人間の特殊性癖に付き合う身になってほしいよ。

7ズ

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 身体検査を行った翌日から、二体は人間の前へ姿を見せる事を拒むようになった。
 珊瑚の影で怯えている様子がカメラにも映っていた。

「相当キてますね……ご飯は少しだけ食べてくれてますけど」
「う~~ん……何がダメだったんだ?」
「上向き固定が怖かったんですかね?」

 ルンバや小型の機械で珊瑚前に魚を運ぶもあまり手を付けていない。
 このまま引きこもり続けては、リュウグウが餓死してしまう。
 
『プルルルル』
「!」
「ぁ、はい。リュウグウ担当事務室……園長? あ、はい。まだ、引きこもってます。ウツボみたいに……ぇ? え? 視察? 異世界から人?? はい。三日後……はい。わかりました」
『ピッ』

 園長から連絡を受けた担当飼育員の顔が困惑に染まる。

「どうしました?」
「……い、異世界人が転移してきたらしい」
「ああ、一昨日ネットニュースになってましたよ」
「知らなかった……その異世界人さんが異世界動物を保護してる異世界動物園に関心を持ってくださったみたいで、三日後に視察に来られるそうだ」
「急ですね……でも、この状態のリュウグウ見たら、虐待疑われるんじゃないですか?」

 飼育員達は、現状のリュウグウを現地人に見せられるかと言われると、渋ってしまう程には機嫌を損ねている。

「……とにかく、ちゃんと食べてもらえるように美味しい物を用意しよう」
「舌が肥えてそれしか食べられなくなりません?」
「それで食べてくれるなら、それでいい。高価な餌でも経営は影響は無い。それぐらいリュウグウは稼いでくれている」
「…………業者に連絡してみます」
「ああ、俺も水族館に連絡入れてみる」

 保護と管理を謳っている動物園で不健康な異世界動物を現地人にお披露目は避けたい。
 動物園の威厳にも関わる為、リュウグウの飼育員達は早急にリュウグウのケアを開始した。

※※※



「……ん?」
「マグ、どうした?」
「魚」
「!」

 珊瑚の影の奥で蹲っていた二体の側に、小さな魚達が近寄ってきた。

『ツンツン』
「ふふ、擽ったい」
「いっぱい居る……何処から来たんだ?」

 人間達に身体を好き勝手されたショックで元気が無かったマグとヒカチの表情が柔らかくなった。
 そろりそろりと珊瑚の影から外を見るマグの瞳がキラリと輝いた。

「わぁ~」
「?」
「ヒカチ、魚いっぱい居るよ。あぁ~あったかい……いつぶりだろう……日の光って」
「……日の……」

 マグのリアクションにつられて、ヒカチも外を覗いた。

「……おお!」

 水槽内には、太陽の光が降り注ぎ水槽内を彩る小魚達の鱗が煌めいている。
 海藻や珊瑚も増え、息苦しかった世界が少しだけ広がった。

「……あったかい……あったかいな」
「うん。あったかいね」

 射し込む日の光に引き寄せられるように泳ぎ出す二体。
 自然光に照らされる羽衣を目にした人間達は一斉に息を呑んだ。
 
「…………ヒカチ」
「?」
「僕ら、故郷に帰れるかな……」
「……わからない」

 もう帰郷の望みは無いと諦めているヒカチだが、まだ希望を抱いているマグを否定したりはしない。
 ただ、濁すだけに止めた。

「帰りたいね」
「…………帰りたい」

 諦めているだけで、帰りたくないわけではないヒカチは、マグに同調しながら水面に顔を出す。

『チャプン』
「……空だ!」
「…………外、なのか?」

 水棲の上だけぽっかりと穴が開けられ、太陽の光が燦々と降り注いでいる。
 凡そ二年振りとなる太陽と青空に二体は喜びに身を震わせ、活き活きと水中を泳いでいた。
 動物園の従業員達と派遣された水族館関係の作業員達はその様子にハッと我に帰り、呼吸を再開した。

「良かった……元気になったみたいで」
「視察に間に合った云々より、リュウグウが泳いでる姿を見れた方がホッとするよ」
「綺麗ですねぇ……」

 二日かけて内部と外部の大工事を行い、同じ水温と環境に適した魚達を放った。
 人間達はニコニコと二体を眺めながら、酷使した肉体と精神を癒していた。

 そして、視察当日。
 異世界動物達の人工的な環境作り、餌の選別、健康管理と保護、生態調査、日頃のお世話の様子などを解説をする園長と酷く感銘を受けている様子の異世界人が異世界動物園を巡っていた。
 異世界人の見た目は銀髪の金眼、褐色で耳長の男性であった。地球では魔法と分類される力を使い、音響変換を自身に施し自動通訳により対話を可能にしていた。

「モールドをこんな直近で見たのは初めてです。あんなに人に懐くんですね」
「そちらではモールドと呼ばれているんですね。地球ではエダイノシシと呼ばせていただいています。木の枝の無いモールドに似た動物がいるのでソコから」
「世界が違うのに、似てる動物が居るとは……やはり環境でしょうか?」

 異世界人の男性も動物の生態には関心が強いらしく、園長と動物に関する専門的な知識と意見交換を行なっていた。

「おや? ココは随分と変わった建物ですね」
「異世界から転移した動物達の中で唯一の水棲生物でしたので、ココだけ異質な建物になってるんです」
「水棲? 淡水ですか?」
「いえ、海水です」
「ああ……海にまで転移暴走の被害が出ていたんですね」

 動物園内にある一際大きな建物の中へと通された。
 そこに広がる光景に、異世界人はビシッと固まってしまった。

「エルさん?」
「……あの、コレは……いったい」
「あの子達の保護と管理を目的とした水槽になります」
「…………」

 信じられないモノを見たように、青褪めた表情で水槽の中のリュウグウを目で追う。
 
「……貴方には、彼らが動物に、見えているんですか?」
「?? はい。動物として、接しています」
「………………園長……即刻、彼らをコチラに引き渡していただけませんか?」
「え? リュウグウをですか?」
「リュウグウではありません! 彼らは海の民『オシピア人』です! 私と同じ心と感情、高知能を持った亜人種です! コレは非常にマズい……事によっては、陸と海で戦争が勃発しかねません!」

 園長と担当飼育員が異世界人の言葉を聞き、真実を飲み込めず唖然と口を開ける事しか出来ない。
 カツカツと踵を鳴らして水槽に近付く異世界人のエルが水槽内の二体に手を振った。

「マグ、あれって」
「あの肌と髪色……ヴェネク人、かな? 本で見た」
「こっちに手ぇ振ってる」
「行ってみよう」

 エルの元へスッと二体が泳いで行けば、ガラス越しにメモを見せられた。

『君達は、オシピア人だね?』

 故郷の文字を目でなぞり、その内容に頷く。

『もう、大丈夫。一緒にアシア海に帰ろう』
「「!?」」

 唐突に差し伸ばされた救いの手に二体は、思わず水槽のガラスに額を打ち付けた。

『ガン!』
「ぉお!?」

 今までに見た事がない悲痛と悲願が混ざり合った、泣き出しそうな表情でエルを見つめている。

「……園長、この子達、まだ成人して間もない。ココに保護された当初は未成年だったと思います。大事な第一繁殖期をどうやって乗り越えたのか、とても気になりますが、一刻も早く帰郷させなければなりません」
「…………承知致しました」
「ぁ、あっ、エルさん!」
「!」

 隣で話を聞いていた担当飼育員が一つ、エルにお願いを申し出た。
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