S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
258 / 724
禊の対価

第二百五十七話 仕掛け

しおりを挟む

「それで? なんの話をしていたっけ?」

ヨハンとカレンは中央の小さな机に腰掛けながら様子を見る。しかし、紅茶を並べながら問いかけるサリーには一向に変わった素振りが一切見られない。
そこから得られる可能性を考慮すると、本当にサリーは何も知らないのだが、それでもここにはなんらかの事情が隠されているという可能性。

「(でもどうしてニーナが?)」

もしニーナがいるのであるならばニーナの状態が気がかりでならない。ニーナの強さであればよっぽどのことでも起きない限り危険に侵されることはないはず。だが、もしそのよっぽどの事情が起きているのであれば今ニーナがどういう状態なのか心配になる。

「あ、あの!」

焦り逸る気持ちを抱いたまま口を開いたのだが、隣に座るカレンがそっとヨハンの手の上に自身の手を重ね合わせた。

「カレンさん?」
「落ち着きなさい。今は冷静にならないと」

そっとカレンの顔を見ると、カレンは優しい笑みを浮かべている。

「そう、ですね」
「あの子が心配なのはわかるけど、今は落ち着いて。すぐにもう一度ティアにどういうことか確認するから」

姿を消したセレティアナにカレンが話しかけるのだと。

「それまであなたは彼女から出来るだけ多くの話を聞きだしておいて」
「……わかりました」

そこからカレンはどこか俯き加減に思案気な様子を見せ始めた。
どうやらセレティアナとの会話を始めた様子。

「あの、サリーさん?」
「なに?」

笑みを向けてくるサリー。

「その……サリーさんのお父さんとは血の繋がりはあるのですか?」
「なにその質問。もちろんあるに決まってるじゃない」

そっとカップを口元に運ぶサリーの様子は先程までと変わらず、とても嘘をついているようには見えない。

「あっ、そういえばさっき言っていたまぞくってなに?」

カップを口から離しながら、次には問いかけられた。

「魔族は……僕もよくわからないんですが、昔人間を脅かしたことのある種族のことなんです」
「へぇ」
「今は魔王が封印されていて、その力が弱体してしまったらしいのですが、魔王が復活すれば魔族も力を取り戻すのだとか。実際のところはよくわからないんですけど」
「ふぅん。そんなことがあったのね」
「はい」
「それで?」

ならばその魔族が今この場にどう関係するのかと問い掛けられる。

「そのシトラスという魔族に、僕は以前襲われたことがあるんです」
「そうなの? お父さんと同じ名前だったのね」

まるで他人事のようなその返答だった。

「それに……――」

そこでチラリとカレンを見ると、カレンは小さく頷く。ヨハンも頷かれた意図を察したので小さく頷いた。

「(これを聞いても反応がなければ、サリーさんは本当に何も知らないのかもしれない)」

サリーに隠すことなく伝えてもいいのだと無言の承諾を得る。

「――……それに、僕たちはそのシトラスという魔族が作ったと思われる魔道具を探してここまで来ました」

ここに来た本来の目的を口にした。

「そうなの? それはどんな魔道具なの?」

それでも変わる事のないサリーの態度を見て、小さく息を吐く。現状、サリーはこの件に関係していないのだと結論付ける。

「はい。その魔道具は魔素を溜め込み、その魔素を使って魔物を召喚する事ができるんです」
「そんなことができるの!?」
「……はい」
「あっ、もしかしてそれで魔石のことを調べに来たの?」

そこでサリーは納得の表情を浮かべた。
それは、初めてこの農園を訪れた時のこと、ここで取れた魔石に付着していた魔素のことを尋ねたことを差しているのだとすぐにわかる。

「そっか。ごめんなさいね。でも、そんな特殊なことをあなた達みたいな子が調べるだなんて、あなた達一体何者なの?」
「えっと……」

返答に困ってカレンを見ると、丁度そこでカレンはセレティアナとの話を終えた様子で、真っすぐにサリーを見た。

「申し訳ありませんサリーさん」
「はい?」

突然の謝罪にサリーは首を傾げる。

「身分を明かしますと、わたしはカサンド帝国第一皇女、カレン・エルネライといいます」
「えっ!?」
「ここまで身分を隠していたのは、調べ物をするに当たって変に警戒されないようにするためです」
「はぁ」

僅かに疑うような視線で見られた。

「本当に皇女様? 本物の?」
「はい。こちらがその証明になります」

そのままカレンが懐から取り出したのは小さな徽章。そこにはカサンド帝国の紋章が象られている。

「……確かに、間違いはないようね」

それが証明になるのか疑問を僅かに抱くのだが、偽者を語るような大罪を犯す必要も考えられない。そのまま徽章とカレンの顔を交互に見まわした。

「それで? その皇女様がどうしてこんなところに?」
「まずはその説明からしないといけないですね。じつは……――」

疑問符を浮かべるサリーに対して、カレンは帝国内で起きている一連の出来事、村々が焼き討ちに遭っていることを、それがその魔道具によって引き起こされている可能性を話して聞かせる。


「――……そんなひどいことが…………」

サリーは帝国の内情に疎く、ここメイデント領が辺境ということも相まって焼き討ちの件を一切知らなかった。口元に手を当てて、カレンの口から聞かされる惨状を信じられないといった様子を見せる。

「それで、わたし達が調べているその魔道具の手掛かりがここにあるかもしれません」
「そんなのここにはないわよ」

呆れながらあっさりと答えられた。

「ないならないで仕方ありません。ですがあるかもしれません」
「はあ」
「それで、もしよろしければ、この書斎を少々調べさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「いいわよ。何を調べるつもりなのか知らないけど、お好きにどうぞ」
「ありがとうございます」

頭を下げるカレンなのだが、サリーは呆れ混じりでどこか納得がいかない様子。

「でも、調べるといってもどこを調べるのよ?」
「それは……――」

カタッと立ち上がり、カレンはセレティアナが最初に指差した方角、ニーナの魔力を感じ取った方向に向かって歩いていく。
そのカレンをヨハンとサリーは疑問に思いながら見ていた。

「――……サリーさん。この部屋に、秘密の通路とかはないですか?」
「秘密の通路?」

本棚の背表紙をなぞりながら確認するように声をかけるのだが、サリーは首を傾げる。

「さぁ。お父さんが作っていたのだとすればないとは言い切れないけど、仮にあったとしても私は何も知らないわ。でもそんなもの……――」
「――……そうね。例えば、不自然にここだけ埃がついていないのとか。最近触られたのだとすれば…………」

本棚と本棚の間を確認するように見るカレンなのだが、よく見るとそこには他の本棚に比べて埃の量がいくらか少ない。

「もしここに隠し通路が存在するのだとすれば、だいたいこの辺りに……」

一冊ずつ本の背表紙の上に指を一本ずつ引っ掛けて僅かに動かしていった。
その途中、指を引っ掛けても本が動かないところがあり、カレンはそこで足を止める。

「あったわ」

一体何があったのだろうかとカレンの動きを見ていると、動かない本に指を二本掛けて少しの力を込めた。
グッと重たそうな動きを見せるその本なのだが、他の本と同じようにして傾けることができる。

すると、本棚と本棚の間からカチャっと小さな音が鳴り、本棚が僅かにズレる。

「やっぱり仕掛けがあったのね」

そこでカレンは両手で本棚を掴むと手前に引いた。
本棚全体が前に押し出て、そのまま横に動かすことができる。

動かした先、本棚のあったその場所には下に降りる階段が現れた。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...