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わくわくwack×2フラーグ学院 箱庭 編
相1
しおりを挟む堅牢な壁を越えて蝉の声が微かに届く。窓の外で燦々と降り注ぐ陽光は、天井の人工的な灯を暗く感じさせる。閉塞した室内で、私は頭を抱えていた。
「LEDってあまり明るくないよね?」
「そうですか?僕、LEDじゃない蛍光灯は知らないんで、分からないですね。」
「・・知らないんだ・・。」
息子と言えなくもない年齢差を改めて思い知り、地味にダメージをくらう。
「学会や論文の発表じゃないんだから、そんなに気張らなくてもいいんじゃないですか?」
大きな溜息を繰り返し、蛍光灯に謂われない八つ当たりをする私を、夫の助手である見鷹君が慰めてくれた。
「そおなんだけど・・夫の不名誉にならないようにしないと・・場違いな主婦が紛れ込んだと思われるのだけは回避しなきゃ・・・。」
「ちゃんと大学の臨時職員の肩書があるじゃないですか。主婦が紛れこんだとは思われないですよ。そもそも『箱庭』がふざけてるんだから。真面目に観察して発表する人は、少ないですよ。」
一昨年、純国産の量子コンピュータが完成した。
日本初の純国産量子コンピュータを開発した国営の組織は、利用者のパソコンからデータを送信し量子コンピュータ計算処理を行う仕組みを構築すると、『量子コンピュータオンライン研究センター』を立ち上げた。
6基の制御AIで24時間稼働体制を整えた『量子コンピュータオンライン研究センター』の長は、量子力学の物理学者ではなく人工知能を研究していた80歳近い円城寺真夕樹博士だった。
オンラインの名の通り、量子コンピュータの計算機能がオンラインを通じて企業や大学の研究室等に広く開放されたと思われたが・・・。
量子コンピュータを利用する権利を有するには、円城寺博士が認める『箱庭』を作成しなければならないという、荒唐無稽な条件が提示されたのだった。
純国産の量子コンピュータのオンライン運用が発表され、利用を希望する企業や大学が殺到すると、希望する各団体へ『量子コンピュータオンライン研究センター』から、あるソフトウェアが配られた。
そのソフトウェアをパソコンで起動してみると、超有名な日本の多人数同時参加型オンラインゲームの景色がディスプレイに広がった。
これはシミュレーション仮想世界『箱庭』の初期値の映像だった。
見渡す景色はオンラインファンタジーゲームそっくりだが、よく見ると動植物は日本に生息するものばかりだった。
建物は和・洋、で混在しており、近代的な高い建物はなかった。町並みは日本風と西洋風を設定ゲージで調節することが出来、西洋風に最大値を合わせると中世ヨーロッパの建物が立ち並んでいた。
『箱庭』には電気やガスが無かったので、それに町並みも準じているようだった。
そして住民達は日本人の外見をしており、使用している言語はカタカナだった。
初期値キャラクターなので個々の特徴はまだ無く、全員、個性のない簡単な洋服を着ていた。
円城寺博士は、難病の解明や自然災害の予測等、人類に貢献する研究をしてる団体へ量子コンピュータを利用する権利を与える・・・という事は、一切なかった。
シミュレーション仮想世界『箱庭』を、どのように作り上げるかでしか審査を行わないというのだ。
大学でロボット工学の教授を勤める私の夫、吉家悟介は困惑していた。
『箱庭』の設定はアレンジの幅が広く、言語、住民であるキャラクターのステータスや動植物、資源だけでなく、物理法則を超えた魔法等も設定が可能であった。
だがしかし、ロボットは不可能だった。電気が存在せず、16世紀頃の科学技術を超える設定は出来なかったからだ。
夫が途方に暮れていると、共同戦線を張っていた元教え子から突然電話があった。
ロボット工学仲間や教え子が所属するいずれかの団体がもし審査に通ったら、その団体を介して量子コンピュータを利用する協力体制を、夫達は取り決めていた。この中の一人からの連絡だった。
それは量子コンピュータのオンライン運用発表以来、初めて円城寺博士の審査を突破した『箱庭』の内容を知らせる一報だった。
その『箱庭』は、大ヒットしたアニメの世界だった。
ブラック企業に勤めていた中年男性がトラックに轢かれ魔法のある世界に生まれ変わると、転生先で活躍してハーレムを造るアニメを、農業大学の分子微生物研究室が『箱庭』に取り入れたのだ。
中年男性を囲むハーレムには、人間の他にエルフ、吸血鬼、ウサ耳の獣人などの女性がいた・・・。
農大の分子微生物研究室は、キャラクターの種族設定に力を入れたらしかった。
「何それっ・・・!」
ハーレム転生アニメの世界の『箱庭』が、円城寺博士の審査をクリアしたと聞いた夫は、受話器に向かって叫ぶと椅子に崩れ落ち、しばらく動かなかった。
斯くして週3日勤務の大学臨時職員の私、吉家かるらは、アニメや漫画をそれなりに嗜んでいた事により、夫と見鷹君から『箱庭』の設定を考えないかと提案されるのであった。
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