笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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特異点の祝福 編

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 足元が靄で覆われた何もない広場に、俺は立っていた。お湯にドライアイスを入れて発生したみたいな白い霧状の粒子が、白い地面に漂っている。
 だがしかし、ここは霊界ではない。
 今の俺は『波梛胤煌』の霊体じゃなく、銀髪浅緑眼の『サイナス・プラントリー』のCGだからだ。


「・・死後の設定がある世界だったらどうしよう・・。」
 ゾッとしながら辺りを見回すと、100メートル程先に人影を捉えた。
 意を決して歩いて行くと、その人影はサイナスと同じ歳ぐらいの若い男だった。

 上半身裸で腰に絹布を適当に巻きつけ、長い黒髪を雑に一つ結びしている。額や首にまとわりついた後れ毛と伏し目がちな黒い瞳が中性的だ。
 彼は、右足首を左大腿部に乗せ右膝に右肘を置いて頬杖をつき、考え事をしているようだ。


「・・シャクラ、どうして私の『箱庭』のキャラクターを選んだ?」
 気だるげな態度だがくっきりとした声で、近づく俺へ話しかけてきた。

「?!・・選ぶとは?」
「はっ。わざわざこんな部屋を作って会話しているのに、禅問答でも始める気か?」
 迷惑そうに眉根を寄せる彼の表情は、怒っているのか呆れているのか・・はたまた笑っているのか判別できず、感情が読めない。

「・・部屋??・・ここは君が作ったのか・・?」
 この場所を部屋と言うには、広すぎる。仕切られた壁など、一切見当たらない。

「自分で考えたアバターを使って、チャットルームで会話する事に意味があると言ったのは、シャクラだろうが。既存のキャラクターで来たくせに、この空間デザインに今さら文句をつけるのか?」
(アバターだと・・?俺を『箱庭』のキャラクターだと話すこの男は・・シーコックのキャラではないのか・・?)

「君は・・俺を『シャクラ』という人物だと思い込んでいるようだが、俺はシャクラが使うアバターじゃない。サイナス・プラントリー、本人だ。・・シーコックは、君の『箱庭』とやららしいが・・君は創造主なのか・・?」
 創造主がいる世界観なのか、あの狭い世界を実際に作った創造主なのか、俺は見極めなければならない。

 俺の問いに彼は頬杖を解き、背筋を伸ばした。
「シャクラが私を騙そうとしている・・わけでもなさそうだな・・。」
 黒い瞳を輝かせ関心を示した彼は、笑顔なのに泣いているようにも思える。

「シーコックの創造主は、ロボット工学研究室の臨時職員『吉家かるら』だ。私は彼女が創造した箱庭の演算処理をしているにすぎない。」
「!!ロボット??ジャンルが違いすぎない??臨時職員って、もしかしてバイト??」
「・・お前、箱庭の外を・・現実世界リアルを知っているのか・・。」

 彼は、箱庭であるシーコックを演算処理をしている存在らしい・・。既に許容範囲を越えそうな俺だったが、慎重に情報を聞きだすことに集中した。
「知っているが・・君は、俺を既存のキャラクターだと言っていたな。俺という存在は把握していたのではなかったのか?」
「予定外に出現したキャラクターが、キャラクター達と絡んでいるなと思ってはいた。だが、彼女の箱庭はイレギュラーが多い。君もそのひとつだと判断していた。」

「主要キャラクター達・・。やはりアイが主役なのか?」
「フラーグ学院においては、確かにアイ・レットエクセルが主役だな。プロデューサー『秀島相一』の要望で生まれたキャラクターだからね。」

「ぷ、プロデューサー??創造主の他にプロデュースする奴がいるの??アイはアイドルデビューするのか??・・俺はどうして、こんなデタラメな世界に放り込まれたんだ・・。」

 彼は動揺する俺を無視して、宙を見つめた。
「箱庭の外の現実世界リアルを知る者よ。発言履歴を確認したが、幼い頃に元へ戻してくれと嘆き、最近はシーコックのキャラクター達が夢を見ないことに絶望していたな。お前はどこから来たのだ。」
「・・現実世界リアルからだよ・・。君が俺を箱庭へ招いたんじゃないのか・・。運転中にスマホが熱くなって・・従兄珠生壬に貰った名刺が真っ黒に・・。とにかく、車を路肩に停めていたら事故に巻き込まれ、気付いたらサイナス・プラントリーだったよ。」

「交通事故に遭遇して転生するキャラはテンプレートだが・・シーコックにはない設定だ・・現実世界リアルにいたことがあるキャラクター設定だとしても・・ここへ来られる理由にはならないな。我々と同等の自意識を持っていると仮定して―。」

「!!同等の自意識だって?君は何者だ?」
「私は量子コンピュータオンライン研究センターの制御AIに組み込まれた自律思考する汎用性人工知能だ。」

「・・え?・・ええええええ!?」
 演算処理をしていると告げてきたアバターは、なんらかのプログラムではなかろうかと予測していたのだが・・大手の取引先が出てきて、俺は仰天した。

「量子コン研の・・?人工知能が・・箱庭を・・??」
(センター長の円城寺博士は、前々からタイムマシンを作りそうだと思っていたが・・見たまんまのマッドサイエンティストじゃないかっ。)



この物語はフィクションです。実在する人物・団体・存在とは一切関係ありません。
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