月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

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第二章 月の国

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「今日からしばらく太陽の国の聖女様たちが手伝ってくれることになりました。みんな色々教えてあげてね」
「陽菜で~す。よろしく~」

 ざわざわ。がたがた。
 室内にいた人たちが一斉にこちらを、いや、陽菜を見る。陽菜からはぶわりとピンク色が膨れ上がる。まるで大量の獲物に狂喜乱舞するかのよう。
 それをメガネの隙間から眺めつつ、結慧も自己紹介をして頭を下げる。誰も聞いてなんていないけれど。

 ウィルフリードはここの部長だった。これだけ若くして部長とは、やっぱり仕事ができるらしい。部署の人員は彼を入れて六人。少数精鋭だ。

「とりあえず二人はここに…...ごめんね、適当によけてくれて構わないから」

 空いている、資料置き場になっていた二席続きのデスクを借りる。陽菜の隣になった人はすごく喜んで、なんでも教えてあげるね!とニコニコしている。反対に、結慧の隣になった人は不機嫌な顔を隠そうともせずに舌打ちをしてくる。

「ユエと申します。宜しくお願いいたします」
「……アイクだ」

 無視されるつもりでした挨拶に言葉が返ってきた。結慧は思わずパチクリと目を瞬かせる。
 こんな事は初めてだ。

 アイクだけではない。皆、触手のお決まり通りに結慧を嫌っているようだ。けれど結慧が何かをいえばそれなりの言葉が返ってくる。すごく嫌そうだけど。
 それはきっと、仕事だから。
 けれど、そういう対応ができない人はたくさんいる。嫌いだからと、無視をしたりぞんざいに扱ったり。
 ここの人たちはそれをしない。

(いいなぁ)

 そんな職場でずっと働けたらな。

「じゃあよろしくね」

 ウィルフリードは紙の束と指示を残して自分の席に戻っていった。結慧たちに任された仕事は資料の清書。パソコンなどないのだから当然の業務だ。けれど、考えてみればこれほど面倒な業務もないだろう。だからこんなに……束になるほど溜まるのね。
 内容は軽いものばかり。情報漏洩されたら困るからだろう。

 さて、久々のお仕事。
 手首からシュシュをはずして髪をくくる。これでもずっと事務をやっていたのだ。このくらい、さっさと終わらせてしまおう。

 カリカリ、ペンを走らせる。
 修正液はあるから間違えても大丈夫なのだけれど、そんなの使わない方がいいに決まっている。できるだけ丁寧に、けれど早く。判断に迷うところは質問をしながら。いやそうな顔で、でもやっぱり聞けば丁寧に教えてくれるアイクには感謝しかない。

 下ばかり向いて凝り固まった首をまわしながら、ちらりと室内を観察する。
 やっぱり、思った通りウィルフリードはすごかった。

 積み上がった紙の束を捌きつつ、質問に来た人や他部署だと思われる人への対応。その指示も、なにも知らない結慧が聞いても理解できるくらいに的確でわかりやすい。合間にいなくなるのは会議だろうか。席を離れる回数が多い。そしてその間にまたデスクに紙が追加されて積み上がっていく。

 いやほんと馬鹿みたいな仕事量じゃない?
 なんでこの人、というかこの部署はこんなにも大量の仕事を任されているの?

 さっきから「この請求書いつの!?」だとか「決裁まわってないのなんで」だとか、「締切間に合わない」「取引先への連絡が」「これいつ届いた依頼書だ」……

 うーん、まわってない。
 改善するところが山ほどあるけど仕事量が多すぎて捌くのに精一杯でそれどころじゃないんだろう。

 そうは思うけれど、仕事内容も事情もなにも知らないお手伝いの分際で言うことではない。しかも勤務一日目。せめて書類を期日ごとに分けるだけでもだいぶ違うと思うけれど。機会があれば、少し整理整頓だけでもさせてもらえたら……

 くるり首を巡らせて、そうしてはたと目に止まる。
 隣の席、陽菜の手元。
 書き上がったとおぼしき清書に誤字。今書いている手元の紙にも誤字……

 目眩がしてきた。


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