笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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哀切 悪役令嬢 編

哀10

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 生徒会室へ入るとファウストが一人で大きな窓の前に立ち、鼠色の曇り空を眺めていた。
 俺達の入室に気付いて振り返ったファウストは、煌びやかな金髪に似合わない疲れた顔をしている。

「・・トゥランも来たのか。とりあえず、お茶でも飲もうか。イコリス、プリンを買ってきたよ。」
「私の好物を覚えていてくれたのね。ありがとう、ファウスト。」
 俺はイコリスが礼を言い終えると、ティーポットに人数分の茶葉を入れお湯を沸かし始めた。
 イコリスはお皿とスプーンを棚から取り出し、長椅子の前にある楕円の机にプリンをのせたお皿を手際よく並べた。プラントリーは使用人ではなく、自分達でお茶の用意をするので慣れているのだ。
 
「紅茶は私が淹れるよ。イコリスとサイナスは、ファウストと長椅子に座っていてくれ。」
 お湯が沸騰し紅茶を淹れ終えたトゥランは、長椅子に座る俺達の前にティーカップを置きファウストの横に座った。しかし誰も手をつけようとはしなかった。

「・・・イコリス、すまない。アイの花屋へ行く交流計画申請に、許可は下りなかった。」
「謝らないで、ファウストのせいじゃないわ。・・・良い知らせではないと思っていたし・・・何となく分かってたから。」
 イコリスの返事を聞いたファウストは、言葉を続けたいみたいだが逡巡する様子を見せた。本題は別にあるのだろう。

「やっぱり、アイに何かあったのか?」
 思い切って俺が訊ねると、ファウストは静かに頷きゆっくりと話しだした。
「・・・アイは今朝、親衛隊に呼び出されて、魅了に侵されていないか検査されたんだ。」
「はあ?魅了ってもしかしてイコリスの魅了か?」
「そうだ。昨日、生徒会室で話した事によってイコリスの魅了に侵されていないか、王の指示でアイを調べた・・・。」
「完全に濡れ衣だろ。イコリスは笑わないよう耐えたし、アイが魅了にかかった兆候は全く無かったじゃないか。」

 もし、プラントリーの者の笑顔で魅了に侵されたならば、とろんとした目つきで魅了を使った者へ夢中になり、指示が無い限り身動きしなくなるのだ。
 10年前の収穫祭では、イコリスを過剰に守ろうとしたり攻撃性を抑えられない異質な魅了のかかり方だったが、本来、笑顔を向けられた魅了の効果は、命令がないと寝ぼけたような催眠状態になるだけだ。

「検査の結果はもちろん、魅了に侵されてなかった。不正がないように私も検査に立ち会ったんだ。保証するよ。」
「・・・アイは午後も休んで欠席していたが、大丈夫なのか?」
 戸惑う俺達に代わって、トゥランが聞いた。

「とっくに帰宅して、花屋の仕事をしている・・。アイが処分を受ける事は無い。」
「・・・私には処分があるのね。」
「イコリスは何も悪くない。私の力不足でアイの花屋へは行けなくなったんだ。・・・本当にすまない。・・・だから、次の申請は通してあげたいのだが・・・・。」

「・・・まだ何かあるのか?」
 俺はファウストの言葉の先を促した。
「王はアイとの接触はイコリスの感情を高ぶらせる為、禁止するべきだと言っている。・・・まだ決定事項ではないが、次回の交流計画はアイとの交流だと絶望的だ。反論はしたが、いつもながら聞く耳を持ってくれない。・・・イコリスはきっと、アイとは係われなくなるだろう。」

「アイと係わるのを禁止だと・・・。」
 王のイコリスへの過剰な対応にトゥランが呟いた。
 イコリスは同級の女子と仲良くなれそうだという事に、浮かれただけなのにと誰もが思うだろうが、俺は理解していた。
 判断するのは俺達じゃない。対魅了特殊部隊である親衛隊でもない。・・・国王なのだ。

「トゥラン、サイナス。昨日からわずか一日で、イコリスとアイとの接触に、王から口を出されるのは合点がいかない。疑いたくはないが王にジェネラス達かアイが・・・。」

「いや、違う・・俺のせいだ。」
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