38 / 68
38 森での手当て
しおりを挟む
「君は……セラフィナ? なぜ君がこのようなところに?」
草むらから飛び出してきたのは獣でもなんでもなく、我が夫アンドリュー様であった。
予想外の事実に、私とアシェラは目を白黒とさせて彼の方を見つめることしかできない。
「二人きりで森に来たのか?」
「あっいいえ……入り口の方にウェスカーらが待機しております」
「そうか。私は反対から回ってきたものだから、姿を見かけなかったのだな」
そう言うアンドリュー様は、狩りの時の服装をしているようだ。
そして手には剣を握りしめており、その刃先には何やら血痕のような赤いものが付着している。
「アンドリュー様こそ、なぜ森に? 護衛の方はいらっしゃらないのですか」
第二王子である彼が、たった一人で森の中から姿を現したことに驚きを隠せない。
護衛も連れずに一体何をしていたのだろうか。
「……」
すると彼は私の問いかけに対し,黙り込んでしまった。
ちら、と隣を見るとそばにいたはずのアシェラは少し離れたところへ移動したらしい。
きっと気を遣ってくれたのだろう。
「アンドリュー様?」
「何か手掛かりになるものがないかと思ってだな……その、君の記憶の」
「それで、お一人で森へ?」
「先ほどまで護衛がいたんだが、少し一人きりになりたくてね。森の出口はすぐそこだし大丈夫だと油断していたら、オオカミに襲われた」
彼の手を見ると、引っ掻き傷のようなものが多数存在しており、そこから血が滲んでいるようだ。
きっとその剣の血痕も抵抗した際についたものなのだろう。
「ご無事でよかったですわ……」
「情けないところを見られてしまったな」
そう言ってアンドリュー様は恥ずかしそうに笑った。
その顔を見ただけで鼓動が速くなり、今すぐ温かい胸に飛び込んでしまいたい衝動に駆られてしまう。
しかしその願望が叶うはずもなく、私はなんでもないふりをしながら言葉を紡いだ。
「その……手の傷が痛むのでは?」
「ああ、痛むがこれしきの傷なら大丈夫」
「ちゃうど傷口の痛みを和らげる薬草が,この籠の中にございます。ささ、こちらにお座りになってくださいませ」
気づけばそんな言葉が口から飛び出していた。
先ほどアシェラと一緒に摘み取った無痛草は、葉をちぎりそこから漏れ出た汁を傷口に塗り込むことで消毒と痛みの緩和をおこなうことができるのだ。
「だが、君にそのようなことをさせるのは……」
彼は突然の申し出に戸惑っている。
「何をおっしゃるのです。私たちは、夫婦ではありませんか」
そんな彼に対し、私は微笑みを送った。
私の言葉に、アンドリュー様がハッとしたような表情を浮かべている。
結婚してからというもの様々なことがありすぎて自信を失いかけていたが、私は確かにアンドリュー様の正式な妻なのだ。
あの日教会で神の前に誓いを立て、王家に代々伝わるティアラを授かった。
どんなにマリア様が私の邪魔をしてその代わりになろうとしたところで、所詮は紛い物にすぎない。
アンドリュー様の正式な妻は私一人だけ。
その誇りが私からこのような発言を引き出したのだろうか?
「そうか……そうだな、私たちは夫婦だ」
戸惑うように瞳を許していたアンドリュー様であったが、やがてフッと気が抜けたように笑った。
そして私に言われた通り、ちょうどいい高さの岩に腰掛けると、私に向けて負傷した方の左手を差し出す。
まじまじとその手を見れば、真っ赤な引っ掻き傷とそこから滲む血がなんとも痛ましい。
「少し動かずにそのままでいてくださいね」
私は籠の中から無痛草を取り出す。
丸みを帯びた葉を二つに千切ると、その断面から粘り気のある汁が染み出してきた。
それを指で掬い取り、彼の傷を撫でるように塗り込んでいく。
「っ……」
傷口に触れた途端、アンドリュー様の表情が歪んだ。
恐らく痛むのだろう。
「申し訳ございません。じきに痛みが和らぐはずですから……」
そう言いながら、私はさらに無痛草の葉をちぎってその工程を繰り返した。
何度か同じことを繰り返していくうちに、アンドリュー様の手に込められていた力が抜けていく。
それと同時に眉間の皺もすっかり消え失せていた。
「痛みがなくなった……」
彼は手のひらを握ったり開いたりしてその痛みが消え失せたことを確認すると、にっこりと笑う。
「よかったですわ。やはり無痛草は優れものですね。実はお城の書物庫からお借りした本に書いてありましたの。こちらの森には多くの薬草が生えているとお聞きして、一度訪ねてみたかったのです」
「君は……ありがとう、セラフィナ。助かったよ」
アンドリュー様は何かを言いかけたが、その言葉を途中でやめて感謝を伝えてくれる。
「その、よかったら私にも薬草のことを教えてくれないか? 今後も役立つ知識になるに違いない」
「はい。ぜひ」
こうして私たちは並び歩いて森を出ると、城のすぐそばにある噴水のところまで戻ってきた。
そこには白いベンチが置かれており、彼は先にそこへ腰掛けると私にも同じことを勧めてくる。
思っていたよりも近いその距離に心臓が口から飛び出してしまいそうだったが、それも束の間。
知りうる薬草の知識を彼に披露しているうちに、あっというまにそんな緊張はどこかへ吹き飛んでしまったようだ。
彼が記憶を失ってからのどこかぎこちなかった雰囲気が消え去り、昔からの馴染みのように言葉を交わすことができている。
もちろんアンドリュー様の中に私の当時の記憶は残っていないのだが、また少し彼との心の距離が近くなったような気がして嬉しかった。
「そうだ、セラフィナ。君に話したいことがあったんだよ」
一通り私が話し終えたところで、アンドリュー様は何かを思い出したかのように突然そんなことを言い出した。
「今度ユーグレン公爵家で舞踏会が開かれるんだ。君にはぜひ私と一緒に参加してほしいと思ってね」
「ユーグレン公爵家の舞踏会、ですか……」
ということは、嫌でも主催者側のユーグレン公爵やマリア様との接触を避けることはできないだろう。
──毎日こんな平和な日々が続けばいいと思ってしまう……。
アンドリュー様の妻である以上、そんな日常がやってくるはずはないのだ。
だというのにそんなことを考えて気落ちしている自分が嫌になる。
「ですが、舞踏会に参加するための支度がまだ何も……」
乱れた気持ちのままの私は、どっちつかずの返答をした。
「大丈夫。それならこちらで用意しておくから。まだ舞踏会まで日はあるしね。君の心配には及ばない」
「そう、ですか……」
そう言われてもなお,私の気持ちは進まない。
一体私は何をそんなに恐れ心配しているのだろうかと、自分自身に問いかける。
マリア様に何かを言われることを恐れているのだろうか?
あるいは彼らの仲睦まじい姿を見せつけられることを……?
それともユーグレン公爵が、再び私に卑怯な手を使うことに怯えているのだろうか。
きっとそのどれもが正解なのかもしれない。
「セラフィナ」
やがていつまでも煮え切らない態度の私を見かねたアンドリュー様が、諭すように口を開く。
「私は君の夫だ。先ほども君がそう言ってくれただろう?」
「はい……」
「正直なところ、君の記憶を失ったくせに当たり前のような顔で君と並び歩くことに申し訳なさを感じていた……。だからこそ、先ほどの君の台詞はとても嬉しかったんだ」
いつのまにか彼の大きな手が、膝の上に置かれた私の手を包み込んでいる。
触れ合った手から伝わる温もりが、今は私の心を締め付けた。
「セラフィナは堂々としていればいいんだ。君は私の正式な妻なのだから。誰が何を言おうと、私が君を守ろう」
アンドリュー様はその名前こそ口には出さなかったものの、暗にユーグレン公爵親子のことを言っているのだとわかる。
──アンドリュー様がマリア様に好意を抱いているということは、なさそうね。
その結論は私を何よりも安堵させた。
「だから、一緒に舞踏会に参加してはくれないか? 私のパートナーとして……」
じっと青い瞳が私を見つめる。
誤魔化すことのできないほどの真っ直ぐなその視線から、目を逸らせずにいる。
そして気づけば首を縦に振っている自分がいたのだ。
「……至らぬ点の多い私ですけれど、よろしくお願いします」
「美しく着飾った君を見るのか今から楽しみだ」
アンドリュー様は屈託のない笑みを浮かべると、私の手を握る力を強めたのであった。
草むらから飛び出してきたのは獣でもなんでもなく、我が夫アンドリュー様であった。
予想外の事実に、私とアシェラは目を白黒とさせて彼の方を見つめることしかできない。
「二人きりで森に来たのか?」
「あっいいえ……入り口の方にウェスカーらが待機しております」
「そうか。私は反対から回ってきたものだから、姿を見かけなかったのだな」
そう言うアンドリュー様は、狩りの時の服装をしているようだ。
そして手には剣を握りしめており、その刃先には何やら血痕のような赤いものが付着している。
「アンドリュー様こそ、なぜ森に? 護衛の方はいらっしゃらないのですか」
第二王子である彼が、たった一人で森の中から姿を現したことに驚きを隠せない。
護衛も連れずに一体何をしていたのだろうか。
「……」
すると彼は私の問いかけに対し,黙り込んでしまった。
ちら、と隣を見るとそばにいたはずのアシェラは少し離れたところへ移動したらしい。
きっと気を遣ってくれたのだろう。
「アンドリュー様?」
「何か手掛かりになるものがないかと思ってだな……その、君の記憶の」
「それで、お一人で森へ?」
「先ほどまで護衛がいたんだが、少し一人きりになりたくてね。森の出口はすぐそこだし大丈夫だと油断していたら、オオカミに襲われた」
彼の手を見ると、引っ掻き傷のようなものが多数存在しており、そこから血が滲んでいるようだ。
きっとその剣の血痕も抵抗した際についたものなのだろう。
「ご無事でよかったですわ……」
「情けないところを見られてしまったな」
そう言ってアンドリュー様は恥ずかしそうに笑った。
その顔を見ただけで鼓動が速くなり、今すぐ温かい胸に飛び込んでしまいたい衝動に駆られてしまう。
しかしその願望が叶うはずもなく、私はなんでもないふりをしながら言葉を紡いだ。
「その……手の傷が痛むのでは?」
「ああ、痛むがこれしきの傷なら大丈夫」
「ちゃうど傷口の痛みを和らげる薬草が,この籠の中にございます。ささ、こちらにお座りになってくださいませ」
気づけばそんな言葉が口から飛び出していた。
先ほどアシェラと一緒に摘み取った無痛草は、葉をちぎりそこから漏れ出た汁を傷口に塗り込むことで消毒と痛みの緩和をおこなうことができるのだ。
「だが、君にそのようなことをさせるのは……」
彼は突然の申し出に戸惑っている。
「何をおっしゃるのです。私たちは、夫婦ではありませんか」
そんな彼に対し、私は微笑みを送った。
私の言葉に、アンドリュー様がハッとしたような表情を浮かべている。
結婚してからというもの様々なことがありすぎて自信を失いかけていたが、私は確かにアンドリュー様の正式な妻なのだ。
あの日教会で神の前に誓いを立て、王家に代々伝わるティアラを授かった。
どんなにマリア様が私の邪魔をしてその代わりになろうとしたところで、所詮は紛い物にすぎない。
アンドリュー様の正式な妻は私一人だけ。
その誇りが私からこのような発言を引き出したのだろうか?
「そうか……そうだな、私たちは夫婦だ」
戸惑うように瞳を許していたアンドリュー様であったが、やがてフッと気が抜けたように笑った。
そして私に言われた通り、ちょうどいい高さの岩に腰掛けると、私に向けて負傷した方の左手を差し出す。
まじまじとその手を見れば、真っ赤な引っ掻き傷とそこから滲む血がなんとも痛ましい。
「少し動かずにそのままでいてくださいね」
私は籠の中から無痛草を取り出す。
丸みを帯びた葉を二つに千切ると、その断面から粘り気のある汁が染み出してきた。
それを指で掬い取り、彼の傷を撫でるように塗り込んでいく。
「っ……」
傷口に触れた途端、アンドリュー様の表情が歪んだ。
恐らく痛むのだろう。
「申し訳ございません。じきに痛みが和らぐはずですから……」
そう言いながら、私はさらに無痛草の葉をちぎってその工程を繰り返した。
何度か同じことを繰り返していくうちに、アンドリュー様の手に込められていた力が抜けていく。
それと同時に眉間の皺もすっかり消え失せていた。
「痛みがなくなった……」
彼は手のひらを握ったり開いたりしてその痛みが消え失せたことを確認すると、にっこりと笑う。
「よかったですわ。やはり無痛草は優れものですね。実はお城の書物庫からお借りした本に書いてありましたの。こちらの森には多くの薬草が生えているとお聞きして、一度訪ねてみたかったのです」
「君は……ありがとう、セラフィナ。助かったよ」
アンドリュー様は何かを言いかけたが、その言葉を途中でやめて感謝を伝えてくれる。
「その、よかったら私にも薬草のことを教えてくれないか? 今後も役立つ知識になるに違いない」
「はい。ぜひ」
こうして私たちは並び歩いて森を出ると、城のすぐそばにある噴水のところまで戻ってきた。
そこには白いベンチが置かれており、彼は先にそこへ腰掛けると私にも同じことを勧めてくる。
思っていたよりも近いその距離に心臓が口から飛び出してしまいそうだったが、それも束の間。
知りうる薬草の知識を彼に披露しているうちに、あっというまにそんな緊張はどこかへ吹き飛んでしまったようだ。
彼が記憶を失ってからのどこかぎこちなかった雰囲気が消え去り、昔からの馴染みのように言葉を交わすことができている。
もちろんアンドリュー様の中に私の当時の記憶は残っていないのだが、また少し彼との心の距離が近くなったような気がして嬉しかった。
「そうだ、セラフィナ。君に話したいことがあったんだよ」
一通り私が話し終えたところで、アンドリュー様は何かを思い出したかのように突然そんなことを言い出した。
「今度ユーグレン公爵家で舞踏会が開かれるんだ。君にはぜひ私と一緒に参加してほしいと思ってね」
「ユーグレン公爵家の舞踏会、ですか……」
ということは、嫌でも主催者側のユーグレン公爵やマリア様との接触を避けることはできないだろう。
──毎日こんな平和な日々が続けばいいと思ってしまう……。
アンドリュー様の妻である以上、そんな日常がやってくるはずはないのだ。
だというのにそんなことを考えて気落ちしている自分が嫌になる。
「ですが、舞踏会に参加するための支度がまだ何も……」
乱れた気持ちのままの私は、どっちつかずの返答をした。
「大丈夫。それならこちらで用意しておくから。まだ舞踏会まで日はあるしね。君の心配には及ばない」
「そう、ですか……」
そう言われてもなお,私の気持ちは進まない。
一体私は何をそんなに恐れ心配しているのだろうかと、自分自身に問いかける。
マリア様に何かを言われることを恐れているのだろうか?
あるいは彼らの仲睦まじい姿を見せつけられることを……?
それともユーグレン公爵が、再び私に卑怯な手を使うことに怯えているのだろうか。
きっとそのどれもが正解なのかもしれない。
「セラフィナ」
やがていつまでも煮え切らない態度の私を見かねたアンドリュー様が、諭すように口を開く。
「私は君の夫だ。先ほども君がそう言ってくれただろう?」
「はい……」
「正直なところ、君の記憶を失ったくせに当たり前のような顔で君と並び歩くことに申し訳なさを感じていた……。だからこそ、先ほどの君の台詞はとても嬉しかったんだ」
いつのまにか彼の大きな手が、膝の上に置かれた私の手を包み込んでいる。
触れ合った手から伝わる温もりが、今は私の心を締め付けた。
「セラフィナは堂々としていればいいんだ。君は私の正式な妻なのだから。誰が何を言おうと、私が君を守ろう」
アンドリュー様はその名前こそ口には出さなかったものの、暗にユーグレン公爵親子のことを言っているのだとわかる。
──アンドリュー様がマリア様に好意を抱いているということは、なさそうね。
その結論は私を何よりも安堵させた。
「だから、一緒に舞踏会に参加してはくれないか? 私のパートナーとして……」
じっと青い瞳が私を見つめる。
誤魔化すことのできないほどの真っ直ぐなその視線から、目を逸らせずにいる。
そして気づけば首を縦に振っている自分がいたのだ。
「……至らぬ点の多い私ですけれど、よろしくお願いします」
「美しく着飾った君を見るのか今から楽しみだ」
アンドリュー様は屈託のない笑みを浮かべると、私の手を握る力を強めたのであった。
112
あなたにおすすめの小説
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います
木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。
サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。
記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる