私と彼の八年間〜八年間付き合った大好きな人に別れを告げます〜

桜百合

文字の大きさ
38 / 44
二人のその後・番外編

番外編:ほろ苦くて甘いバレンタイン①

本編終了後、結婚を間近に控えた二人のお話です。
途中で過去の回想が入り、そこから現在に戻る流れになっています。

────────────────────


「葵って高三の時のバレンタイン、誰かに渡した?」
「え、バレンタイン?」

 俊との結婚を目前に控えた冬のこと。
 テレビから流れてきたバレンタインの広告を目にした彼が、唐突にそんなことを尋ねてきた。

「……渡してないけど」
「俺、葵からもらえるんじゃないかって少し期待してた」

 飲みかけのコーヒーが入ったマグカップをテーブルの上に置くと、俊は隣に来るように手招きしてくる。
 その合図に従うようにして私はソファに腰を下ろした。
 彼は優しく私の頭を撫でた後、ゆっくりと足を組む。
 さらさらとした黒髪が揺れ、私は彼の整った横顔をぼんやりと眺めた。

「でも他の子からたくさんチョコもらってたよね?」

 少し意地悪な言い方をしてみると、彼はむっと唇を突き出して抗議する。

「どれだけたくさんもらったって、好きなやつからもらえなきゃ意味ないだろ」
「……私、用意してた」
「えっ」

 今度は俊が戸惑うような声を上げる。

「俊に渡そうと思って、その……チョコ用意してたよ。手作りの。渡せなかったけど……」

 もうあれから十年近く経っていることに驚きながらも、心の中にしまっていた真実を告げる。

「はあっ!?」
「ちょ、そんな大きな声出さないでよ。言うつもりなかったのにな」
「え、じゃあそのチョコどうしたんだよ。まさか違うやつに……」
「あー、うん……」

 途端に俊の顔には絶望の色が浮かぶ。

「え、何、誰にあげたんだよ……そいつのこと好きだったの?」
「そんなわけないでしょ! 色々事情があったの!」
「誰? 葵のチョコ食ったやつ……」
「……藤沢。藤沢結城。同じクラスの……」

 彼は高校時代に俊と仲が良かった男子生徒だ。
 大学進学をきっかけに疎遠となってしまったようだが、当時はよく二人が一緒にいたところを目にしている。

 だんだんと蘇ってくるあの日の苦い思い出に、思わず私は俊の方から顔を背ける。

「ね、もうその話はいいでしょ。今年は何作ってほしい?」

 嫌な記憶を思い出したくなくて話題を逸らそうとするが、俊はそんな子ども騙しのような真似には引っかからなかった。
 
「教えろよ、なんで俺にくれなかったの?」
「もう、しつこいっ……」
「だって葵がせっかく俺のために作ってくれたのに、あの時の俺何やってんだろって」

 申し訳なさそうにそう言う俊の姿を見ていると、こちらの方が申し訳なくなってしまった。
 私が勝手にチョコを渡さないと決めただけのことで、彼が何かしたわけではないからだ。

「わかった、話すから……」

 こうして私はほろ苦いバレンタインの思い出を、俊へと話し始めたのである。



 高校三年生の冬。
 皆が受験で落ち着かない日々を過ごす中、バレンタインを迎えようとしていた。
 とはいえ推薦などですでに進学先が決定している生徒もいて、私もその一人である。
 この高校の生徒の多くが進学する地元の大学を受験することをやめ、新幹線の距離の大学に進学することを決めたのはほんの数ヶ月前のこと。
 自分で言うのもなんだが、かなり優秀な成績を納めていた私は、突然の進路変更で困ることはなかった。

 進路変更の動機は、自分の希望する学部に強い大学を見つけたから。
 だがこれは建前で、本当は「新しい環境で一からやり直してみたかった」から。
 本心は片思いしている俊への気持ちに、踏ん切りをつけたかったからなのかもしれない。

 席が隣になったことがきっかけで仲良くなった俊とは、いつも切磋琢磨できるいい関係性であった。
 だがいつからかそんな彼に対して恋心を抱いてしまった私は、愚かだったと思う。

 俊はいつだってその親密な態度を崩すことはない。
 よく言えば親密、悪く言えばそれだけの関係でそれ以上にはなれなかった。
 並んで下校している時にそっと手が触れたこともある。

 今思えば私の方があえてそうなるように仕向けたのかもしれない。
 もしかしたら触れた手を彼が握り返してくれるかもしれないと、淡い期待を抱いたのだ。
 だが彼は何事もなかったかのように手を引っこめてしまった。
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

結婚式当日に婚約破棄されましたが、あなたの会社を支えていたのが私だったと気づくのが遅すぎましたね

まさき
恋愛
五年間、私は支え続けた。 婚約者・永瀬誠司の会社を。彼のキャリアを。彼の家族との関係を。 全て、霧島冴という人間が、誰にも気づかれないまま動かしていた。 結婚式の当日、彼はその全てを知らないまま私を捨てた。 隣に立っていたのは、幼馴染の桐島菜々子。可憐に涙をこぼしながら、口元だけ笑っていた。 私は何も言わなかった。指輪を置いて、式場を出た。それだけだった。 困ったことになったのは、捨てた側だった。 翌朝から彼の会社は静かに傾き始め、義妹は社交界で孤立し、後ろ盾だった母親は足元を失った。 後悔した彼が扉を叩いても、もう開くことはない。 選ばれなかった女の、静かすぎる逆転劇。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。