笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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哀切 悪役令嬢 編

哀17

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「何だよ?急に・・・。」
「どうして、おが屑から籾殻が出てくるアル。」
「水車といえば脱穀だろう。籾殻はおが屑より、大量に余っているのは歴然としているからだけど。・・籾殻の炭化は珍しくないだろ。」
「・・・水車は、混凝土材料の粉砕や撹拌で使うアル。それから籾殻を燃焼させると、粉塵で肺がやられる事が判明したアルよ。それで近年、野焼きは禁止されたアル。」

「・・そうか・・高温の燃焼でガラス成分が有害化したのか。・・・じゃあ安全に加工した籾殻を、土の魔石で砂へ書き換えてみたらどうだ?籾殻には砂の主成分のガラスが、2割ほど含まれてるから。」
「・・・・・・籾殻にガラス?」
 アッシュが隣に立っているフェリクスを見たが、彼は小さく首を横に振った。どうやら知らなかったみたいだ。

「・・俺の実家の地域には酒蔵が多いんだけど、酒造で出る籾殻からガラス成分を抽出して酒瓶を作った蔵があったんだ。既にある酒瓶を再利用する方が遥かに低費用なので、実用化はされず直ぐに廃れたけど。・・あれは火の魔石を使って七百度以下で籾殻を燃焼させてから、土魔石でガラスを抽出していたな。」
 アッシュが俺の肩を両手で掴み、顔を近づけてきた。

「今の話、絶対に誰にも言わないでくれっ。」
 やっぱり語尾にアルがついていない。俺はアッシュの剣幕にたじろいだ。

「良いけど。何なんだ、さっきから。」
「・・・混凝土の大量生産は危険アル。環境が破壊されて人が住めなくなるアル。ゆくゆくはたくさんの人が飢えて、死ぬアルよ。」
「ふぁ?。」

「80年程前、急激な人口増加に伴う森林の伐採が問題になったでしょう?それと同様の事が混凝土の生産でも起こる・・いや、起こっているんですよ。」
 フェリクスがアッシュを俺から引き離しながら言った。
 アッシュの曾祖父が混凝土建築を確立したらしいが、80年前は木造建築がまだまだ主流だった為、多くの木材が切り出された。破壊された森林を、サウザンド一族が尽力し木の魔石で再生したが、元通りに近づけるには多くの魔石と時間を要したのだ。
(・・事情が変わった。迂闊な事は言えないな・・。)

「今現在、進行中なのか?」
「そうアル。膠灰の原材料を採掘する山には木々が生えて無いし、砂浜が消えた海岸もあるアル。」
「?海岸の砂は塩分濃度が高くて混凝土材料には向かないのでは・・。」
「・・河川敷から大量に砂や砂利を採取すると、海岸へ影響が出るアルよ・・。実例は少ないアルが、砂浜の減少は川から海へ流れ出る土砂が絶たれた為だと、因果関係ははっきりしているアル。」
「・・・アッシュは混凝土業界を大きくしたいんじゃなかったのか?」
「それは建前アル。僕の祖父を含め、老齢の者には混凝土生産を縮小するべきだという話は通じないアル。」

「莫大な資産や権力を持った者達ほど、己が満たされる財と地位を維持できれば良いと思ってるのが現実です。一般人はもちろん、自分の孫や子孫がいずれどうなるか考えない。金が全てだから・・金があれば家族も受け入れると本気で思っている。未来に思いを巡らさず今の自分さえ良ければいいという、権威に固執する者を・・たとえ相手が身内でも・・粛清する為に私達は水面下で動いているのです。」
 とても格好良いフェリクスが言うと、とても心に響く。俺が女だったら、惚れてしまうだろう。
 俺は心が揺さぶられながらムカついた。

「サイナスにはいつかお願いしようと思っていたアルが、・・・良い機会だから言うアル。宰相に会わせて欲しいアルよ。」
「宰相に?フラリスに頼んで、ブリストン頭首に会った方が話は早いんじゃないか?」
「ブリストン頭首は駄目アル。現頭首に賄賂こそ無いものの、曾祖父の時代から巨大建造物による街づくりや商業の発展とか、都合の良い情報で固められているアル。頭首家以外のブリストン一族との政略結婚も謀られているアル。」
「付き合いが長くなってくると、取り込まれるよねー。」
 大規模土地開発でありがちな構図に、俺は鼻をほじりそうになったが仮面状のマスクのおかげで止まることが出来た。

「環境に与える数値等も操作された報告で信じさせているアル。これを突き崩そうとするには手が足りないし、途中で邪魔が入るアル。」
「なるほどー。公共事業・・・は、根が深いねー。」
 思わず、数値改ざんはよくある不正だねーと言いそうになったが、空気を読んで回避した。

「五大貴族と各業界の調整をしてる、プラントリー一族の担当者に報告するのも危険アル。2,3年で異動するとはいえ、癒着があったら潰されてそこで終了アル。」
「んー、癒着がなくても引継ぎで調査が滞る可能性は高いよねー。業界も必死に誤魔化すだろうしー・・・。」
 フェリクスの『なんだこいつ』という表情に気付いた俺は、真面目に見えるよう腕を組んだ。
「・・・そうだな。宰相として、アッシュと会って話を聞いてもらえないか、義父に話してみるよ。」

 ガシャンッッ

 俺の横にある机に、勢いよくガラスコップが置かれた。
 色とりどりのラムネがシュワシュワと泡立つ飲料水は、半分零れて机を濡らしている。
「・・アッシュは宰相と会いたくて、サイナスに近づいたの?」
 丸い扇子で隠れていない青紫の瞳は、アッシュを睨みつけていた。
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