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少年とカボチャ頭
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路地裏をカボチャ頭が進んでいく。先程の町中とは違い、子供たちが思い思いのハロウィーンの仮装をしてはしゃぎ回っていた。その手にはカボチャを型どったお菓子入れがあり、中はクッキーやチョコレートなど種類豊富なお菓子が沢山詰まっている。
「見たまえ、我輩の仮装をしている者がいるぞ」
背の高いパンプキンヘッドが仮装した子供達の中に入る。子供達は驚いて立ちすくみ、彼を見上げた。その表情は何処か恐怖に満ちている。パンプキンヘッドは子供達の様子など気にも止めずに、天高く手を広げてくるくると片足で回った。
「やあ人間の子供達よ。我輩の真似はさぞ楽しかろう! 今日は無礼講だ、存分に我輩を味わいたまえ! 」
彼が最後まで言い終わらぬうちに、回った勢いで頭が何処かへ吹っ飛んでいく。その様を直に目の当たりにした子供達は、今までにない程の悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。そこに残ったのは、頭のないパンプキンヘッドだけだ。
「お、おじ……パンプキンヘッド、頭」
横で様子を伺っていたダニエルが、頭を抱えてヨロヨロとパンプキンヘッドに近付く。彼はダニエルから頭を受け取ると、しっかりと元ある場所に戻す。
「1度外れるとどうしても癖がついていかんな」
グリグリと頭を体に押し当てて、困った様にそう述べる。どちらかと言うと、困っているのはダニエルの方だった。何故なら、この奇妙な存在のせいで人々は誰1人彼らに近付こうとしないのだから。最も、元凶であるパンプキンヘッドはそんなことは些細な問題に過ぎないと考えていた。むしろ、己の存在が輝かしすぎて眩しいから、人々は遠巻きに自分を見て有り難がってると思っている。何処までも自己肯定をしている、おめでたい奴だった。
「これでは埒があかんな。ダニエルよ、何か手がかりは無いのかね?」
「ぼ、僕のお家は赤い屋根だった……よ」
「それだけか?」
「ごめんなさい……思い出せないの」
「……まあ1日は長い。赤い屋根の家を訪ねていればいずれ思い出すであろう」
パンプキンヘッドはダニエルの言葉を元に、赤い屋根の家を探す事にした。そこの住宅地で赤い屋根は5件、その隣の住宅地には7件あった。パンプキンヘッドは小さく顎であろう場所に手を当てる。
「なるほど、では行こう」
「で、でも間違ってたら怪しまれちゃうよ」
「何を言っている。我輩の仮装した者達が見知らぬ人の家で言っている言葉があるではないか。何と言ったかな、『供物を献上せねば然るべき罰を与える』?」
「……トリックオアトリート、『お菓子くれなきゃ悪戯するぞ』だよ」
「間違いでは無いな」
そう言ってパンプキンヘッドはダニエルの手を引いて、一番近くにある赤い屋根の家の扉をノックした。中からブロンドの美しい女性が笑顔で出てきたが、パンプキンヘッドを見て固まる。彼は大きな声で高らかに女性に言った。
「すまないが、ダニエルという子はこのお宅の子かね!?」
「ひっ……え、いえ、違います」
「そうか。ならば申し訳なかった。『トリックアンドトリート』」
「『トリックオアトリート』だよ」
「間違えた。『トリックオアトリート』」
パンプキンヘッドがそう答えると、ブロンドの女性は苦笑いしながらもお菓子が入った袋を手渡してくれた。この奇妙なカボチャ頭はハロウィーンでふざけている輩と思ったらしい。扉が閉まった後、パンプキンヘッドはお菓子を物珍しげに見つめていた。
「おいダニエルよ、これには我輩が描かれてるぞ」
「それはパンプキンヘッドじゃないよ。ジャック・オ・ランタンって言うんだ」
「ジャックだと?ふん、この我輩を真似て人気者気取りとは、何とも悲しい奴だ」
パンプキンヘッドは中からクッキーを取り出して、口に放り投げた。正直、どうやって食べているのかは謎だ。そもそも、彼の存在自体も謎なのだが。
パンプキンヘッドはダニエルを連れて、暫く赤い屋根の家を回ったのだが、何の成果も得られなかった。得られたものと言えば、ハロウィーン仕様の色とりどりのお菓子だけ。彼はダニエルとお菓子を食べながら道を進んでいく。
「本当はこんな下品な食べ方をしてはならないのだがな、今日は特別だぞ」
「……うん」
「しかし見付からぬというのも不思議な話だ。ここの近くではないかもしれんな」
パンプキンヘッドは立ち止まって考える。だがお菓子を食べる手は全くと言っていいほど止まっていない。熟考し、ついでに持っていた袋が空になった時、彼は頷いてダニエルに言った。
「隣の村に行ってみようじゃないか」
「え……?でもここから遠いよ?」
「案ずるな、我輩はパンプキンヘッドだぞ?」
彼はそう言ってポケットから小さな笛を出した。そして、得意気にそれを吹く。その大きく開いた口でどうやって笛を吹いたのかは物議を醸すのだが、笛の音色は大きく空に響いて行った。
どこからともなく馬の蹄が駆ける音が聞こえてくる。それはやがて大きくなり、1頭の首の無い馬がパンプキンヘッドの元へとやって来た。ダニエルはそれを見て青ざめた顔をする。
「紹介しよう。我が愛馬、リッキーだ」
「あ、頭はどうしたの?」
「玄関に飾ってある」
パンプキンヘッドは問題が無いとでも言うようにそう答え、馬の背にダニエルを乗せた後に自身も乗ってみせる。そして、軽く馬の尻を叩いた後に叫んだ。
「行くぞリッキー! 目指すは隣の村だ! 」
「見たまえ、我輩の仮装をしている者がいるぞ」
背の高いパンプキンヘッドが仮装した子供達の中に入る。子供達は驚いて立ちすくみ、彼を見上げた。その表情は何処か恐怖に満ちている。パンプキンヘッドは子供達の様子など気にも止めずに、天高く手を広げてくるくると片足で回った。
「やあ人間の子供達よ。我輩の真似はさぞ楽しかろう! 今日は無礼講だ、存分に我輩を味わいたまえ! 」
彼が最後まで言い終わらぬうちに、回った勢いで頭が何処かへ吹っ飛んでいく。その様を直に目の当たりにした子供達は、今までにない程の悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。そこに残ったのは、頭のないパンプキンヘッドだけだ。
「お、おじ……パンプキンヘッド、頭」
横で様子を伺っていたダニエルが、頭を抱えてヨロヨロとパンプキンヘッドに近付く。彼はダニエルから頭を受け取ると、しっかりと元ある場所に戻す。
「1度外れるとどうしても癖がついていかんな」
グリグリと頭を体に押し当てて、困った様にそう述べる。どちらかと言うと、困っているのはダニエルの方だった。何故なら、この奇妙な存在のせいで人々は誰1人彼らに近付こうとしないのだから。最も、元凶であるパンプキンヘッドはそんなことは些細な問題に過ぎないと考えていた。むしろ、己の存在が輝かしすぎて眩しいから、人々は遠巻きに自分を見て有り難がってると思っている。何処までも自己肯定をしている、おめでたい奴だった。
「これでは埒があかんな。ダニエルよ、何か手がかりは無いのかね?」
「ぼ、僕のお家は赤い屋根だった……よ」
「それだけか?」
「ごめんなさい……思い出せないの」
「……まあ1日は長い。赤い屋根の家を訪ねていればいずれ思い出すであろう」
パンプキンヘッドはダニエルの言葉を元に、赤い屋根の家を探す事にした。そこの住宅地で赤い屋根は5件、その隣の住宅地には7件あった。パンプキンヘッドは小さく顎であろう場所に手を当てる。
「なるほど、では行こう」
「で、でも間違ってたら怪しまれちゃうよ」
「何を言っている。我輩の仮装した者達が見知らぬ人の家で言っている言葉があるではないか。何と言ったかな、『供物を献上せねば然るべき罰を与える』?」
「……トリックオアトリート、『お菓子くれなきゃ悪戯するぞ』だよ」
「間違いでは無いな」
そう言ってパンプキンヘッドはダニエルの手を引いて、一番近くにある赤い屋根の家の扉をノックした。中からブロンドの美しい女性が笑顔で出てきたが、パンプキンヘッドを見て固まる。彼は大きな声で高らかに女性に言った。
「すまないが、ダニエルという子はこのお宅の子かね!?」
「ひっ……え、いえ、違います」
「そうか。ならば申し訳なかった。『トリックアンドトリート』」
「『トリックオアトリート』だよ」
「間違えた。『トリックオアトリート』」
パンプキンヘッドがそう答えると、ブロンドの女性は苦笑いしながらもお菓子が入った袋を手渡してくれた。この奇妙なカボチャ頭はハロウィーンでふざけている輩と思ったらしい。扉が閉まった後、パンプキンヘッドはお菓子を物珍しげに見つめていた。
「おいダニエルよ、これには我輩が描かれてるぞ」
「それはパンプキンヘッドじゃないよ。ジャック・オ・ランタンって言うんだ」
「ジャックだと?ふん、この我輩を真似て人気者気取りとは、何とも悲しい奴だ」
パンプキンヘッドは中からクッキーを取り出して、口に放り投げた。正直、どうやって食べているのかは謎だ。そもそも、彼の存在自体も謎なのだが。
パンプキンヘッドはダニエルを連れて、暫く赤い屋根の家を回ったのだが、何の成果も得られなかった。得られたものと言えば、ハロウィーン仕様の色とりどりのお菓子だけ。彼はダニエルとお菓子を食べながら道を進んでいく。
「本当はこんな下品な食べ方をしてはならないのだがな、今日は特別だぞ」
「……うん」
「しかし見付からぬというのも不思議な話だ。ここの近くではないかもしれんな」
パンプキンヘッドは立ち止まって考える。だがお菓子を食べる手は全くと言っていいほど止まっていない。熟考し、ついでに持っていた袋が空になった時、彼は頷いてダニエルに言った。
「隣の村に行ってみようじゃないか」
「え……?でもここから遠いよ?」
「案ずるな、我輩はパンプキンヘッドだぞ?」
彼はそう言ってポケットから小さな笛を出した。そして、得意気にそれを吹く。その大きく開いた口でどうやって笛を吹いたのかは物議を醸すのだが、笛の音色は大きく空に響いて行った。
どこからともなく馬の蹄が駆ける音が聞こえてくる。それはやがて大きくなり、1頭の首の無い馬がパンプキンヘッドの元へとやって来た。ダニエルはそれを見て青ざめた顔をする。
「紹介しよう。我が愛馬、リッキーだ」
「あ、頭はどうしたの?」
「玄関に飾ってある」
パンプキンヘッドは問題が無いとでも言うようにそう答え、馬の背にダニエルを乗せた後に自身も乗ってみせる。そして、軽く馬の尻を叩いた後に叫んだ。
「行くぞリッキー! 目指すは隣の村だ! 」
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