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セディナの最後
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産まれた時から体が弱かった。
何かの病というわけでは無かったのにとても疲れやすかった。
風邪も引きやすく、すぐに脈は早くなり、体の怠い日が多かった。
お医者様には人より体力がない、体力が付きにくい虚弱体質、しかしこれといった原因は分からないので治せない、対処療法しかないと言われていた。
少し年の離れたお兄様は爵位を継いだあとも自分が面倒を見るから結婚はしなくていいと言ってくれた。
お義姉様も婚約者だった頃から家を出る必要は無い、王都でも領地でも暮らしたいところで暮らして良いと言ってくれていた。
両親も兄夫婦が受け入れてくれたのもあって私に婚約者をあてがう事をしなかった。
私も医師に虚弱体質の為出産は難しいかもしれないと言われていたので結婚は相手に申し訳ない事だと考えていた。
そんな私だが、辺境伯であるルブラン・レイナーラに見初められ結婚することになった。
ルブランは自信に満ちた人で若干強引な部分はあったが私を愛してくれているらしい。
本当はあまり結婚したくなかったが、このままお世話になり続けるのは兄夫婦に申し訳ないとも思っていた。
お母様も医師も田舎は療養に良い、もしかしたら今より健康になれるかもしれないと期待しているように思える。
私の迷いを見透かしているかのようにお父様は最後まで反対してくれたが「跡継ぎを産まなくても良い」という言葉を信じ、出産出来なくても良いのなら、と私は嫁ぐ事にした。
結婚し、彼は毎日私に愛を伝えてきた。
レイナーラ領は確かに空気がキレイで食べ物も新鮮、少し健康にもなれた気がした。
しかし3日と明けずに求められる夜がしんどかった。
拒否しても何だかんだと言って迫ってくる。
子が欲しいのでなく愛してるから抱きたいのだと言うがやることをやっていれば妊娠しても不思議ではない。
「跡継ぎを産まなくていい」といったあの言葉は何だったのかと思いつつ不安な出産を迎えた。
産まれた娘は元気そのもの、私は不調の日が増えたものの出産に耐えることが出来た。
正直我が子が抱けると思っていなかったのでとても嬉しかったが出来れば最初で最後の出産にしたかった。
それほどに妊娠中は辛くてしんどくて死が怖かった。
父は何度かルブランに抗議してくれた。
産後の回復を待たずに求められた事までは流石に言えなかったが察してくれたのかもしれない。
それでもルブランは私を愛していると、大事だと言いながら子が出来る可能性の高い日も関係なく私を抱いた。
長男が産まれた時は正直「もう出産しなくていい」とホッとした。
結婚前は『跡継ぎは養子でも良い』と言っていたがやはり自分の血を引いた跡継ぎが欲しかったのだろうと思っていた。
しかし、ルブランは私を求め続けた。
二度の出産で私は歩けない日すらあったのに関係なく彼は私を求めた。
彼は私を愛しているんじゃない。
私の気持ちや体なんかどうでもいいのだ。
私はいつ儚くなっても良いように両親と子どもたちに手紙を残した。
もちろんお腹の中の子にも。
そして三度目の出産を迎えた。
産まれたのはお父様によく似た明るいブロンドの女の子だった。
私のピンクに光るブロンドはお父様譲りで私も子供の頃はお父様のように今より髪色が明るかった。
だからきっと将来はロベルトより私に似た髪になるでしょうね。
顔立ちも自分によく似ている気がする。
この子には…私と違って自由に生きて欲しい、私の分まで生きて欲しい。
不思議と、そう強く思った。
昔、読んだ本に『私の名前は自由を意味するの!』と言った女の子の物語があったのを思い出す。
確か…主人公の名前は『シャロット』という女の子。
好奇心が強く、賢く、様々な冒険を繰り広げ幸せを掴んでいく子供向けの物語…。
「ルブラン…この子の名前は私が決めたいわ…。シャロット…ダメかしら?」
リビアナもロベルトもルブランが1人で勝手に付けてしまっていた。
でもこの子だけは私が名付けたかった。
きっと長く一緒に過ごせない、母のぬくもりを知る事が出来ないこの子だけは…。
ルブランはすぐには了承してくれなかった。
しかし私はシャロットの名で手紙を書き直した。
たとえ違う名前を付けられても私が付けた名はシャロットだとこの子に伝えたかった。
お腹の子の性別が知れて、抱くことが出来て本当に嬉しかった。
しかしもう起きていることすら辛い。
出産の度に強く感じてきた『死』。
虫の予感というのだろうか、今回は今までと違う感覚があった。
産後、回復どころか日に日に呼吸すら辛くなっていき、遂に死ぬのだなと感じたが不思議と恐怖はなかった。
私はリビアナには私が成人した際にお母様から頂いたお気に入りのブローチを、
ロベルトには侯爵家の頃から使っていた愛用のペンを、
そしてシャロットにはお父様から子供の頃に頂いたお守りのペンダントを形見として包んだ。
残すはどうすれば子供たちにキチンと渡せるか、それを朦朧とした頭で考えているとそろそろ出産だろうと心配でこちらへ向かってくれていた両親が到着した。
最後に会える喜びで涙が溢れる。
私はお父様にルブランが横取りすること無く子どもたちに其々への手紙と形見の品が渡るようにして欲しいと頼んだ。
送ろうと思っていた両親二人への手紙も直接渡せた。
もうやれることはした。
思い残すのは子どもたちの事ばかり。
リビアナ、ロベルト、寂しい思いをさせてごめんね。
どうか妹を可愛がって仲良く育ってね。
お父様、最後まで心配してくれてありがとう。
お母様、先に逝く不幸を許してね。
ベッドの横で私を労りながら子供たちを抱く両親。
シャロットを横たわりながら抱く私。
お父様が苦手なルブランは私の側に居ない。
ここには私の大切な人しかいない。
久々に心からホッとした。
両親にお礼を告げることが出来た。
子供たちにも愛を伝えた。
お父様も、お母様も、涙をはらはら流しながら私の手を握ってくれていた。
皆の顔を最後に見て、シャロットのぬくもりを腕に感じていると視界がボヤけ…そして…。
幸運な最後だったと思う。
何かの病というわけでは無かったのにとても疲れやすかった。
風邪も引きやすく、すぐに脈は早くなり、体の怠い日が多かった。
お医者様には人より体力がない、体力が付きにくい虚弱体質、しかしこれといった原因は分からないので治せない、対処療法しかないと言われていた。
少し年の離れたお兄様は爵位を継いだあとも自分が面倒を見るから結婚はしなくていいと言ってくれた。
お義姉様も婚約者だった頃から家を出る必要は無い、王都でも領地でも暮らしたいところで暮らして良いと言ってくれていた。
両親も兄夫婦が受け入れてくれたのもあって私に婚約者をあてがう事をしなかった。
私も医師に虚弱体質の為出産は難しいかもしれないと言われていたので結婚は相手に申し訳ない事だと考えていた。
そんな私だが、辺境伯であるルブラン・レイナーラに見初められ結婚することになった。
ルブランは自信に満ちた人で若干強引な部分はあったが私を愛してくれているらしい。
本当はあまり結婚したくなかったが、このままお世話になり続けるのは兄夫婦に申し訳ないとも思っていた。
お母様も医師も田舎は療養に良い、もしかしたら今より健康になれるかもしれないと期待しているように思える。
私の迷いを見透かしているかのようにお父様は最後まで反対してくれたが「跡継ぎを産まなくても良い」という言葉を信じ、出産出来なくても良いのなら、と私は嫁ぐ事にした。
結婚し、彼は毎日私に愛を伝えてきた。
レイナーラ領は確かに空気がキレイで食べ物も新鮮、少し健康にもなれた気がした。
しかし3日と明けずに求められる夜がしんどかった。
拒否しても何だかんだと言って迫ってくる。
子が欲しいのでなく愛してるから抱きたいのだと言うがやることをやっていれば妊娠しても不思議ではない。
「跡継ぎを産まなくていい」といったあの言葉は何だったのかと思いつつ不安な出産を迎えた。
産まれた娘は元気そのもの、私は不調の日が増えたものの出産に耐えることが出来た。
正直我が子が抱けると思っていなかったのでとても嬉しかったが出来れば最初で最後の出産にしたかった。
それほどに妊娠中は辛くてしんどくて死が怖かった。
父は何度かルブランに抗議してくれた。
産後の回復を待たずに求められた事までは流石に言えなかったが察してくれたのかもしれない。
それでもルブランは私を愛していると、大事だと言いながら子が出来る可能性の高い日も関係なく私を抱いた。
長男が産まれた時は正直「もう出産しなくていい」とホッとした。
結婚前は『跡継ぎは養子でも良い』と言っていたがやはり自分の血を引いた跡継ぎが欲しかったのだろうと思っていた。
しかし、ルブランは私を求め続けた。
二度の出産で私は歩けない日すらあったのに関係なく彼は私を求めた。
彼は私を愛しているんじゃない。
私の気持ちや体なんかどうでもいいのだ。
私はいつ儚くなっても良いように両親と子どもたちに手紙を残した。
もちろんお腹の中の子にも。
そして三度目の出産を迎えた。
産まれたのはお父様によく似た明るいブロンドの女の子だった。
私のピンクに光るブロンドはお父様譲りで私も子供の頃はお父様のように今より髪色が明るかった。
だからきっと将来はロベルトより私に似た髪になるでしょうね。
顔立ちも自分によく似ている気がする。
この子には…私と違って自由に生きて欲しい、私の分まで生きて欲しい。
不思議と、そう強く思った。
昔、読んだ本に『私の名前は自由を意味するの!』と言った女の子の物語があったのを思い出す。
確か…主人公の名前は『シャロット』という女の子。
好奇心が強く、賢く、様々な冒険を繰り広げ幸せを掴んでいく子供向けの物語…。
「ルブラン…この子の名前は私が決めたいわ…。シャロット…ダメかしら?」
リビアナもロベルトもルブランが1人で勝手に付けてしまっていた。
でもこの子だけは私が名付けたかった。
きっと長く一緒に過ごせない、母のぬくもりを知る事が出来ないこの子だけは…。
ルブランはすぐには了承してくれなかった。
しかし私はシャロットの名で手紙を書き直した。
たとえ違う名前を付けられても私が付けた名はシャロットだとこの子に伝えたかった。
お腹の子の性別が知れて、抱くことが出来て本当に嬉しかった。
しかしもう起きていることすら辛い。
出産の度に強く感じてきた『死』。
虫の予感というのだろうか、今回は今までと違う感覚があった。
産後、回復どころか日に日に呼吸すら辛くなっていき、遂に死ぬのだなと感じたが不思議と恐怖はなかった。
私はリビアナには私が成人した際にお母様から頂いたお気に入りのブローチを、
ロベルトには侯爵家の頃から使っていた愛用のペンを、
そしてシャロットにはお父様から子供の頃に頂いたお守りのペンダントを形見として包んだ。
残すはどうすれば子供たちにキチンと渡せるか、それを朦朧とした頭で考えているとそろそろ出産だろうと心配でこちらへ向かってくれていた両親が到着した。
最後に会える喜びで涙が溢れる。
私はお父様にルブランが横取りすること無く子どもたちに其々への手紙と形見の品が渡るようにして欲しいと頼んだ。
送ろうと思っていた両親二人への手紙も直接渡せた。
もうやれることはした。
思い残すのは子どもたちの事ばかり。
リビアナ、ロベルト、寂しい思いをさせてごめんね。
どうか妹を可愛がって仲良く育ってね。
お父様、最後まで心配してくれてありがとう。
お母様、先に逝く不幸を許してね。
ベッドの横で私を労りながら子供たちを抱く両親。
シャロットを横たわりながら抱く私。
お父様が苦手なルブランは私の側に居ない。
ここには私の大切な人しかいない。
久々に心からホッとした。
両親にお礼を告げることが出来た。
子供たちにも愛を伝えた。
お父様も、お母様も、涙をはらはら流しながら私の手を握ってくれていた。
皆の顔を最後に見て、シャロットのぬくもりを腕に感じていると視界がボヤけ…そして…。
幸運な最後だったと思う。
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