本堂とう花

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一世一代の恋

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私が一番好きだった、叶わなかった恋の話をする。
彼は大学の同級生で、細身の、よく日に焼けたガキ大将みたいな人だった。初めて会った瞬間、この人の事好きになるだろうなと思った。私たちは一年生の時のゼミがたまたま一緒で、その時話しかけられたのがきっかけで時々話すようになった。
私は全く覚えていないのだけど、私と彼は大学の入試で面接をした時同じメンバーだったらしい。私の名字が珍しかったから、と言われたけれど私はその時のことをほとんど覚えていない。第一志望の大学に落ちて急に面接を受けると決めた大学で面接の練習をなにもしていなかったからだ。一人だけハキハキ答えてるなあと思った人が多分居て、それが彼だったようだ。
私が彼のことを好きだと気づいたのは、大学三年生の夏の終わりのことだった。そのきっかけについては割愛するが、とにかくその一件があってから私は猛烈に彼に近付いて支えてあげたいと思ったのだった。でも私はその時付き合っている別の人が居た。自分でも本当に酷なことをしたと思うけれど、私は別れを切り出した。もちろん好きな人が出来たからとは言っていない。
別れることにしたと彼に話した時、彼は私のことを家まで送ってくれた。彼は私の元彼氏と仲が良かったから私たちの間を取り持とうとしてくれたんだと思う。その帰り道の途中、彼はコンビニに帰って私の話を聞き出そうとしてくれた。なかなか言い出せない私を彼は何も言わずに待っていてくれた。結局私は告白をして、でも案の定振られて、その日の帰り道たった一瞬だけ手を繋いで貰った。熱の篭った力強い手だった。
その後やっぱりどうしても彼のことを諦められずにストーカー紛いのことをしそうになって、これじゃだめだと思って色んな男と遊んだ。その度にどうして隣に居るのはこいつなんだろうと泣きたくなった。でも虚しい気持ちを埋めるのに男という存在は私にとって必要不可欠だった。彼ではない誰かに抱かれる度、目をぎゅっと瞑っては死にたくなった。それでも月日は流れて、心の傷は少しずつ痛みを忘れていく。
時々、彼のことを思い出す。あの日立ち寄ったコンビニを通るとき、どうしようもなく辛くなったとき。今じゃもう彼の声も思い出せないのに、私がまだ彼を好きじゃなかった頃に撮った、たった一枚の写真を消せないで居る。
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