僕と獣神

okameinko

文字の大きさ
1 / 1

僕と獣神

しおりを挟む
 僕と獣神
ここは人里離れた森の入口。この先は深い森で入ったら最後、迷って出られなくなると言われていて、誰も入ろうとしない森だった。そこに一人の青年が歩いてきた。
その青年は真っ白な髪、白いまつげ、白い肌いわゆるアルビノと言われる色素を持たない病気を持った人だった。
それ故に特別な目で見られ、からかわれ、虐められて親からも見捨てられた。そんな人生に絶望してこの森にやってきた。
「僕はなんでこんな姿に生まれてきたんだろ」生きる意味を無くし自暴自棄になっていた。森の入口に来ると「ここが噂の森か」青年は少し躊躇ったが意を決して中に入っていった。
薄暗い森の中を歩いていくと少し広くなった場所に出た。そこには木が生えていなくて柔らかそうな草だけが生えている場所だった。青年はその真ん中に立ち空を見上げた。そこには抜けるような青さの空が広がっていた。「こういうところに出ると少しホッとするな」少しつかれたのでそこに寝転んで空を眺めた。「僕が居なくなっても誰も悲しまない、僕は忌み嫌われた存在だから…」悲しくて涙が流れた。静かな森の中、何か動物の声がしたように思えた。
「何?何か獣が居るの?」恐る恐る耳を澄ませると、その声は苦しんでいるような悲痛な声だった。青年はその声の方に歩いていった。「たしかこっちから聞こえてきたようだけど…」ゆっくり警戒しながら歩いていくと、犬のような泣き声がしたので行ってみた。青年が見たものは罠にハマって逃げられなくて泣いていた小さな子犬だった。「なんでこんなところに犬が居るんだ?」そっと近づくとその子犬は青年に気づき牙を剥いて威嚇した。「グルルル」姿勢を低くして背中の毛を逆立てて。
青年はその子犬の足を見ると、トラバサミにかかっていて血がてていた。「怪我をしてるじゃないか」近寄ろうとすると噛みつきに来た。青年は腕を噛まれて苦痛の声を出した。「グッウウ」青年はその罠を外そうとそのままの状態で罠を外した。
「クッこれでいい、ちょっと待ってて」そう言うとポケットからハンカチを出して子犬の足に巻いてやった。子犬は最初こそ抵抗していたが、青年の優しさに大人しくなった。手当を済ませると今度は自分の腕の手当てをしようと水筒の水をかけて、シャツを破り包帯代わりに巻いた。
「ふぅこれでいいはず」青年はその場に座り込み腕をさすった。「子犬のくせに噛む力半端なかったな」そう呟いているとその子犬が、足を引きずりながら青年のもとに来て腕を舐めた。「なんだ気にしてるのか?大丈夫だから」そう微笑んで子犬の頭を撫でた。「触らせてくれるのか?ありがとう」その笑顔に子犬は心を許して青年の膝の上に座った。青年はそれが嬉しくて仕方なかった。「この子は俺を嫌わない」それが嬉しかった。暫く休憩した後、子犬が成年の服の袖を引っ張って何処かへ連れて行こうとした。「何?どうしたの、僕について来いって?」青年はその子犬の後をついて行った。すると森の中に小さな小屋が現れた。「こんな森の中に小屋が…」青年は恐る恐るドアを開けてみた。「誰か…居ますか?」なんの反応もないので中にはいってみた。中はこじんまりとしていたが、小さいながらもキッチンも付いていて、誰かここで生活をしていたかのような作りだった。
子犬は中にはいって尻尾を振って青年を呼んだ。「凄いベッドもある、誰か使ってたのかな?でもホコリが被ってるってことは、長い事使われてなかったってことだよな」青年はとりあえず窓を開け掃除をした。小さな小屋なのですぐに終わって、椅子に座って休んでいた。子犬は青年の足元に来て丸まって眠ってしまった。「この子も疲れたんだな、脚の傷大丈夫かな?」そんな事を呟きなから子犬の頭を撫でた。
青年も色々有って疲れたのか、ベッドに横になるとすぐに眠った。暫くして不意に顔を舐められて目を覚ました。目の前に子犬の顔があって舐めてきた。「ハハわかったよ、起きるよ」青年は起きるとテーブルの上にリュックを置き中から缶詰を出して開けた。半分取り分け子犬の前にさらに入れておくと、お腹が空いていてのか子犬はガツガツと食べ始めた。「お腹空いてたんだね、これも食べな」そう言って自分の分も与えた。子犬は青年の顔を見て食べようとしなかった。青年は笑顔で「いいからお食べ」その言葉を聞いて残りを食べた。
その様子を嬉しそうに見つめていた。青年は小屋の中を見て「ここならしばらく暮らせそうか」暖炉があるのを見て外に薪を拾いに行った。その頃には悲しいという気持ちは消えていた。しかし街に帰ろうという気にはならなかった。夜、ベッドを整えて布団の中に入ると、子犬も中にはいってきた。青年の横に座ると青年の顔を舐めてそのまま眠った。「この子も寂しいのかな」
そっと抱きしめて目を閉じた。(暖かい)その温もりですくに深く眠りについた。
次の朝、顔を舐められて目を覚ました。青年は子犬の頭を撫でて「起こしてくれてありがとう」そう言って顔を洗いに行った。
青年はこの森の中が気になって調べてみることにした。迷子にならないように枝を折り目印にして奥に進んだ。奥に行くとそこには果物のなる木がたくさん生えていた。
「凄い、色んな果物がある、季節ごとになる木の実や果物だ」青年は草木には詳しかった。更に色々見て回ると、きれいな水が流れる小川や花が咲く場所を見つけた。
「今日は色々見つけられて良かった、ここは僕にとって理想な場所かも」何故か楽しくなって来ていた。
小屋に帰ると子犬が尻尾を振って待っていた。「ただいま」子犬は飛びついて甘えた。
青年も子犬が可愛くて仕方なかった。
最初見たときは汚れた黒い子犬だったが、青年が洗ったり毛の手入れをしたので艶の良い毛並みになった。
その森に住んで1年、子犬だと思っていたのが、それは大きな漆黒の毛並みの狼だった。「お前、犬じゃなかったんだな」その狼は精悍な顔つきの立派な狼に成長した。
狼は常に青年の側に寄り添い青年と共に居た。ある満月の夜、狼が小屋の外に出た。青年はその後を追いかけた。
狼は月を見上げると一声鳴いた。すると狼の体が光だし光の中で狼が変化をした。
光が消えたときそこには、黒い髪、黒い肌の体格の良い男性が現れた。青年はあまりの出来事に固まって見つめていた。
現れた男は青年のところに行き「驚かせてすまない」と声をかけた。その声にハッとなり男を見た。「き、君は誰だ?」震える声で聞いた。男は優しく「私はあの狼です」青年は頭の中がパニックを起こしていた。「え、え、あの狼が君?」「そうです、私は貴方に助けられて命を繋ぎ止められました。そして一緒に暮らしていくうちに貴方は俺にとって大切な人になりました。」
その言葉に青年の目から涙が溢れた。
産まれてこのかた、誰かにそんな事を言われたことがなかったから、その言葉が青年の心を暖かくした。
狼は・ウルフィル・と名乗った。
「君、名前があったんだね、僕は静河、シズカと呼んでくれ」ウルフィルはそっと静河を抱きしめて「静河、あのとき俺を助けてくれてありがとう、ずっとお礼が言いたかった」ウルフィルの目からも涙が溢れた。
そんなウルフィルの涙を静河はそっと唇で受け止めた。「僕こそありがとう、君がずっと側に居てくれたお陰で、死にたいという気持ちが無くなり楽しい日々を過ごせた」
その言葉を聞いたウルフィルは、顔を曇らせた。それを見た静河は不審に思い聞いてみた。「どうしたの、そんな悲しそうな顔をして」ウルフィルは何かを言いかけてやめて、何かを考えているようだった。
そして真剣な目で静河を見て「実は俺は君と別れなければならない」それを聞いた静河はウルフィルの両肩を掴んで「どう言うこと?僕が嫌になったの?」ウルフィルは悲しそうに「違う!俺は元々獣神、修業の為に地上に降りてきていた、そしてこのスーパームーンのとき本当の俺になれたら帰らなきゃならないと決まってたんだ」静河はウルフィルとの別れを想像して胸が苦しくなった。「嫌だ行かないで、僕を一人にしないで…」それを聞いたウルフィルの胸がいたんだ。「俺も静河といたい、でもこれは決められていてこと、それを破るわけにはいかないんだ」ウルフィルもつらそうだった。静河は何かを決心した顔で「僕も連れてって、ウルフィルと離れるくらいなら死んたほうがマシなんだ、もう一人ぼっちは嫌なんだよ…」その言葉はウルフィルの胸に刺さりそっと静河を抱きしめた。
「分かったよ、でも肉体のまま連れてはいけない、その意味分かるか?」静河はウルフィルの胸に顔を埋めて頷いた。
「君と一緒なら肉体なんて要らない、君の魂と一緒になれるなら」ウルフィルは静河の顔をみてその決意を読み取った。
「わかった、一緒に行こうこれからは俺の魂と溶け合い永遠に…」静河とウルフィルは強く抱きしめ合い深く口づけをした。
静河はウルフィルに体を預けた。ウルフィルはしっかりと静河を抱きしめたまま空へと昇っていった。
小屋の前には幸せそうな顔をして眠るような静河の身体が横たわっていた。
朝露が静河の顔に落ちそれは涙のように流れ落ちた。
ウルフィルと静河の魂は一つになり、ウルフィルの力となった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】私は、幸せ者ね

蛇姫
ファンタジー
奇病を患った少女は笑う。誰よりも幸せそうに。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

甘そうな話は甘くない

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」 言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。 「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」 「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」 先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。 彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。 だけど顔は普通。 10人に1人くらいは見かける顔である。 そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。 前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。 そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。 「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」 彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。 (漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう) この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。  カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

それは思い出せない思い出

あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。 丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

処理中です...