セフレから恋人になる方法

ゆもたに

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1章

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 食事と風呂を済ませたあと、イジュンと部屋に入った。適当に荷物を片付けてからそそくさと布団に入る。

「もう寝んの……?」

 イジュンが拗ねたように言う。

「明日も早いだろ」

 さっき気まずくなったせいで、まともな会話ができなかった。それどころか顔も見られない。
 このままソヌの部屋に行ってしまうのではないかと不安だったが、イジュンも布団の中に入ってくれた。けど、まさか至近距離で向かい合う状況になるとは。
(くそ……反対側を向けばよかった)

「さすがだなウジン。勝つと思ってた」

「……まあな」

 喉に詰まって言葉が出てこない。
 会場に向かう前、イジュンはルームメイトに俺を選ぶと言ってくれた。でも咄嗟に「ソヌにすればいいだろ」と反発してしまったのを、今になって後悔している。空港で、ソヌとイジュンが話していたことがずっと気になっていたからだ。
 あいつらは二人で出掛けようとしてる。俺がそこに入る隙間はない。もし同じ部屋になったとしても、ソヌが訪ねてくるのを見たくなかった。気まずそうに、「ウジンも来たい?」とか聞かれた日には心が折れてしまいそうだ。
 今だって怖い。いつソヌがこの部屋に来るか、いつイジュンを連れて行かれてしまうか──そわそわして落ち着かない。

「あのさ。俺と同室は嫌なんじゃなかったの?」

 聞かれて、ギクッとした。なんて言い訳をしよう。

「嫌とは言ってない」

「でも、誰と同室になるか聞いたらユンヒョンって言ってたくせに」

「別に……、気分が変わっただけ」

「シングルも一部屋余ってたのに? なんでダブルにしたの」

 お前をソヌに取られたくなかったからに決まってるだろ!
 それぐらい察しろよ!
 ──いや、わざと聞いてきたのかもしれない。

「……なんでだと思う」

「え」

「当ててみて」

「えっと……それは、あのー、俺と同室になりたくて?」

「自意識過剰」

「なんだとっ」

「イジュン、俺と同室になりたいって言ってたじゃん」

「それは……そうだけど。じゃあ俺のためにわざわざシングルじゃなくてダブル選んでくれて、指名までしてくれたってことだな?」

「だったらなんだよ?」

「いや~別に。俺と同室になりたくないのに、要望は叶えてくれたんだと思って」

 イジュンが唇を突き出して眉毛をくいっと上げた。
 揶揄うようなわざとらしい言い方に思わず頬が熱くなる。こんなことになるなら、いっそ素直に言えば良かった。
 なんでイジュンはあの時、俺を選ぶと言ったんだろう?
 ソヌにすればいいだろとヤケクソで言ったら戸惑っていたし──、それほど俺と一緒の部屋が良かったということなのか。

「イジュンは? なんで俺と同室が良かったの」

「えっ俺? いや、お、俺は……まあ」

 どんな言い訳をされるのかと、じっと目を見つめる。気持ちを伝えられないのは俺だけじゃない。こいつも同じだ。
 しかし返事を聞くのが急に怖くなって、イジュンが何か言う前に寝返りを打った。ベッドはかなり広い。けど、体の重さで軋む音や振動に、すぐそばに好きな人がいるのだと実感させられる。
 本当は抱きついてしまいたい。
 誘惑するのを忘れたから、いっそ妄想を現実にしてしまおうかとも考えた。だが、そんなことをする余裕は今の俺にはない。
 しばらくの沈黙のあと、その気まずさを打ち消すようにイジュンが「んんっ」と軽く咳払いした。

「その、だから、ウジンと話したかったし……」

「話す? なにをいまさら」

 わざわざ同室にならなくても、仕事中もオフもずっと一緒にいる。話す時間なんていくらでもあるだろう、なにを言ってるんだと振り向きたくなったが、それが戦略だったら困るのでやめた。

「いや、なんというか」

「なに」

「ウジンが一番落ち着くから。他のメンバーと同じベッドで寝るとか勘弁だし」

「それって……ソヌでも?」

「ソヌかー、まあ、あいつなら寝られるけど」

 軽率に聞いてしまった自分を殴りたくなった。
 (他のメンバーと同じベッドで寝るのは嫌なのに、ソヌはいいってなんだよそれ。俺だけって言えよ。イジュンのバカ!)
 結局、俺とは自然な流れで体の関係を持ってしまっただけで、ソヌともしそういう雰囲気になったら、きっと同じような関係になってしまうのだろう。イジュンは俺のことが好きなのではなく、体の関係を持ってしまったが故に執着心を抱いてるだけ。それは恋愛感情でもなんでもない。

「はあ……」

 つい溜め息が出てしまった。最悪な気分だ。なんでこうも上手くいかないんだろう。

「どうした?」

「ソヌがいいならあいつがいいって言えば良かっただろ。なんで俺と同室になりたかったわけ?」

「い、いや、ソヌがいいなんて言ってないじゃん」

「ここ……北海道に来る前、聞いたよな? 俺と同室になりたいかって。でもお前は別にどっちでもって言った」

「ああ……っ、あれは……ごめん」

「……もういい。寝る」

「え、ちょっと待ってよ」

 早く寝ないと明日の仕事に支障が出る。だから、別に惨めな気持ちになったのを忘れたくて寝るわけじゃない。決して。
 さっきまでイジュンと同室になれたことを喜んでいたのが嘘かのように、今はその選択を後悔している。
 こんなことならいっそシングルを選べばよかった。そうしたら余計なことを聞かずに済んだのに。

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