【R-18】その初恋、やり直してもいいですか?

桜百合

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14 最悪のはじまり(篤side)

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 ハッと目が覚めると、あたりはまだ薄暗く朝にはなっていないようだ。
 そして隣を見ると、すうすうと穏やかな寝息を立てる澪の姿が。
 上半身に俺のシャツを身につけただけ、という無防備すぎる格好に思わず下半身へ熱が集まりそうになる。

 激しすぎた行為の余韻だろうか、急に喉の渇きを感じて水を取りに行くために体を起こす。
 心地よい気だるさの残る体でベッドから立ち上がるとキッチンへ向かい、冷蔵庫の中にあったペットボトルを手に取った。
 ごくごくと飲み干せば、その冷たさが疲れを癒してくれるようで心地いい。

「篤……どこ?」

 するとその時、背後から若干掠れた声で名を呼ばれた。

「キッチン。喉渇いてさ。澪も何か飲む?」

 振り向けば澪が上半身を起こしてこちらを見ていた。
 寝ぼけたような顔が幼くて、なんとも可愛い。

「ううん、いらない。寒いから一緒に寝たいの」

 澪のその言葉に対して、『寒いなら着替えれば?』なんて野暮な返事などするわけもなく。
 俺は彼女の言う通りにベッドへ戻ると、そっとその体を抱きしめた。
 澪は擦り寄るように俺の胸元で丸くなると、再び目を閉じる。

 ──幸せだ。澪が俺の腕の中にいるなんて。

 眠りに落ちていく澪を眺めながら、俺は長かった空白の四年間を思い出していた。



『ねえ、好きなの。付き合って?』

 高校三年生だったあの日。
 卒業式を終えた俺は同じクラスの成原梨央に呼び出され、皆が帰った後の人気のない教室にいた。

 呼び出された時点でそういう用件だということは、なんとなくわかっていた。
 あとで考えれば、最初から行く必要などなかったのだ。
 俺はずっと澪に片想いしていて、澪以外のやつと付き合う気なんてなかったというのに。

 だがあの時の自分は幼かった。
 ただただ未熟だった。

 クラスの中でも目立つ女子であった成原。
 そんな女子が自分に告白しようとしているなんて、と変な優越感が湧いてきたのだ。
 高校生の男子にとって、自分が告白される場面はまんざらでもないものだろう。
 当時の俺はまさにそんな思考であったのだ。

『……ごめん、気持ちは嬉しいけど……成原とは付き合えない』

『なんで!? 今彼女いないって言ってたじゃん!』

 もちろん俺は彼女の告白をすぐに断った。
 告白されるとわかっていて、しかも自分の心の中には澪がいるというのに、断る前提で成原と向き合った当時の俺を蹴り飛ばしてやりたい。

『彼女はいないけど、好きなやついるから……』

『それって長谷川澪? あんな子のどこがいいわけ!?』

『おい、澪のこと悪く言うなよ!』

 澪の名を出したことにより、成原はさらに逆上した。

『最低! 元からOKする気なんてなかったんじゃない』

 そして次の瞬間、あの出来事が起きたのだ。
 グイッとシャツを掴まれたと思った次の瞬間、唇に押しつけられるようにして何かが触れた。
 それが成原の唇で、俺たちはキスしているのだと気づくのに時間がかかった。
 時間にしてみれば数秒であったのかもしれないが、かなり長い時間に思えてしまった。

 早く成原から離れなければ、とようやく思考が働きかけた、まさにその時であった。
 静まり返っていた教室にガタン! と大きな音が響き、一気に現実へと引き戻される。
 慌てて成原の体を突き放すようにして距離を空けた俺の視線に入ってきたのは、一番見られたくなかった相手。
 目を見開くようにして俺たちのことを見つめる澪の姿だった。

『澪……』

 咄嗟に口から出た声は恐ろしく掠れて小さかった。

『ごめん、お邪魔しました!』

 明らかに動揺した様子の澪は早口でそう言うと、二度とこちらを見ることなく教室から走り去ってしまったのだ。
 追いかけなければ、そう思ったのはそれからしばらくしてからのこと。
 情けないことに、澪にキスを見られたことがあまりにショックで、思考が停止していたのだ。

 ハッと体が動いた時には既に遅く。
 澪の姿はもちろんそこにはなかった。

『見られちゃったね?』

 成原はクスッと上目で俺を見つめながら笑う。
 その様子にどうしようもなく苛立ったが、全ては自業自得だ。

 もう成原に構っている時間などない。
 今すぐ、澪に会って誤解を解かなければならない。

『ね、あんな子忘れよ? 私なら篤に好きなことさせてあげるよ?』

 はだけたブラウスから僅かに覗く谷間。
 だがそれを見ても驚くほどに何も感じない自分に驚いた。

『本当にそういうの求めてないから。俺帰るわ』

『ちょ、篤! 待って、連絡先教えて!』

『……ごめん』

 急いで教室を出る。
 そしてスマホで澪の連絡先を呼び出し電話をかけた。
 だが、彼女は出てくれない。

 痺れを切らした俺はメッセージも送信する。
 一通送ってしばらく待ち、返事が来ないため再度送信する。
 何度そんな行為を繰り返しただろうか。

 いくら着信を増やそうとも、メッセージを送ろうとも、彼女が反応してくれることはなかった。

 ──嘘だろう、こんなことで……。

 次の日も、その次の日も。
 何日経っても結果は同じ。
 もうこうなれば直接彼女の家に向かうしかない。

 ──もしも彼女に拒絶されてしまったら…?

 これまでその事実を恐れて、彼女に会いにいくことができなかった。
 だが彼女は県外の大学へと進学する予定なのだ。
 もはやあと数日しか残された時間はない。
 俺は勇気を振り絞って彼女の実家へと向かう。

『澪? ごめんね、今あの子出かけてていないの……』

 チャイムを鳴らし、中から出てきたのは澪の母親だ。
 どことなく澪の面影を感じる彼女は、俺の姿を見るなりそう告げた。
 心底申し訳なさそうにそう告げる澪の母親の姿に、俺はもう澪にとって不快な存在になってしまったのかもしれないと感じた。

 家にいないのは本当なのだろうか。
 俺に会いたくないから、居留守を使っているのかもしれない。

 心の中にそんな思いがよぎるが、それを口に出して尋ねる勇気もない。
 俺はただそのまま引き下がることしかできなかった。

 どうしようもないくらい澪に嫌われたんだ。

 当時の情けない俺はその現実を受け止めるのが怖くて、逃げてしまった。
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