43 / 156
哀切 悪役令嬢 編
哀7
しおりを挟む「え?花束?」
「はい、私がイコリス様を連想する花を選んで、飾り付けて花束にするんです。いつもお客様の依頼に応じた花束を、考えて作っているので・・・是非、私が想うイコリス様に似合う花束を、贈らせてください。」
「アイさんが私を想って花を?とっても嬉しいっ。私、お花屋さんに行きますっ。」
「アイの花屋の見学は、小売業の社会的役割や、流通の末端としての存在意義を学ぶ事が出来るな。エルード達との飲食より、よっぽど有意義だよ。」
ファウストはさりげなく、イコリスとエルード達との交流を断とうとしていた。氷菓子店は飲食品小売業ではないのだろうか。
「ファウスト、今言った事そのまま交流計画書に書いてっ。親衛隊にアイさんのお花屋さんへ行く申請をするわっ。」
「顔がにやつきそうだぞ。イコリス、気をつけろ。」
注意を促すトゥランが、顔をほころばせている。
ジェネラスとチェリンも、浮かれるイコリスを微笑ましそうに眺めていた。
「イコリス様が私の店に来るなら、とても光栄で喜ばしいですぅ。楽しみにしてますぅ。」
アイは当初とは打って変わって、明るい調子で気持ちを述べた。
「私もっ、凄く楽しみですっ。」
「イコリス、顔、顔。緩みまくってるよ。」
「うぐうっ。」
俺の指摘を受け、イコリスは丸い扇子を顔面全体に押し当て、喜びをかみ締めた。
そんなイコリスの姿に、生徒会室は笑い声で溢れた。
ラビネはやれやれと笑みを浮かべて溜息をつき、俺はマスクの下で口角を上げた。ジェネラスとチェリンは暖かい笑顔を湛え、トゥランは眼鏡の奥の目を潤ませ笑っていた。
ファウストの笑い声は、かなり久しぶりだ。
「フフフ。勇気を出して、ファウスト様にこの場を設けてもらって良かったぁ。イコリス様とこんな風に話せるなんて、感激ですぅ。」
アイは入学式に初めて会った時の雰囲気を取り戻していた。相変わらず胡散臭いが、アイの言葉に嘘は無いだろうと俺は思えたのだった。
ファウスト達に感謝の意を伝え、イコリスと俺へ丁寧に帰りの挨拶を済ませたアイは、今日の送迎当番のチェリンと生徒会室を後にした。
(ラビネが当番じゃないのか・・・。)
俺は、資料室にアイと籠もっていたラビネを改めて見て気付いた。
密室で二人に何かあれば、リヴェール一族に課された鈴の耳飾りが鳴るはずだったことに。
俺の視線に気付いたラビネは、人差し指を唇に当てて片目を閉じた。女子を惑わせそうな仕草だ。
「資料室に人型の土嚢袋が置いてある理由は、アイには言ってないよ。」
「ふぁ?・・・お、俺は使った事が無いし、理由ぐらい言っても良かったけど?」
副会長を務める笑えないプラントリーの為に、溜まった苛立ちをぶつけられる人型土嚢が資料室に設置されていた。殊のほか真新しいそれは、破損すると生徒会予算で購入できるらしく、キャルクレイか先々代の在任時に買い換えたようだ。
「入学して間もない頃に、資料室からサイナスの荒ぶる声と打撃音がしたよ。」
「げっ、ラビネ居たのか。・・人が悪いな、声かけろよ。」
「・・あの時たまたま、サイナスに対する女生徒の陰口が私にも聞こえたんだ。思い詰めた顔で生徒会室へ向かうサイナスが気になって、後を追ったんだが・・私と話すより、土嚢を殴る方が良いんだろうと思い直して、声をかけるのは遠慮したんだ。」
強制力が書かれた一覧表では把握しきれない新しい変質を課された者が、アッシュ・エイシムやキース・ストライトの他にもいた。『ユーリ・ウディバ』、枇杷茶色の長い髪が編まれて結い上げられてしまった女子生徒だ。
ユーリのキリッとした猫目の美しい顔は、強制力で変わらなかった。
しかし、編まれた髪は三つ編みではなく二つの毛束を捻って交差させた縄編みになっており、後れ毛無くまとめあげられた頭部を、長い縄編みでぐるりと一周して巻いていた。その縄編みは、眉の上で額を横断しており後頭部で結ばれ、なぜか二本ある縄編みの先端が結び目から角のように立っていた。
俺はユーリ・ウディバの髪型が面白いとは思わないが、視界に入る度、目を眇めてしまっていた。
そんな俺を、舐め回すように凝視してきて不快だと、放課後、御手洗い前の廊下で同じ官僚クラスの女子に、ユーリが愚痴っていたのだ。
下校前、御手洗いに居て彼女の陰口を聞いてしまった俺は、教室に待たせていたイコリスを帰らせ、一人で生徒会室へ赴いた。
その日、生徒会室には誰も来ない事を知っていたので、資料室の人型土嚢を殴って思いの丈をぶつける事にしたのだ。
「見るだけで嫌がられるのか・・・。」
俺は呟きながら、人型土嚢の胸部へ狙いを定めた。
「太鼓を叩くのか?」バスンッ「女神輿を担ぐのか?」バスンッ「毎日がお祭りなのか?」バスンッ
ユーリ・ウディバのねじりハチマキ頭を罵りながら、両手の正拳を交互に人型土嚢へ叩き込む。
「カインと並ぶんじゃねえっっ。」バッスンバッスンバッスンッ
ユーリは眉が繋がったカイン・サドゥキの隣の席だった。彼女単体だと問題無いが、カインと並ぶと俺は何とも言えない気持ちになってしまうのだった。
しばらく正拳を撃ち続けていると、人型土嚢の胸部が撓んできたので俺は手を止め、フィーウィ・マールの言葉を反芻することにした。
御手洗い前の廊下にはフィーウィも居た。
『フラリス様の眼帯も良いけど、サイナス様の仮面も格好良く見えると思わない?』
そう言ったフィーウィの意見を否定する会話から、俺への陰口に繋がるのだが・・・。そこは排除し、『格好良く見える』という部分だけに焦点を当て、翌日からの心の支えに採用したのであった。
一度だけ、人型土嚢を使用した発散の現場にラビネが居合わせ、しかも俺の気持ちを慮り遠慮させていたとは。
「そうか、ラビネを煩わせたな。」
「いや、サイナスも年頃らしい処があって安心したよ・・クスッ。いつも、達観した大人みたいだから。」
(大人の階段を昇りまくっているのはラビネだろうがっ)
トゥラン以外の前では猥談をせず寛容なふりをしていた俺は、心中で毒づきながらいたたまれなくなっていた。
「サイナス、赤くならないでよ。可愛いんだけど、クスクス。」
「う、うるさいっ可愛い言うなっ。」
顔が熱くなった俺は周りの目を意識したが、親衛隊へ提出する申請書の作成をするイコリスに、ファウストとジェネラス、トゥランは掛かりきりだったのでほっとした。
完成した交流計画申請書をファウストへ託したイコリスは、皆を生徒会室に残して先に俺と下校したのだが・・。退室してからジェイサムが待つ学院前の駐馬車区域迄、イコリスはスキップだった・・・。
なので俺は5m程後ろを、他人を装ってゆっくり歩いていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
メイドから母になりました
夕月 星夜
ファンタジー
第一部完結、現在は第二部を連載中
第一部は書籍化しております
第二部あらすじ
晴れて魔法使いレオナールと恋人になった王家のメイドのリリー。可愛い娘や優しく頼もしい精霊たちと穏やかな日々を過ごせるかと思いきや、今度は隣国から王女がやってくるのに合わせて城で働くことになる。
おまけにその王女はレオナールに片思い中で、外交問題まで絡んでくる。
はたしてやっと結ばれた二人はこの試練をどう乗り越えるのか?
(あらすじはおいおい変わる可能性があります、ご了承ください)
書籍は第5巻まで、コミカライズは第11巻まで発売中です。
合わせてお楽しみいただけると幸いです。
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる