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孫娘シャロット
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愛しい娘を亡くし、可愛い孫にも会えない日々だった。
年に一度か二度しか会えないセディナの忘れ形見たち。
しかも娘が名付けた末の孫シャロットにはセディナの葬式以来一度も会えないまま時が過ぎた。
何年も経ち、社交デビューを果たした孫に私は娘から託されていた形見の品と手紙を渡した。
リビアナにと託された品は妻がセディナの成人の際に贈ったブローチだった。
リビアナはブローチを一旦受け取り眺め「何となく覚えている」とは言ったが「これはおばあさまに渡して。手紙だけ頂くわ」と返されてしまった。
特に感慨深さも無かったようで淡々としたものだった。
ロベルトには私の父がセディナに贈って以来ずっと彼女が愛用していた万年筆だった。
「お母様、わざわざこんなの残してくれてたんだ」と一通り弄くっていたが「僕の好みじゃないからおじい様が使ってくれていいよ」とやはり返されてしまった。
手紙もその場で読んで「はい、ありがとう」と渡される始末。
セディナの「夫ルブランに横取りされることがないように」という願いを叶えるべく、社交デビューの記念に渡したのだが遅すぎたのだろうか。
しかしこの機会より早く確実に本人にそっと渡せる機会が無かったのもまた事実。
セディナに悪いと思いつつペンと共に返されてしまったロベルトへの手紙に目を通すと、震えた文字で寂しい思いをさせて申し訳ないという謝罪とロベルトを愛していること、ずっと見守っているという内容が綴られていた。
短い手紙ではあるが娘が我が子に書いた溢れんばかりの愛情が込められた手紙をこうも無碍にされると悲しくなってしまう。
ルブランは孫を一体どんな風に育てたというのか。
腹立たしさでいっぱいだった。
そしてセディナが亡くなり15年。
墓へ参ると萎れた花で辺りは埋もれ随分と汚らしい。
後先考えずあの男がやらかしたのだろう。
全てが完全に枯れていなかったから墓を管理している教会の者たちも掃除してしまっていいか困っていたらしい。
何か言われれば侯爵に命じられたと言ってよいと許可を出し、辺境伯が立ち去った後は花が枯れて無くとも汚らしく感じれば小まめに掃除をしてくれるよう頼んで漸く墓参りが出来た。
15周忌ということは末の忘れ形見シャロットも15歳だ。
しかし一向に社交デビューしてこなかった。
痺れを切らし問えばセディナと同じ体質というではないか。
意外にもいつでも会いに行って良いと許可をくれたので私は妻と馬車を急がせ3日かけて早速レイナーラ領へ足を運びシャロットを訪ねた。
領地にいるシャロットはセディナと違いとても健康に見えた。
私は祖父ということを伝え、手紙と形見の品を渡す。
シャロットには私がセディナの10歳の誕生日に贈った護符の首飾りだった。
娘の病魔を払って欲しい、そんな願いを込めたペンダントだ。
シャロットは驚いていたものの先に手紙を受け取り、この場で読んでも良いか聞いてきた。
承諾すると彼女は手紙に目を通し、涙を溢しながら「ばあやの言う通りお母様は私を愛していたわ!そう書いてあるわ」と嬉しそうに、かつて我が家でセディナの侍女として働いていた者に手紙を見せていた。
そしてペンダントを受け取り大事にすると約束してくれたのだ。
自分のせいで母親が死んだのではという気持ちがあること、その為私達がシャロットを恨んでいるのではないかと不安だったことを正直に打ち明けてくれた。
私達は、貴族故に他領に滞在するには領主の許可がいること、葬儀の時に年に一度の墓参りの訪問しか許可を貰えていなかったこと、それから父親とは交流がなく、シャロットの社交デビューがないので押しかけて問うとやっとシャロットに好きに会いに来て良いと領主から許可を得られたこと、なので今後は時々会いに来たい事などを告げた。
シャロットはとても喜んでくれた。
その笑顔はセディナを思い出させ、母の面影を残した孫娘への愛しさで胸がいっぱいとなり、年甲斐もなく夫婦で泣いてしまった。
レイナーラ領は正直遠い。
普通に来れば5日、急がせても3日はかかる。
しかし可愛い孫に会えると思えば馬車の旅も苦ではない。
私達は仕事を調整し、少しづつ息子に任せ二ヶ月と空けずに会いに行った。
辺境というのに騎士を含め使用人は最低限しかおらず、領地に閉じ込められている状態とはいえ彼女は幸せそうだった。
そして、恋人や友人を紹介してくれた。
私は他領の領主だが、いつしかシャロットの祖父としてレイナーラ領の者たちにも受け入れられるようになっていた。
そんな交流に心温まる時間を過ごしていたのだが、ある時彼女の目は一重から二重に変わった。
変わったあとのシャロットを初めて見た時、私達は思わず泣いてしまった。
あまりにもセディナに似ていたからだ。
生き写しとはよく言ったものだ、そう思わずにいられなかった。
そのそっくりな孫が健康的に育っている、その事が嬉しくて神様に感謝せずにはいられなかった。
「このお母様の護符をいつも身につけているから元気でいられるのね」
そう笑ってくれるシャロットの優しさもセディナによく似ていて、私はあの男から離れて育てられ良かったと思わずにいられなかった。
しかしこの姿を父親が見れば娘に歪んだ執着を持つに違いない。
そうなれば、恋人なぞ許さないだろう。
こんなにも愛し合い、お互いを大切にしている彼らを引き離すわけにはいかない。
私達はどうすればシャロットが恋人と結ばれるか皆で計画を立てることにした。
年に一度か二度しか会えないセディナの忘れ形見たち。
しかも娘が名付けた末の孫シャロットにはセディナの葬式以来一度も会えないまま時が過ぎた。
何年も経ち、社交デビューを果たした孫に私は娘から託されていた形見の品と手紙を渡した。
リビアナにと託された品は妻がセディナの成人の際に贈ったブローチだった。
リビアナはブローチを一旦受け取り眺め「何となく覚えている」とは言ったが「これはおばあさまに渡して。手紙だけ頂くわ」と返されてしまった。
特に感慨深さも無かったようで淡々としたものだった。
ロベルトには私の父がセディナに贈って以来ずっと彼女が愛用していた万年筆だった。
「お母様、わざわざこんなの残してくれてたんだ」と一通り弄くっていたが「僕の好みじゃないからおじい様が使ってくれていいよ」とやはり返されてしまった。
手紙もその場で読んで「はい、ありがとう」と渡される始末。
セディナの「夫ルブランに横取りされることがないように」という願いを叶えるべく、社交デビューの記念に渡したのだが遅すぎたのだろうか。
しかしこの機会より早く確実に本人にそっと渡せる機会が無かったのもまた事実。
セディナに悪いと思いつつペンと共に返されてしまったロベルトへの手紙に目を通すと、震えた文字で寂しい思いをさせて申し訳ないという謝罪とロベルトを愛していること、ずっと見守っているという内容が綴られていた。
短い手紙ではあるが娘が我が子に書いた溢れんばかりの愛情が込められた手紙をこうも無碍にされると悲しくなってしまう。
ルブランは孫を一体どんな風に育てたというのか。
腹立たしさでいっぱいだった。
そしてセディナが亡くなり15年。
墓へ参ると萎れた花で辺りは埋もれ随分と汚らしい。
後先考えずあの男がやらかしたのだろう。
全てが完全に枯れていなかったから墓を管理している教会の者たちも掃除してしまっていいか困っていたらしい。
何か言われれば侯爵に命じられたと言ってよいと許可を出し、辺境伯が立ち去った後は花が枯れて無くとも汚らしく感じれば小まめに掃除をしてくれるよう頼んで漸く墓参りが出来た。
15周忌ということは末の忘れ形見シャロットも15歳だ。
しかし一向に社交デビューしてこなかった。
痺れを切らし問えばセディナと同じ体質というではないか。
意外にもいつでも会いに行って良いと許可をくれたので私は妻と馬車を急がせ3日かけて早速レイナーラ領へ足を運びシャロットを訪ねた。
領地にいるシャロットはセディナと違いとても健康に見えた。
私は祖父ということを伝え、手紙と形見の品を渡す。
シャロットには私がセディナの10歳の誕生日に贈った護符の首飾りだった。
娘の病魔を払って欲しい、そんな願いを込めたペンダントだ。
シャロットは驚いていたものの先に手紙を受け取り、この場で読んでも良いか聞いてきた。
承諾すると彼女は手紙に目を通し、涙を溢しながら「ばあやの言う通りお母様は私を愛していたわ!そう書いてあるわ」と嬉しそうに、かつて我が家でセディナの侍女として働いていた者に手紙を見せていた。
そしてペンダントを受け取り大事にすると約束してくれたのだ。
自分のせいで母親が死んだのではという気持ちがあること、その為私達がシャロットを恨んでいるのではないかと不安だったことを正直に打ち明けてくれた。
私達は、貴族故に他領に滞在するには領主の許可がいること、葬儀の時に年に一度の墓参りの訪問しか許可を貰えていなかったこと、それから父親とは交流がなく、シャロットの社交デビューがないので押しかけて問うとやっとシャロットに好きに会いに来て良いと領主から許可を得られたこと、なので今後は時々会いに来たい事などを告げた。
シャロットはとても喜んでくれた。
その笑顔はセディナを思い出させ、母の面影を残した孫娘への愛しさで胸がいっぱいとなり、年甲斐もなく夫婦で泣いてしまった。
レイナーラ領は正直遠い。
普通に来れば5日、急がせても3日はかかる。
しかし可愛い孫に会えると思えば馬車の旅も苦ではない。
私達は仕事を調整し、少しづつ息子に任せ二ヶ月と空けずに会いに行った。
辺境というのに騎士を含め使用人は最低限しかおらず、領地に閉じ込められている状態とはいえ彼女は幸せそうだった。
そして、恋人や友人を紹介してくれた。
私は他領の領主だが、いつしかシャロットの祖父としてレイナーラ領の者たちにも受け入れられるようになっていた。
そんな交流に心温まる時間を過ごしていたのだが、ある時彼女の目は一重から二重に変わった。
変わったあとのシャロットを初めて見た時、私達は思わず泣いてしまった。
あまりにもセディナに似ていたからだ。
生き写しとはよく言ったものだ、そう思わずにいられなかった。
そのそっくりな孫が健康的に育っている、その事が嬉しくて神様に感謝せずにはいられなかった。
「このお母様の護符をいつも身につけているから元気でいられるのね」
そう笑ってくれるシャロットの優しさもセディナによく似ていて、私はあの男から離れて育てられ良かったと思わずにいられなかった。
しかしこの姿を父親が見れば娘に歪んだ執着を持つに違いない。
そうなれば、恋人なぞ許さないだろう。
こんなにも愛し合い、お互いを大切にしている彼らを引き離すわけにはいかない。
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