5 / 16
1章
5
しおりを挟むロサンゼルス公演の最終日、メンバー全員で反省会の意味も含めて飲むことになった。
明日は帰国だからとホテルに近い個室の焼肉屋が選ばれ、二つのテーブルに分かれて座った。そこまではいい。通常通りだ。
問題は──隣がイジュンであること。
「イジュナ、その皿取って」
顔を見てお願いするも、まるで聞こえてないかのようにスルーされる。
朝からずっとこの調子だった。公演中も全く絡みに来ないし、挨拶しても不機嫌丸出し。まるで子どもみたいな態度に釣られてこっちの気分も下がる。
ソジュンが考えた作戦を実行する時が思いの外すぐにやってきたというのに、こんな状態ではあまり気乗りしない。
「おい……」
「ん? これ?」
隣の男に言ったのに、向かいに座っているユンヒョンが笑顔でこちらに皿を渡してくれた。
「あ~、ヒョンありがとう」
「お前らまた喧嘩したの?」
「いや……勝手にイジュンが怒ってるだけです」
「は? 違うし」
「じゃあ何でさっきから無視するんだよ」
「ウジンが連絡返してくれてないからじゃん。昨日からずっと」
ぶすっとした顔で睨まれる。
昨日は結局、夜遅くまでソジュンと一緒にいて、帰ったのはみんなが寝静まった頃だった。
イジュンから何度も電話やメッセージが来ていたが全て無視し、ホテルの部屋にはチェーンをかけて籠もった。
そこまで徹底して避けた理由はただ一つ。また調子の良い言葉で丸め込まれて雰囲気に流されてしまうから。
「ソジュナと遊んでて」
「それでも連絡くらい返せるだろ? 帰ってくるの待ってたのに」
「別に、待ってほしいとか言ってない」
──なんで俺の連絡や帰りを待ってるんだよ?
お前は俺のなんなんだ。彼氏か?
ついイラッときたが、ここは我慢だ。ソジュンと立てた計画を実行できなくなる。
「はいはい、痴話喧嘩はもうやめような。それよりイジュナ~今日の反省点は?」
ユンヒョンがイジュンに鋭い目を向けた。それに姿勢が伸びたのは、隣にいる俺も例外ではない。
「あ……」
「振り付け。心当たりあるよな?」
「しかも三回もミスってた。俺見たよ」
イジュンを責めるチャンスだと思って横から口を挟んだのが悪かったのか、今度はこちらに鋭い目が向けられた。
「ウジナも移動のとき間違えたよな?」
「……間違えました」
「お前ら喧嘩じゃなくてさ、二人で仲良く練習でもしたらいいじゃん」
「はーい……」
怒ったユンヒョンは誰よりも怖い。
反省している姿を見せるために俯くと、テーブルの下で横から足を蹴られた。たまだスニーカーだったからよかったものの、かなり強い力で蹴られた気がする。
(こいつ、加減せずにやったな)
やり返すために太腿をぎゅううっと抓った。俯いたまま横目で顔を見る。これでどうだ。
「いっ!」
イジュンの眉間に思いきり皺が寄ったのが面白くて、笑いがこみ上げてくる。指先で抓ったから、かなり痛かったらしい。
「イジュナ、話聞いてる?」
「き、聞いてる。練習します」
「俺も頑張るね、ユンヒョン」
「ウジンは偉いなあ。もっと肉焼いてあげよう。向こうから取ってくるよ」
「ありがとうございます!」
隣から恨めしそうに睨まれているのが、見なくても分かった。また吹き出しそうになる。
イジュンを誂うのは楽しい。エッチの時だと立場が逆転して好き放題やられてばっかりだから、こういう時くらいはやり返さないと。
「お前な……」
「イジュナ、ちょっと耳貸して」
ユンヒョンがテーブルから離れた今、ソジュンが考えてくれた例の脱セフレ計画を実行するチャンスだと思った。やるしかない。
「は?なに」
さっきまで喧嘩していたのにいきなり俺が体に触れたせいか、イジュンは驚いた顔で固まった。
「いいから」
肩を強引に抱き寄せて耳に唇を近づける。
焼き肉の煙で充満した部屋だというのに、シャンプーと香水のいい香りがして、不覚にも心臓のあたりが痛くなる。
こんなことでドキドキするなんて悔しい。イジュンのくせに、妙に色っぽくなりやがって。
「俺の今日の下着の色、当ててみて」
「……は?」
「実は新しく買ったパンツ履いてるんだけど」
「パ、パンツ……?」
「そう。で、何色だと思う」
ソジュンが言っていた誘い文句がこれで合ってるか分からない。が、できる限り誘惑とやらを頑張るしかない。
唇は耳の近くに固定したまま、テーブルの下でそっと手を握ってみる。
途端にイジュンが耳を赤く染めて俯いた。
太腿を抓った時と反応が違うのが面白いなあと呑気に思いつつ、もっと誘惑しなくてはいけないので、「早く言って」と囁いてみる。
「あ、っと……あ、青とか」
「ハズレ」
「じゃあ、黒?」
「違う」
「わかるわけないじゃん」
「確認してみる?」
「えっ」
「気にならないなら、いいけど」
あえて冷たい言い方をすると、イジュンが慌てたような声で「気になる。見たい」と言って手を握り返してきた。
(さっきの不機嫌はどこへ行ったんだ?)
上手く誘惑出来たはずなのに、なぜか苛つく。仕掛けておいて何だが、余計に体しか求められてないように感じてしまった。
こんなの俺じゃなくてもいいと言われているような気がしてならない。
イジュンは他の人に──、ソヌに、もしこうやって迫られたら体の関係を持つのだろうか。
ふと、昨日二人きりで食事してきたという事実を思い出して奥歯を噛みしめる。
もし俺の知らないところで、同じように彼らが体の関係を持っているとしたら、どうしよう?
告白以前の問題だ。まずは自分以外の誰かと関係があるのかどうか、聞く必要がある。
10
あなたにおすすめの小説
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
神父様に捧げるセレナーデ
石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」
「足を開くのですか?」
「股開かないと始められないだろうが」
「そ、そうですね、その通りです」
「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」
「…………」
■俺様最強旅人×健気美人♂神父■
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる