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二人のその後・番外編
番外編:ほろ苦くて甘いバレンタイン③
翌日。体育の授業を終えた私は急いで自分のロッカーへと向かう。
男女で着替える場所が別になるため、俊が着替えを終えて教室から出てきたところで声をかけるのだ。
紙袋に入れたお菓子を見えないように後ろ手で持った私に、彩花が口パクで「頑張れ」とエールを送ってくれる。
昨夜俊へバレンタインを渡すと決めたことをメールで報告すると、彼女は自分のことのように喜んで相談に乗ってくれた。
私は彼女に向けて力強く頷くと、俊がいるであろう教室の近くへと歩みを進めた。
その場所が近くなるにつれて心臓は恐ろしいほどに早い鼓動を刻み、緊張のあまりうまく息が吸えないような錯覚に襲われる。
だがもうここまで来たからには、やるしかない。
そう覚悟を決めて深呼吸を繰り返していると、教室の前の扉が開いて俊が出てきた。
隣にもう一人いるのは、彼と仲のいい藤沢という男子生徒だ。
本当は俊が一人で出てくることを期待していたのだが、仕方がない。
藤沢はどちらかというと寡黙な男子で、きっとこの光景を見ても冷やかしたりしてくることはないだろう。
私は勇気を振り絞り、俊に声をかける。
「はせが……」
「俊ー!」
──えっ?
私の声に被せるようにして響いた、甘えるような高い声。
その声の主は、学年の中でも人気のある女子生徒だった。
地味な見た目の私とは大違いで、そこにいるだけでその場が華やぐような相手だ。
私のなけなしの勇気は、あっという間にかき消されてしまった。
「何だよこんなとこで待ち伏せして」
俊に声をかけようとしたところ、突然現れた別の女子によってそれを妨げられてしまった。
「バレンタイン、作ったの」
そう言って彼女は可愛いピンク色の袋を俊に向けて手渡した。
「あー……ありがとう」
断ってくれないだろうか、なんて一瞬でも思ってしまった自分の醜さが嫌になる。
そりゃあせっかく作ってくれたものを、断るようなことはしないだろう。
俊は誰にだって分け隔てなく優しい人気者なのだから。
「俊だけ特別に生チョコも入れたんだー。ね、今一つ食べてみてよ」
「えっ、いや、いいよ……みんなに見られるし」
「別にいいじゃん。ね、お願い!」
そう言って両手を合わせる彼女は、同じ女性の私から見ても可愛く魅力的に映った。
「……わかったよ。一つだけな」
俊は教室へ向かって歩き始める。
私のいる場所からは彼の後ろ姿しか見えないため、その表情はわからない。
だが何やらガサゴソと袋を開けた後、その中に手を入れた。
そして取り出した焦げ茶の四角いかけらを口に放りこんでいる。
「ね、美味しいでしょ? 俊からのホワイトデー期待してるからね!」
「名前で呼ぶのやめろっていつも言ってんじゃん」
遠ざかる俊の後ろ姿と、その後を追う女子生徒の姿。
私は二人のやりとりを離れたところから黙って見ていることしかできなかった。
彼女は明らかに俊に好意がある。
そして俊もなんだかんだと言いながら彼女の要求に従い、チョコを口に含んでいた。
あの二人の間には、何やら親密な空気が漂っている気がしたのだ。
──あーあ、これどうしよう。
今から俊を追いかけてこのお菓子を渡そうか?
いや、そんなことができるはずがなかった。
今もきっと俊のそばには先ほどの女子がいるだろうし、何より教室では人目についてしまう。
私と彼が比較的仲がいいことは知られていたが、まさか私が一方的に好意を抱いているとは思われていないだろう。
ふと脳裏に先ほどの可愛いラッピング袋が浮かび上がる。
それに引き換え、私のは……。
あの時恥ずかしさからシンプルなデザインのものを選んだ自分の弱さを改めて見せつけられたような気がして、気持ちが沈んだ。
────────────────────
明後日の更新分から時間軸が現在に戻ります。
男女で着替える場所が別になるため、俊が着替えを終えて教室から出てきたところで声をかけるのだ。
紙袋に入れたお菓子を見えないように後ろ手で持った私に、彩花が口パクで「頑張れ」とエールを送ってくれる。
昨夜俊へバレンタインを渡すと決めたことをメールで報告すると、彼女は自分のことのように喜んで相談に乗ってくれた。
私は彼女に向けて力強く頷くと、俊がいるであろう教室の近くへと歩みを進めた。
その場所が近くなるにつれて心臓は恐ろしいほどに早い鼓動を刻み、緊張のあまりうまく息が吸えないような錯覚に襲われる。
だがもうここまで来たからには、やるしかない。
そう覚悟を決めて深呼吸を繰り返していると、教室の前の扉が開いて俊が出てきた。
隣にもう一人いるのは、彼と仲のいい藤沢という男子生徒だ。
本当は俊が一人で出てくることを期待していたのだが、仕方がない。
藤沢はどちらかというと寡黙な男子で、きっとこの光景を見ても冷やかしたりしてくることはないだろう。
私は勇気を振り絞り、俊に声をかける。
「はせが……」
「俊ー!」
──えっ?
私の声に被せるようにして響いた、甘えるような高い声。
その声の主は、学年の中でも人気のある女子生徒だった。
地味な見た目の私とは大違いで、そこにいるだけでその場が華やぐような相手だ。
私のなけなしの勇気は、あっという間にかき消されてしまった。
「何だよこんなとこで待ち伏せして」
俊に声をかけようとしたところ、突然現れた別の女子によってそれを妨げられてしまった。
「バレンタイン、作ったの」
そう言って彼女は可愛いピンク色の袋を俊に向けて手渡した。
「あー……ありがとう」
断ってくれないだろうか、なんて一瞬でも思ってしまった自分の醜さが嫌になる。
そりゃあせっかく作ってくれたものを、断るようなことはしないだろう。
俊は誰にだって分け隔てなく優しい人気者なのだから。
「俊だけ特別に生チョコも入れたんだー。ね、今一つ食べてみてよ」
「えっ、いや、いいよ……みんなに見られるし」
「別にいいじゃん。ね、お願い!」
そう言って両手を合わせる彼女は、同じ女性の私から見ても可愛く魅力的に映った。
「……わかったよ。一つだけな」
俊は教室へ向かって歩き始める。
私のいる場所からは彼の後ろ姿しか見えないため、その表情はわからない。
だが何やらガサゴソと袋を開けた後、その中に手を入れた。
そして取り出した焦げ茶の四角いかけらを口に放りこんでいる。
「ね、美味しいでしょ? 俊からのホワイトデー期待してるからね!」
「名前で呼ぶのやめろっていつも言ってんじゃん」
遠ざかる俊の後ろ姿と、その後を追う女子生徒の姿。
私は二人のやりとりを離れたところから黙って見ていることしかできなかった。
彼女は明らかに俊に好意がある。
そして俊もなんだかんだと言いながら彼女の要求に従い、チョコを口に含んでいた。
あの二人の間には、何やら親密な空気が漂っている気がしたのだ。
──あーあ、これどうしよう。
今から俊を追いかけてこのお菓子を渡そうか?
いや、そんなことができるはずがなかった。
今もきっと俊のそばには先ほどの女子がいるだろうし、何より教室では人目についてしまう。
私と彼が比較的仲がいいことは知られていたが、まさか私が一方的に好意を抱いているとは思われていないだろう。
ふと脳裏に先ほどの可愛いラッピング袋が浮かび上がる。
それに引き換え、私のは……。
あの時恥ずかしさからシンプルなデザインのものを選んだ自分の弱さを改めて見せつけられたような気がして、気持ちが沈んだ。
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明後日の更新分から時間軸が現在に戻ります。
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