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43 胸が痛む
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なぜマリア様はあのようなことを私に告げたのか。
その意図がわからずにひたすら困惑する。
──アンドリュー様の記憶はもう二度と戻らない、ですって……?
いつかは彼が私のことを思い出してくれる……その希望だけを胸にこれまで慣れない城での生活に耐えてきたのだ。
その希望が打ち砕かれてしまったような錯覚に陥り、唖然とその場に立ち尽くしてしまう。
早くアンドリュー様の元へ戻らなければならないというのに、足がその場から動こうとしてくれない。
やがて見かねたウェスカーが心配そうにこちらへとやってきた。
「セラフィナ様……何か危険なことはございませんでしたか?」
「ええ……」
「その……マリア様はなんと?」
「ここで話しているのを聞かれてしまっては、厄介なことになりかねないわ。お城へ戻ってから話します」
ここは敵の陣地も同然。
誰がどこで聞き耳を立てているのかわからないのだ。
私のその発言に、ウェスカーは黙って頷きを返す。
「長居しすぎたわね……そろそろ戻らなければ。アンドリュー様も心配されているでしょうし」
気は乗らないが、いつまでもこの場に立ち尽くしているわけにはいかない。
重い足取りで大広間へと向かい、重厚な扉を通り抜けた途端……。
真っ先に私の目に飛び込んできたのは、見たくはなかった光景であった。
──マリア様……。
私にこれほどの衝撃を与えた張本人が、アンドリュー様と仲睦まじそうに話していたのだ。
彼女の表情は先ほどの恐ろしい形相とはまるで別人のようで、頬を赤く染めて節目がちにアンドリュー様の方を見つめる姿は妖精のようだった。
そして何より彼女のその微笑みに応えるアンドリュー様の表情も、柔らかく温かなものである。
私だけに向けられていると思っていたその微笑みが、よりによってマリア様にも向けられている……。
その事実が先ほどの出来事と相まって私に襲いかかってきた。
うまく呼吸ができなくなり、胸に手を当ててゆっくりと息を吸い込む。
「失礼。ご気分が優れないのでは?」
すると、アンドリュー様のものでもウェスカーのものでもない男性の声が、背後からかけられた。
ゆっくりと振り向くと、そこには肩まである金色の髪を後ろで一括りにした碧眼の男性が立っている。
まじまじとその顔を見つめてみれば、かなりの美丈夫のようだ。
彼がどこの家の者かは咄嗟に思い浮かばなかったが、その身なりから高位貴族であることは間違いないように思える。
思えばこれまでずっと、アンドリュー様のことだけを見つめていたのだ。
彼以外の男性など目に入らなかったという言い方の方が正しいだろうか。
「あの……いえ……」
「っあなたは……」
一方の男性はというと、振り向いた私の顔を見るなり瞳が飛び出てしまうのではないかと思うほどに目を見開いている。
かと思えば勢いよく頭を下げられた。
「申し訳ございません! 第二王子妃様とは気づかずにご無礼を……」
どうやら彼は、私が誰か気づかずに声をかけたようだ。
「いえ。社交界への正式な挨拶もまだしておりませんから……お気になさらずに」
先ほどユーグレン公爵が話していたお披露目の舞踏会というのは、私の存在を社交界で周知してもらうためにも必要なのかもしれないと少し意識を改める。
男性は私の返答を耳にすると、ホッとしたように肩の力を抜いた。
「第二王子はどちらへ?」
「ユーグレン公爵令嬢とお話されておりますわ」
私は視線を彼らの方へと向けた。
すると彼もそちらに顔を向けた後、僅かに眉間に皺を寄せる。
「あのままでよろしいのですか」
「あのまま、とは?」
彼がなんのことを話しているのかわかっていながらも、素直にその事実を認めたくなくてわざととぼけてみる。
「……ここでは人が多い。少しこちらに」
「ですが私は……」
「あなた様に何か失礼な真似をするつもりはございません。もちろんそちらの護衛の方にも、共に来てもらいましょう」
男性はそう言うと、少しだけ人混みが落ち着いた場所に私をエスコートしてくれた。
その意図がわからずにひたすら困惑する。
──アンドリュー様の記憶はもう二度と戻らない、ですって……?
いつかは彼が私のことを思い出してくれる……その希望だけを胸にこれまで慣れない城での生活に耐えてきたのだ。
その希望が打ち砕かれてしまったような錯覚に陥り、唖然とその場に立ち尽くしてしまう。
早くアンドリュー様の元へ戻らなければならないというのに、足がその場から動こうとしてくれない。
やがて見かねたウェスカーが心配そうにこちらへとやってきた。
「セラフィナ様……何か危険なことはございませんでしたか?」
「ええ……」
「その……マリア様はなんと?」
「ここで話しているのを聞かれてしまっては、厄介なことになりかねないわ。お城へ戻ってから話します」
ここは敵の陣地も同然。
誰がどこで聞き耳を立てているのかわからないのだ。
私のその発言に、ウェスカーは黙って頷きを返す。
「長居しすぎたわね……そろそろ戻らなければ。アンドリュー様も心配されているでしょうし」
気は乗らないが、いつまでもこの場に立ち尽くしているわけにはいかない。
重い足取りで大広間へと向かい、重厚な扉を通り抜けた途端……。
真っ先に私の目に飛び込んできたのは、見たくはなかった光景であった。
──マリア様……。
私にこれほどの衝撃を与えた張本人が、アンドリュー様と仲睦まじそうに話していたのだ。
彼女の表情は先ほどの恐ろしい形相とはまるで別人のようで、頬を赤く染めて節目がちにアンドリュー様の方を見つめる姿は妖精のようだった。
そして何より彼女のその微笑みに応えるアンドリュー様の表情も、柔らかく温かなものである。
私だけに向けられていると思っていたその微笑みが、よりによってマリア様にも向けられている……。
その事実が先ほどの出来事と相まって私に襲いかかってきた。
うまく呼吸ができなくなり、胸に手を当ててゆっくりと息を吸い込む。
「失礼。ご気分が優れないのでは?」
すると、アンドリュー様のものでもウェスカーのものでもない男性の声が、背後からかけられた。
ゆっくりと振り向くと、そこには肩まである金色の髪を後ろで一括りにした碧眼の男性が立っている。
まじまじとその顔を見つめてみれば、かなりの美丈夫のようだ。
彼がどこの家の者かは咄嗟に思い浮かばなかったが、その身なりから高位貴族であることは間違いないように思える。
思えばこれまでずっと、アンドリュー様のことだけを見つめていたのだ。
彼以外の男性など目に入らなかったという言い方の方が正しいだろうか。
「あの……いえ……」
「っあなたは……」
一方の男性はというと、振り向いた私の顔を見るなり瞳が飛び出てしまうのではないかと思うほどに目を見開いている。
かと思えば勢いよく頭を下げられた。
「申し訳ございません! 第二王子妃様とは気づかずにご無礼を……」
どうやら彼は、私が誰か気づかずに声をかけたようだ。
「いえ。社交界への正式な挨拶もまだしておりませんから……お気になさらずに」
先ほどユーグレン公爵が話していたお披露目の舞踏会というのは、私の存在を社交界で周知してもらうためにも必要なのかもしれないと少し意識を改める。
男性は私の返答を耳にすると、ホッとしたように肩の力を抜いた。
「第二王子はどちらへ?」
「ユーグレン公爵令嬢とお話されておりますわ」
私は視線を彼らの方へと向けた。
すると彼もそちらに顔を向けた後、僅かに眉間に皺を寄せる。
「あのままでよろしいのですか」
「あのまま、とは?」
彼がなんのことを話しているのかわかっていながらも、素直にその事実を認めたくなくてわざととぼけてみる。
「……ここでは人が多い。少しこちらに」
「ですが私は……」
「あなた様に何か失礼な真似をするつもりはございません。もちろんそちらの護衛の方にも、共に来てもらいましょう」
男性はそう言うと、少しだけ人混みが落ち着いた場所に私をエスコートしてくれた。
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