3 / 15
3
しおりを挟む
なぜなら、ギディオンはこの物語『グランド・マギ』で世界を憎み、世界を滅ぼす冷酷無慈悲な最凶のラスボスなのだから……。
シリルは前世でプレイしたゲーム『グランド・マギ』のバッドエンドを思い出しながら、思わず身震いした。
そんなシリルを見てコゼットは同情の目を向けた。
「可哀想にな。あんな冷酷な大魔術師の使い魔とは、お前もついてないな」
「いや、別にそんなことは……」
「その上、家に閉じ込められて。俺だったら三日で発狂するぜ」
「いや、もともと俺、引きこもりタイプだから割と平気。仕事が休みの日も家でゴロゴロ、スマホでゲームしてたりしてたし」
「スマホ?」
聞き慣れない言葉に目をパチパチと瞬かせるコゼットに慌てて「な、なんでもない」と答える。
「ま、まぁ、とりあえず、この生活に大きな不満はないってこと!」
「そうか? ならいいが、もしこの家を出たくなったらいつでも言えよ。特別に俺の子分として面倒みてやる」
羽を胸に手をあてて言うコゼットに、シリルは目を細めた。
「ありがとうな。その時はお願いするよ」
「おう、任せておけ。……って、噂をすれば何とやらだな。ご主人様のお帰りだ」
窓の外を見下ろしながらコゼットが言うので、シリルも横から顔を出して下を見る。すると、家に向かってくるギディオンの姿が見えた。
森で一番の大樹を魔術で隠れ家としており、シリルたちがいる場所がその上の方であるため、ギディオンは気づいていないようだ。
「それじゃあ、俺はここで失敬するぜ」
「ああ、気をつけて」
コゼットを見送ってから、シリルはすぐに壁に取り付けられた棚を渡るようにしながら、ぴょんぴょんと飛び移っていき、下の玄関まで向かった。
足が床に着地したと同時に、玄関の扉が開いた。
「おかえり。久しぶりに王宮まで行ったから疲れただろう」
無表情で、ふぅ、と小さく溜め息をつきながら扉を閉めるギディオンに、労るように声をかける。すると、ギディオンは無言で視線をスッとこちらに落とした。
しかし、沈黙はほんの一瞬だった。
「シリル~~~~!」
今までの冷たい無表情が嘘のように消え去り、緩みきった顔でシリルを抱き上げると、そのまま勢いよく頬ずりしてきた。
「はぁぁぁ、なんて可愛い、僕の天使……! 会いたかったよ! シリルの久しぶりの匂い、最高すぎる……!」
「や、やめろー!」
シリルの腹に顔をうずめ、全身の匂いを吸い取るかのように深く呼吸するので、シリルは背中を弓なりに反らして距離を取ろうとした。しかし、人間と猫、その力の差はたとえ渾身の力を振り絞っても容易く手の平に収められてしまうほどだ。
「もうっ、毎回やめろって言ってるだろ! くすぐったいんだよ! こちとら服を着てないから直にお前の荒い息がかかって気持ち悪いんだよ!」
シリルは前世でプレイしたゲーム『グランド・マギ』のバッドエンドを思い出しながら、思わず身震いした。
そんなシリルを見てコゼットは同情の目を向けた。
「可哀想にな。あんな冷酷な大魔術師の使い魔とは、お前もついてないな」
「いや、別にそんなことは……」
「その上、家に閉じ込められて。俺だったら三日で発狂するぜ」
「いや、もともと俺、引きこもりタイプだから割と平気。仕事が休みの日も家でゴロゴロ、スマホでゲームしてたりしてたし」
「スマホ?」
聞き慣れない言葉に目をパチパチと瞬かせるコゼットに慌てて「な、なんでもない」と答える。
「ま、まぁ、とりあえず、この生活に大きな不満はないってこと!」
「そうか? ならいいが、もしこの家を出たくなったらいつでも言えよ。特別に俺の子分として面倒みてやる」
羽を胸に手をあてて言うコゼットに、シリルは目を細めた。
「ありがとうな。その時はお願いするよ」
「おう、任せておけ。……って、噂をすれば何とやらだな。ご主人様のお帰りだ」
窓の外を見下ろしながらコゼットが言うので、シリルも横から顔を出して下を見る。すると、家に向かってくるギディオンの姿が見えた。
森で一番の大樹を魔術で隠れ家としており、シリルたちがいる場所がその上の方であるため、ギディオンは気づいていないようだ。
「それじゃあ、俺はここで失敬するぜ」
「ああ、気をつけて」
コゼットを見送ってから、シリルはすぐに壁に取り付けられた棚を渡るようにしながら、ぴょんぴょんと飛び移っていき、下の玄関まで向かった。
足が床に着地したと同時に、玄関の扉が開いた。
「おかえり。久しぶりに王宮まで行ったから疲れただろう」
無表情で、ふぅ、と小さく溜め息をつきながら扉を閉めるギディオンに、労るように声をかける。すると、ギディオンは無言で視線をスッとこちらに落とした。
しかし、沈黙はほんの一瞬だった。
「シリル~~~~!」
今までの冷たい無表情が嘘のように消え去り、緩みきった顔でシリルを抱き上げると、そのまま勢いよく頬ずりしてきた。
「はぁぁぁ、なんて可愛い、僕の天使……! 会いたかったよ! シリルの久しぶりの匂い、最高すぎる……!」
「や、やめろー!」
シリルの腹に顔をうずめ、全身の匂いを吸い取るかのように深く呼吸するので、シリルは背中を弓なりに反らして距離を取ろうとした。しかし、人間と猫、その力の差はたとえ渾身の力を振り絞っても容易く手の平に収められてしまうほどだ。
「もうっ、毎回やめろって言ってるだろ! くすぐったいんだよ! こちとら服を着てないから直にお前の荒い息がかかって気持ち悪いんだよ!」
724
あなたにおすすめの小説
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!
野原 耳子
BL
★執着溺愛系イケメン俳優α×平凡なカメラマンΩ
平凡なオメガである保(たもつ)は、ある日テレビで見たイケメン俳優が自分の『運命』だと気付くが、
どうせ結ばれない恋だと思って、速攻で諦めることにする。
数年後、テレビカメラマンとなった保は、生放送番組で運命である藍人(あいと)と初めて出会う。
きっと自分の存在に気付くことはないだろうと思っていたのに、
生放送中、藍人はカメラ越しに保を見据えて、こう言い放つ。
「やっと見つけた。もう絶対に逃がさない」
それから藍人は、混乱する保を囲い込もうと色々と動き始めて――
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる