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二人のその後・番外編
番外編:ほろ苦くて甘いバレンタイン⑥
「びっくりした……いきなり大きな声出すのやめてよね」
衝撃の事実を伝らえれて唖然としている俺を横目に、葵は意気揚々と袋を開けようとしている。
「ちょ、まっ……」
「もう、今度は何?」
しどろもどろになりながらその動作を止めさせた俺に対し、葵が訝しげな視線を送ってきた。
「……貸して。俺が開ける」
「ええっ?」
中に変な手紙でも入ってたら堪ったもんじゃない。
訴えるように彼女の方を見つめると、呆れたように袋を渡された。
「……何、また嫉妬してるの?」
「別にそんなんじゃ……」
そう言いながらも、袋の中身を確認するので必死だ。
中には丁寧に包装された小さな箱が一つ。
そして……手書きでメッセージが書かれたカードが添えられていた。
そこには仕事で世話になったお礼と、今度食事に行かないかという誘いの文言。
さらに最後に相手の電話番号付きという忌まわしいものだ。
──ほら、やっぱり。
これを葵に渡したくない。
彼女のことを疑っているわけではないが、他の男から向けられる好意にすら気づいてほしくなかった。
頭の中に、以前葵から別れを告げられたあの頃の記憶が蘇る。
あの日彼女と同僚の男が一緒にいる姿を目にしただけで、気がおかしくなりそうだった。
自分が悪いのだから仕方ない、頭ではその事実をわかっていたものの、心が受け入れてくれない。
結果的に相手はただの同僚で、俺が心配していたようなことは何もなかったからよかったものの……。
──葵は、自分がどれだけモテるか気づいていない。
バレンタインの話をしていたが、実は葵からチョコをもらいたいと話している同級生たちが複数いたのだ。
そんな奴らに対し「葵からチョコをもらえるのは俺だ」と密かに優越感を抱いていたことを覚えている。
結局そんな幸せが訪れることはなく、俺は失意のうちにバレンタインを終えたわけだが……。
大学の時だって、バイト先の店長や同じ学部の生徒など、明らかに向こうから好意を抱かれているシーンは多々あった。
俺はまるでそんな奴らを牽制するかのように、バイト代を必死に貯めて頻繁に彼女に会いに行くことで自分の存在を主張していたのだ。
そして今。
高校生の頃の幼い見た目もとても可愛かったが、大学を経て社会人となるにつれて彼女は大人の女性としての美しさを開花させ始めた。
シンプルながらもよく似合うメイクに、手入れの行き届いた茶色の髪。
決して派手ではないものの彼女の雰囲気にピッタリと合った服装は、いつも俺をどきりとさせる。
彼女が社内で好意を寄せられることがあるのではないかとかねてより懸念していたのだが、まさかそれが実際に起きてしまうとは……。
「ねえ、俊何してんの。早く食べようよ」
キョトンとした顔で首を傾げている葵は、この俺の内に秘めた灰暗い気持ちを知ることはないだろう。
一度は「もう以前のようには好きではない」とまで言われてしまったのだ。
最近ではすっかり昔のように甘えたり気持ちを伝えてくれるようになったものの、未だ時々こうした不安に苛まれる。
「……手紙、入ってたよ」
結局俺は、馬鹿正直にその手紙の存在を明らかにした。
本当はそんなものすぐに彼女の目の前から隠して消し去ってしまいたかったのだ。
だが俺にそんなことをする権利がないことはもちろんわかっているし、それが葵に対して失礼な行為であるということもわかる。
「え? 手紙?」
自分の方に差し出されたメッセージカードを受け取った葵が、文面に目を通している。
その光景を見たくなくて、つい彼女の方から視線を逸らして俯いてしまった俺はつくづく情けない男だ。
「……連絡、しないよな?」
目を背けているくせに、葵の反応が気になって仕方がなくてそんなことを聞く。
彼女の返答が怖くて仕方がない。
「しないよ。するわけないじゃん」
頭上から降ってきたその台詞に、俺はハッと顔を上げた。
するとニッコリと微笑んでいる葵と目が合う。
「別にご飯なら部署のみんなと行けばいいし、連絡だって社内のスマホがあれば十分だもん」
「……きっと葵のことが好きなんだろ」
「私は俊のことしか見えてないから」
葵はそう言って立ち上がると、メッセージカードを手にしたまま再びキッチンの方へと向かう。
そしてリビングに戻ってきた彼女の手には、何も残っていなかった。
「中里さんには申し訳ないけど、捨てちゃった。あ、もちろんちゃんとお礼は言うし、何かお返しもする予定だよ」
それすらもしてほしくないと思ってしまうのは、心が狭すぎるだろうか?
「葵に彼氏がいるって、その人知らないのか?」
「知ってるはずなんだけどなぁ」
「彼氏がいるってわかっててこれ渡すの、非常識にも程があるだろ」
「でも若宮さんみたいな人もいるしね」
葵の口から飛び出した名前に、俺は思わず言葉に詰まってしまう。
若宮というのは俺のかつての同僚で、葵に嫌がらせをしたり俺にまとわりついてきたりした最悪な女性の名前である。
「……俺あの時の葵の気持ち、わかったつもりになってた。でも今ようやくわかった気がする」
「あの時の気持ち?」
彼女が若宮からされたことに対して不安を抱き、俺に対してもその不安をぶつけてきたことを思い出す。
離れていかないでと何度も泣いて訴えてきた、あの時の葵の気持ちをわかったつもりでいた。
だが完全にその心情を理解することはできていなかったのかもしれない。
俺はこんなに葵のことを愛しているのだから、不安になる必要などないのにと考えていたことも事実だ。
何があっても俺から離れていくことはないのに、と。
しかし今回葵に思いを寄せているであろう男が登場したことで、俺はかつての葵と同じように不安に苛まれている。
ただでさえ再び彼女を失ってしまうことを恐れていたところに、今回のこの出来事は大きな打撃だ。
──早く結婚したい。
結婚が全てではないということもわかっているのだが、葵は俺の妻だと世間に知らしめることができる。
彼女との関係に何か形が欲しくてたまらない。
「早く結婚したい」
気づけばギュッと彼女の体を抱き締め、どこにも行かないでほしいとでもいうように力を込める。
「私も。早く俊のお嫁さんになりたい」
えへへ、と笑ってそう言った葵の顔はとても可愛くて、自然と目を細めてその姿を追った。
衝撃の事実を伝らえれて唖然としている俺を横目に、葵は意気揚々と袋を開けようとしている。
「ちょ、まっ……」
「もう、今度は何?」
しどろもどろになりながらその動作を止めさせた俺に対し、葵が訝しげな視線を送ってきた。
「……貸して。俺が開ける」
「ええっ?」
中に変な手紙でも入ってたら堪ったもんじゃない。
訴えるように彼女の方を見つめると、呆れたように袋を渡された。
「……何、また嫉妬してるの?」
「別にそんなんじゃ……」
そう言いながらも、袋の中身を確認するので必死だ。
中には丁寧に包装された小さな箱が一つ。
そして……手書きでメッセージが書かれたカードが添えられていた。
そこには仕事で世話になったお礼と、今度食事に行かないかという誘いの文言。
さらに最後に相手の電話番号付きという忌まわしいものだ。
──ほら、やっぱり。
これを葵に渡したくない。
彼女のことを疑っているわけではないが、他の男から向けられる好意にすら気づいてほしくなかった。
頭の中に、以前葵から別れを告げられたあの頃の記憶が蘇る。
あの日彼女と同僚の男が一緒にいる姿を目にしただけで、気がおかしくなりそうだった。
自分が悪いのだから仕方ない、頭ではその事実をわかっていたものの、心が受け入れてくれない。
結果的に相手はただの同僚で、俺が心配していたようなことは何もなかったからよかったものの……。
──葵は、自分がどれだけモテるか気づいていない。
バレンタインの話をしていたが、実は葵からチョコをもらいたいと話している同級生たちが複数いたのだ。
そんな奴らに対し「葵からチョコをもらえるのは俺だ」と密かに優越感を抱いていたことを覚えている。
結局そんな幸せが訪れることはなく、俺は失意のうちにバレンタインを終えたわけだが……。
大学の時だって、バイト先の店長や同じ学部の生徒など、明らかに向こうから好意を抱かれているシーンは多々あった。
俺はまるでそんな奴らを牽制するかのように、バイト代を必死に貯めて頻繁に彼女に会いに行くことで自分の存在を主張していたのだ。
そして今。
高校生の頃の幼い見た目もとても可愛かったが、大学を経て社会人となるにつれて彼女は大人の女性としての美しさを開花させ始めた。
シンプルながらもよく似合うメイクに、手入れの行き届いた茶色の髪。
決して派手ではないものの彼女の雰囲気にピッタリと合った服装は、いつも俺をどきりとさせる。
彼女が社内で好意を寄せられることがあるのではないかとかねてより懸念していたのだが、まさかそれが実際に起きてしまうとは……。
「ねえ、俊何してんの。早く食べようよ」
キョトンとした顔で首を傾げている葵は、この俺の内に秘めた灰暗い気持ちを知ることはないだろう。
一度は「もう以前のようには好きではない」とまで言われてしまったのだ。
最近ではすっかり昔のように甘えたり気持ちを伝えてくれるようになったものの、未だ時々こうした不安に苛まれる。
「……手紙、入ってたよ」
結局俺は、馬鹿正直にその手紙の存在を明らかにした。
本当はそんなものすぐに彼女の目の前から隠して消し去ってしまいたかったのだ。
だが俺にそんなことをする権利がないことはもちろんわかっているし、それが葵に対して失礼な行為であるということもわかる。
「え? 手紙?」
自分の方に差し出されたメッセージカードを受け取った葵が、文面に目を通している。
その光景を見たくなくて、つい彼女の方から視線を逸らして俯いてしまった俺はつくづく情けない男だ。
「……連絡、しないよな?」
目を背けているくせに、葵の反応が気になって仕方がなくてそんなことを聞く。
彼女の返答が怖くて仕方がない。
「しないよ。するわけないじゃん」
頭上から降ってきたその台詞に、俺はハッと顔を上げた。
するとニッコリと微笑んでいる葵と目が合う。
「別にご飯なら部署のみんなと行けばいいし、連絡だって社内のスマホがあれば十分だもん」
「……きっと葵のことが好きなんだろ」
「私は俊のことしか見えてないから」
葵はそう言って立ち上がると、メッセージカードを手にしたまま再びキッチンの方へと向かう。
そしてリビングに戻ってきた彼女の手には、何も残っていなかった。
「中里さんには申し訳ないけど、捨てちゃった。あ、もちろんちゃんとお礼は言うし、何かお返しもする予定だよ」
それすらもしてほしくないと思ってしまうのは、心が狭すぎるだろうか?
「葵に彼氏がいるって、その人知らないのか?」
「知ってるはずなんだけどなぁ」
「彼氏がいるってわかっててこれ渡すの、非常識にも程があるだろ」
「でも若宮さんみたいな人もいるしね」
葵の口から飛び出した名前に、俺は思わず言葉に詰まってしまう。
若宮というのは俺のかつての同僚で、葵に嫌がらせをしたり俺にまとわりついてきたりした最悪な女性の名前である。
「……俺あの時の葵の気持ち、わかったつもりになってた。でも今ようやくわかった気がする」
「あの時の気持ち?」
彼女が若宮からされたことに対して不安を抱き、俺に対してもその不安をぶつけてきたことを思い出す。
離れていかないでと何度も泣いて訴えてきた、あの時の葵の気持ちをわかったつもりでいた。
だが完全にその心情を理解することはできていなかったのかもしれない。
俺はこんなに葵のことを愛しているのだから、不安になる必要などないのにと考えていたことも事実だ。
何があっても俺から離れていくことはないのに、と。
しかし今回葵に思いを寄せているであろう男が登場したことで、俺はかつての葵と同じように不安に苛まれている。
ただでさえ再び彼女を失ってしまうことを恐れていたところに、今回のこの出来事は大きな打撃だ。
──早く結婚したい。
結婚が全てではないということもわかっているのだが、葵は俺の妻だと世間に知らしめることができる。
彼女との関係に何か形が欲しくてたまらない。
「早く結婚したい」
気づけばギュッと彼女の体を抱き締め、どこにも行かないでほしいとでもいうように力を込める。
「私も。早く俊のお嫁さんになりたい」
えへへ、と笑ってそう言った葵の顔はとても可愛くて、自然と目を細めてその姿を追った。
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