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王の証
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「ルクドゥ、これ有難う」
トゥーティリアは借りていた首飾りを外し、ルクドゥに手渡しにっこりと微笑んだ。
「これのおかげで僕、なんだかすっごく心が強くなったような気がするよ」
ルクドゥは優しく微笑んでトゥーティリアの肩にその大きな手を置いた。
「これのせいではない。戦士トゥーティリアよ。お前は誰よりも強く大きな心の持ち主だ」
そうして、恥ずかしそうなトゥーティリアの顔をじっと見つめた後、返された首飾りを再びトゥーティリアの首に掛けた。
「族長であった我が父は今朝早く星に還った。今は私が族長を務めている。私はこれからはこの族長の証である首飾りを身につける。トゥーティリア、これは今日からお前のものだ」
その言葉にトゥーティリアは胸がずきりと痛んだ。
「お父さん……亡くなったの? 薬草は間に合わなかったの?」
思わず目から涙がぽろぽろと溢れてしまった。ルクドゥはそんなトゥーティリアに優しい眼差しを送って微笑む。
「星に還ったものはいつでも生者を見守っているものだ。いつかまた出会う日も来るだろう。悲しむことはないのだ。……だが有難う。心優しき友よ」
そう言ってそっとその大きな瞳からこぼれた涙を指で拭った。トゥーティリアはぐっと涙を堪えて頷いた。
ルクドゥは静かに地面に片膝をついてトゥーティリアと目線を合わせた。
「良く聞いてくれ友よ。我々は旅をする民だ。しかし、どんなに離れていても、心は一つだ。もしも私の力が必要になった時はこの首飾りを使いに持たせて私に届けてくれ。何があってもすぐに駆けつけよう」
そうして白い歯を見せてにっこりと笑った。
その笑顔につられるようにトゥーティリアも笑顔になっていた。ルクドゥは嬉しそうに頷くと、ゆっくりとアトゥヤク達の待つテントの方へ戻っていった。
トゥーティリアは嬉しそうに首飾りを握り締めた。
「おめでとうございます」
声に気付いて振り返ると、クロミアが立っており、じっと首飾りを見ていた。
トゥーティリアがぽかんとしてクロミアを見返していると、クロミアはすっと手を伸ばして首飾りに触れた。
「有事の際の武力協定……これが「協定の証」ですよ」
トゥーティリアは驚いてルクドゥが去っていった方に再び振り返った。
ルクドゥの姿は小さくなり、帰りを喜ぶキルティンの人たちに囲まれていた。
「ルクドゥ!」
トゥーティリアは大きな声で叫び、大きく何度も手を振った。
「ありがとう!!」
遠くて良く見えなかったが、ルクドゥは笑っているようだった。そうして大きく手を振り返すと、キルティンの皆を引き連れてテントの中へと消えていった。
それを見届けて、トゥーティリアは大きく息を吐き出した。一度に多くの事があったので、頭の整理が全くついていないのだ。
その時クロミアがぼんやりと立っているトゥーティリアの首からひょいと首飾りを抜き取った。
「あっ……!」
「おい、貴様何を……!」
トゥーティリアとアビは驚いて同時に叫ぶ。
「少し静かにしていてもらおうかルーン将軍。私は議会と陛下からこの宿題と協定についての判断を一任されているのだ」
クロミアは懐から4つに折られた紙を取り出した。金で縁取られ、朱印の押されたその紙を開いてアビの前に突き出した。アビは大きな緑の目を見開いてその書面をまじまじと見つめ、その後がっくりと肩を落とした。
「委任状だと? そんなはずが……。陛下がお前のようなものに……信じられん」
「信じられなくともこれが現実だ。よもや陛下のご意向に背くつもりはないだろうな?」
アビは無念そうに唇を噛み、目を伏せて黙り込むしかなかった。彼女を心配そうにちらりと見てから、トゥーティリアはクロミアに取り付いて叫んだ。
「それはルクドゥが僕にくれた大事なものなんだ。返して。返してよ!」
伸びてきた手を払いのけて、クロミアは冷たく言い放つ。
「残念ですがトゥーティリア殿、あなたは王子をやめると仰った。この首飾りは協定の証として王国に帰属します。ですからこれはヴィリアインの宰相として私が預かります」
トゥーティリアには返す言葉が見つからない。悔しそうに唇を噛んだまま俯いてじっと考え込んだ。
「では私は一足先に国に帰らせていただきますよ。あなた方と違って私は忙しいんです」
クロミアはふいと踵を返して歩き出す。しばらくその姿を見送っていたトゥーティリアは突然意を決したように顔を上げて、クロミアを追いかけた。
「待って! 僕、やっぱり王様になりたい。だから、宝剣とその首飾りを返して!」
クロミアはゆっくりと振り返って嘲笑するように言った。
「……ほう。『宿題』が失敗しそうになると簡単に投げ出しておいて、今全てが揃ったら心変わりですか。これはこれは大したお方だ」
「貴様王子に向かってなんという無礼を申すか!」
さすがに黙っていられなくなったアビが激怒して叫んだ。
「何度も言わせるなルーン将軍。この方はもう王子ではないとさっきから何度も……」
「ええい、うるさい! 王子は王子だ! 屁理屈はよさんか!」
トゥーティリアは今にも飛び掛っていきそうなアビを必死で押しとどめている。
「アビ、ねえアビ。ぼく、クロミアさんに大事な話があるの。ちょっとだけ話をさせて」
トゥーティリアに懇願されて、アビもしぶしぶ振り上げた大鎌を下ろした。
「……命拾いしたなヴァンス」
そう吐き捨てるように言うと、膝を付き鎌を置いてトゥーティリアの後ろに控えた。
トゥーティリアは借りていた首飾りを外し、ルクドゥに手渡しにっこりと微笑んだ。
「これのおかげで僕、なんだかすっごく心が強くなったような気がするよ」
ルクドゥは優しく微笑んでトゥーティリアの肩にその大きな手を置いた。
「これのせいではない。戦士トゥーティリアよ。お前は誰よりも強く大きな心の持ち主だ」
そうして、恥ずかしそうなトゥーティリアの顔をじっと見つめた後、返された首飾りを再びトゥーティリアの首に掛けた。
「族長であった我が父は今朝早く星に還った。今は私が族長を務めている。私はこれからはこの族長の証である首飾りを身につける。トゥーティリア、これは今日からお前のものだ」
その言葉にトゥーティリアは胸がずきりと痛んだ。
「お父さん……亡くなったの? 薬草は間に合わなかったの?」
思わず目から涙がぽろぽろと溢れてしまった。ルクドゥはそんなトゥーティリアに優しい眼差しを送って微笑む。
「星に還ったものはいつでも生者を見守っているものだ。いつかまた出会う日も来るだろう。悲しむことはないのだ。……だが有難う。心優しき友よ」
そう言ってそっとその大きな瞳からこぼれた涙を指で拭った。トゥーティリアはぐっと涙を堪えて頷いた。
ルクドゥは静かに地面に片膝をついてトゥーティリアと目線を合わせた。
「良く聞いてくれ友よ。我々は旅をする民だ。しかし、どんなに離れていても、心は一つだ。もしも私の力が必要になった時はこの首飾りを使いに持たせて私に届けてくれ。何があってもすぐに駆けつけよう」
そうして白い歯を見せてにっこりと笑った。
その笑顔につられるようにトゥーティリアも笑顔になっていた。ルクドゥは嬉しそうに頷くと、ゆっくりとアトゥヤク達の待つテントの方へ戻っていった。
トゥーティリアは嬉しそうに首飾りを握り締めた。
「おめでとうございます」
声に気付いて振り返ると、クロミアが立っており、じっと首飾りを見ていた。
トゥーティリアがぽかんとしてクロミアを見返していると、クロミアはすっと手を伸ばして首飾りに触れた。
「有事の際の武力協定……これが「協定の証」ですよ」
トゥーティリアは驚いてルクドゥが去っていった方に再び振り返った。
ルクドゥの姿は小さくなり、帰りを喜ぶキルティンの人たちに囲まれていた。
「ルクドゥ!」
トゥーティリアは大きな声で叫び、大きく何度も手を振った。
「ありがとう!!」
遠くて良く見えなかったが、ルクドゥは笑っているようだった。そうして大きく手を振り返すと、キルティンの皆を引き連れてテントの中へと消えていった。
それを見届けて、トゥーティリアは大きく息を吐き出した。一度に多くの事があったので、頭の整理が全くついていないのだ。
その時クロミアがぼんやりと立っているトゥーティリアの首からひょいと首飾りを抜き取った。
「あっ……!」
「おい、貴様何を……!」
トゥーティリアとアビは驚いて同時に叫ぶ。
「少し静かにしていてもらおうかルーン将軍。私は議会と陛下からこの宿題と協定についての判断を一任されているのだ」
クロミアは懐から4つに折られた紙を取り出した。金で縁取られ、朱印の押されたその紙を開いてアビの前に突き出した。アビは大きな緑の目を見開いてその書面をまじまじと見つめ、その後がっくりと肩を落とした。
「委任状だと? そんなはずが……。陛下がお前のようなものに……信じられん」
「信じられなくともこれが現実だ。よもや陛下のご意向に背くつもりはないだろうな?」
アビは無念そうに唇を噛み、目を伏せて黙り込むしかなかった。彼女を心配そうにちらりと見てから、トゥーティリアはクロミアに取り付いて叫んだ。
「それはルクドゥが僕にくれた大事なものなんだ。返して。返してよ!」
伸びてきた手を払いのけて、クロミアは冷たく言い放つ。
「残念ですがトゥーティリア殿、あなたは王子をやめると仰った。この首飾りは協定の証として王国に帰属します。ですからこれはヴィリアインの宰相として私が預かります」
トゥーティリアには返す言葉が見つからない。悔しそうに唇を噛んだまま俯いてじっと考え込んだ。
「では私は一足先に国に帰らせていただきますよ。あなた方と違って私は忙しいんです」
クロミアはふいと踵を返して歩き出す。しばらくその姿を見送っていたトゥーティリアは突然意を決したように顔を上げて、クロミアを追いかけた。
「待って! 僕、やっぱり王様になりたい。だから、宝剣とその首飾りを返して!」
クロミアはゆっくりと振り返って嘲笑するように言った。
「……ほう。『宿題』が失敗しそうになると簡単に投げ出しておいて、今全てが揃ったら心変わりですか。これはこれは大したお方だ」
「貴様王子に向かってなんという無礼を申すか!」
さすがに黙っていられなくなったアビが激怒して叫んだ。
「何度も言わせるなルーン将軍。この方はもう王子ではないとさっきから何度も……」
「ええい、うるさい! 王子は王子だ! 屁理屈はよさんか!」
トゥーティリアは今にも飛び掛っていきそうなアビを必死で押しとどめている。
「アビ、ねえアビ。ぼく、クロミアさんに大事な話があるの。ちょっとだけ話をさせて」
トゥーティリアに懇願されて、アビもしぶしぶ振り上げた大鎌を下ろした。
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そう吐き捨てるように言うと、膝を付き鎌を置いてトゥーティリアの後ろに控えた。
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