S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験 二学年編

第四百四十六話 異常な光景

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「いったいどれだけ……」

魔導闘技場に生み出されているのは水棲怪獣シーサーペントだけではない。近くの水面をピチャピチャと跳ね、鋭い牙を見せているいくつもの大きな魚。人喰い魚とも呼ばれるキラーフィッシュ。討伐ランクがCであるその存在がまた厄介極まりない。水に落ちれば一斉に襲い掛かられるのは間違いなかった。

「とにかくアイツを倒すよエレナっ!」
「もちろんですわっ!」

しかし何よりも最優先に対応しなければいけない存在。
エレナ達と交戦していたのだが、異常事態が発生したと判断した為の一時休戦。シーサーペントが姿を見せるその数十秒前、異様な気配を感じ取っていたヨハンが周囲の警戒に当たっていたことが幸いし、即座に初動へと移せている。

「サイバルっ! ロイスっ! 周りをお願いっ!」
「ああ」
「お、あ、う、うんっ!」

後方に向けて大きく声を掛けるのは、数の多いキラーフィッシュの対応も疎かに出来ない。
ヨハンとエレナ、サイバルとロイスの二手に分かれた。

(サナは……?)

こうなれば試験どころではない。シーサーペントの反対側に目を向けると、そこでサナが獣化したテレーゼとユーリと共にいるのが見える。

「よかった」

無事でいることに小さく安堵の息を漏らした。

「ギシャアアアアッ!」

直後、闘技場中に響かせるのはシーサーペントの咆哮。
大きな尾を振り上げ、すぐさま勢いよく振り下ろされる先にいるのはオルランドとシリカ。

「きゃあああああ」
「う、おおおおおっ」

逃げなければ圧し潰されること間違いなしの、迫力を伴う勢い。しかし二人とも予想だにしていない事態に足が竦んで全く動けない。

「なにをぼーっとしているのよっ!」

二人のすぐ後ろから聞こえる声。長い金髪を靡かせながらその脇を疾風の様にして通り抜けるとすぐさま二人の前で響かせたのはガギンと鈍い金属音。尾めがけて長剣を大きく振り上げている姿が飛び込んで来た。

「も、モニカ?」

間の抜けた声を放つシリカ。
どうしてここにモニカがいるのかという疑問を抱くのだが、モニカからすればシリカとオルランドの二人を守る為にその場に姿を見せている。

「はやくっ!」
「「え?」」

闘気を全開にして振り下ろされた尾を大きく弾き飛ばしていた。しかしそれでも僅かに体勢を崩すだけであり、モニカの剣技を以ってしても切り落とせない頑強な鱗。

「いいから早くここから逃げなさいっ!」
「う、うん!」
「あ、ああ!」

ギンッとモニカがシーサーペントを睨みつけて威嚇する中、シリカとオルランドは頷き合うと慌てて後方、浮島を跳び越えながら退避する。

「……まったく。普通に終わるとは思ってなかったけど、とんだ試験になったわね」

これまで共に過ごして来たパーティーを試験とはいえ分散させられただけで大概なのだが、その上こんなのまでいるとは思ってもみなかった。

「やっぱり凄いなモニカは」

その様子をヨハンは浮島を移動しながら跳ねるキラーフィッシュを斬り払っている。モニカの流石の判断力に感心する。現在巻き起こっている事態への臨機応変な対応。事情がわからないにも関わらず即時対応していることへの感嘆。

「これであとは…………――」

そうして魔導闘技場全体を大きく見渡した。観戦席ではシェバンニの指示を受けた数人の教師たちが生徒の避難を始めている。

「――……僕たちはこっちに集中すればいい」

闘技場内でキラーフィッシュを中心に対応をしているサイバルとロイス。後方に退避したのはシリカとオルランド。その場に残るのはシーサーペントの近くにいる者、レイン達だけ。

シーサーペントはモニカの反撃を受けたことで踏み込みを躊躇しているのか、それともまるで矮小なる小虫でも見ているのか、どちらにせよ、とにかく周囲をジッと観察しているようにも見える。

「ナナシー!」
「ヨハン!」

そうした中、ナナシーと合流を果たした。

「何が起きてるの?」
「わからないけど、今は協力してアイツを倒さないと」
「そうね」

ナナシーが同意を示す中、明らかに不快感を露わにしている者がいる。

「ハアッ!」

その場で勢いよく跳躍しながら大剣を振り上げ、ヨハン達がいる場に着地するなり大きく大剣を振り下ろした。浮島に大きな亀裂を生み出すその豪快な剣。

「ざけんなよテメェ。俺はコイツラをぶった切るぜ」

引き抜くように大剣を持ち上げ、ヨハン達を睨みつけるゴンザ。

「何をバカなことを言ってるんだゴンザ!」
「あ? バカなことを言ってるのはどっちだっつんだよ?」
「……ゴンザ?」

まるでシーサーペントが現れたことを意にも介していない。その証拠に、見向きをするどころか完全に背を向けてしまっている。

「あぶないっ!」

ヨハンが大きく声を掛けるのは、ゴンザの背後でゴアッと大きな口を開けるシーサーペント。

「死にたいのっ!?」
「…………」

ナナシーも警告するように大きく声を続けるのだが、ゴンザは尚も振り向くことなく無言でその場に立っていた。

「え?」

直後、ゴンザの横を素通りするシーサーペントの頭部。そのまま一直線にナナシーへと向かう。

「ぐっ!」

まるで理解できないゴンザとシーサーペントの行動に対して反応が遅れたナナシー。凄まじい速度で向かって来る突進を躱すことができない。

「がはっ」

しかしそれでも驚異的な反射神経を用いてなんとか防御だけは間に合う。だが後方に大きく吹き飛ばされた。

「ナナシーっ!」

吹き飛ばされた勢いを抑えきれず、このままでは外壁に叩きつけられる。声を掛けるヨハンだがもう間に合わない。

「あっ……――」

不意に視界の端から素早く飛び込んで来た影。
影は壁に衝突する直前でナナシーに追い付き、そのまま受け止めると近くの浮島に飛び降りた。

「――……レイン」

その姿にホッと安堵の息を漏らす。

「大丈夫かよナナシー?」
「ありがと、レイン。助かったわ」

そのままレインは腕の中に抱くナナシーを足先からそっと地面に下ろした。

「なにを油断していますのエルフっ!」

遅れてその場に駆け付けるマリン。

「そんなこと言ったって……」

油断や慢心とは違う。あの時点で誰よりも隙を見せていたのは間違いなくゴンザ。そのため安否を気遣うために大きく声を掛けたのだが、結果的にはこちら側が何故か攻撃を受けてしまっていた。まさか巨大な蛇がゴンザを素通りするとは思ってもみなかった。

「あいつ、なにかしたの?」

それ以外の理由が考えられない。巨大な蛇、シーサーペントの攻撃を受けないで済むなんらかの理由。

「確かにおかしいぜ、アイツ」

レインも同意するようにジッと見て言葉にするのだが、それはこの場にいる誰もが同じであり似たような感想を抱いている。

「ゴンザ?」
「あ?」

まるで従えるかのようにゴンザの後方にてシーサーペントが立っており、ヨハンの問いかけに対してめんどくさそうに耳に指を入れながらゴンザは返事を返した。

「もしかして、ゴンザが?」

何かしたことによってこの魔物達を生み出したのではないかという可能性が脳裏を過る。そして実際にそれが起きる可能性がある物が存在していることを知っている。だがその可能性があるのはヨハンが知る限りではシトラスの笛のみであり、問い掛けたものの、それを自ら否定するのはあの不快な音色が今回は響いていない。一切聞こえてこなかった。

「あ? なに言ってんだてめぇ?」

結論的には、その問いはゴンザには全く理解できないし覚えもない。それというのも、実際に何もしていないので覚えがなくて当然。
しかし、ゴンザには唯一理解できることがある。確信を持つほどに。

(コイツラ、俺には攻撃してきやがらしねぇ)

突如として姿を見せた魔物達が自身に危害を加えないだろうという絶大な確信が何故かあった。
ただ、ゴンザとしては正直なところ今はそんなことはどうでもいい。殺意を宿した瞳で真っ直ぐにヨハンへ大剣を向ける。

「お前、どういうつもりなんだよ?」
「どういうつもりって?」

ゴンザの背後で長い青黒い舌をシュルルと出し入れしているシーサーペント。

「そんなやつらを助けてる余裕があんのかってんだ? 早く殺れよ」
「……本気で言ってるの?」
「バカなのかてめぇ? ここでそいつらを殺らねぇといつ殺るんだよ?」
「…………わかったよ」

互いに状況の理解が出来ているのだろうかという問い。会話が全く噛み合わない。

「何が起きているのか、まずゴンザを倒してから確認させてもらうね」
「ハッ! テメェの方から向かって来るっていうのか? いいぜ、こっちもいい加減はらわたが煮えくり返ってるんだよッ!」

グッと剣を向け合うヨハンとゴンザ。それは異常事態の中に生まれたさらに異常な光景だった。

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