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帝都武闘大会編
第三百四十七話 閑話 カレンの初任務(中編)
しおりを挟む向かっている先は廃都。
日常的に魔素が微量に溜まる場所であり、こうして発生するゴブリンや他の低ランクの魔物を討伐することが帝都の新人冒険者の登竜門。
その廃都の面積はかなりのもの。広大な廃都には入り口が複数ある。
「はぁ……」
その中の一つから廃都に入っているのだが、溜め息混じりに歩いているのはカレン。
「初めての依頼がゴブリン退治だなんて、どうしてそんなありきたりな依頼なのかしら」
「しょうがないじゃない。どうせ他のも碌な依頼じゃなかったって。だったら今回はこれで我慢しておいた方がいいと思うけど?」
「……それもそうね」
このゴブリンの大量発生討伐依頼はBランク以上のみの依頼とされていたのだが【S級が同行する場合は例外を是とする】というルールを適用されていた。そのためカレンにも依頼達成ポイントが加算される。
ついでにアリエルの権限を以て、これを無事に完遂した暁にはカレンのランクをすぐさま昇格させるというオマケ付き。そうしたやりとりがあり、現在に至る。
「それにしても、カレンさんって補助魔法だけじゃなく身体能力も結構高いんですね」
「だから前に言ったじゃない。基本的な護身術や剣術は習っているのだからこれぐらいなんともないわ」
「でも、思っていた以上に動けてますよ」
「そ、そぉ?」
既にゴブリンを五匹討伐していた。カレン一人で。
すぐに手を貸せるように注意していたのだが、「大丈夫よ」といって即座にナイフで切り伏せている。その動きは一般の帝国兵の動きを軽く凌駕するもの。
(精霊魔導士だけど、この辺はラウルさんに憧れていたからなんだろうね)
ある程度の素質があったとはいえ、相当な身のこなし。近接戦闘スタイルではないので超級の相手には通用しないがゴブリン程度なら一切問題を感じなかった。
「……はぁ、はぁ」
そうして立て続けに十数匹倒していくのだが、流石に数が多い。
いくら戦えるとはいっても、一人では体力的にも消耗する。
「魔法は使わないんですね」
「……ふぅ。まぁ、一応温存しとこうかと。後で必要になるかもしれないしね」
微精霊の加護を得られたとはいえ、魔力の消費もある上に不測の事態に備えなければならない。魔力はなるべく消耗を抑えることに越したことはない。
「わかりました。じゃあそろそろ僕とニーナも入りますね」
「やーっと出番かぁ」
ヨハンがスチャっと剣を抜いて構え、ニーナは赤い手甲をしている。
「ニーナ、それ」
「ああこれ? アリエルさんにもらったの」
無手での指南を受けていた時に譲り受けていた。
アリエルの現役時代の手甲。装具【煉獄】。
「んんんぅっ! さーってと、じゃあやろっか」
軽く伸びをし、笑顔を浮かべるニーナは現れたゴブリンに向かって一直線に突撃していく。一撃で頭部を爆砕させるとゴブリンはジュッと音を立て小さな角を落とすとすぐさま魔素に還るようにして霧散した。
「……すごっ」
「僕、必要ないですね」
圧倒的な実力差。これならニーナ一人で十分と言えるほど。
「――あっ!」
不意に声を発するカレン。
「キシャアア!」
目線の先には、不意討ちを仕掛ける様に建物から飛び降りてくるゴブリンがヨハンの背後から襲い掛かっていた。
「大丈夫ですよ」
スッと半回転して背後のゴブリンを即座に斬り伏せる。ドサッと地面に落ちるとシュウウと霧散していった。
「ね?」
あまりにも鮮やかな剣捌きにカレンは目を奪われる。
(や、やっぱりかっこいい)
続けて向けられる表情に顔を赤らめた。屈託のない笑顔。ニコリと笑みを向けてくるヨハン。
「ふぅ終わった終わったぁ。ってどうしたのカレンさん? ボーっとしてるけど?」
「え? あ、ううん。な、なんでもないわ! ほ、ほら次に行くわよ!」
「んー?」
慌てて歩き始めるカレンの後ろ姿を見ながらニーナは口元に指を一本送っていた。
「――……それにしても、あとどれだけいるんだろう?」
もう既に相当な数を討伐している。途中から数も数えていない程。討伐の証拠であるゴブリンの角もある程度は拾い集めているのだが持ちきれないので他は捨て置いていた。
「そうね。思っていた以上に多いわ」
「あたしもう飽きたよ」
「それにしても、これBランクの依頼じゃすまないわね」
圧倒的なまでの数の暴力。
「そうですね。もし他の人達が巻き込まれたら危ないかもしれないですしね」
新人冒険者はもちろん、ベテランであってもゴブリン程度と侮っているといけない。危険な状況に陥る。深入りし過ぎると退路を塞がれてしまいかねない程の数。
「何か理由があるのかな?」
「そうね。さすがにこれだけ多いとなると、主になる原因があるかもしれないわね」
他の冒険者が立ち入る前になんとか原因を突き止めておくべきとだと。
「ねぇ、何か聞こえない?」
「え?」
不意に耳に手を当てるニーナ。しかしヨハンとカレンには特に何も聞こえない。
「叫び……声?」
ニーナの耳に聞こえてくるのは切迫した声。鬼気迫るものがあった。
ヨハンとカレンは顔を見合わせる。それがどういうことなのかとすぐに理解して。
「行ってみよう!」
「ええ」
「こっちだよ!」
先導するニーナを先頭にしてヨハン達は走り出す。
◇ ◆ ◇
「どこ?」
「もうちょっと向こう!」
声の下に近付くにつれて、ヨハンとカレンにもそれが聞こえ始める。怒号や金属音が響くそれらの声や音。
怒号の中には悲鳴も混じっており、何度かの大きな爆発音が響いたかと思えばその爆発音は鳴りを潜めた。金属音と叫び声のみになる。
「あそこ!」
小高い丘の上から斜面の下を見ると、まだ遠いがそこには五人の冒険者がゴブリンに取り囲まれている姿が視界に奥に飛び込んで来た。
「あれ? あの人たちって…………」
「知り合い?」
「ううん。前にアッシュさん達を嵌めようとした人達だよ。確かゼンだったかな?」
「あの人たちか」
そこにいた冒険者達に見覚えがある。ゼン達のパーティー。
「早く助けないと!」
「え? 助けるのお兄ちゃん? あたし達あの人らにオーガを押し付けられたんだよ?」
「まぁそれはそれとして、放っておくことなんてできないよ」
「それもそうね」
目をパチパチとさせるニーナ。助ける必要性など一切感じない。
「――おいッ! どうなってんだ!?」
息を荒くさせ、満身創痍な様子を見せているゼン達。いくつもの切り傷を負っていた。
「どうしてゴブリンがこれだけ統率された動きをしているんだ!?」
「……ダメだ、もう魔力が尽きた」
取り囲まれているゴブリンの数は目視で優に数百はいる。絶体絶命。背後は崩れ落ちた建物の壁。逃げ場などどこにもない。
「馬鹿野郎! このままだと俺らはゴブリン相手に命を落としたって不名誉なことを言われちまうぞ!」
「で、でもよ、どうやってこの場を切り抜けるんだよ……」
打つ手はもうない。体力も底を尽きる。
「くそっ、くそぅッ! どうしてこんなことになりやがったんだ……――」
ジリジリと距離を詰めて来るゴブリンの群れに奥歯を噛み締めた。
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