笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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珠生壬と胤煌 編

環7

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 タネの執着が残っているであろう場所に、タネの気配は無かった。
 まだ全ての風俗店に行ってないが、お気に入りの嬢の中にタネへ害を及ぼしそうな、無自覚に念力を持つ者はいなかった。

 俺は手がかりの無さに違和感を抱いた。
 ドライブレコーダーの映像が不正に操作されていたなら、工作活動を行なった機関を筆頭が遠隔視で見抜けない訳がない。
 一般人のタネが引き寄せたごうでお守りと護符が燃えたとは考えにくいが、沖縄の遠視でも神仏の力を持ってして、タネが閉じ込められた原因と行方は突き止められなかった。・・それに、多野の「どこかに閉じ込められているまでは教えて貰えた」という言い方が引っかかる・・。


 『召喚ごっこ』の神隠しで祖父が組織を頼らなかったのは、組織内で最強だったからでは無いのかも知れないと俺は思い至った。
 当時、タネの為に祖父が集めた組織外の能力者達は、気で創った光線剣で空間を裂く『武道家』と超高級自然霊に仕える『巫女』以外は、鬼籍に入ってしまっていた。
 俺が『巫女』に会おうと決心すると、巫女が務める神社に近い航空基地の仕事が舞込んだ。



 航空基地の仕事を済ませた俺は、その足で神社へ向った。
 神社へ続く長い階段を息を切らして昇って行くと、真新しい鳥居が見えてきた。以前来訪した時は古めかしい苔むした鳥居だったが、近年パワースポットとして取り沙汰され経営が潤ったのか建替えられていた。
 頂上に辿り着き振り向くと、鳥居越しに穏やかな海原が拡がっていた。

***

 ここに初めて訪れたのは神隠し事件の後、タネの能力を封印する前だ。超越した意識体に話をつけてくれた超高級自然霊と巫女へ、お礼を言う為に祖父が俺達を連れて来たのだ。


 祖父とタネは本堂の上にいる超高級自然霊の龍を見つけ、手水舎の前で立ち止まった。
 俺だけ龍が見えず落胆していると、祖父が俺の手を取って陰陽の術を施してくれた。そうして上空を見上げると、七つの玉を集めると会える神龍そっくりの龍が泳いでいた。
 興奮して戦慄く俺に、タネは「バ○ムートみたいで格好良いよな」と言った。

「ええええ?タネには翼が見えるのか?俺には願いを叶える神龍にしか見えないよっ。翼は無いっ。」
「・・・そう言われると翼は無いな・・。けど、神龍とは全然違う。」

「儂には、昔話のオープニングに見えるよ。」
「ええ?子供が乗ってるの??」
「いいや、乗っていない。」
「・・どういうこと?」

 超高級自然霊はエネルギー体で物質世界では姿を持たず、人の想念を映し出して可視化しているのだと祖父から教えられた。すると途端に緑色だった神龍は虹色に輝き、俺の視覚野に空を舞う光の帯として認識された・・。
 魂を震わせる神秘的で美しい光景は、俺が陰陽師を目指す契機のひとつとなった。


***

 社務所へ行くと直ぐ奥の応接室へ通され、二人分のお茶を淹れている『巫女』に座るよう促された。俺が来ることが分かっていたのだ。
 祖父が没した年齢をとうに超えているはずの巫女は、黒々とした長い髪を一つにまとめキビキビした動きで湯呑みと茶菓子を並べる。筆頭もだが、類い希な能力を持つ者は波動の高さからか、若々しいことが多い。

「胤煌くんのことで、相談があるのでしょう。」
 俺が口を開く前に、巫女から話を切り出された。
 説明不要かもしれないが、夢見の祖父からの知らせに従ったのに事故は起き、タネの死後、一向に原因と行方がつかめない現状に湧いた組織への不審感を、順を追って話した。

「組織が珠生壬くんに伏せている事柄はあるでしょう。時が経てばおのずと明らかになり、進むべき道が視えてきますよ。」
「・・時が経てばってどの位ですか?俺が生きている間に分かるんですかねっ。」
 見通す者特有の、不確定な未来をを内包する真実を告げられると、俺はいつも苛立ってしまう。

「超高級自然霊に仕える者として、少しだけなら話せることがあります。胤煌くんが中学生の時は、組織が有さない私の能力で交渉の余地がありました。けれども、今の胤煌くんはによる、人類の叡知の結集で生みだされた新たな命の折伏と摂受の狭間にいます。」
「・・どうしてそんな・・。」

「巻き込まれたと言うよりも、胤煌くんが自分で飛び込んだと言う表現が近い。・・逃れられない宿命だったのではなく、胤煌くんが選んだ運命です。珠生壬くんは焦らずに胤煌くんが還るのを諦めないで、そして助けてあげて下さい。」
「・・能力の無い俺が、タネにしてあげられる事なんかあるんですかね・・。」
 不可侵領域の意図だとすると、俺には手の打ちようがない。巫女は頭を抱える俺の横に座って背中をさすった。

「忘れないで。神や仏は失敗を繰り返す愚かな人類を、慈しみ導いている。ただし、いつでも選択するのは人。・・そう、人が道を選ぶのです。組織が慎重になる事情を汲んで、先走らないでくださいね。」
 リスクを顧みず、大いなる存在を言葉に出して忠告した巫女に、俺は強く手を握って礼を言った。



 帰宅すると、玄関に見覚えのあるスニーカーがあった。
 リビングのドアを開け入った俺は、全身が粟立った。組織所有のマンションには結界が既に張られているが、重ねて結界を施したようだ。

「・・不法侵入だぞ。多野。」
「ナギさんが僕に内緒で、龍の巫女に会いに行くからですよ。」


この物語はフィクションです。実在する人物・団体・存在とは一切関係ありません。
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