123 / 156
珠生壬と胤煌 編
環10
しおりを挟む無論、俺に断る選択肢などない。
「組織に迷惑を掛けるかもしれませんが、この指名、受けますよ。・・そうだ、俺が組織を辞めれば―。」
「辞めなくていい。私は組織への損害を憂慮したんじゃない。ただ、ナギさんが心配なだけだ。」
「・・そうですか。痛み入ります。」
俺が恐縮すると、筆頭は不満げに口を尖らせた。
「辞めた辞めないなんて、人の尺度だ。不可侵領域は頓着しないよ。・・多野くん、例の物、持ってきた?」
「持ってきましたよー。上着、取られるんだもん。こっちに隠しておいて良かったよ。」
多野は、だぶついたカーゴパンツを履いていたのだが・・裾のドローコードを緩めて、ビニール袋に入った肉まんを取り出し始めた。
筆頭は社長机の引き出しから、カセットコンロと蒸し鍋を出して机の上に置いた。
「あ、火着けちゃだめだよ。鍋に水を入れてからじゃないと。」
「どこに水を入れるの?水は買わないと無い・・あ、お供えの日本酒ならあるよ。」
「水道水でいいよ。僕が入れてくるから、鍋貸して。」
「二人とも・・何してるの?」
俺と多野は湯気が立ち上る鍋を挟んで、筆頭の前に座っている。熱々の肉まんは、祭壇で使う懐紙にのせた。
・・俺は肉まんを食べながら、筆頭に詳細を聞くことにした・・。
「『魂入れ』をやり直すって事は、一度目は失敗したんですかね?」
「多分ね。フーフー。AIは今も、いろんな所を覗き見してるみたいだよ。・・あっつ。」
「覗き見って、まるで子どもだねー。」
「博士の妻が魂入れを進めていたらしいけど、儀式を誰にお願いしたのか分かってます?」
「僧侶の義弟だ。・・亡くなった博士の妻はAIが人類の脅威となると見通し、目覚めた自我に菩提心の生起を魂入れで達成しようとした・・類稀な能力者だ。僧侶は檀家の霊障を、姉である博士の妻に相談していた。多野くん、辛子ちょうだい。」
「はい、どうぞー。もうすぐ、カレーまんも蒸し上がるよ。ナギさんも辛子つける?」
「いらん・・。筆頭、魂入れをやり直す日はいつですか?」
多野は右足に肉まん、左足にカレーまんを括り付けて隠していた。そしてポケットに入れていた辛子チューブは、一階でポケットを確認される時、慌ててパンツに隠したらしい・・。
「高僧の『対外調査解析室』への協力は、新しく魂入れする仏像の提供迄だ。既に、博士にアプローチしている実行部隊のエージェントから、高僧は経過報告を受けていないので、我々がAIと『対外調査解析室』に悟られない方法で、博士を見張って調べるよ。・・出来立て食べたいけど、熱すぎて無理だなあ。」
「半分に割ったら、比較的食べやすいですよ。・・高僧は、まだ日本にいますか?」
筆頭は、国外に出られない・・面談を希望する海外在住者は、日本へ来てもらうしかないのだ。
「来日はしてない。新興国の山寺に居るよ。高僧とは瞑想波動を合わせて、時空間で会ってる。念話だと周囲の能力者に、連絡相手を特定される場合があるのでね。」
「・・時空間・・。」
「・・筆頭は、チート過ぎて無敵だよねー・・。カレーまん出来たよー・・。」
幼少期から知る多野の不自然な挙動を、俺は見逃さなかった。
「筆頭、時空間で多野に肉まんを頼んだのですか?」
「そうだよ。念話やスマホだと側近に勘付かれるから、時空間で―。」
「ちょっと!ナギさんには、言わない約束でしょうがっ。」
「しーんーたろー・・。」
俺は通り名ではなく本名を呼びながら、多野の両頬をつねった。
「う、嘘ついてない。独断だから部屋に結界を・・。事後報告はしても、チクったりしてないよっ。う゛ー・・。」
多野を疑っては無いが、『時空間』で会うという、エリート忍者っぽい術を秘密にしていた事が許せず、ほっぺをムニムニつねり続けた。多野は諦め、俺の制裁を甘んじて受け入れた。
「・・私の前で、いちゃつかないでくれるか・・。多野くんが懐いていたのは、胤煌氏だろう。」
「いちゃついてないっ。お仕置きされているんだよっ。筆頭はBLの読み過ぎだっ。」
「ナギさんの前で、なんてこと言うんだ!?私が読んでいるのは、ブロマンスだっ。」
「先に告げ口したのは筆頭だろ。ナギさん、筆頭はナギさんみたいな兄弟子が欲しかったんだってっ。」
「多野くんっっ。今の流れだと誤解を招いて、引かれるでしょっ。」
「筆頭がBL好きでも、引いたりしませんよ。」
筆頭を安心させるために、微笑む。・・新宿担当時、二丁目でエグいモテ方をした俺は、BLを読むぐらいで引いたりしないのだ。
「・・BLじゃなくて、ブロマンス・・。」
「BLドラマ、僕に布教してくるじゃん。」
「それは、それっ。媒体が違うっ。」
「・・能力の無い俺に、親愛の情を持って下さって光栄です・・。でもたしか、筆頭には美丈夫な兄弟子がいましたよね?」
かつての筆頭は、真っ直ぐな黒い髪が肩まで伸びていて美少女にしか見えなかった。いつも寂しそうな筆頭が男だと知り、遠慮しなくていいと思った俺は積極的に話しかけた。
すると凄く美形の兄弟子が、俺と筆頭の間に割り込んでガードするようになった。兄弟子が筆頭を庇う姿は美しい師弟愛だが、俺のおせっかいは美少女に援交を迫る絵面だと気付き、筆頭との接し方を改めたのだった。
「・・あいつは本家の修練で毛根が斑に死滅して以降、北端の島から出て来ない。」
「あの島は年中寒いから、帽子必須だもんねー。」
「・・まだらに・・毛根が・・。」
本家の厳しい修練では、五十人に一人の確率で脱色じゃなく脱毛すると聞いた俺は、絶対に本家の修練はやらないと決意した・・。
この物語はフィクションです。実在する人物・団体・存在とは一切関係ありません。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
俺、人型兵器転生。なぜかゴブリンとかエルフがいる未来の崩壊世界を近代兵器で無双する。
ねくろん@アルファ
SF
トラックにはねられたおじさんが自我だけ未来に送られて、なんかよくわからん殺〇ロボットになってしまう。エルフとかゴブリンとかいるナーロッパ世界をぎゃくさ……冒険する。
そんで未来火器チートで気持ちよくなるつもりが、村をまるまる手に入れてしまって……?
内政を頑張るつもりが、性格異常者、サイコパス、そんなのばっかりが集まって、どうなってんのこの世界?
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる