17 / 21
戦闘
しおりを挟む
キルティンの一団がカトゥム達の待つ水場に着いた。無事に移動が済み、アビはほっとして笑顔で大きく息をついた。
「あとはここを好きに使えばいい。早く皆の病気が治るといいな」
アトゥヤクもその言葉に微笑みを返して深く礼をした。アビは満足そうに頷くと、ふと後ろを振り返った。
「……王子?」
気がつけば王子の姿が見当たらない。アビは嫌な予感がして今来た道を駆け戻っていった。
「ヴァンス! 王子はどこに行かれた?!」
駆け寄りながら叫ぶと、クロミアはゆっくりと振り向いた。その顔はとても不機嫌そうだ。
「……貴公の教育が悪いのか、はたまた破壊的な性格は親譲りなのか。全く私の手には負えんな」
クロミアは深いため息をつく。
「何を訳の分からん事を言っている! 王子をどこへやった! 答えんとその素っ首斬りおとすぞ!」
アビは殺気立って大鎌をクロミアに向かって構えた。その時、ようやくアビは王子の宝剣がクロミアの手の中にあることに気付いた。
「貴様その宝剣は?! 王子はどこだ! まさか力づくで奪い取って……」
宝剣を見て逆上したアビは、問答無用でクロミアの首目掛けて力任せに大鎌を振り下ろした。
アビの大鎌がクロミアの首を斬り落とす直前に、その間に割って入ったものがあった。それは、ぴかぴかに光った鋭い鍵爪。
「おう、死神将軍。それ以上はオイタが過ぎるんじゃねぇのか?」
にやにやと笑いながらぬっと現れたのは王立軍のツヴァイ将軍。
「……やはりお前たちつるんでいたのだな。どけ。邪魔立てすれば貴様もただではおかんぞ!」
アビは怖い顔で2人を睨みつけた。しかしツヴァイは気にする様子もなくただニヤニヤとアビを見下ろしている。
「まあまて二人とも。余計な揉め事をしている時ではないぞ。急いでトゥーティリア殿を止めなければ我が国にまで火の粉が降りかかる。状況は歩きながら話す。とにかく落ち着け」
クロミアはそう言って二人を引き連れて王子が駆けていった方に向けて歩き出した。
後から駆けつけたラガマイアの兵士も、やはりキルティンの矢に討ち取られて次々に倒れていく。キルティン側にも怪我人は出ているが、2、3発の銃創などかすり傷だとでもいうように手を緩めることなく攻撃を続けている。
「増援が来るまで持ちません! 一旦引きましょう!」
若い副官が隊長の腕を掴んだ。しかし隊長はその手を振り払い、目に怒りの炎を燃やして走り出した。
「隊長?! 何をする気ですか!」
程なくして、隊長が走り去った方向から勢い良く大きめのジープが飛び出してくる。その荷台にはガトリングガンが搭載されていた。
「撃て! キルティンを蜂の巣にしろ!」
隊長はジープを運転しながら荷台の上の若い兵士に向かって叫んでいる。副官は蒼ざめた。
「た、隊長。その武器はここでは使用禁止ですよ! 他国に知れたら大変なことに!」
しかし隊長は耳を貸す様子もない。
「撃て撃て撃て撃てー!」
若い兵士は言われるままにキルティンの集団に向かって驚異の威力をもった弾を発射する。
とっさに避けたものの、この弾丸の勢いにキルティンの戦士達は一旦岩陰に身を隠した。
「どうするルクドゥ? 全員で突撃してみるか?」
アトゥヤクの兄のカダヤがジープを睨みつけながら言った。それに答えてルクドゥはゆっくりとかぶりを振った。
「あの鉄のけものは私の獲物だ。皆はそこで待て。カダヤ、皆を頼む」
そう言い捨てて岩陰から飛び出した。
「ルクドゥ!」
思わずトゥーティリアもルクドゥの後を追っていた。
「友よ、危険だ。お前も皆と一緒に待て」
ルクドゥは手をかざして止めるが、トゥーティリアは大きく首を横に振って笑った。
「僕も一緒に行くよ! 二人で別々の方向に走れば弾も避け易いってアビが言ってた」
それを聞いてルクドゥはにっこりと笑って頷いた。そうしてトゥーティリアは左から、ルクドゥは右から回り込むようにジグザグに走りながらジープに向かって走り始めた。
「撃て! 右だ! 左だ! ええい! へたくそがー!」
隊長はハンドルを狂ったように切りながら目を血走らせて叫び続けた。ガトリングガンから無数に吐き出される灼熱の弾は、砂漠の砂を巻き上げて次々と空中に砂の柱を立ちのぼらせている。その弾がルクドゥやトゥーティリアの足元を掠め、髪を弾く。それでも二人は恐れることなくジープに向かって駆けて行くのだった。
トゥーティリアはその早い足を生かしてちょこまかと逃げ回る。大きな岩の陰に隠れ、小さな岩を飛び越えてジープを翻弄する。
「もうすぐだ。もうすぐ回りこめるよ」
トゥーティリアはジープの後ろに回りこみ、荷台に飛びつこうとした。しかし、一瞬の油断がいけなかった。
「あっ」
飛び乗った岩のバランスが悪く、トゥーティリアは岩ごとごろりと転がって、地面に投げ出されてしまったのだ。
「今だ! あの金髪のチビに風穴をあけてやれ!」
隊長はハンドルを切ってジープを方向転換させると、トゥーティリア目掛けてアクセルを全開に踏み込んだ。タイヤが砂煙を上げ、地面に転がったままの少年に突進していく。同時にガトリングガンの照準もぴたりとトゥーティリアに合わせられていた。
「わはははは。このままカエルのように轢き殺してやる!」
荒れ狂うジープと弾丸がトゥーティリアに向けて激突しようとしたその瞬間。
ジープがぴたりと止まり、宙に浮いたタイヤが空回りする。
突然止まった反動で隊長はハンドルに顔面をしたたか打ちつけ、荷台の兵士は勢い良くジープから転がり落ちた。
「ルクドゥ!」
倒れたトゥーティリアの上にルクドゥの影が重なる。
砂煙の中から突然姿を現したルクドゥが、走ってきたジープの前面に手をついて止め、そして力任せに車体を押し上げたのだった。
「このけものの鉄の弾を吐く口を斬り落とすのだ」
ジープを押しとどめながらルクドゥが指示をした。トゥーティリアは起き上がりながら頷き、空高く跳躍する。
ジープから投げ出された兵士が拳銃を抜き、中空のトゥーティリアに向かって引き金を引いた。しかしトゥーティリアは強い日差しを背にして飛んでおり、兵士の目は眩んで弾はわずかに逸れた。
トゥーティリアは小鳥のように荷台に舞い降りると、手にした細身の剣でガトリングガンに斬り付けた。
一見華奢に見えるその剣は、蒼白く輝くその刃で菓子でも切るかのようにガトリングガンを4つに切り裂いた。トゥーティリアが荷台から飛び降りたのを確かめて、ルクドゥはジープをひっくり返した。
「やったね! ルクドゥ。鉄のけものをやっつけたよ!」
にこにこと笑うトゥーティリアににっこりと頷いて、ルクドゥはじっとひしゃげたジープを見つめた。
「しかし鉄のけものはいくら狩っても食べられないのが残念だ」
がっかりしたようにそう呟くルクドゥを見て、トゥーティリアはくすくすと笑った。
「あとはここを好きに使えばいい。早く皆の病気が治るといいな」
アトゥヤクもその言葉に微笑みを返して深く礼をした。アビは満足そうに頷くと、ふと後ろを振り返った。
「……王子?」
気がつけば王子の姿が見当たらない。アビは嫌な予感がして今来た道を駆け戻っていった。
「ヴァンス! 王子はどこに行かれた?!」
駆け寄りながら叫ぶと、クロミアはゆっくりと振り向いた。その顔はとても不機嫌そうだ。
「……貴公の教育が悪いのか、はたまた破壊的な性格は親譲りなのか。全く私の手には負えんな」
クロミアは深いため息をつく。
「何を訳の分からん事を言っている! 王子をどこへやった! 答えんとその素っ首斬りおとすぞ!」
アビは殺気立って大鎌をクロミアに向かって構えた。その時、ようやくアビは王子の宝剣がクロミアの手の中にあることに気付いた。
「貴様その宝剣は?! 王子はどこだ! まさか力づくで奪い取って……」
宝剣を見て逆上したアビは、問答無用でクロミアの首目掛けて力任せに大鎌を振り下ろした。
アビの大鎌がクロミアの首を斬り落とす直前に、その間に割って入ったものがあった。それは、ぴかぴかに光った鋭い鍵爪。
「おう、死神将軍。それ以上はオイタが過ぎるんじゃねぇのか?」
にやにやと笑いながらぬっと現れたのは王立軍のツヴァイ将軍。
「……やはりお前たちつるんでいたのだな。どけ。邪魔立てすれば貴様もただではおかんぞ!」
アビは怖い顔で2人を睨みつけた。しかしツヴァイは気にする様子もなくただニヤニヤとアビを見下ろしている。
「まあまて二人とも。余計な揉め事をしている時ではないぞ。急いでトゥーティリア殿を止めなければ我が国にまで火の粉が降りかかる。状況は歩きながら話す。とにかく落ち着け」
クロミアはそう言って二人を引き連れて王子が駆けていった方に向けて歩き出した。
後から駆けつけたラガマイアの兵士も、やはりキルティンの矢に討ち取られて次々に倒れていく。キルティン側にも怪我人は出ているが、2、3発の銃創などかすり傷だとでもいうように手を緩めることなく攻撃を続けている。
「増援が来るまで持ちません! 一旦引きましょう!」
若い副官が隊長の腕を掴んだ。しかし隊長はその手を振り払い、目に怒りの炎を燃やして走り出した。
「隊長?! 何をする気ですか!」
程なくして、隊長が走り去った方向から勢い良く大きめのジープが飛び出してくる。その荷台にはガトリングガンが搭載されていた。
「撃て! キルティンを蜂の巣にしろ!」
隊長はジープを運転しながら荷台の上の若い兵士に向かって叫んでいる。副官は蒼ざめた。
「た、隊長。その武器はここでは使用禁止ですよ! 他国に知れたら大変なことに!」
しかし隊長は耳を貸す様子もない。
「撃て撃て撃て撃てー!」
若い兵士は言われるままにキルティンの集団に向かって驚異の威力をもった弾を発射する。
とっさに避けたものの、この弾丸の勢いにキルティンの戦士達は一旦岩陰に身を隠した。
「どうするルクドゥ? 全員で突撃してみるか?」
アトゥヤクの兄のカダヤがジープを睨みつけながら言った。それに答えてルクドゥはゆっくりとかぶりを振った。
「あの鉄のけものは私の獲物だ。皆はそこで待て。カダヤ、皆を頼む」
そう言い捨てて岩陰から飛び出した。
「ルクドゥ!」
思わずトゥーティリアもルクドゥの後を追っていた。
「友よ、危険だ。お前も皆と一緒に待て」
ルクドゥは手をかざして止めるが、トゥーティリアは大きく首を横に振って笑った。
「僕も一緒に行くよ! 二人で別々の方向に走れば弾も避け易いってアビが言ってた」
それを聞いてルクドゥはにっこりと笑って頷いた。そうしてトゥーティリアは左から、ルクドゥは右から回り込むようにジグザグに走りながらジープに向かって走り始めた。
「撃て! 右だ! 左だ! ええい! へたくそがー!」
隊長はハンドルを狂ったように切りながら目を血走らせて叫び続けた。ガトリングガンから無数に吐き出される灼熱の弾は、砂漠の砂を巻き上げて次々と空中に砂の柱を立ちのぼらせている。その弾がルクドゥやトゥーティリアの足元を掠め、髪を弾く。それでも二人は恐れることなくジープに向かって駆けて行くのだった。
トゥーティリアはその早い足を生かしてちょこまかと逃げ回る。大きな岩の陰に隠れ、小さな岩を飛び越えてジープを翻弄する。
「もうすぐだ。もうすぐ回りこめるよ」
トゥーティリアはジープの後ろに回りこみ、荷台に飛びつこうとした。しかし、一瞬の油断がいけなかった。
「あっ」
飛び乗った岩のバランスが悪く、トゥーティリアは岩ごとごろりと転がって、地面に投げ出されてしまったのだ。
「今だ! あの金髪のチビに風穴をあけてやれ!」
隊長はハンドルを切ってジープを方向転換させると、トゥーティリア目掛けてアクセルを全開に踏み込んだ。タイヤが砂煙を上げ、地面に転がったままの少年に突進していく。同時にガトリングガンの照準もぴたりとトゥーティリアに合わせられていた。
「わはははは。このままカエルのように轢き殺してやる!」
荒れ狂うジープと弾丸がトゥーティリアに向けて激突しようとしたその瞬間。
ジープがぴたりと止まり、宙に浮いたタイヤが空回りする。
突然止まった反動で隊長はハンドルに顔面をしたたか打ちつけ、荷台の兵士は勢い良くジープから転がり落ちた。
「ルクドゥ!」
倒れたトゥーティリアの上にルクドゥの影が重なる。
砂煙の中から突然姿を現したルクドゥが、走ってきたジープの前面に手をついて止め、そして力任せに車体を押し上げたのだった。
「このけものの鉄の弾を吐く口を斬り落とすのだ」
ジープを押しとどめながらルクドゥが指示をした。トゥーティリアは起き上がりながら頷き、空高く跳躍する。
ジープから投げ出された兵士が拳銃を抜き、中空のトゥーティリアに向かって引き金を引いた。しかしトゥーティリアは強い日差しを背にして飛んでおり、兵士の目は眩んで弾はわずかに逸れた。
トゥーティリアは小鳥のように荷台に舞い降りると、手にした細身の剣でガトリングガンに斬り付けた。
一見華奢に見えるその剣は、蒼白く輝くその刃で菓子でも切るかのようにガトリングガンを4つに切り裂いた。トゥーティリアが荷台から飛び降りたのを確かめて、ルクドゥはジープをひっくり返した。
「やったね! ルクドゥ。鉄のけものをやっつけたよ!」
にこにこと笑うトゥーティリアににっこりと頷いて、ルクドゥはじっとひしゃげたジープを見つめた。
「しかし鉄のけものはいくら狩っても食べられないのが残念だ」
がっかりしたようにそう呟くルクドゥを見て、トゥーティリアはくすくすと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる