笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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過日の約束 編

転4

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「汝は親衛隊ではないなっ。何奴だっ。」
 国王が問い質すと、玉座の横に立っていた大男がひらりと舞台から飛び降りた。
 大男は栗毛の男に駆け寄ろうとしていた隊員達を手で制し、自身が近づいて行く。


「かなり若いな・・。見たこと無い男だが、親衛隊じゃないのか。」
「あれは・・寮長だな・・。」
「へ?」
 搬入口から成りゆきを伺っていた俺に、カインが驚きの真相を呟いた。


 大男と対峙した栗毛の男に俺が目を凝らしていると、後方にいた女性隊員が隊服を脱ぎ始めた。
 濃緑の隊服の下は、フラーグ学院の灰色の制服だった。スラックスに詰め込んでいたプリーツスカートが、くしゃくしゃになっている。
 最後にベレー帽を外すと、髪をまとめたお団子が押さえつけていた反動でぽよんと飛び出した。
(なっ??ナナラっ!?)


「ええっ!?ナナラさんっ!?・・なんて無茶を・・。」
 イコリスは感激と申し訳ない気持ちが綯い交ぜになったらしく、涙を浮かべている。

 強制力で、豊満な体つきが平らな普通体型へ変質したナナラは、学院を出ると体型が元に戻り体へ負担が掛かってしまう。
 変質した割合の測定値、書き換え率が40%未満であっても、後遺症が出る危険性はある・・。だから王城で開かれた今日の納会には、寮生が招かれていない。

 寮長は今春に卒業したので、厳密に言うと元寮長だ。既に学院の生徒ではなく、飛転の間の強制力は対象外となり、もう丸い肥満体型にはならないのだ・・。
 寮長の本来の姿は、栗毛と垂れ目が甘い雰囲気の、すらりとした美形だった。


「寮長とナナラがいるということは・・あの大男はまさか・・。」
「宰相家の御者ですね。」
 カインはとっくに気付いていたようで、満足げに俺へ頷いた。


 大男は寮長とナナラを守るように真ん中に立ち、ベレー帽と目出し帽を外して、三人で舞台上の国王を見据えた。毛髪を剃り落とした頭部と短く伸びた黄茶の顎鬚は、紛れもなくジェイサムだった・・。

「何をしておるっ。その者を捕らえよっ。」
「陛下、もうおやめください。」
「!!余に楯突くのかっ?」
 ジェイサムが国王に従わず諫めたので、会場がざわめいた。


「私が発言を許可する。異議を唱えた説明をしろっ。」
 よく通る声でファウストが、異議の表明を承認した。
「ファウストっ。勝手な振舞いは止めろっ。」
「私は王太子であると同時に、フラーグ学院の生徒会、会長です。生徒に関する申し立てを、公正に聞く義務がある。」
 ファウストは国王を論理的にやり込めた。

「ファウスト殿下、ありがとうございます。私は今春フラーグ学院を卒業するまで、寮棟の寮長を勤めておりました。卒業後、在学生の生活相談の奉仕活動をしたところ、元寮長の私に入寮を希望する相談が集中しました。・・入寮希望者は全員一年生で、成績上位の地方出身者でした。彼らは・・イコリス様に謂れのない噂が出回った頃に、寮へ入れないか私に相談してきていたのです。」
「私もです、ファウスト様。アイさんの体操服が汚された事件の後しばらくすると、4人の同級生から途中入寮は可能なのか聞かれました。・・彼らに、学院が用意した下宿先に不満がある様子は無く、当初、入寮を希望する理由がわかりませんでした。」

「君達は、嫌がらせの犯人がイコリスだという噂と、複数の地方出身者が一斉に入寮を希望した事と、関連があると言うのか?」
 寮長とナナラの話を、ファウストが先んじて要約した。

「そうですっ。元寮長の私へ相談してきた生徒達は、頑なに入寮したい訳を言わなかった・・。しかし、勇気ある一人の生徒が、ついに真実を語ってくれました。彼は今年度から極秘に支給が始まった、奨学金の対象者だったのです。ファウスト殿下の入学に合わせ、内々に『オウラ6世奨学金制度』が創設されていたのですっ。・・なぜか奨学生達は陛下の命で、『イコリス様が嫌がらせの犯人だ』と噂を流さなければならなかったそうです。奨学生は、良心の呵責に耐えきれず、無償の食事付き下宿を出て、奨学金の辞退を願っていたのですっ。」
 寮長の説明で、カインが噂の発生源を追えなかった原因が判明した。


「・・ほう、余の命に耐えられなかったと?そのような生徒が本当にいるなら、名乗り出るが良い。」
 他言禁止の誓約書でも書かせているのか、国王の挑発に誰も応えなかった・・。

「匿名の証言を代弁したつもりかもしれないが、君達は『櫓の火を囲む親睦会』の開催後、イコリス・プラントリーと友好を深めていただろう。貴族との縁を継続する為に、存在しない人物を捏造してはいけないよ。」
 国王は穏やかに諭す口調だが、恫喝にしか聞こえない。ナナラが少したじろいだが、ジェイサムと寮長と共に、国王から目を逸らさなかった。

「・・寮長に話した奨学生は、僕です・・。」
「!?」
「『オウラ6世奨学金制度』は、私には初耳だ。寮長の話は事実か?」
 ファウストは、萎縮しながらも名乗り出た角刈りの男子生徒に、国王が何か言い出す前にすかさず確かめた。

(あの男子、見覚えがあるような・・薄茶色の角刈りが印象深いからか・・?寮長達とファウストは、示し合わせていたのかもな。・・王の横に居た、ジェイサムは―。)

「はい、事実です。ファウスト様の世代は王侯貴族が少ないので将来を見越して、いずれ参与となりファウスト様を補佐する平民を育成する為、地方出身の上位成績者、各クラス5名ずつ計15名を対象とした『オウラ6世奨学金制度』を密か に創設したそうです。公にされずに始まった奨学金制度は、成績維持の外に、機密情報を扱う演習として、目が届く範囲ですがイコリス様の監視報告が定められていました・・。」
 角刈り男子に皆が傾聴する中、アイだけが真っ青になって俯いていた。

 

※ファウストは同級生へ殿下とは呼ばないよう指示しているので、ナナラと角刈り男子は『ファウスト様』になってます。
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