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二人のその後・番外編
番外編:ほろ苦くて甘いバレンタイン④
やはり最初から叶わない恋だった。
クラスの人気者の俊が私と仲良くしてくれただけでありがたかったのに。
いつからこれほど身の丈に合わない望みを抱くようになってしまったのだろうか。
何気ないやりとりをしたメッセージや、テスト勉強を一緒にした懐かしい日々を思い出してどうしようもなく虚しくなった。
今日はもうこのまま帰ろう。
後ろ手に抱えたままだった袋を鞄の中に入れようとした時、突然背後から声をかけられた。
「それ渡さないの?」
はっとして振り向けば、そこにいたのは同じクラスで俊と仲のいい藤沢結城だ。
さっきまで俊と一緒にいたと思っていたが、どうやら彼だけ先に例の女子生徒と帰ってしまったらしい。
「長谷川に渡すやつでしょ」
「えっ」
私はこの藤沢というクラスメイトとほとんど会話したことがなく、なぜ彼がこのことを知っているのか驚き言葉に詰まってしまう。
「多分中村は長谷川のこと好きなんだろーなーって」
「あ、あの、そのこと長谷川には……」
頼むから言わないでほしいと全力で願う。
「言ってない。大丈夫、今後も言わない」
「本当?」
「ん」
なんとなくその言葉に嘘はないように思えた。
「で、いいの? それ渡さなくて。まだあいつ帰ってないと思うよ」
あいつ、というのは俊のことだろう。
だが今の私の中にはもう教室へ戻るという選択肢も、バレンタインを渡すという選択肢も残されていなかった。
「いい。さっきの藤沢も見てたでしょ?」
惨めな思いになりたくなくて、はっきりとは言うことができなかった。
だがそれでも藤沢は私の言いたかったことを聞き取ってくれたようだ。
「あー、山本のこと?」
そうだ、あの子の名前は山本だった、なんて心の中で頷いた。
「そ、誰が見てもお似合いな二人だったし。もう私が出る幕なんてない」
「でも別にあいつら付き合ってないよ?」
「でも、ホワイトデーで付き合うかもしれないじゃん」
先ほどチョコを口に運んでいた俊の後ろ姿が一瞬だけ蘇っては、消えていった。
「まああいつはモテるからな。今日めっちゃチョコもらってたし」
「っそうなんだ……」
突然告げられたまたもショックな事実に、声が震えそうになるのを平然を装って誤魔化した。
──よかった、渡さなくて。
色々なタイミングが重なってこの袋を渡すことができなかったのは、むしろよかったのかもしれないと思う。
たくさんのチョコの中に埋もれてしまうくらいなら……最初からなかったものと思えばいい。
「ねえ藤沢、これ食べてくれない?」
私はようやくお菓子の入った袋を体の前に出す。
そしてそれを藤沢に向けて差し出した。
「ええっ!? 俺?」
ぎょっとしたように驚いているのも無理はないだろう。
「いや、長谷川に渡せよ。せっかく作ったんだろ」
「藤沢がいらないなら持って帰って自分で食べる。でもなんか惨めだから……できたらもらって」
「でも……」
しばらく藤沢は戸惑っていたが、結局その袋を受け取ってくれたのだ。
「変なの押しつけちゃってほんとごめん。じゃあ」
少し冷静になると、なんて図々しい頼み事をしてしまったのかと居たたまれなくなった。
この場にいるのがどうしようもなく気まずくなった私は、藤沢に頭を下げると一目散に家へと帰ったのだ。
家に帰ってからはもう悲惨だった。
告白どころかチョコを渡すこともできず、さらには俊と別の女子が仲睦まじいところまで目撃してしまったのだから。
そして余裕をなくして彼の友達にチョコを押しつけるなど、黒歴史でしかない。
──ラッピング、やっぱり無地にして良かった。
明日から藤沢と顔を合わせるのは気まずいが、どうせもうすぐ卒業だ。
四月からは県外の大学に進学することが決まっているため、来月中には一人暮らしをするアパートに引っ越すことになっている。
そうすればもう二度と彼らと顔を合わせることもない。
こうして私のバレンタインは、最悪の結末で終わってしまったのである。
クラスの人気者の俊が私と仲良くしてくれただけでありがたかったのに。
いつからこれほど身の丈に合わない望みを抱くようになってしまったのだろうか。
何気ないやりとりをしたメッセージや、テスト勉強を一緒にした懐かしい日々を思い出してどうしようもなく虚しくなった。
今日はもうこのまま帰ろう。
後ろ手に抱えたままだった袋を鞄の中に入れようとした時、突然背後から声をかけられた。
「それ渡さないの?」
はっとして振り向けば、そこにいたのは同じクラスで俊と仲のいい藤沢結城だ。
さっきまで俊と一緒にいたと思っていたが、どうやら彼だけ先に例の女子生徒と帰ってしまったらしい。
「長谷川に渡すやつでしょ」
「えっ」
私はこの藤沢というクラスメイトとほとんど会話したことがなく、なぜ彼がこのことを知っているのか驚き言葉に詰まってしまう。
「多分中村は長谷川のこと好きなんだろーなーって」
「あ、あの、そのこと長谷川には……」
頼むから言わないでほしいと全力で願う。
「言ってない。大丈夫、今後も言わない」
「本当?」
「ん」
なんとなくその言葉に嘘はないように思えた。
「で、いいの? それ渡さなくて。まだあいつ帰ってないと思うよ」
あいつ、というのは俊のことだろう。
だが今の私の中にはもう教室へ戻るという選択肢も、バレンタインを渡すという選択肢も残されていなかった。
「いい。さっきの藤沢も見てたでしょ?」
惨めな思いになりたくなくて、はっきりとは言うことができなかった。
だがそれでも藤沢は私の言いたかったことを聞き取ってくれたようだ。
「あー、山本のこと?」
そうだ、あの子の名前は山本だった、なんて心の中で頷いた。
「そ、誰が見てもお似合いな二人だったし。もう私が出る幕なんてない」
「でも別にあいつら付き合ってないよ?」
「でも、ホワイトデーで付き合うかもしれないじゃん」
先ほどチョコを口に運んでいた俊の後ろ姿が一瞬だけ蘇っては、消えていった。
「まああいつはモテるからな。今日めっちゃチョコもらってたし」
「っそうなんだ……」
突然告げられたまたもショックな事実に、声が震えそうになるのを平然を装って誤魔化した。
──よかった、渡さなくて。
色々なタイミングが重なってこの袋を渡すことができなかったのは、むしろよかったのかもしれないと思う。
たくさんのチョコの中に埋もれてしまうくらいなら……最初からなかったものと思えばいい。
「ねえ藤沢、これ食べてくれない?」
私はようやくお菓子の入った袋を体の前に出す。
そしてそれを藤沢に向けて差し出した。
「ええっ!? 俺?」
ぎょっとしたように驚いているのも無理はないだろう。
「いや、長谷川に渡せよ。せっかく作ったんだろ」
「藤沢がいらないなら持って帰って自分で食べる。でもなんか惨めだから……できたらもらって」
「でも……」
しばらく藤沢は戸惑っていたが、結局その袋を受け取ってくれたのだ。
「変なの押しつけちゃってほんとごめん。じゃあ」
少し冷静になると、なんて図々しい頼み事をしてしまったのかと居たたまれなくなった。
この場にいるのがどうしようもなく気まずくなった私は、藤沢に頭を下げると一目散に家へと帰ったのだ。
家に帰ってからはもう悲惨だった。
告白どころかチョコを渡すこともできず、さらには俊と別の女子が仲睦まじいところまで目撃してしまったのだから。
そして余裕をなくして彼の友達にチョコを押しつけるなど、黒歴史でしかない。
──ラッピング、やっぱり無地にして良かった。
明日から藤沢と顔を合わせるのは気まずいが、どうせもうすぐ卒業だ。
四月からは県外の大学に進学することが決まっているため、来月中には一人暮らしをするアパートに引っ越すことになっている。
そうすればもう二度と彼らと顔を合わせることもない。
こうして私のバレンタインは、最悪の結末で終わってしまったのである。
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