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9 戸惑いの味
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「んっ、篤……だめ……」
「何がだめなんだよっ……」
はあっと息を荒げながら強く唇を押し付ける篤の勢いに、私は呑みこまれそうになる。
今日が夜勤明けでよかった、なんてことを考えてしまう私もどうかしているだろう。
おかげで病院周辺は閑散としており人目もほとんどない。
初めて重ねた唇は柔らかくて、温かかった。
様々な角度からまるで確かめられるかのように唇が重ねられて、息継ぎの間すら与えてはくれない。
やがてぬるりと熱いものが唇の僅かな隙間から入り込む。
私の舌を執拗に探し回し、絡め取っていく。
「ん、ふうっ……」
「お前そんな声出すの……? やばい、止まらない」
くちゅ、くちゅ、と舌が絡まり互いの息もどんどん荒くなっていく。
じゅっと舌を吸い上げられたかと思えば、次の瞬間食らいつくように唇を奪われる、の繰り返し。
やがて知らぬうちに篤の手は私の胸元に添えられていた。
──このままだと私、篤と……。
それはだめだと、途端にどこか頭の中で冷静になった自分がいた。
「だめ、それはさすがにだめだよ」
そっと胸元に置かれた彼の手のひらに、自分の手を重ねて外す。
その行為に、ぷつりと唇が離された。
少し潤んだ瞳で、恨めしそうな顔でこちらを見つめる篤。
「場所、移動しよっか?」
どうやらここが駐車場だから私が止めたのだと勘違いしているようだ。
体を離し、そっと私の頬を撫でる。
「違うの。そういう意味じゃない……」
「……何? どういう意味?」
「……こういうのは、間違ってるっていうか……しちゃいけない気がする」
重苦しい沈黙が私に突き刺さる。
「は? 間違ってるってどういうこと? 澪は今彼氏いないんだろ? 俺だって誰とも付き合ってないし、何も問題ない」
「でも四年間全く会ってなかったのに、こんなにすぐっていうのは……」
「そんなの関係あるか? 俺ら十年以上一緒にいて、しかもお互い好き同士だったんだぞ?」
「でも、今は違う! 篤だって大学で彼女の一人くらいいたでしょ?」
「俺、澪のこと忘れたことなかったよ。誰と付き合っても結局続かなくてさ」
一度離れた体が、また重ねられる。
重なった胸元から伝わる鼓動が、とてつもなく速い速度でリズムを刻んでいた。
「なあ澪。俺と付き合ってほしい」
「そんな、急に言われても……」
篤のことは嫌いではない。
むしろ今も少なからず彼のことを思っているのだと、先ほどのキスで思い知らされた。
篤は戸惑う私の様子に一瞬悲しげな表情を浮かべた後、思い直したかのように正面を向いて座り直し、ハンドルを握った。
「……今日は仕事終わりで疲れてるよな、ごめん。もう何もしない。車出すから」
それから目的地へと到着するまでの間、互いに口を開くことはなかった。
最寄りの駅に着き、私は一言お礼を告げてドアを開ける。
すると空いた方の手首を後ろからぎゅっと掴まれた。
「っ……」
「澪、連絡先教えて」
断る理由なんて、浮かばなかった。
結局私は言われるがまま、篤に連絡先を教えたのだ。
「また連絡する。次は澪が休みの日に、ゆっくり会いたい」
篤はそれだけ告げると私の方を見て頷き、答えを待たないまま車で走り去っていった。
「突然すぎるよ……」
無意識のうちに唇に触れる。
先ほどまでの熱が余韻として残っているような気がして、そのまま指でなぞった。
大好きだった篤と交わした初めてのキス。
それは嬉しさと戸惑いの味だった。
「何がだめなんだよっ……」
はあっと息を荒げながら強く唇を押し付ける篤の勢いに、私は呑みこまれそうになる。
今日が夜勤明けでよかった、なんてことを考えてしまう私もどうかしているだろう。
おかげで病院周辺は閑散としており人目もほとんどない。
初めて重ねた唇は柔らかくて、温かかった。
様々な角度からまるで確かめられるかのように唇が重ねられて、息継ぎの間すら与えてはくれない。
やがてぬるりと熱いものが唇の僅かな隙間から入り込む。
私の舌を執拗に探し回し、絡め取っていく。
「ん、ふうっ……」
「お前そんな声出すの……? やばい、止まらない」
くちゅ、くちゅ、と舌が絡まり互いの息もどんどん荒くなっていく。
じゅっと舌を吸い上げられたかと思えば、次の瞬間食らいつくように唇を奪われる、の繰り返し。
やがて知らぬうちに篤の手は私の胸元に添えられていた。
──このままだと私、篤と……。
それはだめだと、途端にどこか頭の中で冷静になった自分がいた。
「だめ、それはさすがにだめだよ」
そっと胸元に置かれた彼の手のひらに、自分の手を重ねて外す。
その行為に、ぷつりと唇が離された。
少し潤んだ瞳で、恨めしそうな顔でこちらを見つめる篤。
「場所、移動しよっか?」
どうやらここが駐車場だから私が止めたのだと勘違いしているようだ。
体を離し、そっと私の頬を撫でる。
「違うの。そういう意味じゃない……」
「……何? どういう意味?」
「……こういうのは、間違ってるっていうか……しちゃいけない気がする」
重苦しい沈黙が私に突き刺さる。
「は? 間違ってるってどういうこと? 澪は今彼氏いないんだろ? 俺だって誰とも付き合ってないし、何も問題ない」
「でも四年間全く会ってなかったのに、こんなにすぐっていうのは……」
「そんなの関係あるか? 俺ら十年以上一緒にいて、しかもお互い好き同士だったんだぞ?」
「でも、今は違う! 篤だって大学で彼女の一人くらいいたでしょ?」
「俺、澪のこと忘れたことなかったよ。誰と付き合っても結局続かなくてさ」
一度離れた体が、また重ねられる。
重なった胸元から伝わる鼓動が、とてつもなく速い速度でリズムを刻んでいた。
「なあ澪。俺と付き合ってほしい」
「そんな、急に言われても……」
篤のことは嫌いではない。
むしろ今も少なからず彼のことを思っているのだと、先ほどのキスで思い知らされた。
篤は戸惑う私の様子に一瞬悲しげな表情を浮かべた後、思い直したかのように正面を向いて座り直し、ハンドルを握った。
「……今日は仕事終わりで疲れてるよな、ごめん。もう何もしない。車出すから」
それから目的地へと到着するまでの間、互いに口を開くことはなかった。
最寄りの駅に着き、私は一言お礼を告げてドアを開ける。
すると空いた方の手首を後ろからぎゅっと掴まれた。
「っ……」
「澪、連絡先教えて」
断る理由なんて、浮かばなかった。
結局私は言われるがまま、篤に連絡先を教えたのだ。
「また連絡する。次は澪が休みの日に、ゆっくり会いたい」
篤はそれだけ告げると私の方を見て頷き、答えを待たないまま車で走り去っていった。
「突然すぎるよ……」
無意識のうちに唇に触れる。
先ほどまでの熱が余韻として残っているような気がして、そのまま指でなぞった。
大好きだった篤と交わした初めてのキス。
それは嬉しさと戸惑いの味だった。
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