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珠生壬と胤煌 編
環4
しおりを挟む預かっていたシャーマンが作ったお守りを、誕生日を控えたタネに、多野からの沖縄土産兼誕プレと言って渡した。
沖縄女子に流行っているストラップだと説明すると、タネは俺の思惑通り、スマホケースにお守りを取り付けだした。
(・・時代の変革とは、何だ?・・。)
スマホケースに印刷されたドラゴンの図柄を「格好良いだろう」と見せてくるタネを眺めながら、祖父の言葉の意味について考えを巡らす。
「・・タネ。最近、仕事はどうだ?国家レベルの大きいプロジェクトとかやってるの?」
「はあ?国家プロジェクトなんか無いよ。中小企業で地道に働いているけど・・。裏組織マウントか?上から目線の嫌味なのか?」
「裏組織マウントって・・ククっ。嫌味じゃあない。本家以外に、近づいてくる不審な奴とかいない?」
「いない、いない。完全に能力は喪失してるから、誰も寄ってこないよ。・・女性が近づく気配もない・・。」
「女性と知り合うかどうかは、能力の有無と関係ないだろう、クククっ。・・ゲームと風俗に給料をつぎ込んでいるから、出逢う機会がないだけだ。ククっ。・・酒が好きなら、酒蔵やワイン工房巡り趣味の集まりに参加するとかしたらどうだ?」
15歳サバを読んでいた刺客の話を多野としたばかりなので、耐えきれず途中で笑いが漏れてしまう。
「風俗だって一期一会だっ。・・そこまで言うなら『江環島』のボトルを飲みに、ここへ通ってやっても良いぞ。」
「タネのほうがよっぽど上から目線じゃないか。この店にボトルは入れてないよ。・・これは、俺からの誕生祝いだ。」
俺はプリペイドカードを入れた小さな封筒と、江環島名義の名刺を懐から取り出して渡した。
名刺を見たタネは瞠目した。
「警察庁警備局・・超自然観測・・対策担当・・?いつから、警察官になったんだ?それに、苗字しか書いてないじゃないか。」
「組織に持たされた名刺だよ。単独で公に動く際は、警察庁内部にいる本家の者から委託を受けている体なんだ。・・タネがその名刺を使用する時は、見せるだけにして渡すなよ。」
「・・そのフレームの細いお洒落眼鏡・・特命か?」
「は?とくめい?」
去年まで新宿六本木の繁華街担当だった俺は目が肥えてしまい、スーツだけでなく時計や眼鏡にも金をかけるようになっていた。俺が着用している海外ブランドのハンドメイド製眼鏡を、タネは指刺した。
「毎日、刑事ドラマが再放送されているだろうっ。・・防衛関係の仕事についたと言っていたが・・警察官僚になったつもりだったのか・・?その格好でピアノまで弾いたら、再現度高すぎだろがっ。」
「あははっ。特命?警察官僚?・・ははっ。別所から委託受けている男が、刑事ドラマの真似してたら面白すぎるだろっ。はははっ。」
「ふんっ。」
一頻り笑った後、今日の目的を果たした俺はフロアを観察している支配人に視線をやった。すると女性キャストが二人、速やかに俺達の席へやって来た。
「『タマ』で良いじゃん。『江環島 タマ』って記載すれば。」
タネは俺の昔の愛称を掘り起こし、キャストに聞えるように言った。
俺の名は『珠生壬』なので、子供の頃はタマちゃんと呼ばれていたのだ。
「懐かしいな。じゃあ俺は、お前を『キラ』と呼ぶよ。」
「ふぁっ?そ、それは・・。」
「お客様のお名前は『キラ』なんですか?カッコイイですね。」
「漫画の主人公みたーい。」
タネが言葉を詰まらせ間が出来ると、キャスト達がすかさず会話に加わった。
「いいや名前の一部を省略した、昔のあだ名で・・。」
「自ら望んだじゃないか。今日から『キラ』と呼んでくれと・・。その時流行っていたアニメの主人公がキラだったから、高校時代は周囲にキラって呼ばせていたよな・・クククっ。」
タネは、中二病の期間が比較的長かったのだ。
「なんの『アニメ』ですかあ?」
「分かった、魔法少女じゃない?変身する女の子の。」
会話を広げようと、キャストが鼻にかかった声でタネに問いかけている。
「魔法少女じゃないっ。シリアス戦争アニメだ・・人種や国家間に生じた、負の連鎖を断ち切る主役の名前が・・・・。若気の至りだからっ。」
語りだす客の話を張りついた笑顔で真摯に聞く、訓練されたキャストの姿勢に気付いたタネは、途中で話を切り上げた。
「ずっと笑ってましたね。江環島さん。」
タネは職場の上司からの急な呼び出しで、帰ってしまった。
フロア角でタバコを吸いながらウイスキーロックを味わっていると、支配人が隣に来て話しかけてきた。
俺は、銀座にあるこのクラブで度々起こっていたポルターガイストの相談を、支配人から個人的に受けていた。定期的に浄化に訪れている、これ迄の俺の様子と違い、今日は笑顔を見せていたので驚いたらしい。
「連れてきた奴は、昔から可笑しくて・・いつも笑ってしまうんだ。」
「とても楽しい人なんですね。」
・・楽しいだけではない・・。今の俺があるのは、タネのおかげだった。
少年漫画が好きだった俺は、タネの神隠しで祖父の正体を知り、ものすごく興奮したのだ。
消えたタネを探して、祖父は式神を飛ばしたりマントラを唱えたりした。
そして、戻って来たが目を覚まさなかったタネの為に、組織内で最強を自負していた祖父は本家に相談せず、陰陽稼業で知り合った組織外の能力者達に連絡を取りまくった。
・・彼らの能力は、漫画やアニメの超能力者や新人類みたいで、俺はワクワクするしかなかった・・。
祖父は、能力の無い俺が陰陽師になるのを嫌がったが、タネの封印で組織から突き上げをくらっていた時期だったので、渋々了承してくれた。
陰陽の術を磨いても伸びない能力に悩んだ俺に「視えないなら、それに越したことは無い」と、発想の転換を気付かせてくれたのはタネだった。
自分の能力に苦悩していた幼い多野にも、タネは経験者として寄り添った。
・・俺が山篭り修行を終え下山すると恋人が友人に寝取られていた時は、タネは初めての彼女が宗教団体の刺客だったトラウマ話を解禁し、笑える武勇伝として語って俺を励ました・・。
そんな愉快で優しいタネを、俺は守れなかった。
この物語はフィクションです。実在する人物・団体・存在とは一切関係ありません。
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