S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
488 / 724
紡がれる星々

第四百八十七話 遺跡調査選考仕合

しおりを挟む

「では、準備が整い次第声を掛けますのでこちらでお待ちください」

騎士によって案内されたのは小さな部屋。訓練用の木剣や木斧に木槍が立て掛けられていた。

「――すいません。少しよろしいでしょうか?」

少しすると、ドアがノックされる。その女性の声に聞き覚えがあった。

「スフィアじゃありませんの」
「お久しぶりです。エレナ様。それにみんなも」
「あなたは」
「その節はお世話になりました。カレン様」

カレンも覚えのある女性騎士、スフィア・フロイア小隊長。

「そういえば、第一中隊はあなたが配属されていましたわね」
「はい。それで、今回エレナさまたちと共同任務ということで楽しみにしております」
「まだ決まっていませんわよ?」
「決まったようなものでしょう?」

あっけらかんと答えるスフィア。

「まったく。相変わらずのようですわね、あなたは」

互いに笑いを漏れ出すそのやり取りは幼い頃に何度もあった。

「エレナ様も、お変わりないようで安心しました。頑張って下さい皆さん。では失礼します」

軽く頭を下げて部屋を出て行こうとするスフィア。

「あっ、スフィアさん」
「どうかしたのヨハン?」
「いえ、アーサー・ランスレイ隊長って、どんな人ですか?」
「隊長?」
「はい」
「そうね……――」

思案気な表情を浮かべるスフィア。すぐに小さく笑う。

「――……一言で言うなら、軽薄な人ね。では」

パタンと閉まるドア。

「どうやら、スフィアは信頼しているようですわね」
「そうなの? あんなこと言ってたわよ?」
「ええ。あのスフィアが軽薄と言いながらも、あのような笑顔を見せたのですから間違いありませんわ」
「ふぅん……」

わかるような、わからないようなエレナの言葉。スフィアの人となりを一番知っているのはエレナ。

「お待たせしました。ではこちらへどうぞ」

次に姿を見せたのは案内の騎士。

「じゃあいくよ、みんな」
「ああ」
「はい」
「「ええ」」
「うん」

どういう形にせよ今から行われるのは真剣勝負に他ならない。油断や慢心はない。会場に向かう面々、その目にははっきりとした力強さを宿していた。





「けっこう、広いね」

案内された鍛錬場は学生達が使用する学内の鍛錬場よりも大きい。広さで云えば学年末試験の魔導闘技場と同程度。
目の前には百名を超える騎士達が既に準備を整えて陣形を築いていた。その装備は軽装備ながらも鉄製の防具に身を包み、手には木剣や木槍を持っている。武器以外はほぼ実戦同様

(これだけの人数を本当にあれだけで相手をするというのか?)

第六中隊隊長であるグズランが抱く疑念。
国王であるローファスに言われるがまま準備をして臨んでいるのだが、果たして本当にここまで向かって来ることができるのかと。にわかには信じられない話。

(舐められたものだ)

武器は真剣ではないが、これだけの人数であれば例え木剣であろうとも下手をすれば命の危険性もある。

(しかし、こちらとしてもああまで言われた以上、な)

最後尾に立つグズランの装備は全身鎧。まるで実戦さながら。
ローファスの言葉を齟齬のないよう若干誇張気味にして部下である騎士に伝えたところ、ほぼ全員が憤慨していた。そこまで言うのであれば目にものを見せてやると。それは正に狙い通り。
加えて、グズランがローファスに申し開いた通り、仲間の騎士が消息不明になっていることは確かに気に掛けていたこともまた事実。

「グズラン隊長、エレナ王女へは?」
「かまわん。遠慮などするな」
「しかし――」
「かまわんと言っている。私の命令だけでなく、そもそもこれは国王の命令だ。手を抜いたことがバレたら厳罰が下るぞ」
「は、はっ! 失礼しました!」
「ではもう一度、気勢を損なわないよう今の話を全員に通達しろ」
「はっ! ただちに!」

そうして騎士達は伝令を広げていった。

「さて、果たしてどの程度の力を見せてくれるのか」
「隊長、また悪い顔をしてますよ」
「おっと、これはこれは」

大勢の騎士達が好奇の視線を眼下に向けるその見物席の最上段。
見下ろしているのはアーサー・ランスレイとスフィア・フロイア。それともう一人。

「いやしかし、キリュウさんとキミの話を聞いて楽しみにするなということが無理というもの」
「そうだな。ここで実力を示すに越したことはない。国王の英断だ」

並び立つのはキリュウ・ダゼルド騎士団第七中隊隊長。

「まったくあなた達は。やっぱり似てますよ」
「そういうお前も楽しそうにしているではないか」
「そう見えますか?」

キリュウが問い掛けるスフィアの頬も確かに緩んでいる。

「ああ」
「ふふっ、ではそうなのでしょうね」

実際楽しみで仕方がない。一体どれだけの戦いを見せてくれるのかという期待感しかなかった。

「さて、準備はいいか? これは当然遊びでもなければ鍛錬でもない。互いに手を抜くことのないように」

全体に向けて声を掛けるアマルガス大隊長。

「よし。じゃあみんなやるよ」

ヨハンの声に同調するように頷き合うモニカ達。

「では、互いに悔いのないようにな」

そうしてアマルガスによる開戦の合図、警笛の音である高音が響く。
異質とも云える六対百の戦いが幕を開けた。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...