笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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過日の約束 編

転9

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 12月に開催された、年末恒例のプラントリー一族の忘年会は、ナザフォリスの歌劇『隣でしゃくれただけなのに~最終章~』の前評判が高く、宿泊施設の大宴会場には、これまでなかった『年忘れプラントリー大笑いかくし芸大会』と書かれた横断幕が張られていた・・。
 忘年会が始まると、プラントリーの人々はナザフォリスの歌劇に備え、歌や楽器演奏が披露されている間に食事を済ませていた。
 食事中にナザフォリスのしゃくれた決め顔を見ると、食べている物を吹き出してしまうからだ。

 ナザフォリスの歌劇は、皆の期待を裏切らない快作だった。
 通りすがりの貴族がナザフォリスのしゃくれた顔を正面から目撃して、笑顔と勘違いする場面は、爆笑を誘う鉄板ネタだ。それに音楽と歌が加わるだけでなく、取り調べをする親衛隊と踊ったり、崖の上でナザフォリスが嘘の供述をした中年女性を自供に追い込んだりと、大きく脚色された物語は終盤で涙する者が出たくらいだ。

 ナザフォリスと演者が、盛大な拍手に何度も礼をして舞台から捌けていくと・・それは始まった。
 一族の頭首兼宰相である義父の『国王ラタタⅡ』だ・・。

 金色の絹糸で作った長い髪に葉冠を乗せ、白く長いローブを身体に纏った状態で正面扉に現われた義父は、客席の間を歩いて舞台へ上がった。
 舞台中央で白いローブを脱いだ義父は、右手に大きめの扇子を持っていた。扇子は金属箔の装飾紐で縁取られた、派手な手作り扇子だった。
 ラタタの曲が始まると、舞台の両脇から従者の格好をした義母と義父弟のアルティーバが、スキップで登場した・・。二人は、金属箔の装飾紐が糊付けされた普通の大きさの扇子を、両手に持っていた。
 特訓の成果を発揮した義父達の一糸乱れぬ踊りに、自然と客席から手拍子が起こる。

 ・・そして、ラタタの曲が間奏部にさしかかると・・義父は大きな扇子で、顔を隠した。義母とアルティーバが義父に駆け寄り、両手の扇子も添えて義父の上半身を覆い、細かく扇子を震わせる。やがて間奏が終わって扇子が取り払われると・・。

 前髪の分け目が変わっていた。
 樟の葉冠を乗せた金糸の鬘は、右から七対三に分けていた前髪が左から分ける前髪と変わったのだ。


(・・なんだ?間違い探しか・・?)
 俺の疑問は、ラタタのリズムを刻み踊っている義父への怒号で掻き消された。

「やめろおおおおおっ!」
「いやーーーっ。もう拝謁に行けないーー!」
「更に試練を増やすなよっ。ふざけるなー!」
「新年の祝賀で、思い出すだろうがーっ。どうしてくれるーー!」

 俺とイコリスをはじめとしたプラントリーの未成年は、大人達が憤る理由がまったく分からなかった。


 新年を迎えると、貴族達が丘の上の城壁に勢揃いして、民衆へ手を振るのだが・・プラントリー一族の配置場所は、中心に立つ国王の後ろだ。
 思い起こすと、今年の元旦は冷たい風が吹き付ける度に、プラントリーの大人達は不自然な咳払いをして体を震わせていた。・・これは、風邪をひいたわけではなかったのだろう。 
 

 宰相家の地下室に掛けられた国王オウラ4世の肖像画が、床に落ちて額縁が壊れた際、絵が二枚重ねになっていたことに俺は気付いた。
 地下室へ差し込む光に翳すと、サジタリアスが描いた肖像画は、重ねられた下の絵が透けて見える仕組みだったのだ。 
 そしてまた、飛天の間の前室に飾られた歴代国王の肖像画を観察して、確信した。


**

「イコリスへの過剰な対応の原因は、これだろう?」
 腰を抜かしたのか椅子から動けない国王の頭に、俺は手を置いた。

「国王4世は、蟄居させられたんじゃない。アワージ島に隠れ住んだんだっ。」
 俺が国王の腰まである長い金髪を葉冠ごと持ち上げると、するりと頭から外れた。
 肌色の頭皮に柔らかな金髪がまばらに生えている・・。白い羽根が舞い散る中、ヒヨコのような形の良い頭部が露わになった。

「・・父上・・。カツラだったのか・・。」

現国王であるオウラ6世は、恋愛結婚にこだわり晩婚だった。ファウストが6歳だった収穫祭の魅了事件当時、オウラ6世は4世が蟄居した年齢と同じ、40代半ばだった・・。

「曾祖父・・4世は、蟄居ではなく民衆から隠れたと言うのか・・。サイナスがいきなり遺伝の話をしたのは、父上が曾祖父に似ており、髪が薄くなる時期も一緒だと・・私に伝えたかったのか?!」
「その通りだ、ファウスト。陛下は、見識も広く聡明で優れた統治者なのに・・イコリスに関してのみ狭量だ。そうなってしまうのは、髪が抜けた原因はイコリスの魅了だと、陛下が思い込んでいるからだろう?魅了の無効化でハゲたんじゃあないっ。遺伝で髪が抜けたんだっ。いい加減、現実を受け入れてくれ。」
 飛転の間の前室に飾られていた初代国王と3世と5世の肖像画は、ファウストと同じ、鼻の付け根に集まる三角の前髪の短髪に描かれていた。
 2世と4世の髪型は、現国王と同様に七三分けの長髪だった。
 
 俺の叱責に、国王は頭を抱えて項垂れた。
「異常魅了の解除は、心理負担が大きい・・。従者や好きでもない中年女性・・露天商の親父に、濃厚な接吻処置をしなければならなかった・・。そうしたら一気に髪が抜けてしまった。遺伝ではない・・。解除の心労で、生え際がすごく後退したんだ・・。」


※『転7』の、ハリセンを使ってジェネラスの警棒を奪った技は、鉄扇術です。
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