獣の恋

麻黄緑推

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本編

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私の記憶は朧げで、一番古い記憶でも、既に彼と、宗二と遊んでいた。
宗二の話通りなら、私は今住む穴蔵で瀕死で寝ていたらしいから、親に捨てられたか、はたまた何かに襲われたのか。どうであれ、記憶が定かじゃない原因は碌なものじゃ無いと思う。

そんな私にとって宗二は親代わりで、兄妹の様でもあって、そして・・・恋をした相手でもあった。
伴侶、夫婦、番い・・・あいつが持ってきた辞書とやらには他にもたくさん、私があいつとなりたかった関係が書いてあった。

宗二との出会いーと言っても私は覚えていないがーは、私の住処。ここで10年前に出会った。
あの時はまだ互いに小さくて、瀕死だったらしい私を、宗二は家から持ってきたなけなしのお菓子なんかで世話してくれた。
そこまでしてくれた訳は、聞いたら「なんとなく」と帰ってくるのが常だったけれど、そんな理由で私をあんなに良くしてくれた宗二は本当にいい奴だと思う。

3年経って、互いに大きくなった辺りで、宗二が辞書を持ってきた。
よく喋る様になった私に言葉を教える目的だったっけ。
辞書は私に沢山のことを教えてくれて、お陰であいつとの意思疎通も柔軟に行える様になった。

5年経った頃、宗二は中学生とやらになった。
中学生は忙しいと、よく愚痴っていたけれど、それでも毎日顔を見せてくれた。
学校で覚えてきた料理を作ってきてくれる様になったのもその辺りだった。
飯が格段に美味くなったのを覚えている。

8年経って、宗二は高校生になったらしい。
この頃から、たまに来ないことがあった。
来たら来たで、なんだか気まずそうな顔をしていた。
問いただしたら、私が裸なのが恥ずかしいとか言われた。
つまり、宗二は私を雌として認識していた。
獣だから服を着ないのは当然だが、なんだか嬉しかった。

9年経った、つまり去年。
好きな娘が出来たと告げられた。
翌々日に、好きな子が彼女になったと喜んでいた。
私の喜びは、泡沫と消えた。
私はどこまで行っても獣の雌でしかなかった。
人間の様な一対の乳房は、単なる雌としての記号でしかなく、あいつは記号にただ反応していただけで、私は人間の雌にはなれなかった。
宗二の雌になる事は出来なかった。

今年。
と言うよりもさっき。
宗二がこの地域から離れると言いに来た。
外の大学とやらに行くと。
彼女が行くから付いて行くと。
だからもう来れない事を、わざわざ言いに来た。
気付くと私は、宗二の喉笛を噛みちぎっていた。

今。
足元に死体が転がっている。
肉が勿体ないのでさっきから食んでいる。
獣は狩りをやって肉を食うのだ、これが普通なんだ。
人間から飯を貰って、人間と話をして、人間の事が好きになって、今までの私の方が異常なんだ。
種族が違う動物は肉食動物である私にとって全て食べ物だから、今の状態が正常なのだ。
正常な筈だ。
なのに。
こいつの肉は、今までのどんな食い物よりも一番、不味い。
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