ma I ohw

本堂とう花

文字の大きさ
6 / 15

竹林の道

しおりを挟む

 着物を着て、女二人で少し遠出をした。車を運転する私と、助手席の彼女。私は紺、彼女は緋色の着物を着ていた。一時間半ほど走ると、少しくたびれた町に入った。歩いてみようかと車を無人の駅の駐車場に停めた。私たちが住んでいる町よりもかなり格安だった。
長い商店街はほとんどシャッターが閉まっていて、歩いている人たちもまばらだった。その町は山の麓にあるようで、傾斜が多いのが印象的だった。時々すれ違う老人たちが物珍しそうに私たちを見たり、可愛いわねえと褒められてから世間話をするのが楽しい。しばらくしてから私たちは聞き込みをはじめた。なんだか探偵ごっこをしているみたいで私たちはわくわくしていた。そんな中で、ある一人の老婆に商店街を抜けて真っ直ぐいた坂道を上がったところに、昔は有名だった神社があることを聞いた。今でも参拝する人間はちらほらと居るが、かつてその寺を参拝していたほとんどの人が、既に三途の川を渡ったと彼女は笑っていた。
 私たちは昔からそういう冒険心とか探求心が強かったからぜひ行ってみようという話になった。今は最後の住職も亡くなって居ないということだったが、とりあえずお賽銭を入れて帰ってこようと。
 商店街を抜けて間もなく長い真っ直ぐの道を見つけた。まだ明るく、その道を歩きながら私たちは昔学生だった頃の話をしたり現状の話をした。話しながらだと道はあっという間で、なだらかな坂道も割りと平気だった。
次第に階段が見えてきて、この先だねと話しているとその階段を左右取り囲むように小さな地蔵や墓が塀の向こうに建っているのがわかった。どこか懐かしい風景と排他的な空間は神秘的だった。少し先を行く彼女をぶら下げていたカメラで撮る。絵になるなあと思いながら階段を上る。気づけば私たちは竹林の道へと出ていた。少しずつ暗くなっていたのは分かっていたので私はどうするか持ちかけようとしたが、彼女はどんどんのぼっていくのでとりあえず行けるところまで行くことにした。
 夕暮れ時も近づき辺りが薄暗くなってきた。竹林を抜けるとまた階段と墓があった。上りかけていた階段に足をかけて、彼女が立ち止まる。振り向いて、もう帰ろうかと私に尋ねた。彼女の顔は茜色に染まってよく見えなかったがだいぶ疲れているような気がした。私は彼女に私の前で下るように伝えた。突然風が吹いた。ところどころに飾られた風車が一斉に回って、なぜか鳥肌が立つ。彼女も同じだったようで慌てて私のもとへと駆け下りてきた。なんか怖いね、と不安げに彼女が私を見上げるので私は大丈夫だよと返した。
 同じ道を、行きよりも長い時間をかけて帰っている。紺色に空が変わりだした頃ようやく町の明かりと商店街が見えた。しかしなんだか様子が違い、私たちは戸惑った。昼間とは打って変わって人がなにかの祭りみたいに溢れかえっていた。この季節にお祭りって、と私たちは顔を見合わせる。私たちは自然に身体を寄せあって手を握っていた。足早に商店街を抜けて駅に向かう。その間何回か酔っ払いに声をかけられたが私たちはいつもみたいに雑談できるような余裕を持ち合わせていなかった。
 体感時間だと、もう日をまたぐのではないかと思い出した頃、駐車場に辿り着いた。そこには車を停めた初老の男性が何人か立ち話をしていた。私たちに気がつくと彼らは驚いた顔をして私たちに声をかけた。大丈夫だったか?と。大丈夫なわけない。彼女が震える声で呟いて、私は今まであったことを話した。それをひとしきり聞いたあと彼らはぽつぽつと話し始めた。
 男性たちはこの町の出身ではなかった。親が隣町とか、祖母がこの町とかというような具合に実際生まれ育った者は居なかった。何故ならこの町は元々ダムに埋め立てられて沈められる予定だったからだ。ダム賛成派と反対派が対立して、町中が殺伐としていたらしい。結局自治体には勝てずダム建設が決定して、町民が立ち退きを求められた頃、賛成派が次々と変死して町が壊滅状態になったのだと言う。その状況に当時の町長は危機を覚え町一番の祈祷師に厄除けを頼んだ。しかし、願いは聞きいられなかった。賛成派がほとんどで、反対派が少なかったことやもう前者の人間が生きていないこと。なによりもその祈祷師本人も賛成派の一人であったこと。生き残っている賛成派の一部は皆ここに残るから死にたくないと、手のひらを返して寺に助けを求めて集まった。しかし、為す術もなく祈祷師に人柱として使われる最期だったそうだ。その人柱は、怒った町の神に捧げると祈祷師は言ったが実際は、国からの補助金を狙い自分だけ悠々自適に暮らすためだった。その祈祷師は今はもう九十近く生きているかどうかもわからないらしいが、私たちが会ったあの老婆がもしかしたらと言う話だった。
私は少し落ち着いたので、何も無いここに何をしに来たのか彼らへ尋ねた。彼らの一人が件の寺の住職の孫に当たるらしかった。その住職の墓守を時々みんなでしているそうだ。住職と祈祷師は別に居るのか、と疑問で頭がいっぱいになったがあえてなにも聞かなかった。きっと住職はその祈祷師に騙されて殺された内の一人だったのだろうと思ったからだ。私たちが老婆を見かけたという話を聞いた時彼らの目が一瞬殺伐としていたのを私は見逃さなかった。彼らは墓守をするのではなく老婆を狩りに行くのだろうと想像をした。その住職がなぜ賛成派だったのか、はたまた全て私の想像でしかないか、それともただの脅しで本当は熊が出るから子供たちを山に入れないための言い伝えとか。何もかもが不鮮明で後味の悪い話だったが、今となってはもう過去の町のことはあの老婆しか知らないのだろう。私たちが見たあの栄えた商店街も竹林ももしかしたら夢だったのかもしれない。
車に乗り込んでほっとため息をつくと、足元に竹の笹が一枚落ちていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...