月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

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第二章 月の国

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「ご心配をおかけしました」
「本当っスよ!変なことに巻き込まれてもう!」
「怪我は?もう平気か?」

 週が明けた。無事にウィルフリードの許可も出て、今日からまた出勤できる。
 新しい自宅から出て、新しい道を歩いて。社宅は住宅街にあるから、商業街にあった宿よりは遠くなってしまったけれど歩いて行ける距離にある。朝の清々しい空気を吸って、いつもの店でコーヒーを買って。
 おはようございます、と部署のドアを明けたらもう来ていた皆に囲まれた。
 
「何が心配って、部長に着々と囲い込まれてるところが一番心配だよお兄さんたちは」
「社宅借りたんだろ?部屋バレてるじゃん。えっ、部屋に上げたの?駄目だってもっと用心しろよ!」

 後から来た人まで加わってきて、心配したよと言われ続ける。それが事件や怪我以外の事にまで発展していって、結局みんなでわいわい騒いで。

「部長には手伝ってもらっただけですよ」
「駄目だこの子、分かってないっスね」
「部長ざまぁだな!」
「はいアーベル減給ね~」
「横暴!」

 ウィルフリードが朝の部門長会議から帰ってきたところで、それぞれの席に散っていく。
 結慧も席に着いたところで、隣のネーターが話しかけてくる。

「本当に心配したのだよ。僕たちはあの時ここに残ったから状況が分からなくて余計にさ。ね、アイク」
「ああ」

 あの時、結慧が出社して来ないのを心配していたら聖女が事件に巻き込まれたという知らせが入った。そこにいるかもしれないとまずウィルフリードが飛び出して、アーベルたちも現場の状況判断や連絡係として続いていった。結果、ネーターとアイクは残る事にした。部署を無人にはできない。

「……大変だったな」
「ええ、でももう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「辛くなったらすぐに言うんだよ。特にこれから忙しくなるから」
「どうして?」
「それはね、冬至祭の期間に入るからさ」

 冬至祭。一年のうち、夜が一番長くなる日。つまり、月神様の力が一年で最も強くなる日。
 月の国では年中行事として、冬至祭が各都市で開催される。この国の一番大きなお祭りだ。
 人々は教会に行き月神に祈りを捧げる。教会はこの日ばかりは夜通し開かれ、夜明けまで参拝客を受け入れる。
 ここティコの街は国一番の都市で中央教会があることから毎年多くの客で賑わい、飲食店は朝まで営業する。中央の大通りは露店が軒を連ね、中央広場には巨大なモニュメントが設置され話題になる。
 つまり、

(クリスマスとお正月を一緒にやるってこと?)

 それは大変だ。しかも国と教会と都市の連携開催。まさしくこの部署の出番である。
 聞けば、毎年この時期は家に帰る暇もないくらい忙しいらしい。

「ま、今年はソウマさんがいるから平気だろうさ」
「う……がんばります」
「あはは、期待しているよ」

 ……なんて言っていた復帰初日が懐かしい程、そこからの毎日は想像以上に地獄の忙しさだった。

「これ全部帳簿記入して今すぐ!」
「実行稟議は!?まだあの部署持ってんのかもう待ってられないから回収して来い!」
「納期いつ!?明後日!?無理無理延ばしてもらって!!」
 

 まず処理する回覧書類が倍増した。通常業務をこなしつつ、それと同じ量くる冬至祭の書類たち。期間中の警備、飾り付けからミサの行程表に要人の招待リスト。
 結慧は回ってきた書類全てを担当に振り分けつつ壁一面に貼った紙に決定したスケジュールを書き込んでいく。当日だけでなく、準備期間も含めた巨大なカレンダーだ。

 特に部長であるウィルフリードと、今年の実行委員に選ばれたアーベルとハンスは殆ど席にいない。
 積み上がっていく回覧書類。
 本当に緊急のものは戻ってきた僅かな時間でサインを貰わなければならない。
 期日順に並べ、分類ごとに並べ、関連性のあるものをまとめておく。なるべくすぐに理解できるように、補足の資料を足してメモ書きを張り付けて。

 結慧に与えられた仕事は冬至祭チームのサポート。
 それぞれの仕事が円滑に進むように後方支援をし、時には先回りをする。それはつまり、全ての業務を把握しておかなければならないということだ。
 冬至祭の資料を読み込み、頭に叩き込む。質問にはすぐに答えられるようにする。他部署からの問い合わせも対応して、簡単なことであれば判断する。

 手が足りない。覚えることが多い。
 本当に目が回りそうな程忙しい。

 陽菜たちのことや、月神のこと。
 そんなものはとりあえず頭の隅に追いやって、仕事に没頭する日々。それでも元の世界にいた頃よりも毎日が充実している。
 仕事が楽しいと言える日がくるなんて、思ってもみなかった。


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