつからここを農場にしているのですか?」
「さぁ? 私も生まれた時からここがあったので、いつからと言われても。父の書斎にいけば当時の資料ぐらいはあると思いますけど?」
「そうですか。となると随分前のようですな」
サリーの案内により一通り見て回った。
ニーナは果物を食べ歩きできたことで満足そうにしている。
「ねえサリーさん。また来てもいいですか?」
「もちろんよ。ニーナちゃん可愛いしほんと美味しそうに食べてくれるからいつでも歓迎よ」
「やたっ!」
嬉しそうにニーナとサリーは笑顔で話していた。
◇ ◆ ◇
「どうでしたか?」
サリーに手を振られながら見送られ、帰り道ラウルに問いかけた。
「そうだな。特に変わったところは見られなかったな」
案内された場所はだだっ広いとはいえ普通の果樹園。
「もしかしたら気にしすぎだったかもしれないな」
「そうですか」
「ねぇ旦那」
「ん?」
そこでロブレンが口を開く。
「あの畑の茶葉、ほんとに帝都に持って行ったらダメっすか?」
「別に構わないが、どちらにしろあの女主人の言ってたように領主の承認がなければ持って行けないぞ?」
領地の特産品に指定されている物はその土地の管理者の承認を必要としていた。
商業ギルドの方には申請さえしておけばあとは当事者同士の話し合い。サリーの話によれば、茶葉の品質がより高い物は領主官邸に献上しているのだと。
「ただ俺は口利きしてやれんがな」
しかし、領主に面会するとなるとそれなりにあれこれ手順が必要になる。
商人として身を隠してここに来ているラウルがそれを叶えてやることはできない。
「なら妹さんに頼めばいいじゃないっすか」
「どうしてわたしが見ず知らずのあなたの世話を焼かないといけないのよ!」
一連のやりとりを聞いていたカレンは取り付く島もない。
「な、なら坊ちゃんはどうだ!?」
「僕にそんな権限ないですよ」
「ぐっ! せっかく売り物になるようなもの見つけたってのに!」
「まぁそういうなカレン。確かにロブレンの言う通り、あれだけの物が帝都に流通すればそれなりに経済も動く。これによって帝都が発展すればメイデント領との関係がより密になる。だからやってみてはどうだ?」
思わぬラウルの提案にカレンは目を丸くさせる。
「それは兄様、どういう――」
「もしこれが上手くようならば、それは話をつけたカレン、恐らくお前ではなくルーシュの手柄になるだろう」
ヨハンにはその言葉がどういうことなのか理解できない中、カレンはハッとなり顎に手を送ると思案気に口を開いた。
「……これが、アイゼン兄様を焚きつけるきっかけになるかも、と考えるかもしれないということですね?」
「ああ。その通りだ」
カレンの言葉にラウルは首肯する。
メイデント領のみで流通している良質な茶葉を首都である帝都に流通させれば経済効果が上がる。今回の視察の一段階上の手柄をルーシュが果たせば城内の評価は一層に上がり、より皇帝に相応しいのはルーシュの方だといった声も聞こえるはずだと。
「そんなことをしてもいいんですか?」
現状次男アイゼンに暗殺未遂の嫌疑が向けられている中、果たしてそれがどう転がるのかヨハンも不安になる。
「まぁそこはカレンが上手く運んでくれるさ」
「そうなんですか?」
カレンの方に顔を向けると、カレンはほんの少し瞼を閉じており、目を開けるとその眼差しには力強さを感じさせた。
「……わかりました。お任せください」
「やりぃ!」
話が進展したことにロブレンは思惑を理解できずにただただ笑顔でパチンと指を鳴らす中、カレンはグッと胸に手を当て心臓の鼓動を感じ取っている。
「(…………これが、この結果次第で、わたしの働きかけ次第でもしかしたらアイゼン兄様とルーシュが敵対関係になるかもしれないのよね)」
ラウルが手助けしにくい現状、自身の立ち回りの重要度を再確認していた。
◇ ◆ ◇
翌日、ロブレンを連れて領主官邸にあるレグルスの執務室を訪れている。
ラウルは顔が割れる可能性を危惧して宿に待機していた。
「それで? 耳寄りなお話とは?」
椅子に座りながらカレンの訪室を疑問に思うレグルスなのだが、それよりも疑問が向けられているのはロブレンに対して。
「失礼ですが、そちらの方がそれほど有能な方には見えないのですが?」
「そ、そんなことないっすよ!」
表情を強張らせているロブレンはあからさまに緊張をしている。
「護衛の方も相変わらずのようで」
レグルスはカレンの両隣に立つヨハンとニーナを見て小さく笑った。
「気安く話せる間柄なのでこっちの方が落ち着くわ」
「そうですか。歳の近い護衛を付けて頂けたことが功を奏したようでなによりです。では、早速その有益な情報というのを是非お教え願いますかな」
両肘を立ててきつく見られる眼差しにロブレンは頬をヒクヒクとさせる。
その様子を見てカレンは小さくため息を吐いた。
「申し訳ありません侯爵。彼は侯爵の前ということもあって些か緊張しているようですので、わたしが代わりに」
真っすぐに決意を宿してカレンはレグルスを見る。
「ええ。かまいませんよ。ではどうぞ」
「実は、周辺の視察を行った際に近くの農園の主人と知り合ったのです」
カレンの言葉を聞いてレグルスはピクリと眉を動かした。
「……農園、ですか?」
「ええ。どうもこの辺りに出回っている茶葉は良質な茶葉を使っているそうで」
「まぁ、確かにその通りですが、それがどうかしましたか?」
「もしよければ、ここの彼にその茶葉を帝都に流通させる許可をもらえればと思いまして」
「それだけ、ですかな?」
レグルスは眉を寄せながら確認する。
「ええ。これだけの質です。ここ特有の土地でしかそれができないのならば帝都近郊での栽培は難しい。そうなれば帝都に運べば一躍人気となるでしょう。となるとメイデント領はより発展が見込めるかと」
カレンは予定通りレグルスに利点を挙げた。
「それは確かにその通りですな」
「それとも、何か不都合でも?」
同意されながらもどこか二の足を踏む様子を疑問に思う。
「……いえ、なんでもありません。しかしながらせっかくの良いお話ではあるようですがお断りしようかと」
レグルスはほんのりと笑みを浮かべてその提案を断った。
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