S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第六百六十九話 閑話 アイシャの好奇心③

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「「え?」」

一瞬だけ二人共にキョトンとするのだが、相手のことなど今はどうでも良かった。

「誰を探しているのか知らないが、マリウス様を追いかけるのを手伝ってくれないか!?」
「そんなことより、こっちの方が大変よ! このままじゃ私クビどころか下手をすれば重罪で監獄行きになっちゃうのよ!」
「それはこちらの台詞だ!」

焦っている理由が似たようなもの。

「あの子なら大丈夫よ! 前よりは常識人になったのでしょ?」

高飛車なマリウス・カトレア。カールス侯爵が以前頭を悩ませていたことをネネも聞いている。それに関するヨハンへの剣術指南の依頼の事も。

「そ、それはそうだが、それとこれとは話は別です。坊ちゃんはまだ年端もいかない。調子に乗ることもしばしば」
「わぁかったわよっ! 道すがらついでに探しておくわっ! だから次はこっちの番よ! 小さな女の子見なかった!?」
「小さな女の子とな?」

周囲を捜索する様に見回すネネなのだがどこにも姿がない。

(この辺りにいるはずなのだけど……)

中央区ではそれほど目立たない服装なのだが、一般の往来である東地区ならそれなりに目立つ格好。それだというのに目撃情報がこの辺りで途絶えていた。時間的にもそれほど遠くない。

「はて?」
「もうっ! んーと、えっと、そう! マリウス様やセリス様ぐらいの歳の子よ! 今日は水色の服を着ているわ」
「むぅ。それならば先程マリウス様が口にしていた子と似ているようですな?」
「……どういうこと?」
「いえ、マリウス様は水色のドレスの女の子が先程までそこに居たのだが突然いなくなったと言い、走っていったのです」
「それって……――」
「――……いやはや、坊ちゃんは人攫いと言っていたのですが、こんな早朝から一人で出歩く子もおりますまい。となると坊ちゃんの見間違いか、はたまた幽霊か。いやいや、幽霊など縁起でもないのですが、ん? どうかされましたか?」

プルプルと肩を震わせているネネ。

「もし? ネネ? ご気分でも? ひっ!?」
「――……その子がアイシャちゃんじゃないのっ! それで! あんたのところ坊ちゃんはどっちに行ったのよ!」
「あ、あちらです」

恐々と路地裏を指差すセバス。

「あっちね!」

すぐさま駆け出すネネ。

「い、いったいなんだというのだ」

鬼の形相とでも言えばいいのか、あんな顔をするネネの顔は初めて見た。





「まてー!」
「ん?」
「なんだ?」

アイシャを肩に担ぎながら走る二人の男の後方から聞こえる声。

「ちっ。見られちまってたのか」
「どうする?」

衛兵にでも通報されれば面倒。

「いや、見ろよあれ」

くいッと目線を向ける男。もう一人が背後から追いかけてくる少年を見るなりニヤッと笑みを浮かべる。

(だ、だれ?)

その反応にアイシャも首を上げて確認するのだが、追いかけて来ているのは手に剣を握りしめた少年。

「んだよ。びびって損したぜ」
「このお嬢さんの知り合いかもな。いけないんだぜ、そんな歳で逢引なんてよぉ」
「ハハハ。だったら仲良く二人まとめていただこうぜ」
「おうよ」

男達が二人の関係性を勘違いするのは追いかけてくるマリウスの身なりもまた整っている。マリウスの方は正真正銘の貴族子息。

「だ、だめ! 来ちゃだめぇっ!」

どうして一人で追いかけて来ているのかわからないのだが、小さな男の子が大の大人二人に勝てるわけがない。

「おい」
「ああ」

男が一人ナイフを抜いてマリウスを迎え撃つ。

「はぁ、はぁ、ようやく、追い、ついた」
「必死になって追いかけちまって。健気だねぇ」

ニヤニヤとする男の言葉に対してマリウスが呼吸を整え終えると同時にきょとんとする。

「何を言っているのかわからないが、その子を置いていけ。今ならば痛い目をみないで済むぞ」
「おぅおぅ、かっこいいねぇ。お前、人を斬ったことあるのか?」

剣を構えるマリウスは鞘から剣を抜いていない。

「お前らを相手にするのに真剣など必要ない。剣が汚れる」
「チッ。生意気言いやがって! こっちはてめぇが死んだっていいんだぜ!」

マリウス目掛けて襲い掛かる男。
どうして剣を抜かないのかアイシャには不思議でならなかった。どれだけ剣に自信があるのか。
片目を瞑りながら、恐る恐る見る目の前で起きたことが信じられない。

「おりゃあ!」
「はっ!」

殺傷力を伴うナイフで切りかかられているにも関わらず、身なりが整った少年は臆することなくナイフを正確に見切り、腹部目掛けて横薙ぎに剣を振るっている。

「ごえっ」
「いきがっていたくせにその程度か?」
「て、てめぇ……」

腹を押さえて地面に膝を着く男を見下ろすマリウス。

(さっきの……)

たった一合だけの攻防。しかしなんとなく程度の面影なのだが、アイシャの目にはそれがどこかヨハンと重なる姿に見えた。

(でも、それだけじゃない)

加えてもう一人。何故だか洗練された動きを見せる少女を連想させていた。

「その程度、モニカお姉ちゃんに比べたら遅いっての」
「動くな!」
「きゃあっ!」
「え?」

不意に聞こえて来た先。そこにはアイシャの顔にナイフが突きつけられている。

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