S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第五百二十八話 当初の約束

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サナの家は裏手に工房があるのみで内装は至って普通の民家。

「誰か客が来たのか? だったら今日は店じまいだと――」

椅子に腰かけ木彫り細工用の工具をジッと見つめて確認しているのはサナの父親であるガッシュ。

「お父さん、ただいま」
「!?」

入り口の方角を一切見ていなかったガッシュなのだが返ってきた言葉に耳を疑う。

「サナっ!? お前どうして……――」

聞き間違うはずのないその声に反応して勢いよく首を回した。疑問を抱いたその先に確かに娘はいたのだが、すぐさまその表情は別の疑問へと移り変わる。

「――……誰だ? あんたら」

見知らぬ男女の三人。二人は娘とそれほど歳の変わらない少年と少女、それと少し大人びた女性。

「はじめましてサナのお父さん。夜分遅くにすいません。僕たちはサナの仲間です」

厳密には普段行動するパーティーは違うのだが今回は合同任務。

「どういうこった?」

顔を見合わせるガッシュとイザベラ。どうして突然娘が帰ってきたのか。

「ちょっと説明させて」
「だったら、そんなところに立っていても仕方ないからとにかく座って。ほらほら」

そうしてイザベラに促されるまま椅子に腰掛け、ここに至るまでの一連の経緯を説明する事となる。





「――……なるほどねぇ」

ガッシュがジッと見つめる先にあるのは机の上の竜木と魔石。

「ごめんねお父さん、急にこんなことお願いしに来て」

木卓に座るガッシュの隣にはサナ。正面にヨハンとカレン。後ろにはニーナが立っていた。

「いや、事情はまだ上手く呑み込めないが、要はその魔石とこの竜木を使って魔力回路を接続するような物を作ればいいってことだな」
「お願いできますか?」
「できないことはないが……」

木卓の上に置かれているのは小さな魔石と原材料である竜木の他にヨハンが遺跡で模っておいた土人形。

「いきなりサナが帰ってきたからなにかと思えば、あの遺跡にそんなところがあったなんてなぁ」

見回す先にいるヨハンとニーナとカレン。

「ふぅん。正直なところ、竜木なんてものは俺も初めて見る。その様子だと、ある程度冒険者としてはやっていけてるようだな」

平行してこれまで見ることのなかった娘の学生生活を垣間見ることの奇妙な感覚。

「はい。わたしは臨時教師という身ではありますが、サナさんの才能はもちろん実力も既に学生の内では抜きんでたものになりつつあります」
「へぇ。このサナがねぇ。正直なところ、井の中の蛙だろうとは思っていたのですが」

言葉では悪態を吐きつつも、表情は嬉しそうにしているガッシュ。

「よしわかった。それなら安心した。その依頼を受けようじゃないか」
「お父さん、ありがとう!」
「いやいや、お父さんの仕事が娘の役に立つのだ。断る方がおかしいだろ」
「お父さん……」

ジッと父を見つめるサナ。
冒険者学校へ通うために町を出る事を一時反対していた父がこれほど頼もしいとは思ってもみなかった。
これであとは詳しい段取りを確認して翌日にスフィア達へ報告するだけ。

「今日のところは当然泊まっていくんだろ?」
「うん」
「だったらお仲間さんは、そうだな……客室は君が使ってサナの部屋を先生とお嬢さんの二人でかまわないですか?」
「よろしいのですか?」
「かまわんさ」
「ありがとうございます」

必然的にサナは母の部屋で寝ることになる。

「にしても、サナもあと一年で卒業して帰ってくるってことだな」
「そうね。さっきの話を聞いてお母さんも安心したわ」

台所を片付けてきた後にお茶を注ぐイザベラ。

「えっ?」

浮かない顔をしているサナを見る母は首を傾げる。

「どうかしたのサナ?」
「……やっぱり、帰ってこないといけないんだよね?」
「何を言ってるのよ、当たり前じゃないの」
「できれば、帰らずに向こうで生活もしてみたいのだけど…………」
「それは約束が違うでしょう?」

娘の様子の変化を疑問に思いながらの問いかけ。
元々、サナが冒険者学校へと通うのは家計の手助け。町に熟練の冒険者が滞在していないということもあり、その貢献をするということ。

「そう、だけど……」

口籠り、微妙に言い淀むサナがチラリと視線を向けるのはヨハンへ。
このまま卒業して町へ戻れば思いは何も遂げられない。

「もしかして、向こうで誰か好きな人でもできたのかしら?」

探る様なイザベラの視線。
当たらずとも遠からず、むしろほぼ言い当てているといってもいい母の言葉に思わずビクッと肩を動かすサナ。

「あっ、やっ」

どう言葉にすればいいものなのだろうか。

「どうなんだサナ。はっきりとしろ」

途端に表情を険しくさせる父ガッシュ。

「もう。お父さん、そんなこと言ったらサナが言いにくいじゃない」
「とは言うがだな。お前も前にサナに言っていただろ」
「もしかして、それって彼氏を連れて帰って来いって言った事?」
「ああ」
「もうっ、そんなの冗談に決まってるでしょ。そりゃあこのヨハンくんみたいな実力も申し分もない子を彼氏にしてくれてたら将来も安泰だけど。顔も可愛らしいしね」

ここに至るまでの過程を話した際にヨハンがS級だということを話している。説得力を持たせるためにギルドカードまで提示して証明していた。

「はは……」
「…………」

とはいえ、一体何の話をしているのかと。

(この感じ……もう一押しすれば認めてもらえそう…………)

しかしサナの思惑はもう別のところ。この様子であればあともう少しで言いくるめられる。

「も、もし、向こうで好きな人が出来て、付き合うことになって、それで……帰りたくないって言ったら、どうなるの?」

当人を目の前にして言葉にすることが恥ずかしくて仕方なかった。それでも絞り出すようなサナの言葉にガッシュとイザベラは顔を見合わす。

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