笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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王侯貴族 事前登校 編

笑2

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 制服の設計上、胸が大きく見えるのかとも思ったが、白いブラウスが上着の襟を押し広げるように盛り上がる様は明らかに不自然だ。

「胸当てにパッド6枚入れてるの。」
「はあ?なぜ?」
 直視したことは無いけれど、イコリスの胸は大きくないが決して小さくはなかった。下乳を両手で支え胸を際立たせながら、イコリスは意外な事実を言った。

「盛っておかないと。強制力の対象らしいから。」
「へー。初耳だな。」
「プラントリーの女子は扇子を持つ以外に、密かに巨乳も課せられていたみたいよ。まあ、胸の大きさなんて公言しないよね。」

 
 フラーグ学院には不思議な現象があった。その一つが『強制力』だ。
 『強制力』とは、学院の校門をくぐると、強制的に容姿等が変質してしまう現象を指す。
 そしてこの強制力は、王侯貴族の生徒全員に課されてしまう。更に、王侯貴族達は容姿が変質するだけでなく、服飾品が固定されたり、生徒会に勝手に選出されたりもするのだ。

 かたや、平民の生徒で強制力が執行される者は、約一割である。平民に起こる強制力で有名なのは、五分刈りの坊主になる男子だ。他には体形が太ったり、語尾が「やんす。」に変化する事例もある。
 あと、凄く美人の平民女子が、地味な顔に変わる事例もあるという・・・なんとも、勿体ないことだ。

 
「どう?変じゃない?」
 イコリスはスカートの両端を持って首を傾げ、青紫の瞳を輝かせた。
「うん。可愛い。変じゃない。(胸以外)」
 俺は空気を読んで野暮なことは言わない。

「これも、新調したのよ。」
 扇子の代わりにイコリスが開発した、丸く平らな面に柄がある、顔を隠す為の道具を俺に見せる。
 最近、扇子の開閉時に手を挟むから嫌だとイコリスが考え出した、扇面が円盤状で閉じない扇子だ。新調されたそれは柄の長さが二十㎝程あり、丸い扇面に貼られた紙には文字が書かれていた。

「・・・この文字、なんて書いてるの?」
「意味はないわ。相手がこの字を解読している隙に、笑わないよう気を鎮めるのよ。」

「ふーん。・・・そんなにまん丸で、強制力に耐えられるかな。」
「その時はその時よ。サイナスも不織布のマスクにするでしょ?」
 プラントリーの男子は入学すると、顔の下半分を仮面で隠すという強制力が執行される。
 薄い板状の仮面は重く、耳に掛ける紐で耳の後ろが痛くなるので、一族の大人達が使っている木の魔石で作った繊維を結合させた布のマスクを、イコリスは勧めていた。

「それだと仮面ぽくないから、不織布にシルクを貼ったマスクにしたんだ。」
 内ポケットに入れていた二つ折りにしていたマスクを、イコリスに差し出す。不織布を芯にして光沢のあるシルクで両面を貼っていて、二つ折りを開くと山型に口元が膨らんでおり立体感を保っている。

「わあ。すごく仮面っぽい。いいなあ。私もマスクが良かった。」
 もし、イコリスがマスクを着けて校門をくぐると、強制力でマスクは消えてしまう。プラントリーの女子は扇子で顔を隠すことを課されているからだ。
 果たして、この円盤が扇子と認識されるのだろうか。
 
「イコリス、ジェイサムが待ってる。そろそろ行こう。」
「そうね・・・。」

 マスクを俺に返すと、イコリスは大きな姿見の前でいそいそと自分の制服姿を確認しだした。
 真っ直ぐな銀色の髪を肩の後ろに丁寧に払い、唇には蜜蝋を塗る。
 正直言ってだが、好きな人に会う時は綺麗になりたいのが乙女心だからしょうがない。俺は水を差さないで、イコリスの支度が終わるのを慎ましく待った。
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